第 5 章 天文学・宇宙物理学の長期的発展のために
5.1 大学における天文学・宇宙物理学
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5.1.2 大学における教育研究の特性
(1) 大学独自の装置
大学において、専門的な研究をほとんど知らない学生を、学部と大学院を通じた系統的 な教育により研究の面白さのわかる若手人材へと育成するためには、特長のある観測装置 の開発運用や萌芽的なプロジェクトの遂行が極めて重要である。大学独自の装置を保有す れば、観測時間を豊富に確保できる利点を生かして、テーマを特化した研究、時間軸(長 期時間変化、突発現象)に着目した研究、多数の天体に対して均一なデータを取得する統 計的な研究など、共同利用研の装置ではやりにくい研究が可能となる。実際、独自装置を 有している大学では、「何度も失敗を繰り返しながらも学生が観測というものに慣れ、装置 の限界に挑むような観測ができるようになる」という優れた教育効果が醸し出されている。
(2) 他分野との連携
また、大学においては、物理学の他分野(素粒子論から物性物理まで)のみならず、地 学、化学、情報、生物、数学など他分野の研究内容や方法などを様々な形で学ぶ機会を作 ることが容易にでき、研究の思わぬ展開や、学生の視野が広がる可能性が高い。他分野と の交流がしやすい環境で、ちょっとした実験、基礎的な研究、一風変わった研究など、新 しい研究の開拓が出来る。これはプロジェクト推進を主要な使命とする共同利用研では難 しい。巨大科学化した天文学で新たな研究課題を作り出すことは重要である。大学におけ る素朴な研究スタイルが多くの発想をもたらし、やがて新しい研究の芽につながる可能性 を秘めている。
(3) 科学(天文学)を裾野から社会に広める役割
大部分の大学にあっては、学生の多くは研究者になることを目的としていないため、学 部修了か、大学院に進んでも修士課程で修了し、天文学や物理学に直接関係しない企業な どに就職する。このような場合、学生も保護者も、大学院教育においても、即戦力となる 実学的な教育を期待している。特に地域拠点大学にあっては、研究者の養成よりも、高度 な職業的能力を持つ人材を養成して地域に貢献することが重要な使命と見なされている。
しかし、一方で、天文・宇宙に接近したいという社会全体としての要望(学生の教育、成 果の公開、普及活動など)は強く、それに応えることも大学の重要な使命である。「天文学 が学べるから、この大学に入学した」という学生が毎年何人もいるという地域拠点大学か らの報告や、天文・宇宙教育の充実が、入試志願者の増加につながったとの報告もある。
このように天文・宇宙の教育は、今や学生確保の有効な手段の一つとなっている場合もあ り、その教育を通じて科学(天文学)という文化を地域という裾野から社会に広める役割 を地域拠点大学が果たしていることに注目する必要がある。さらに地域拠点大学における 教育を通じて興味を広げ、天文研究者への道を歩み始めた学生がいることも忘れてはなら
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5.1.3 大学の研究者が直面する問題
(1) 継続的予算確保の困難
近年、国立大学法人の運営費交付金が漸減し、競争的資金が重視されるなど、研究現場 では継続的・経常的な予算の確保が、きわめて困難になりつつある。国立大学法人では、
運営費交付金のほとんどは教育経費に当てられているが、それでも教育用設備の充実はま すます困難になってきている。基幹大学においてすら、特長のある観測装置の開発運用や 萌芽的なプロジェクトの遂行はなかなか実現が困難な現状にある。大学の研究者は外部資 金の獲得に努力をしているが、競争的資金の採択率は定常的な研究活動を安定して支えら れるほどまだ高くない。大学での開発的研究の場合は、一度中断すると学生・大学院生の 継続性がとぎれ、再開するには多大の労力が必要となる。共同利用研などによる大プロジ ェクトにおいて、大学が装置開発によって貢献するには継続的な予算が必要である。
(2) 少数グループ特有の諸問題
大学相互や大学と共同利用研の間の人事交流は活発とは言えない。ある程度の規模があ る基幹大学においても、10年も20年も同じようなメンバーで同じような研究をしていては、
研究にも教育にも活力が失われる。天文・宇宙物理の分野は、一人ないしごく少数のグル ープしかいない大学を多く抱えており、そのような大学でこの問題は特に顕著である。少 数グループであるが故に自由闊達な研究を展開できるという側面もあるが、孤立している 研究者は視野が狭くなりがちである。自らの視野を広げたり、それをもとに新しい研究テ ーマを開拓するために必要な、インフォーマルで広範囲の情報収集と情報交換の場が不足 している。最近は学会の年会においても多数のパラレルセッションで発表が行われ、視野 を広げるという年会の役割が以前に比べて減ってきている。
少数グループで天文の教育研究を行っている大学では、大学院教育に次のような問題を 抱えている。少数の院生のみ受け入れた場合は、いわば「ひとりっ子」に近い状態になり、
緊密な指導ができるという利点もあるが、課題の幅が狭く、学生の視野が広がらないこと が多い。逆に、多数の院生を受け入れた場合は、よほど能力のある学生が揃わない限り、
一人ないし少数のスタッフの負担が非常に重くなる。さらに、前述したように、学生もそ の保護者も、大学院教育でも実学的即戦力を期待しているという背景があるので、高いレ ベルの天文の教育研究を提供するのが困難である。
基幹大学以外の大学においては、学内に天文学という一分野だけでグループを作るのは 容易ではない。地域拠点大学においては、学内で共同研究を実施する場合も、「地域におけ る貢献」が特に求められる。したがって、狭い分野に留まらず、意識的に他の分野との幅 広い連携が大変重要である。たとえば、理系においては科学教育、工学教育の一環として、
文系においては文化や歴史においての接点があると手がかりになる。その点で教育普及活
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動や文化としての天文学をもっと全面に出すことが必要で、コミュニティー全体としての 広報活動がきわめて重要であろう。
(3) 大学院生数の減少
大学院重点化に伴う基幹大学の大学院の規模拡大や、若年人口の減少に伴い、基幹大学 以外では、修士課程の志願者数が減少している。さらに基幹大学を含めてどの大学におい ても近年、博士課程への進学希望者は明らかな減少傾向にあり、看過できない問題となっ ている。これは天文に限らず、博士学位を取得して大学や研究機関(以下「アカデミア」
と呼ぶ)への就職を志望しても、ポスドク過剰問題に象徴されるように見通しが不安なこ と、学部や修士卒に比べて、非アカデミアの就職先の選択肢が狭くなること、博士課程院 生への経済支援が薄いこと、ものごとを理詰めで探究するという態度を嫌う社会風潮が強 まっていること、などの複合効果によるものと思われる。このような背景から、とくに少 数グループで天文の教育研究を行っている大学では大学院生がきわめて少なく、教育研究 の活力を維持するのが困難な状況に置かれているケースが少なくない。
5.1.4 大学とコミュニティーの発展のために
多様な役割を持つ教育研究機関がお互いに助け合って、コミュユニティ全体として発展 するために、以下の方策を実行することが有効であると考える。なお、「複数大学による共 同学科等」のあらたな仕組みを活用することは極めて重要であるので、節を改めて記述す る。
(1) 情報格差の解消
孤立している研究者に視野を広げる多様な場をコミュニティーとして提供し、情報格差 を解消する。インターネットなどのIT技術を活用すれば、比較的早急に、それほど莫大な 費用をかけずにスタート出来ると思われる。たとえば、主要な講演会を継続的にインター ネットで見られるようにする、研究上の非公開事項には配慮しつつも、研究会の発表に使 ったパワーポイントをウエッブに載せるのを慣例とする、などが当面の取り組みになろう。
国立天文台(あるいは天文学会)のウエッブサイトに、「最近の研究動向」のようなページ を設けて、そこに行くと1-2年間の主要な講演や研究会の情報が全て得られるようにする。
これらの取り組みを進めるに当たって、セキュリティポリシーに留意することはもちろん である。
(2) 講義への支援
基幹大学以外の大学における天文・宇宙物理の講義を支援し、そこで行われている教員 などの人材養成、それに関連する教材開発、および普及活動などをコミュニティーとして きちんと評価する。よい教科書や教材の情報を提供するウエッブサイトを立ち上げるのは 有効であろう。IT 技術を活用して基幹大学における基礎的な講義を配信する可能性も追求