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ダークマター探査計画

第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画

3.7 ダークマター探査計画

(1) 分野の現状

重力レンズ探査から、ダークマターが天体である可能性は相当低くなってきている。そ のため、現状で最も可能性の高い素粒子、特に弱い相互作用のみをする素粒子の直接探査 実験が世界中で活発に繰り広げられている。バックグラウンドの低い地下にターゲットを 設置し、地球に飛来するダークマター粒子がごくまれに起こす衝突を測定する実験である。

直接探査実験では、ダークマターの反応の起こりやすさ、すなわち散乱断面積および、

銀河系のダークマターが地球に飛来するフラックスが、測定の鍵を握る。フラックスが大 きければターゲットとの衝突が起きる回数がそれだけ多くなるからである。我々の銀河系 ハローには、ダークマターは0.3 GeV/cm3の密度で存在するとされ、地球はダークマター の海を平均 260km/s で突き進んでいる。地球からみると、ダークマターは、はくちょう 座の方向から地球の銀河系に対して運動する速度に比例し、またダークマター粒子の質量 に反比例するフラックスで飛んでくるように見える。同じ重力を生み出すのに、粒子1個 当たりの質量が大きいと、数密度は反比例して少なくなるからである。さらに銀河系に対 して地球が±30kmの速度で公転することにより、フラックスは季節変動する。

現在までに多くのダークマターの直接探査実験が行われているが、まだ、確実に検出に 成功したものはない。イタリアのDAMAグループ(NaIの結晶を用いた実験)が、季節 変動を観測したとして、ダークマターの質量30∼90GeV程度で、スピンに依存しない相互 作用断面積が3×10-42〜3×10-41cm2のあたりにダークマターの存在を主張している。また、

最近それを発展させた実験でも同様の結果を得ている。しかし他の実験、例えばCDMS-II

(Ge および Si の結晶を用いた実験)やキセノンを使った実験などは、DAMA の主張す る質量・断面積領域を否定している(たとえばCDMS実験は4.6×10-44cm2まで否定)。矛 盾する結果をうまく説明しようとする理論もあるが、DAMA の結果は広く認められてい るとはいえない。

ここ数年、ダークマターの直接探査実験は、スケールが大型化する時期を迎えている。

これは、ターゲットが、これまでの高純度結晶から、アルゴン、ネオンやキセノンなどの 稀ガスへと移行してきたからである。現在いくつかの実験が、断面積で10-45cm2程度の感 度を目指してしのぎを削っている。日本のXMASS実験(フェーズI)を含め、ターゲッ トの有効質量が100kg程度の実験が測定を開始しようとしている。これまでの、チャンピ オンであったCDMSは、Super-CDMSとして検討が進んでいる。

(2) 目指す目標

宇宙のあらゆる階層で、ダークマターの存在は示されている。WMAP 衛星等の観測結 果によれば、宇宙の物質・エネルギーの73%は宇宙の加速膨張の源で、いまだに全くその

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正体のわからないダークエネルギーであり、23%は重力の作用でしかその存在を知ること ができないダークマターである。我々の知っている物質は、わずかに 4%である。ダーク マターの存在は、銀河の回転速度の観測からもかねてから知られていた。安定で、質量が 重く(おそらく陽子の 100 倍以上)、電荷を持たないダークマター(Weakly Interactive

Massive Particles) は新しい素粒子ではないかと考えられている。したがって、ダークマ

ターを直接観測により捕え、その正体を解明することは、ダークマターがその任を負って いるとされる宇宙の構造形成の起源をより正確に知るだけでなく、新しい素粒子の発見に つながる。地球上の検出装置で、ダークマターと物質の相互作用を直接観測することによ り、ダークマターの相互作用の強さ、スピン依存性、質量などの諸性質が分かり、ダーク マターの正体を解明する大きな手がかりを得ることになる。ダークマターの研究は、宇宙 物理学、素粒子物理学の両方にまたがる大きなテーマである。

3.7.2 観測計画

次世代のダークマター実験は、断面積の感度として、現在進行中の実験のさらに2桁先 の10-47cm2を狙うものである。もし進行中の実験で、ダークマターの信号が検出されれば、

季節変動などの精密測定に向かうことになる。一方で、10-46cm2 以下の領域にはいると、

低エネルギーのpp-太陽ニュートリノが観測されるようになる。これは太陽物理学にとっ ては大きな情報となるが、ダークマター測定にはバックグラウンドになる。そこで、次世 代測定器では、電子と原子核反跳の区別が重要である。また、もう一つの大事な将来の検 出器の方向性は、ダークマターの飛来方向を観測するものである。外国では、大規模な将 来計画の提案は出てきているものの、詳細な検討はまだ行われていない。

将来の計画の策定に関しては、日本が一歩先んじている。10 年前に計画された国内の 実験計画であるXMASS実験は、もともと有効質量10トンの液体キセノン検出器で、ダ ークマターの探索だけでなく、pp-太陽ニュートリノの観測、二重ベータ崩壊検出(136Xe)

によるニュートリノのマヨラナ性の確立と質量の測定など、複合目的を持っている。ダー クマターへの感度は、10-47cm2以下になることが期待され、超対称性理論から予想される ダークマター存在領域へ大きく切り込むことができる。測定器はシンプルにデザインされ ており、ダークマターが液体キセノンと反応するときに発する微弱な蛍光を、検出器内壁

の64%を覆う光電子増倍管を用いて高感度に検出するものである。測定器の外側20∼30cm

は外来放射能(ガンマ線など)に対する自己遮蔽とし、その内側を実際の実験に用いる。

直接探査においては、スピンに依存した反応と、スピンに依存しない反応を分けて検出が 行えることが望ましいが、キセノンでは同位体の分離により、偶核・奇核に分けることが 可能で、反応を分けた測定も可能であるというユニークな特徴がある。現在進行中のフェ ーズI計画は、100kgの有効質量でダークマターに特化したものであり、10-45cm2程度の 反応断面積までを目標に、今後4年間で実験が進められ、本計画であるXMASS実験に移 行する予定である。

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もう一つのアプローチは、ダークマターの飛来方向を測定し、「地球に吹き付けるダー クマターの風」を検出することであり、これにはダークマターによる反跳原子核の方向が 測定できる測定器を作る必要がある。ガス検出器はその候補であり、低圧にする必要があ るため有効質量を大きくできないという欠点があるが、ダークマターとしての確実な証拠 を得ることができるという利点ももつ。世界を見渡しても、ほとんどの検出器はまだ開 発・試作段階である。原子核乾板を用いた装置も計画されているが、低圧のガス検出器、

特にタイム・プロジェクション・チェンバー(TPC)を用いるものが主流になっている。い かにして大型の検出器で分解能良く反跳原子核の方向を計測できるかがポイントである。

日本では、このアプローチとして、三次元微細飛跡検出器「マイクロTPC」を用いた実

験計画NEWAGEがある。すでに、プロトタイプ検出器により中性子を用いた反跳原子核

の飛跡をとらえることに成功しており、将来が期待される。日本のダークマター探査計画 は、技術的にも高く、実験の感度も世界最高レベルに達しており、大型検出器、指向性検 出器という二面からの可能性を持っている。

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表3-5 ダークマター検出計画まとめ

名称 目的 計画概要 代表者、提案・推

進主体

予算規模 進捗状況

XMASS-II

(Xenon neutrino MASS detector II)

ダークマターと物質の反 応の直接検出を行い。ダ ークマターの質量や反応 断面積の測定を行う。

10 トンの液体キセノン測定装置に より、ダークマターが液体キセノン との反応により生ずる蛍光を測定 する。感度は、スピンに依存しない 断面積に対して10-47cm2である。副 次的成果として、pp-太陽ニュート リノの観測が可能になる。

鈴木洋一郎、東京 大 学 宇 宙 線 研 究 所 神 岡 宇 宙 素 粒 子研究施設

90億円 現在、1トンのキ セ ノ ン を 用 い た フ ェ ー ズ I 装 置 で の 研 究 を 進 め ている。この成果 を踏まえ、速やか に フ ェ ー ズ I I に移行する。

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3.7.3 技術開発の課題

ダークマター探索実験は、いかに低バックグラウンドを実現するかという技術にかかっ ている。実験の感度を一桁上げるためには、バックグラウンドも状況に応じて低減してな ければならない。その技術開発は、測定器を作る素材そのものの純化、低バックグラウン ド化から始まって、ガンマ線や中性子等バックグラウンドをひき起こす粒子の低減策まで、

広い範囲にわたる。また、それぞれの検出技術に固有の開発要素もある。

将来に向けた新たな検出技術開発も世界中で活発である。2つの泡箱プロジェクトが進 んでいる。PICASSO は、C4F10を用いた泡箱検出器であり、泡生成時の音波をピエゾ素 子で観測する。スピンに依存した相互作用断面積に対する感度として、次の700kgの装置 で10-37cm2、最終的に 10-39cm2を目標としているが、現在の装置は 2kgであり、まだ大 規模な開発が必要である。COUPP(Chicagoland Observatory for Underground Particle Physics)も同様な測定器で、CF3Iを用いる点が異なる。

3.7.4 国際協力・国際対応

次世代のダークマター実験は、もはや一つの国で行える規模を超えている。国際協力が 必然であり、現在、情報の交換、技術の交換など、基盤的レベルでの国際協力が進められ ており、国際共同実験への道筋ができつつある。

3.8 重力波観測計画