• 検索結果がありません。

人材育成の現状と展望

第 5 章 天文学・宇宙物理学の長期的発展のために

5.2 人材育成の現状と展望

5.2.1 修士・博士の学位取得者数と就職先

過去9年間の全国の天文・天体物理関連の学位取得者数は推定で、修士は113人/年(補正 前82人/年)、博士は 55人/年(補正前42人/年)である。これは、天文天体物理若手の会 事務局によって 1998-2006の天文月報に掲載された数(悉皆調査ではない)に対して、東 大天文、東大物理、京大、東北大の悉皆調査値をもとにその不完全性を推定し、その補正 を施した推定値である。参考までに、本稿を書くに当たって詳しい調査への協力をお願い したいくつかの大学ごとの数値を以下に掲げておく。

修士(人/年) 博士(人/年) 東北大 10.7 4.7 東大天文 17.8 10.2 東大物理 20.1 11.1 名大 16.5 5.1 京大宇物 8.1 5.9 京大天体核 2.9 2.0 阪大 6.3 2.6 --- 計 82.4 41.6

上記5機関で1999-2008の10年間に博士号を取得した416人の2008年時点での就職状況 は以下の通りである。天文関連常勤職には、いわゆるアカデミアの研究職だけでなく、公 共天文台や科学館などで、天文学・宇宙物理学の知識を直接生かせる職を含めた。

137

天文関連常勤 民間 PD その他 合計 1999.3 18 7 15 4 44 2000.3 18 6 16 1 41 2001.3 16 10 16 3 45 2002.3 5 9 22 3 39 2003.3 12 8 8 2 30 2004.3 10 5 27 0 42 2005.3 10 7 24 1 42 2006.3 4 14 25 6 49 2007.3 1 10 19 2 32 2008.3 4 21 27 0 52 --- 合計 98 (24%) 97 (23%) 199 (48%) 22 (5%) 416

これからわかるように、416人のうち約半数が常勤職に就職しており、その内訳は、天文関 連の常勤職と民間の職がほぼ同数である。全体の残り約半数はポスドクであり、長期間ポ スドクを続けている人も相当数に上ることが見て取れる。

5.2.2 人材の活躍する場の拡大

(1) 人事公募の状況

天文学分野の人事公募の状況(大阪教育大学定金晃三氏による調査)は以下のようにな っている。2003年1月号~2007年12月号までの計5年に、天文月報誌の月報便り欄に掲 載された公募記事の内、常勤職と判断される助教(助手)以上の職(研究員も含む)を集 計した。国立天文台の上級研究員(任期 5 年)は含めた。職種の分類に当たって、講師は 准教授(助教授)とみなし、理化学研究所の主任研究員は准教授、研究員は助教とみなす ことにした。公募に教授または准教授とある場合には、教授、准教授それぞれ0.5人と数え るなどとした。

上記5年間に天文月報に掲載された公募の人数は計162名であり、年平均32.4 人の募集 が行われている。この期間中に有意な増加ないし減少の傾向は見られない。職階で分ける と、教授 44名、准教授 56名、助教 54名、研究員等 8名であった。募集主体別のシ ェアは以下のようになっている。

国立天文台 22%

ISAS 10%

旧帝大(7大学) 26%

地方国公立大 22%

138 私立大 9%

その他研究所等 9%

(その他研究所等には、国土地理院、理化学研究所、情報通信研究機構、海洋研究開発機 構、ぐんま天文台が含まれている)

学位取得直後のPD等が応募するのに適している助教+研究員等は年間12.4人(全体の約

40%)である。博士号取得者が全国で年間約55人であるので、競争率は約4.4倍と考えら

れる。この数字だけ見ると異常なほど高いとは言えないかもしれないが、この10年間に学 位を取得した学生の約半数が、現時点でポスドクであるという現状は、若者を天文・宇宙 の分野に引きつけるにはあまりにも不利な状況である。この現状を改善するには、アカデ ミアにおいて天文関連の安定した職の数を増やすことに加えて、天文関連の博士号取得者 の活躍できる常勤職種をアカデミア以外にも開拓することが必要である。さまざまな事情 から現在ポスドクの任期が 3-5年となっているケースが多いが、これについて 7年程度ま で1つのポストを継続できるようにすることの是非も検討すべきであろう。

(2) 養成すべき人材の規模

天文学を学びたいと思って努力した若者が長期間ポスドクという不安定な状況におかれ る事態を改善するには、安定した職の数を増やさなければならない。調査結果から判断す ると、アカデミア内外の広い意味での「天文コミュニティー」の職を現在の 2 倍程度にす るという長期的な目標を立てることは合理的であろう。ちなみに人口 100 万人当たりの天 文学者の人数(IAU メンバー数で代用)の国別統計を見ると興味深いことがわかる。日本 におけるこの数は約4.7人であるが、この2倍の9.4人を超える国が、少数統計を除外して も11ヶ国ある。天文学者の割合が多い天文先進国においては社会システムが日本と異なる ため、これら多くの天文学者のすべてが日本の「常勤職」と同じポストに就いているとい うわけではないが、日本のポスドクと比べれば長期間安定な職に就いている。

天文コミュニティーをほぼ2倍にするという目標の達成に向けては、繰り返しとなるが、

アカデミアにおける天文関連の安定した職の数の増加と、天文・宇宙物理の教育を受けた 人の活躍の場をアカデミア以外の分野において開拓することが極めて重要である。アカデ ミアにおける天文関連の安定した職の数を増加させるためには、コミュニティーとして戦 略的な息の長い取り組みをする必要がある。ビッグバン直後の宇宙にある銀河探査、太陽 系外の惑星探査、地球の起源にせまる太陽系外縁部の探査などで近年飛躍的な進歩を遂げ ている天文学の魅力は社会に広く知られている。この魅力をさらに広く深く伝えることが、

最終的には大学などにおける天文・宇宙物理の教育研究に対する社会的要請を高めること につながると考えられる。また、大型の国際共同プロジェクトが重要になる中で、国際対 応の出来る人材及び大型プロジェクトをマネージする人材が必要になっていることにも目 を向けなければならない。アカデミア以外の分野の開拓については次項に述べる。

139 (3) 中等教育課程教員及び公務員の重要性

アカデミア以外における職種の開拓については5.4.1節(産学連携)においても具体的な 提案が示されているので、ここでは産学連携の視点以外から重要な指摘をしておきたい。

まず第1は中等教育課程教員の重要性である。深刻な理科離れが進んでいる現状を鑑み ると、中学、高校の理科教師(数学教師も含めて良い)という職種は重要な役割を担って いる。教員養成課程の内容に関する検討も重要であるが、それは本報告の範囲を越えるの で、ここでは制度上の問題を指摘するに留める。

「社会総がかりで教育再生」という潮流が高まる中、教員採用の権限を有する各地の教 育委員会で、最先端の知識を学校現場に伝えることを目的として、理・工学や教育学など の博士号保有者を対象にした教員採用特別選抜を実施する所も出てきている。

現状では、学部段階から計画的に学習をしないと、大学院になって教員免許の取得を思 い立っても取得するのは極めて困難である。学部段階から学生に、理科教師という重要な 職種への目を開かせるようにコミュニティーとして働きかけることが重要である。それと ともに、教職科目として大学院科目を認定し、大学院在学中に教員になろうと考えた院生 が教員免許を取りやすいシステムを主要な大学で構築することは、大学院修了者に教職へ の道を開くために決定的に重要である。また近年、文科省の「特別免許状制度」の活用に も関心が高まっている。この制度は教員免許状を有しないものでも教員として採用する道 を開くもので、その活用をコミュニティーとしてアピールすることも検討に値する。

参考までに、文部科学省による、「教員免許制度の概要-教員を目指す皆さんへ-」のペ ージのURLを以下に掲げる。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/main13_a2.htm

第2は広い意味で学術政策に影響力をもつ公務員の重要性である。我が国では、政策を 立案し実行する指導者層に理工系出身者が極めて少ない。このことを考えると、アカデミ ア以外で開拓すべき重要な分野として公務員、特に国家公務員をあげるべきである。国家 公務員の採用のシステムは学部卒を主な対象としており、大学院生特に博士課程修了者に は極めて狭き門となっている。理系の博士号を有する人材が国家公務員としてその力を発 揮できるような制度の改革が早急になされるべきである。