第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画
3.8 重力波観測計画
95
3.7.3 技術開発の課題
ダークマター探索実験は、いかに低バックグラウンドを実現するかという技術にかかっ ている。実験の感度を一桁上げるためには、バックグラウンドも状況に応じて低減してな ければならない。その技術開発は、測定器を作る素材そのものの純化、低バックグラウン ド化から始まって、ガンマ線や中性子等バックグラウンドをひき起こす粒子の低減策まで、
広い範囲にわたる。また、それぞれの検出技術に固有の開発要素もある。
将来に向けた新たな検出技術開発も世界中で活発である。2つの泡箱プロジェクトが進 んでいる。PICASSO は、C4F10を用いた泡箱検出器であり、泡生成時の音波をピエゾ素 子で観測する。スピンに依存した相互作用断面積に対する感度として、次の700kgの装置 で10-37cm2、最終的に 10-39cm2を目標としているが、現在の装置は 2kgであり、まだ大 規模な開発が必要である。COUPP(Chicagoland Observatory for Underground Particle Physics)も同様な測定器で、CF3Iを用いる点が異なる。
3.7.4 国際協力・国際対応
次世代のダークマター実験は、もはや一つの国で行える規模を超えている。国際協力が 必然であり、現在、情報の交換、技術の交換など、基盤的レベルでの国際協力が進められ ており、国際共同実験への道筋ができつつある。
3.8 重力波観測計画
96
さいからである。つまり重力波は何でもほとんど素通りしてしまうのである。しかし、こ れが逆に天体の観測という点から見ると非常に強力な武器となる。例えば、宇宙が電磁波 に対して晴れ上がる時期(宇宙誕生の38 万年後)よりずっと以前の宇宙開闢の様子や、
中性子星やブラックホール同士の衝突なども重力波によって直接観察することが可能で ある。したがって、重力波天文学は電磁波や宇宙線による天文学と相補的に、我々がより 深く宇宙を理解することを可能にしてくれるのである。
3.8.2 観測装置の諸計画
(1) LCGT
LCGT計画については、第4章で詳しく述べられるので、ここではその位置づけの記述 に留める。1990 年代から世界各地で始まった大型レーザー干渉計の建設と観測実施に引 き続き、現在では、重力波の確実な検出を目指す第二世代の検出器の開発が進められてい る。LCGTはその1つとなる、超高感度レーザー干渉計である。目標感度は、最大で6億 光年先で起こる中性子星連星の合体から発生する重力波が観測できるように設定されて おり、これにより1年に数回以上のレベルで重力波の検出が期待される。それにより一般 相対性理論の検証を行い、また、超新星爆発、ブラックホール連星の合体、パルサーから の重力波なども検出し、重力波天文学を創成することを目標としている。
LCGTの基線長は3 kmであり、鏡はその熱振動(ブラウン運動)を低減するため20K にまで冷却される。光源は100Wレベルのレーザーを用い、量子雑音を最適化するため、
帯域可変型干渉計が用いられる。検出器は地面震動の小さい神岡の地下に建設され、超高 防振装置を組み込むことにより、地面震動の影響をさらに抑えこむ予定である。
LCGT は東京大学宇宙線研究所をホスト機関として、国立天文台および高エネルギー 加速器研究機構が協力して推進する国際共同計画であり、国内外の研究者120余名からな る研究組織により推進されている。
(2) スペース重力波アンテナDECIGO
スペース重力波アンテナ DECIGOの目的は、初期宇宙起源の重力波や宇宙論的な距離 にある天体からの重力波を観測し、宇宙の起源や構成に対し、電磁波では得られない(ま たは相補的な)知見を得ることである。以下その具体的な目的をいくつか列挙する。
a) 初期宇宙からの重力波:3K宇宙マイクロ波背景放射の揺らぎなど様々な観測事実は、
宇宙初期(10-36~10-34秒後)にインフレーションと呼ばれる急速な膨張時期があった ことを強く示唆する。そこで、DECIGO によってインフレーションの時期に生成され た背景重力波を検出し、インフレーションの存在を確認し、その特徴を明らかにする。
b) 宇宙の膨張加速度の計測:遠方の超新星爆発の観測は、宇宙の膨張が加速しているこ とを示唆し、その要因は、「ダークエネルギー」に起因すると説明されている。そこで、
DECIGO によって、遠方の中性子星連星からの重力波波形を測定し、超新星の観測と
97
は全く異なる手段で、宇宙の膨張加速度を直接的あるいは間接的に決定する。
c) 巨大ブラックホール形成のメカニズムの解明:銀河の中心には太陽質量の 106~1010 倍の質量を持つ巨大ブラックホールが存在するが、その生成過程はまだよく分かってい ない。そこで、DECIGO により宇宙の広い範囲で起こる、中間質量ブラックホール連 星からの重力波を検出し、巨大ブラックホールの形成のメカニズムを解明する。
これら以外にもDECIGOの目的は数多くあり、物理、天文、宇宙論を含めた広い意味で の天文学として、非常に大きな成果を挙げることが期待できる。
DECIGOは図1に示すように、1,000km離れた3台の人工衛星から構成される。3台
の衛星は、いずれも、いわゆるドラッグフリー衛星(drag free 衛星。衛星の中に作った 空間に物体を浮かせて、その物体が重力以外の力(太陽輻射圧など)を受けないように、
回りの衛星の姿勢・軌道を制御するようにしたもの。)とし、衛星間の距離は、重力波の 到来によって微小に変化するので、その距離の変化をレーザー干渉計により測定する。
DECIGO の技術的な特徴は、光共振器を使うことで装置の感度を高めている点にある。
これは、日本の重力波グループがこれまで 進めてきた、地上干渉計の極限技術を応用 したものである。目標感度は0.1 Hz~10 Hzで重力波の引き起こすひずみに対して 1×10-23 Hz-1/2程度である。この3台の人工 衛星から構成されるDECIGO3組を1AU 程度離して太陽周回軌道に配置すること により、重力波源の方向に対する高い角度 分解能を持たすことができる。また、背景 重力波に対する感度を高めるため、2組の
DECIGO を同じ位置に配置し、その相関
データをとることを行う。
DECIGO は 2024 年の打ち上げを目標
としているが、その実証過程として、2012年にDECIGOパスファインダー(DPF)、ま
た2018 年には Pre-DECIGO という、2つの前駆ミッションを打ち上げる計画である。
DPF では1つの衛星の中に2つの鏡を浮かせ、その距離を光共振器を用いて計測する。
目的はドラッグフリー衛星の技術試験と計測技術の宇宙空間での確認をすること、そして 地上では困難な 10Hz 以下の重力波の観測を、可能な限りの感度で行なうことである。
Pre-DECIGO では、最小限のスペックをもって重力波を検出するというサイエンスの目
的も掲げるとともに、離れた衛星の間を光共振器で結ぶという鍵技術の実証も目指す。
DECIGO は現在、予備概念設計が完了し、より詳細な概念設計を完成させる作業を継
続中である。また、DPF はJAXA/ISAS における小型科学衛星WGとして活動を開始し ており、できるだけ早い段階での打ち上げをめざして、提案を行っている。
レーザー
光検出器 光共振器
ドラッグフリー衛星 1,000 km
図1: DECIGOの構成
98
表3-5 重力波観測諸計画まとめ
名称 目的 計画概要 代表者、提案・推
進主体
予算規模 進捗状況
LCGT ①重力波を直接観測
し、伝播速度、横波の 性質等を確認し、一般 相対論の検証を行う。
②連星中性子星合体 や超新星爆発で発生 する重力波及び中性 子星からの連続重力 波等の検出により重 力波天文学の創生。
神岡地下に設置される高感度レー ザー干渉計である。200Mpc程度ま での重力波観測を行い、1年の観測 で確実に重力波を検出する計画で ある。レーザー干渉計の基線長は 3kmであり、干渉計の鏡は懸架系と ともに 20K にまで冷却される。高 感度をめざし世界で初めて地下設 置と低温鏡を採用する。
黒田和明、日本国 内の重力波研究者 の総意に基づいて 提案され、東京大 学宇宙線研究所が ホ ス ト 機 関 と し て、国立天文・KEK と協力して推進す る。
158億円 TAMAとCLIOと呼 ばれる装置によって 技術開発と実証試験 を行ってきた。現在 は装置建設のための 概算要求中である。
DECIGO ①インフレーション
時の重力波直接観測。
②遠方の中性子星連 星からの重力波で、宇 宙膨張加速度の計測。
③銀河中心の巨大ブ ラックホール形成の メカニズムの解明。
1,000km 離れた 3 台のドラッグフ リー衛星間の、重力波によって引き 起こされる距離の変化を、光共振器 型レーザー干渉計により測定する。
目標感度は0.1 Hz~10 Hz で重力 波 の 引 き 起 こ す ひ ず み に 対 し て 1×10-23 Hz-1/2程度である。
川村静児、国立天 文台・JAXA/ISAS など。欧米などと の 国 際 協 力 は 必 須。
1000億円 ま ず は 、DECIGO Pathfinder に よ る 技術実証を目指す。