• 検索結果がありません。

第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画

3.10 太陽系探査計画

3.10.1 はじめに (1) 分野の現状

1970 年頃より太陽系形成に関する理論的研究が進められ、原始惑星系円盤が進化して 惑星系が形成される過程として、円盤中のダストから微惑星ができ、微惑星の衝突合体に より原始惑星が形成され、原始惑星の巨大衝突により惑星ができるという描像が構築され た。また惑星の多様性が、原始惑星系円盤におけるガスの散逸と密接な関連をもつことも 明らかとなった。隕石の研究からは、太陽系形成は今から46 億年前にさかのぼり、数百 万年以内に火成活動をおこす小天体が形成されていたこと、隕石中にはラセミ体のアミノ 酸が含まれることも明らかとなった。他方1995年以降、天文観測により太陽系以外の惑 星系が数多く発見され、星の直近を巨大ガス惑星が周回する惑星系や、軌道離心率のきわ めて大きな惑星系の存在が明らかとなった。この結果、星と惑星系の関係が改めて検討さ れ、惑星軌道の多様性が惑星表層環境の多様性を生むこと、軌道の多様性には星と円盤の 相互作用や、原始惑星系円盤からのガス散逸のタイミングがきわめて重要であることが明 らかとなった。さらに、星のサイズと惑星の軌道により生命存在可能(ハビタブル)な惑 星の存在しうる条件が限られることも明らかにされてきた。

惑星系と生命の存在は、今や惑星科学のみならず、天文学から生命科学にわたる、あ らゆる自然科学の中心的な課題の一つとなっている。しかし、惑星はそれぞれ異なる組成、

105

内部構造、大気、表層、惑星を取り巻くプラズマ環境をもち、太陽系の惑星の多様性の理 解は、惑星系と生命の存在に関する研究にとってますます重要性を高めている。

日本における太陽系探査は、磁気圏探査を皮切りに進展してきた。1970年代後半から、

地球周辺に磁気圏の「その場観測」のためのいくつかの探査機が軌道投入され、なかでも 1989年に打上げられた「あけぼの」と1992年に打上げられたGEOTAILは、20年近い 年月を経た今も、観測を継続している。1985年に地球に接近したハレー彗星に向けては、

太陽系空間探査機「さきがけ」と「すいせい」が相次いで惑星間軌道に投入され、わが国 の太陽系探査の幕が切って落とされた。1990 年に、日本初の月探査機として「ひてん」

が打上げられ、ミッション後期には月の周回軌道に投入された。1998 年には、火星周回 衛星計画として「のぞみ」が火星への軌道に投入され、探査機の不具合により、火星周回 軌道投入は果たせなかったものの、太陽系内を航行する高い軌道制御技術が確立された。

2003年には、小惑星探査機「はやぶさ」が打ち上げられ、2005年に、小惑星「いとかわ」

へのタッチダウンに成功した。2007-2009年には、アポロ以来の本格的月探査機である「か ぐや」が月周回軌道に投入され、月の内部構造探査を含む大きな成果をあげつつある。

(2) 目指す目標

惑星探査は、その天体に行くこと、それぞれの天体のまったく異なる物理条件に応じ た探査を行うこと自体がきわめて大きな挑戦であり、強い工学的・技術的制約のもとに展 開される。この点で、地球周回軌道において展開され、観測機器開発が新たな発展への鍵 となる他の天文・宇宙物理探査ミッションとは、根本的に異なる。それぞれの天体が異な る物理環境にあることは、それを支える科学者コミュニティーもそれぞれ異なることを意 味している。固体惑星なのか、ガス惑星なのか、磁場があるか否か、大気があるか否か、

始源的な天体なのか分化した天体なのかなど、その要素は多岐にわたっている。

こうした条件を踏まえた上で、惑星科学の進展を支えるこれからの日本の太陽系探査の 科学目標は、以下の4つに絞ることができよう。

惑星の進化と多様性の解明:地球以外の惑星に生命存在に適した海洋・大気が存在しない 理由、惑星の気候変動の究極的な原因、惑星磁気の発生消滅、地殻やマントルを駆動する エンジンなどを知るため、現在の環境と惑星誕生以来の46 億年間の歴史を解明すること が目標である。このためには、惑星大気の組成、運動、変化の他に、惑星そのものの内部 構造の解明、表面の地形と組成などを明らかにしていく必要がある。

太陽系の起源の実証的解明:原始太陽系星雲から惑星がどのように形成されてきたかを解 明する。このためには太陽系の初期の記録を残した始原天体を探査し、原始太陽系で起き たさまざまな物理・化学的過程を明らかにしていくことが必須である。

生命の発生、進化に必要な環境の解明:地球外の生命を探索することは、生命科学を地球 の生命科学から、より普遍的な宇宙生命科学に変える可能性を持つ。始原天体の有機物や 揮発成分の探査、火星や外惑星の衛星であるエウロパ、タイタンなどにおける地球外生命、

106

太陽系外の生命居住可能惑星の探索を行うことは、人類にとって大きな意味をもつ。

宇宙プラズマ物理過程の根源的理解:人類が「その場」で観測することのできる唯一の宇 宙空間、すなわち太陽系空間を用いると、宇宙プラズマ現象を明らかにし、惑星磁気圏の 統一的理解を深め、多様な天体プラズマ現象の解明にも大きな貢献が可能となる。このた めには太陽圏や地球以外の惑星磁気圏での「その場」観測とともに、地球磁気圏における 超精密な観測が必要である。

これら4つの課題に挑戦する舞台として、それぞれ、月・固体惑星探査、始原天体探査、

惑星大気探査、惑星磁気圏・太陽系プラズマ探査が当面のターゲットとなる。以下でそれ らをより詳しく論じる。

3.10.2 太陽系探査の諸計画

(1) 月・固体惑星探査

月の起源と進化の解明は、単に月単体への興味だけでなく、その母星である地球の形 成史を考える上でも重要な課題である。また月表層環境には太陽系45 億年の歴史が刻ま れており、太陽系の形成史を解明する上でも、月は重要な科学探査の対象である。

1990 年代に米国のクレメンタインやルナープロスペクターにより、月表層の全面探査

が行なわれ、2007-2009 年には SELENE(かぐや)により、高解像度の地形データが取 得されるとともに、化学組成・元素分布、磁場、重力場が高精度で計測された。その結果、

斜長岩地殻の組成や、表と裏の内部の熱進化の違いの証拠が得られた。今後、月のコアの 有無、コアがある場合はそのサイズ、地殻の厚さ、マントルの均質性、裏と表という二分 性の広がりやその成因など、根本的な問題を解明するため、SELENE シリーズによる継 続的な地表探査を行いつつ、最終的には月に着陸し、岩石を地球に持ち帰ることを目指す。

【SELENE-2】

無人着陸機、月面探査車、中継用小衛星から構成される計画で、アポロやルナによる 探査のおこなわれていない地域の岩石やレゴリスの物質的証拠から、月地殻の物質・地域 差を明らかにすること、地震計測・熱流量計測により、内部構造に関する情報を得て、月 の内部構造と進化を明らかにすることなどを目的とする。具体的には、100m程度の精度 で目的地に着陸し、数100m〜2km程度の範囲を探査車が移動し、地質調査、ロボットア ームによる岩石・レゴリス分析などをおこなうことを目指している。

(2) 始原天体探査

太陽系に存在する小天体は、太陽系形成時の情報を維持していると期待される。これら の天体探査の目的は、太陽系の原物質、とりわけ、有機物と水という生命の起源につなが る物質の始原天体における存在とその物質進化を解明すること、始原天体で起こる衝突な ど、微惑星進化をになう諸過程の理解にある。

【はやぶさ2およびマルコポーロ】

107

「はやぶさ」の活躍を受け継ぐはやぶさ2及びヨーロッパとの共同計画であるマルコ ポーロは、始原的な遠方の小天体に到着し、その場での観測・分析を行うとともに、サン プルを地球に持ち帰ることを目指す。目標とする小天体から得られる情報は、隕石から得 られる情報を超え、太陽系や生命の起源につながる情報であることが望まれる。そのため、

反射スペクトル型がC型の小天体や、より始源的と考えられているD型小天体探査からの サンプルリターンを検討している。

(3) 惑星大気探査

日本は2010年に探査機プラネットCを金星に投入し、惑星気象学の端緒につく。このミ ッションは、惑星本体の規模としては地球に酷似している金星が、それをとりまく大気や 気候の面では地球と全く異なる理由を探るため、複数のカメラで大気の運動を3次元的に 捉える。2年間にわたる大気運動のデータを統計的に扱い、金星大気中での波動などによ り角運動量がどのように惑星本体から金星に受け渡されているのかを調べることが、最大 の目標である。

火星は、地球の 1/10 というサイズで、地球形成以前の固体惑星進化を考える上で重要 な天体である。同時に、過去において表層に流水が存在し、湿潤温暖な気候が存在したこ とが明らかにされており、現在のドライで低温の惑星に至った過程の解明が重要な課題で ある。アメリカは 15 年間にわたり、生命の存在の探査を最大目標にかかげた探査を進め、

将来的にもその方向の計画が進められている。

木星はガスを主体とする惑星本体、磁気圏、ガリレオ衛星と、ミニ太陽系を構成し、そ の理解は、ガス惑星自体の形成進化とともに惑星系の形成進化に決定的な重要性を持って いる。

【MELOS(Mars Exploration with Lander-Orbiter Synergy)計画】

「火星の大気進化の理解」を科学目標とする火星複合探査計画で、過去に湿潤温暖で あったはずの火星が、現在の姿に至った原因の解明を目指している。具体的には、現在の 希薄な大気の原因と考えられる大気散逸、全球の物質輸送を担っている惑星気象、大気と 内部の接点である表層環境、進化のもっとも重要な要素であるコアと地殻の構造の理解、

などをターゲットとする。そのため、二つのオービター(大気散逸科学、惑星気象学)、

ランダー(固体惑星科学)からなる次期火星探査を2010年代後半に実現するべく、検討を 進めている。

【木星システム観測(EJSM)計画】

EJSM (Europa Jupiter-System Mission) 計画は、日欧米の共同計画で、木星本体、

木星磁気圏、ガリレオ衛星を調査することを目的としている。科学目標は、木星の起源(岩 石コアの有無)、木星システムのメカニズム(プラズマ−荷電粒子相互作用)、生命存在 可能性(エウロパにおける地表下の海と生命探査)である。日本の役割としては、木星周 回機による磁気圏探査の主導、トロヤ群へのランデヴー探査、ガリレオ衛星探査による木