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第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画

3.9 太陽観測計画

(1) 分野の現状と動向

わが国の太陽物理学は、「ひのとり」(1981年)、「ようこう」(1991年)、「ひので」(2006 年)の3機の太陽観測衛星を実現し、宇宙からの太陽観測で世界をリードしてきた。「よう こう」は、軟X線・硬 X 線で、太陽フレアやダイナミックに変化する高温の太陽外層大 気(コロナ)を撮像観測し、激しい活動性の起源は磁気リコネクションであることを初め て実証的に示した。「ひので」は、コロナ観測とともに太陽表面(光球)での磁場構造の 変動を高解像度・高精度に測定し、アルヴェン波と考えられる波動の初検出に成功し、こ れまでの想像を大きく上回る激しい現象(ジェットなど)に満ち満ちた光球・彩層の活動 性を明らかにしつつある。現在、コロナの活動性や加熱と光球での磁場構造の変動の関係 などを解明することを目的として、精力的に研究が進められている最中である。

衛星による観測と相補的な役割を果たす地上の太陽光学観測は、国立天文台・乗鞍コロ ナ観測所、京都大学・飛騨天文台を中心に行われてきた。しかし、主たる観測装置が 30 年以上を経過し、具体的な将来計画を立案する時期に差し掛かっている。また、野辺山電 波へリオグラフによる太陽フレア爆発における加速粒子の電波放射等の観測は、1992 年 から継続的に行われている。

(2) 目指す目標

「ひので」の最新成果も踏まえて、太陽物理分野として今後10〜20年に重点的に取り 組むべき科学課題の柱として、以下の2つがあげられる。

a) 太陽大気のダイナミックス・加熱の物理プロセスの定量的な理解 b) 太陽磁場の生成起源および太陽周期活動の理解

このうち a)は、「ひので」の動画観測が初めて明らかにした激しい大気活動性(ジェッ

トや波動現象、大気加熱)に注目し、それらの現象の背後に存在する、空間的にも時間的 にも分解できていない要素的な物理素過程を理解することを目指す。偏光分光観測による 現象の物理量診断(速度・磁場など)を、彩層を中心に光球からコロナに至る太陽大気に わたり行うことが重要である。この課題設定は、天体プラズマに共通する物理を、分解し て観測可能な太陽プラズマという環境下にて定量化をはかることでもある。これらの太陽 観測による研究は、太陽磁気活動が地球周辺の宇宙空間や人間生活にどのような影響を与 えるかについて理解を目指す「宇宙天気」の基礎的研究においても重要な役割を果たす。

b)については、太陽大気の活動性や加熱を引き起こす源としての太陽磁場が太陽内部で どのような機構で生成されるのか、またその磁場がどうして約 11年の周期で変動するの か、という太陽・恒星磁場の起源の理解を目指すものである。近年の観測的、理論的研究 から、対流層深部に磁場の起源が存在することが示唆されており、対流層深部の運動を詳 細に調べるためのブレークスルーとなる観測が期待されている。その一つの可能性が、こ

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れまで流れや磁場の詳細な観測がなされていない太陽極域の探査である。また、数10 年 以上にわたり継続的に行われる太陽全面磁場・速度場等の長期連続観測は、太陽周期活動 の研究の基礎となるものである。

これらの科学目的の達成のためには、2020 年頃の太陽活動極大期での観測が重要であ り、2010年代後半に「ひので」に続く新しい太陽ミッション「SOLAR-C」を実現させた い。また衛星観測と相補的な役割を果たす地上観測設備の拡充も重要な課題である。

3.9.2 観測装置の諸計画

(1) 太陽観測衛星「SOLAR-C」

次期太陽観測衛星「SOLAR-C」は、§3.9.1 (2) で述べた2つの目標のどちらに主眼を置 くかにより、a) 分光観測・偏光観測に重点をおいた高解像度観測・高時間分解能観測で、

ダイナミックに変動する太陽磁気プラズマ活動性の物理素過程を探査する「偏光分光観測 ミッション」、あるいは、b) 黄道面を離れた視点からの観測により未踏の太陽極領域を探 査する「太陽極域観測ミッション」、のいずれかを目指す。

a)の選択肢は、「ひので」で開花したサイエンスをさらに深化させ、天体プラズマで働 く物理素過程の定量的な理解をはかるミッションである。磁気リコネクション、加熱、ア ルヴェン波、超音速流などの現象を、「ひので」と同程度の解像度で、彩層起源の吸収線 の偏光分光観測によりとらえ、その物理的理解を進めるものである。さらに、その上空の 遷移層やコロナでは、「ひので」の輝線分光観測(2秒角程度の解像度)から、画像では分 解できない複数の運動成分があることが見出され、より細かい構造のあることが明確にな ってきた。このような激しい運動は、彩層のすぐ上空の遷移層・コロナ下部で発生してお り、エネルギー解放領域と考えられるその現場を高解像度観測で捉えることは、天体物理 学で基本的な難問であるコロナ加熱の物理過程を理解する上で、極めて重要なステップで ある。彩層偏光分光観測と同程度の解像度で、物理過程を探るのに必要な高時間分解能の 遷移層・コロナの撮像・分光観測が必要となる。

b) の太陽極域観測ミッションでは、軌道半径1AU程度、太陽赤道面から傾斜角45度 以上に離れることで、これまで地球からでは好条件での観測が難しかった、太陽高緯度・

極領域の詳細な探査を行なう。この未知領域における対流の様子、磁場の形態、太陽周期 にわたる磁気量変化などは、太陽の対流構造や磁場の形成機構の理解を飛躍的に高めると 期待される。日震学的な手法を用いることで、高緯度・極領域の自転角速度、子午面還流、

極磁場反転の現場を確実に測定することが可能となり、太陽ダイナモ理解のために重要な 基礎量を観測から決定できるほか、対流層底部で実際に磁場が生成されている証拠を探査 することが初めて可能となる。太陽極領域はまた、800 km/s もの速度に加速される高速 太陽風の吹き出し口として知られているが、望遠鏡および分光装置によるリモートセンシ ング観測と「その場」観測により、その加速機構の本質に迫ることが期待される。

102 (2) 太陽望遠鏡

地上観測は、衛星観測と相補的な役割を持ち、地上観測でのみ実施可能な課題もある。

地上観測と衛星観測の相乗効果により、科学成果が飛躍的に上がることは、「ようこう」「ひ ので」が行ってきたサイエンスの成果からも明らかである。地上からの太陽研究の主要な 柱の一つは、太陽全面磁場・速度場等の長期連続観測による太陽周期活動の研究であり、

もう一つの柱は、高分解能観測による磁気プラズマ現象の機構解明である。中でも現象の エネルギー源および構造形成を担う磁場の高精度観測が重要であるが、「ひので」が明ら かにしたように、彩層構造はフィラメント構造(0.1 秒角以下)からなり、ダイナミック な変化(10 秒以下)を示す。コロナ加熱、コロナ質量放出現象などコロナ中には未解明 の重要問題が残っているが、これは彩層でも同様で、むしろ彩層の方が大きなエネルギー を加熱に必要としており、地上観測の重要なテーマとなる。

現在、国立天文台、京都大学、北見工大を中心に、高精度偏光観測、像補正、赤外観測 など、必要となる基礎技術の開発が進んでいる。また「ひので」可視光望遠鏡の資産も元 に、地上太陽観測設備を持つ国立天文台・太陽観測所、京都大学・飛騨天文台からのメン バーを中心としたワーキンググループで、今後の地上太陽観測の将来計画が策定されつつ ある。オプションとして、(1)日本独自の望遠鏡(口径2mクラス)を適地に置く、(2)国 際協同により望遠鏡を実現する、 (3)すでに実現されつつある望遠鏡(例えばアメリカの 後継4m望遠鏡計画ATST)へ日本から観測装置を提供し、共同利用による観測時間を獲 得する、という3案があり、(1)が有力視されている。

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表3-6 太陽観測諸計画まとめ

名称 目的 計画概要 代表者、提案・推

進主体

予算規模 進捗状況

SolarC プランA(太陽極域観

測ミッション):太陽 の対流構造や磁場の 形成機構、太陽風加速 機構の解明。

プランB(偏光分光観 測ミッション):彩 層・コロナにおけるダ イナミックに変動す る太陽磁気プラズマ 活動性の物理素過程 の解明。

プランA:黄道面を離れた視点か ら、太陽極領域の日震学的速度場観 測、および、望遠鏡・分光装置によ るリモートセンシング観測を行う。

プランB:高空間分解能・高時間分 解能観測による彩層・遷移層・コロ ナの分光観測・偏光観測を行う。

常 田 佐 久 、 JSAS/JAXA、国立 天文台

中型 2017 年打ち上げ 目標。

太陽望遠鏡 太陽全面磁場・速度場 等の長期連続観測に よる太陽周期活動の 解明と、高分解能観測 による磁気プラズマ 現象の機構を解明す る。

日本独自ないし国際共同によって、

後継2mクラスの望遠鏡を適地に置 く。あるいは、すでに実現されつつ ある望遠鏡へ日本から観測装置を 提供し共同利用による観測時間を 獲得する。

末松芳法、国立天 文台・太陽観測所、

及び京都大学・飛 騨天文台

20億円 2013年頃。