第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画
3.1 宇宙観測の発展と現状
人間は古代から、宇宙からの可視光を肉眼で観察し天体の運行の規則性を学んで、最初 の科学である天文学を打ち立てた。1609年にはじめて宇宙観測に用いられた望遠鏡は、裸 眼では見えなかった奥深い宇宙の存在を明らかにし、人間の宇宙観を劇的に転換させるこ とになった。実際、望遠鏡の進歩とともに人間の宇宙は急速に拡がったのである。宇宙探 求の歴史を通して、新しい観測手段が導入されるたびに新たな発見があり、新たな宇宙と 新たな謎が浮かび上がり、人間の宇宙は莫大なものに拡がった。新たな観測装置の計画は、
宇宙の理解を進める上での基本的な駆動力である。
現代の天文学・宇宙物理学において最前線を切り拓く計画は、技術的・専門的な蓄積の上 に立って新しい観測手段や研究手法を開発することが基本であり、大規模な計画は電磁波 の波長や粒子、また太陽や銀河など目的ごとの研究者コミュニティーを基盤に検討・立案
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される。本章で日本の天文学・宇宙物理学が構想する諸計画を紹介するにあたり、上記の事 情を踏まえて、まず現代の宇宙観測の手段について概観し、次の項では長期計画の基礎と なる各分野の研究体制と分野コミュニティー等の現状を述べておこう。
3.1.1 電磁波による宇宙の観測の発展
19 世紀から始まった近代科学、特に物理学の急速な発展は、望遠鏡による宇宙の可視光 観測に革命的な進展をもたらした。特に天体写真術の導入、電磁波理論の成立、分光学と 熱統計力学による天体の物理的・化学的性質の解明、さらに原子物理学などの成立で「天体 物理学」が花開き、1929 年の宇宙膨張の発見に用いられたウィルソン山天文台の2.5m望 遠鏡に象徴される、巨大な可視光望遠鏡が活躍するようになった。
1931 年の宇宙からの電波の発見を受けて、20 世紀半ばから電波の観測が急速に発展し、
宇宙の低温ガス成分や高エネルギー現象など、可視光では知ることができなかった宇宙の 姿が見られるようになった。電波観測は電波望遠鏡の大型化とともに干渉計の技術を発展 させ、可視光観測と並んで地上からの宇宙観測の柱を形成するに至っている。また20世紀 後半には、半導体を基礎として赤外線の検出技術が進み、現在では可視光と同様な検出レ ベルを達成している。地上観測では可視光と近赤外線はともに電子検出の時代に入り、両 者は技術的にもほぼ融合を遂げるに至っている。
20世紀後半からはまた、ロケット・人工衛星技術の発達により大気圏外の宇宙空間(スペ ース)からの天文観測が進み、大気による吸収のため地上では観測できなかった高エネル ギー電磁波である X 線やガンマ線を用いて、激しく変動する宇宙の諸現象が観測されるよ うになった。やはり地上まで届かない長波長赤外線の大気圏外観測では、星形成などの観 測が画期的に進んだ。
21 世紀初頭の現在、宇宙の観測は上記のようにほぼ電磁波の全波長域に及んでおり、各 波長のエネルギーと特性に応じて、極低温から超高温、真空に近い希薄から超高密度、惑 星やコンパクト天体から膨張する宇宙の全域で展開される多彩な宇宙現象の観測と解明を、
分担・協力する形で進めている。その中で日本は多くの観測分野において高い研究水準と成 果を挙げており、多岐にわたる国際共同が進む天文学・宇宙物理学において、トップグルー プに位置しているということができる。
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3.1.2 高エネルギー粒子・重力波による宇宙観測
20 世紀初頭に、宇宙線とよばれる高エネルギーの粒子が宇宙から地球に降り注いでいる ことが発見され、高エネルギー物理学の端緒が開かれるとともに、新しい宇宙の観測手段 として注目された。宇宙線の多くが電荷を帯びていることや大気との相互作用などから宇 宙の観測という面での進展は遅かったが、電荷を持たないニュートリノの太陽からの検出 に続き、1987年には超新星爆発に伴うニュートリノが検出された。現在、宇宙線技術を用 いたダークマターの直接検出も試みられている。また宇宙線の空気シャワー現象を超高エ ネルギーガンマ線の観測に応用するなど、宇宙の観測に新たな発展が生まれている。
一般相対性理論が予言する重力波は、極めてわずかな空間のゆがみを検出する技術的困 難があったが、日本・欧米で精力的な技術開発や実証実験が進み、実際の検出が間近という ところまで来ている。それによって開ける重力波天文学は、ブラックホール周辺や宇宙初 期における時空構造の変動をじかに観測するなど、宇宙の理解に全く新しい観測手段をも たらすと期待されている。
3.1.3 無人探査機による太陽系探査
電磁波の透過度の波長依存性:波長ごとに、どれだけの高度まで透過してこられる かを示している。
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1960年代から始まった無人探査機による太陽系探査が、目覚ましい進展を見せている。
地球周回軌道から月、太陽系諸惑星にまで、高性能カメラをはじめさまざまな計測装置を 送り込んで、詳細な「その場」観測ができるようになった。とりわけ地上からの観測では どんな望遠鏡でも不可能だった惑星や衛星の詳しい地形、地殻の組成と活動、大気と気象、
重力や磁場、過去の歴史に至るまでの理解が得られつつあることは画期的で、惑星・衛星 を含めて高温から極低温にいたるさまざまな太陽系環境において、地球とは似て非なる火 山や地殻の活動が展開されていることが把握された。それらとの比較において地球そのも のの理解も飛躍的に進み、比較惑星学という新しい分野の中で地球が位置づけられつつあ ることは、特筆すべきである。