第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画
3.4 光・赤外線観測装置の長期計画
(1) 分野の現状
光赤外天文学の研究者コミュニティーは、2010年代に我が国が目指すべき方向を2003 年度より2年間かけて検討した結果、(ア)すばる望遠鏡につづく地上大型望遠鏡として次
世代 30m望遠鏡の建設と(イ)赤外線観測衛星あかりに続いて 3.5m 赤外線望遠鏡SPICA
の打ち上げの実現を主要計画と位置づけることを合意し、「2010年代の光赤外天文学-将 来計画検討報告書」を2005年3月にとりまとめ発表した。計画の大型化に伴い、この報告 書では法人・機関間協力、国際協力の枠組み整備が訴えられた。
これを受け、国立天文台ではELTプロジェクト室が発足し、マウナケア山頂での30m 大型光学赤外線望遠鏡計画(TMT)の国際共同建設に向け合意書の署名等の活動が始まっ ている。またJAXA宇宙科学研究本部では宇宙理学委員会のもとにSPICA WGが結成さ れ活動を行ってきたが、ESAとの国際協力がCosmic Visionの推進候補採択まで進むとと もに、2008年7月にJAXAのプリプロジェクト(3.2.3(5)参照)へと移行した。
これらの国家規模プロジェクトに加えて、大学の法人化に伴い、教育研究面で各大学が 特色ある個別の中規模計画を策定し推進している。大型計画推進の人材育成のためにもこ れら個別計画を平行して実現していくことが肝要である。
(2) 目指す目標
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光・赤外線観測天文学が目指す主要な研究テーマとして、すばる望遠鏡に代表される8m 級地上望遠鏡、ハッブル、スピッツァー、あかりなどの宇宙望遠鏡が切り開いてきた、(ア) 高赤方偏移宇宙の銀河の具体的観測による銀河形成史の解明、(イ)星間ガスとダストか ら星形成に至る過程の解明、(ウ)恒星分光による元素合成史の解明、(エ)原始惑星系円 盤からの惑星形成過程の解明、(オ)ガンマ線バースターや活動銀河中心核の物理の解明、
などのさらなる発展があげられる。次世代 30m級望遠鏡の大集光力と高解像力、未踏の 中間・遠赤外域の高質な観測を提供するSPICAの能力などを考えると、これらの分野で は、確実な学術的進展が見込まれる。
さらに、近赤外や可視域での広視野サーベイ観測は、統計的なアプローチに大幅な前進 をもたらすだけでなく、ダークマターやダークエネルギーの解明などに、光赤外観測から 迫る新しい可能性を提供する。また我が国発のアストロメトリ衛星計画「JASMINE」が 実現すれば、新境地を開くことができる。
3.4.2 観測装置の諸計画
30m大型光学赤外線望遠鏡計画TMT、次世代赤外線天文衛星計画SPICA、そのほかの 計画についてその概要を記す。
(1) 30m大型光学赤外線望遠鏡計画TMT
次世代の口径30m大型光学赤外線望遠鏡計画(TMT)については、第4章で詳しく述 べるので、ここではその位置づけの記述にとどめる。
光赤外天文連絡会の将来計画検討会は口径30mのJELT構想のとりまとめを行い、国 立天文台は2006年にJELTプロジェクト室を設置した。JELTは国際的にいくつか独立 して提案されている次世代超大型望遠鏡(ELT: Extremly Large Telescope)の日本版であ る。
JELTは、(1)銀河形成と宇宙再電離の解明、(2)系外惑星探査と星形成過程の解明、
(3)クェーサーやガンマ線バースターの物理の解明、などの観測的研究で、これまでに すばる望遠鏡で得られた成果をさらに大きく発展させるとともに、JWST、アルマなどと 並ぶ2010年代の天文学最前線を牽引する基幹望遠鏡となる。
JELT構想には日本独自の斬新な構想が盛り込まれたが、日本単独での早期実現は困難 との判断から、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学、カナダ天文学大学連合が 検討を進めていたTMT(Thirty Meter Telescope)計画に合流して、マウナケア山頂地域で 世界でもいち早く実現することを目指す方針を2007年1月に固め、このための活動を強 化している。
2009年7月にはサイトがマウナケアに決定された。これを受けて2010年度の調査費要 求を行い、2011 年度からの大型計画として、スタートすることを希望している。順調に 建設が進めば2018年に部分的ファーストライトとなる見込みである。
69 (2) 次世代赤外線天文衛星計画SPICA
次世代赤外線天文衛星計画 SPICA(Space Infrared Telescope for Cosmology and
Astrophysics)についても4章に詳しい記述があるので、その位置づけの記述に止める。
SPICA は、(1) 銀河の誕生と進化、(2) 星・惑星系の誕生と進化、(3) 物質の進化の研
究を目指し、L2 軌道上で高感度でかつ高空間分解能の中間赤外・遠赤外観測を目指す日 本主導の口径3.5mの大型望遠鏡計画である。近赤外のJWST、ミリ波サブミリ波のアル マの間の波長域をカバーする宇宙天文台として、その科学的意義や開発チームの実績から 2010 年代での実現が望まれ、光赤外天文連絡会の将来計画検討会でも、日本の光赤外ス ペースミッションの最重要課題と位置づけられている。
欧州では、SPICAへの参加が将来ミッション候補の一つとして ESA Cosmic Vision の 枠組みの中で選択され、その検討予算がすでに認められている。韓国、米国でも参加の検 討が進められている。SPICA ミッションは、開発経費、打ち上げ経費、運用経費を含め ると数百億円の規模になると見積もられている。大型科学衛星計画として2017年の打ち 上げ実現を目指して、検討を進めている。
(3) そのほかの計画
【JASMINE(赤外線位置天文観測衛星)】
JASMINE ミッションは、天の川銀河のバルジ領域を口径80cmの望遠鏡で近赤外線の
Kw バンド(中心波長2ミクロン、バンド領域1.5-2.5 ミクロン)でサーベイし、約100 万 個 の 星 々 の 固 有 運 動 の 測 定 と 年 周 視 差 法 に よ る 距 離 測 定 を 行 い 、 こ れ ま で の
HIPPARCOS 衛星より位置測定精度で 2 桁、恒星数で 1 桁多い観測をめざす。ESA の
GAIA計画、NASA のSIM計画はいずれも可視域の観測。宇宙科学研究本部宇宙理学委 員会のもとに JASMINE ワーキンググループが 2003 年より設置されている。この計画 に先行して、2015年頃の打ち上げを目指す小型JASMINE計画の検討も進めている。
【WISH(超広視野初期宇宙探査ミッション)】
口径1.5m 鏡と視野直径約30 分角の近赤外線カメラによるサーベイミッション。宇宙
最初期における銀河進化史と大規模構造の形成史の解明、変光天体(SNe、AGN、GRB)
の研究などを目指す。早期に実現できれば、赤外線天文衛星 SPICA や地上 30m 望遠鏡 TMT と、波長域、科学的目標においても良い相補関係にある。
WISHとは独立に、宇宙初期に誕生した種族III の星からの近中赤外線宇宙背景放射の 精密観測を目指して、黄道光の影響を受けない軌道に赤外天文観測器を投入する黄道面脱 出ミッション(EXZIT: EXo-Zodiacal Infrared Telescope)も検討され始めている。
【JTPF(地球型系外惑星探査ミッション)】
JTPF計画は地球型系外惑星を検出するとともにさらに生命の兆候を検出することを目 的とする。
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系外惑星の直接観測には、高感度、高解像度、高コントラストの3つの要素が同時に実 現されなければならない。このため、可視光の中口径の望遠鏡で高コントラスト撮像を追 及する方法と、主星との光度比が3桁ほど緩和される中間赤外線でナル干渉計を用いる方 法を検討中。前者のため 3.5m軸外し望遠鏡を L2軌道に打ち上げる構想の概念設計とコ ロナグラフ技術のR&D を行ってきたが、必要予算規模が大きいため、米欧との国際協力 に基づく最初の地球型系外惑星直接観測ミッションの実現可能性も追及している。
【東京大学アタカマ天文台(TAO)プロジェクト】
チリ共和国・アタカマ地方にある標高 5600mのチャナントール山頂に口径 6.5m赤外 線望遠鏡を建設し、JWSTに次ぐ性能で中間赤外線観測を行うことと、近赤外線域での大 規模サーベイを行う。観測的宇宙論・銀河形成から惑星系形成の謎まで幅広く最先端の研 究を進めるプロジェクトである。大学望遠鏡として若手育成や萌芽的研究にも臨機応変に 対応し、望遠鏡時間の一部は国内の他機関の研究者・大学院生へ提供する。
2009年時点では、パイロット望遠鏡としてのmini-TAO 1m望遠鏡が完成、近赤外線 カメラANIRによるPaα(パッシェンα)画像取得にも成功した。さらに中間赤外線カメ
ラMAX38による観測準備と遠隔観測のための山麓基地の建設を進めている。プロジェク
トの予算規模は約80億円で外部資金・概算要求・大学等の複数財源を計画している。 6.5m 望遠鏡についても近赤外線・中間赤外線観測装置各1台を製作する予算が認められた。
【京都大学3.8m新技術望遠鏡計画】
京都大学は、国立天文台、名古屋大学、ナノオプトニクス研究所との四者連携で、国立 天文台岡山天体物理観測所の敷地に、民間資金にて口径3.8m の新技術光学赤外線望遠鏡 を建設する構想を2006年度より推進している。主鏡は国内初の分割鏡方式とし、超精密 研削技術を駆使して製作し、超軽量の架台を採用するなど、次世代の超大型望遠鏡建設の ために必要な基礎技術を実験開発する。大学での教育・人材育成に使用することほか、完 成後は、ガンマ線バーストなどの突発天体や星惑星形成領域の観測を行う計画であり、公 開天文台としてアマチュアとも全国規模で連携したネットワークをつくる。2012 年のフ ァーストライトを目指している。
【東北大学南極望遠鏡計画】
南極内陸のドームふじ基地(標高 3810m、最低気温-80℃)において赤外線での天文 観測を行うために、東北大学、筑波大学、極地研究所などの研究者が南極天文コンソーシ アムを結成した。赤外線40cm 望遠鏡を2010 年度に設置して、近傍銀河ハローの観測や 系外惑星探査の観測を行う準備を進めている。将来的には2m級望遠鏡を設置する可能性 を検討している。
【すばる望遠鏡次期観測装置計画】
すばる望遠鏡は第二期装置計画として、多天体ファイバー分光器FMOS、レーザーガイ ド補償光学系LGSAO188、新コロナグラフHiCIAO、超広視野カメラHSCを建設中であ る。ELT 時代の運用は他の8m-10m級望遠鏡との連携・役割分担を重視したものとす