第 4 章 国家レベルで推進すべき特に重要な大型計画
4.4 次世代赤外線天文衛星計画
( SPICA: Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics )
SPICAは我が国が発案・主導し、欧州を中心とする世界の研究者が参加する大型の国際
赤外線天文衛星計画である。日本が独自に磨き上げた技術である宇宙用冷却システム等の 活用により、圧倒的な高感度・高空間分解能の観測を達成することが期待されている。2006 年に打ち上げられた赤外線天文衛星「あかり」の成功に象徴される我が国のスペース赤外 線天文学の成果と実績を踏まえて立案され、宇宙用極低温冷凍機の全面的採用、軽量望遠 鏡、及び太陽-地球系の第 2 ラグランジュ点を周回する軌道を採用する等、極めて高い独 創性と確実な実現性とを併せ持つ計画である。SPICAが実現すれば、宇宙論から太陽系外 の惑星探査まで、幅広い天文学・宇宙物理分野に大きなインパクトを与えると期待され、
我が国のスペースミッションとして重要な計画であると評価する。日欧の国際協力におい ては、得意分野や実績を踏まえた明確な役割分担が適切になされている。SPICAは我が国 の宇宙科学として最も大型の計画の1つであり、学術分野の重要性に加えて、幅広い国民 の支持を得ての実現が望まれる。「あかり」衛星等の従来からの実績も踏まえて、我が国の 責任において、天文学・宇宙物理分野で積極的に推進すべき計画である。
4.4.1 計画の概要
SPICA(図1)は、ビッグバンから生命の発生にまで至る「バリオン物質が描きだす宇宙
構造の形成と進化」を解明することを目指す次世代赤外線天文衛星計画である。ハッブル 宇宙望遠鏡をも上回る口径3m級(現在の案は3.5m)の大型望遠鏡を宇宙に打ち上げ、絶 対温度 6K 以下にまで冷却することにより、今までにない圧倒的な高解像度(大口径のた め)・高感度観測 (大口径+冷却のため) を達成する。2017年の打上げを目指す。
図1: 軌道上で観測するSPICA(予想図)
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図2: 宇宙論的遠方の銀河に対する SPICA の予想検出能力。銀河のエネルギー放射 のピーク(100-200 m)において、2009年に打ち上げられた最新鋭の Herschel に 比べて2桁以上の感度向上が期待され、赤方偏移z=6(現在の宇宙の年齢の約7%
の年齢という若い銀河)の銀河も観測可能となる。参考のために他波長のミッション、
Spitzer、JWST、アルマ、CCATの性能も示す。
4.4.2 期待されるサイエンス
「バリオン物質が描きだす宇宙構造の形成と進化~ビッグバンから生命の誕生まで~」
約137 億年前のビッグバン後における宇宙の歴史の中で、現在の宇宙を構成している多 種多様な天体が誕生、進化してきた。SPICAは特に天体を構成するバリオン物質の輪廻に 着目し、次の3つのサブテーマを通し、バリオンでできた天体の進化過程の解明を目指す。
(1) 銀河誕生のドラマに迫る
我々の宇宙は誕生直後の「単純な宇宙」から、銀河等様々な天体で構成された極めて「複 雑な宇宙」へ進化した。SPICA は宇宙初期の誕生・成長過程にある銀河(スターバー スト銀河)をとらえ、宇宙の「複雑さ」の起源と進化に迫る。特にSPICAは、赤外線 観測の特徴を活かし、星間塵による減光の影響を受けることなく銀河の本質に迫り、か つ熱放射のピークをとらえて全エネルギーを観測できることが大きな特徴である。
(2) 惑星系形成のレシピを探る
SPICAは、図 3に示すような赤外線観測の利点を活かし、太陽系外惑星系を直接に撮
像するのみならず、その大気組成を分光観測で調べることができる。特に、生命と結び 付きの深い「水」「酸素」「二酸化炭素」の存在を探る。地球以外の惑星において、これ らの分子が検出されれば、惑星における生命の発生に関して貴重な情報を得ることがで
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図3: 太陽系天体のスペクトルエネルギー分布。恒星 と惑星とのコントラストの大きさが観測の障害であ るが、SPICAが得意とする赤外線領域は、可視光に 比べてコントラストが1万倍軽減される。さらに、
地球大気の影響を逃れ、生命と結び付きの深い「水」
「酸素」「二酸化炭素」を観測できる。
きる。これは、天体物理学におけ る意義のみならず、我々の宇宙 観・生命観そのものを見直す大き な機会となる文化的な意義も大 きい。
(3) 宇宙における物質の輪廻
宇宙の多様性は、He よりも重い 元素(O, C, N, Siなど、これを天 文学では「重元素」と呼ぶ)によ るところが多い。しかし、その「重 元素」の多くは、固体に取りこま れ、一般には観測が困難である。
SPICAは星・惑星系の形成の現
場、さらに恒星末期段階におい て、ガス相と固体相の両者を総 合的に観測できる。これにより、
宇宙における物質の輪廻を総合 的に明らかにする。
4.2.3 技術的ブレークスルー(SPICAミッションの特徴)
前述の科学的目的を達成するためには、以下の3つの点がミッションに要求される。
(1) 銀河の熱放射のピークを観測するために、波長5-210μmの中間・遠赤外線領域を連続 的にカバーする。このためには、地球大気の影響を逃れ、宇宙からの観測が必須である。
(2) 遠赤外線宇宙背景放射を個別天体に分解できる大口径望遠鏡(3m級)を搭載する。
(3) 高感度の赤外線観測を可能とするため、搭載望遠鏡を極低温(6K 以下)に冷却し、望 遠鏡からの熱放射を抑える。このためにも宇宙からの観測が絶対条件となる。
上記のミッション要求を満たすための SPICAの仕様を表1に示す。
SPICA は、液体ヘリウムを搭載せ
ずに常温で望遠鏡を打ち上げて上空で 望遠鏡を冷却(放射冷却+冷凍機)す る画期的な冷却システムを採用する
(図4)。これは日本が戦略的に開発し
てきた宇宙用冷凍機の実現により可能 となった。このシステムにより、従来 よりも格段に大型の望遠鏡の搭載が可
特徴 中間-遠赤外線波長域での、超高感度、
高空間分解能観測
望遠鏡 口径:3.5m、温度6K以下(観測時)
観測波長 コア波長域:5-210 μm 総重量 約3.6 t
軌道 太陽-地球系L2周りのハロー軌道 打上げ 2017年(予定)
表1: SPICAの仕様
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図4:冷却方式の革命。旧デザイン(左図)に比べて、
寒剤を用いないSPICA方式(新デザイン、右図)では、
はるかに大口径の望遠鏡の搭載が可能となる。
能となると同時に、ミッ ションの長寿命化を図 ることができる。
SPICA は、特に中間-遠赤外線領域での高い 感度を持つ。21 世紀初 頭には、JWST(NASA、
2014 年打上げ予定、主 に近赤外線)、Herschel
(ESA、2009年打上げ、
主にサブミリ波)という 大型の赤外線-サブミリ波 ミッションが実現される。
これらと比べも、SPICA は冷却望遠鏡を搭載する
ため、中間-遠赤外線領域においては圧倒的(100倍以上)に優れた感度を持つ(図2)。
4.2.4 スケジュール、予算規模
SPICAは200名を超える研究者が参加するワーキンググループにより、ミッションの位
置付け、ミッション構成の検討、さらに必要となる技術開発について、約10年にわたり戦 略的に取り組んできた。2005年に光赤外線天文学研究者コミュニティーがまとめた将来計 画「2010年代の光赤外線天文学」の中でも、「次世代スペースミッションとしてはSPICA 計画を最重点計画」としている。これらを受け、2007年9月にJAXA宇宙科学研究本部に ミッション提案が行われた。審査の結果、2008 年 7 月に「プリ・プロジェクト」(概念設 計、計画決定フェーズの承認)としてJAXA内にチームが正式に設置された。今後は2011 年度に「プロジェクト化」(計画全体の承認)を行い、2017 年の打上げを目指している。
SPICA衛星を製作する日本側の予算は約320億円程度である。
4.2.5 国際協力
SPICA は世界的にユニークなミッションであり、世界の関連研究者から注目されている。
特にヨーロッパでは科学衛星の長期計画ESA Cosmic Vision 2015-2025 において、SPICA にヨーロッパが参加するプロポーザルが、高い競争率を勝ち抜いてAssessment Phase に 進む計画の1つとして採択された。これを受けて ESA が主導する望遠鏡等の検討と、10 カ国以上が参加するSAFARI (SPICA Far-Infrared Instrument) コンソーシアムによる遠 赤外線焦点面観測機器の検討・開発が進んでいる。
また韓国および米国との国際協力についても協議中である。
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