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電波観測装置の長期計画

第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画

3.3 電波観測装置の長期計画

(1) 分野の現状と動向

日本の宇宙電波研究は、短波長側ミリ波天文学を中心に発展を遂げた。1980年代初期に 世界最大のミリ波観測装置である野辺山の45m電波望遠鏡と5素子干渉計が稼働し、星間 物質・星の生成・銀河中心核活動等の研究でめざましい国際的成果を挙げ、かつ多くの研 究者を育成した。超長距離電波干渉計 VLBI による天文学でも、宇宙科学研究所との協力 で世界初のスペースVLBI「はるか」、地上ではVERAによる高精度電波三角測量を実現す るなど、先端的開発が進んだ。平行して大学共同利用機関としての国立天文台の整備、大 学と共同しての技術開発などが進み、日本の電波天文学は可視光観測と並ぶ地上からの宇 宙観測の柱にふさわしいコミュニティーの広がりを持つに至った。

現在、電波観測は宇宙膨張初期の現象や太陽系外惑星の直接観測も視野に、高感度と高 空間分解能を実現する大規模干渉計の時代に入った。日本は日米欧三者共同の大型ミリ波 サブミリ波干渉計アルマ計画を中核プロジェクトに位置づけ、その建設で先導的役割を果 たしている。また台湾などアジア諸国と共同のアルマアジア観測センターを構築するいっ ぽう、チリのアルマ建設地を拠点にサブミリ波の先進的な観測を進め、VLBIでは「はるか」

の後継機ASTRO-Gの2012年打上げと宇宙-地上ネットワークの構築を準備中である。

(2) 目指す目標:アルマ後の長期計画

国際共同の大型装置アルマの建設は、着々と進んでいる。当面、日本で発展したミリ波・

サブミリ波天文学をアルマによって発展させ、宇宙の物質進化、星・惑星系形成、銀河形 成などの諸分野で宇宙探求のフロンティアを切り開くことが日本の電波天文学分野の当面 の大目標であることは、論を待たない。

いっぽうアルマ建設の進展を受け、地上からの電波観測の分野では世界的に、アルマ以 後の長期計画の検討が進んでいる。最有力のSKA(Square Km Array = 1平方km電波干 渉計)計画は、観測波長でアルマと相互補完的な長波長電波の大型観測装置計画であり、

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すでに国際協力による部分的開発段階に入りつつある。SKA は宇宙論から相対論、宇宙の 生命や文明探査まで幅広いインパクトをもたらし得る画期的な観測装置で、これに高度な 検出・デジタル技術と観測研究の蓄積を持つ日本が参画し、さらに優れた計画として実現 していくことが、日本にも世界にとっても重要である。日本のSKA参加への国際的期待は 高く、日本の電波天文学コミュニティーとしてもSKAをアルマ以後の中心的計画と位置づ け、具体的検討に入りつつある。SKA計画の詳細とそれへの日本の対応は、次の[2]項で述 べる。

アルマ後の長期計画においては、銀河進化や高エネルギー宇宙物理学、高度化する電波 位置天文学、重要性を増すインフレーション宇宙や電波による重力波直接実証等も含め新 たな物理学的課題に挑戦するなど、SKAも含めて戦略的に目標を設定して行く必要がある。

サブミリ波天文学の新たな発展や宇宙背景放射の高精度観測などさまざまな規模・時間ス ケールで視野に入ってきている計画については、[3]項で概観する。

3.3.2 観測装置の諸計画

(1) SKA計画 (Square Kilometer Array:1平方キロメートル電波干渉計) (a) SKA計画の概要

アルマ後の電波天文学の大型地上計画として国際的に最重要と位置づけられているのが、

SKAである。SKAは、波長1cm以下のミリ波・サブミリ波で観測を進めるアルマとは対 照的に、波長1cm以上3mまでの長波長域の電波を観測するもので、比較的小型のアンテ ナを1000キロメートル以上の範囲に2000~3000台展開し、集光面積1 km2のという巨大 電波望遠鏡を実現する。cm波帯で現在最大のVLA〔米〕の50倍以上の感度、100倍以上 の空間分解能(最高0.001秒角)を達成する、画期的な国際計画である。

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SKAの観測対象も、当然アルマと相補的である。主要科学目標として、5つの柱がある。

①中性水素ガスの直接イメージングによる宇宙初期の暗黒時代の探求、②宇宙磁場の起源 と進化の研究、③重力理論の直接検証、④中性水素ガスの観測による銀河全天サーベイ観 測と銀河進化、⑤宇宙における生命の起源、文明の探査。

上記のうち、中性水素ガス(21cm線)の観測①④は、アルマが密度の高い分子ガスによ って星や惑星の形成などを観測するのに対し、宇宙の基本元素である水素の21cm線をかつ てない規模で観測するものである。①は 130 億年よりも前、宇宙初代の星の誕生以前の、

これらの材料である低温・低密度ガスを、はじめて観測する。膨張宇宙初期の未知なる暗 黒時代の探求である。さらにデジタル技術を駆使して得られる高感度・広視野を生かし、

宇宙初期から現在までの全天の中性水素ガスを観測し、どのように現在の宇宙が形作られ てきたのかを解明する④。一方、偏波観測で宇宙の磁場の起源の解明をめざす②や、パル サーの超高精度観測により強い重力場で一般相対論を検証する③は、宇宙の基本原理や宇 宙の最初期に起きた事実を理解する上で重要である。③の観測を高精度化すれば、宇宙初 期の時空の形成時に発生したはずの背景重力波の直接検出も可能になると期待される。⑤ は惑星形成の場での大型有機分子の進化を観測し、また地球的な電波文明が存在する可能 性を探る(SETI = Search for Extraterrestrial Intelligence)もので、生命観や人類文明論 に与える影響も大きいであろう。このようにSKAは電波観測に全面的にデジタル技術を持

SKAの計画イメージ:Focal Plane ArraysとSmall Disies

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ち込んでコンピュータ望遠鏡とも言うべき新しい形式の観測装置を実現するものであり、

それによってきわめて先進的かつ斬新な宇宙の探求が実現すると期待される。

(b)SKA計画と日本の電波天文学

SKA計画はオランダ、イギリスなど欧州諸国、アメリカ・カナダの北米、電波天文学の強 い伝統を持つオーストラリアなどによる広い国際共同組織で検討推進され、技術開発も分 担により高度なレベルで行われている。しかし本格的な建設予算のメドは、まだ立ってい ない。実現すればアルマとともに宇宙の基本的問題の解明に取り組む世界の電波天文学の 中心的観測装置となるものであり、日本にとって極めて重要な計画であると同時に、国際 的にも日本の参加に大きな期待がかけられている。

SKA の実現に日本が果たせる科学的・技術的貢献は、非常に多い。特に大きな寄与が期 待されているのは、SKA の短cm 波帯の装置開発と観測で、技術的には日本得意の超高速 AD(アナログ‐デジタル)変換器や高感度半導体を用いた超広帯域の受信機システムなど である。観測では、アルマでは観測が困難な大型有機分子(生命と密接に関連する分子)

の探査や、VERA の観測を発展させた銀河系遠方領域での精密電波位置天学も、日本が開 発を重ね高い経験を有する分野である。またすばる望遠鏡やアルマ、重力波、理論天文学 などの高い実績と連携して、宇宙初期、重力波、宇宙進化、生命の起源などSKAが対象と する広いサイエンスへの重要な寄与が期待されるとともに、日本の天文学・宇宙物理学に多 大の効果をもたらすものとなるだろう。

(c) SKA 計画への今後の対応

日本国内ではこれまで、電波天文学コミュニティーを中心にSKAへの参加や科学面・技 術面での寄与について検討が行われてきた。しかしアルマの建設に国立天文台の電波分野 の総力を挙げている現状で、アルマとは別のチームで開発を進めているアメリカ、ESO、

オーストラリアなど先進諸国に比べ出遅れは否めなかった。国立天文台はこれまで各国の

Funding Agencyが作るSKAフォーラムにオブザーバーとして参加し、世界各国との協議

や情報の共有化を進めてきたが、アルマの建設が進んできた現在、さらに具体的な参加・

協力体制の構築が急務であるというのが、電波天文学コミュニティーの一致した意見であ る。

当面は、日本としての参加形態、組織等について国内での検討を積み上げながら、SKA 実現を目指す主要国と連携して日本の参加によるSKAの高度化と建設分担プランを練り上 げてゆくべきである。日本が貢献すべき科学的目標と日本がリードし貢献できる技術開発 分野をさらに具体的に整理し、その一方で、国際的にもなお本格的建設の予算化にはいた っていないSKAの実証段階として進む各国のパイロット装置計画(オランダのLOFARや ASKAP(Australian SKA Pathfinder)への協力も真剣に検討する必要があろう。それら と並行して、国立天文台とコミュニティーの協力で人的体制などの検討整備を進め、日本 の電波天文学コミュニティーとして、アルマ以後の次世代の中核計画としてのSKAの推進 体制の構築に進むことが適切であろう。