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宇宙研究の広がりと他分野との連携

第 5 章 天文学・宇宙物理学の長期的発展のために

5.3 宇宙研究の広がりと他分野との連携

139 (3) 中等教育課程教員及び公務員の重要性

アカデミア以外における職種の開拓については5.4.1節(産学連携)においても具体的な 提案が示されているので、ここでは産学連携の視点以外から重要な指摘をしておきたい。

まず第1は中等教育課程教員の重要性である。深刻な理科離れが進んでいる現状を鑑み ると、中学、高校の理科教師(数学教師も含めて良い)という職種は重要な役割を担って いる。教員養成課程の内容に関する検討も重要であるが、それは本報告の範囲を越えるの で、ここでは制度上の問題を指摘するに留める。

「社会総がかりで教育再生」という潮流が高まる中、教員採用の権限を有する各地の教 育委員会で、最先端の知識を学校現場に伝えることを目的として、理・工学や教育学など の博士号保有者を対象にした教員採用特別選抜を実施する所も出てきている。

現状では、学部段階から計画的に学習をしないと、大学院になって教員免許の取得を思 い立っても取得するのは極めて困難である。学部段階から学生に、理科教師という重要な 職種への目を開かせるようにコミュニティーとして働きかけることが重要である。それと ともに、教職科目として大学院科目を認定し、大学院在学中に教員になろうと考えた院生 が教員免許を取りやすいシステムを主要な大学で構築することは、大学院修了者に教職へ の道を開くために決定的に重要である。また近年、文科省の「特別免許状制度」の活用に も関心が高まっている。この制度は教員免許状を有しないものでも教員として採用する道 を開くもので、その活用をコミュニティーとしてアピールすることも検討に値する。

参考までに、文部科学省による、「教員免許制度の概要-教員を目指す皆さんへ-」のペ ージのURLを以下に掲げる。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/main13_a2.htm

第2は広い意味で学術政策に影響力をもつ公務員の重要性である。我が国では、政策を 立案し実行する指導者層に理工系出身者が極めて少ない。このことを考えると、アカデミ ア以外で開拓すべき重要な分野として公務員、特に国家公務員をあげるべきである。国家 公務員の採用のシステムは学部卒を主な対象としており、大学院生特に博士課程修了者に は極めて狭き門となっている。理系の博士号を有する人材が国家公務員としてその力を発 揮できるような制度の改革が早急になされるべきである。

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年9月に稼働を始めた欧州原子核研究機構CERN(セルン)の大型ハドロン衝突型加速器

(Large Hadron Collider、略称 LHC)は、14TeVという世界最高エネルギーをめざして いる。日本は高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東京大学素粒子物理国際研究センターな どを中心に、各地の大学の研究者が LHC のアトラス(ATLAS)実験に参加している。LHC に第一に期待されるのはヒッグス粒子の発見である。素粒子の質量の起源にかかわるヒッ グスの発見は素粒子物理学の最重要課題であるが、同時に初期宇宙における進化にかかわ る「真空の相転移」を裏付けるものとして宇宙物理学においても重要な意味をもつ。第二 に期待されているのは超対称性粒子の発見である。もっとも軽い超対称性粒子がダークマ ターの正体と考えられており、その発見は大きな謎であるダークマターの正体解明に直接 答えるものとなる。

現在、次世代の加速器として、日本人研究者を含む国際チームによって国際線形加速器

(International Linear Collider、略称ILC)の計画が進められている。ILCは電子・陽電子 コライダーであり、LHCでは実現できないバックグラウンドの少ない精緻な実験が可能で あり、ヒッグス粒子と他の基本粒子との結合定数の決定、超対称性理論が標準理論となり うるほどの多種の超対称性粒子の発見が期待されている。これらの発見から得られるデー タは宇宙の進化解明に大きく寄与するものであり、ATLAS日本グループをはじめこの分野 の研究者との研究連絡、連携が今後さらに望まれる。

一方、超弦理論に基づく膜理論は、LHC実験で量子的ブラックホールが生成され、それ が蒸発する現象が観測される可能性があることを予言している。実際にこの現象が発見さ れれば歴史に残るような発見である。この10余年、超弦理論に基づく宇宙論は大きく進み、

我々の宇宙は高次元空間の中に浮かぶ“膜“だとする膜宇宙論が提唱され、新たな宇宙論の展 開となっている。過去15年ほど、素粒子論と宇宙論の連携は急速に進んでおり、今後そう した連携が一段と強化されるべきであろう。

日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で建 設、運営を行うJ-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex:大強度陽子加速 器施設*)が稼働をはじめ、J-PARCよりスーパーカミオカンデにニュートリノビームを送 り、ニュートリノ物理学の研究を進めるT2K実験がまもなく本格的に始まろうとしている。

この実験により、もっとも大質量のニュートリノと、反対にもっとも小質量のニュートリ ノ間の混合角θ13や、3種類のニュートリノの質量の大小の順序などが決定されると期待さ れている。これらは宇宙ニュートリノの研究で重要な役割を果たす。これらは、とりわけ 超新星内部でのニュートリノ振動・転換を決めるパラメータであり、その地上での検出か ら源での放出されるニュートリノを決定する重要な役割を持つ。

超高密度の新物質、クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)を生成しその性質を解明する 研究が、世界最高エネルギーの原子核衝突型加速器、RHIC(相対論的重イオン衝突型加速 器)を用いて、米国ブルックヘブン国立研究所で進んでいる。日本から理化学研究所はじ め多数の大学が参加している。金の原子核衝突により非常に高密度の物質が生成されてい

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ることがほぼ確立したと思われるが、今後さらにLHCを用いた実験によりQGPの研究は さらに大きく進むと期待されている。温度が100MeV を越える宇宙初期の状態は QGP で あると考えられている。また超新星爆発時に中心領域に高温のクオーク相が形成される可 能性もある。宇宙初期や超新星爆発について新たな示唆をもたらす可能性が考えられる。

また同時に量子色力学(QCD)計算による QGP やクオーク物質の理論的研究も、核力を QCDから導くことに成功するなど大きく進んでいる。初期宇宙の進化、超新星爆発機構解 明にこの分野の研究者との連携を一段と強めることが両者の今後の研究に大きく寄与する であろう。

さらに、実験・観測に関する素粒子・宇宙の新たな連携の動きも出てきている。特に、

宇宙背景放射偏光の観測によるインフレーション宇宙の検証は、加速器では到達できない 超高エネルギー物理を探るユニークな手段として、素粒子実験に従事していた研究者が積 極的に参入しはじめている。チリ・アタカマにおける QUIET 実験、PolarBeaR 実験等米 国との共同実験を推進し、新たな背景放射観測衛星の提案をおこなうなど我が国における 背景放射観測の新たな展開が期待される。

(2) 原子核物理学

原子核物理分野との研究連携では、原子核物理側から、宇宙現象を理解するための基礎 物理を天文・宇宙物理分野に提供することが重要となる。なかでも今後10年から 20年を 俯瞰した際に重要なのは、元素合成に関与する不安定核の諸性質と反応、及び高密度核物 質の状態方程式の2点である。

元素合成については、星の進化に大きく影響する不定性の大きな核反応の精密化等が必 要であると同時に、r-過程とよばれる元素合成過程の解明が焦点となる。r-過程とは、ウラ ンや金など、鉄より重い元素のほぼ半分を合成し、ヒトや生物の生命維持に必須な元素を 生み出す重要な物理過程であるが、どこで、どのように起きているのかわかっていない。

この r-過程に関与する、極端に中性子過剰な原子核の質量、半減期、核構造、中性子捕獲

反応について、理研 RI ビームファクトリー(RIBF**)において世界で初めて実験が敢行 される。今後取得が見込まれる原子核データは大量である。

高密度核物質の状態方程式については、RIBFにおいて標準核密度の2-3倍程度までの情 報が得られる。それ以上の密度については J-PARC において、中性子星中心部に存在が示 唆されている中間子凝縮に関わるハイパー核の情報が得られる。これらを統合して、高密 度核物質の状態方程式の理解が格段に進むと期待される。状態方程式の理解は、超新星爆 発のメカニズムや中性子星の内部構造に密接に関係する。さらに重力波検出計画において 第一の重力波源と想定されている、中性子星連星が合体する際の重力波放出にも、直接的 な影響をもつ。

核物理分野においては、実験的に未知の物理量が、日本の研究施設において世界で初め て得られるというすばらしい状況が準備されつつある。これらの新しい核物理学上の成果