第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画
3.2 日本における長期計画の基盤と方向性
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1960年代から始まった無人探査機による太陽系探査が、目覚ましい進展を見せている。
地球周回軌道から月、太陽系諸惑星にまで、高性能カメラをはじめさまざまな計測装置を 送り込んで、詳細な「その場」観測ができるようになった。とりわけ地上からの観測では どんな望遠鏡でも不可能だった惑星や衛星の詳しい地形、地殻の組成と活動、大気と気象、
重力や磁場、過去の歴史に至るまでの理解が得られつつあることは画期的で、惑星・衛星 を含めて高温から極低温にいたるさまざまな太陽系環境において、地球とは似て非なる火 山や地殻の活動が展開されていることが把握された。それらとの比較において地球そのも のの理解も飛躍的に進み、比較惑星学という新しい分野の中で地球が位置づけられつつあ ることは、特筆すべきである。
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る地球近傍・惑星・太陽系諸天体の探査・研究、そのための開発と打ち上げなど、スペー スにおけるサイエンスの共同利用運用全般を担っている。
◆東京大学宇宙線研究所(東京大学付置全国共同利用研究所)
大学所属の全国共同利用研究所として、宇宙から到来する高エネルギー粒子や重力波の 検出のための開発と観測、それらを用いた物理学的研究の中心となり、大学附置ではあ るが分野コミュニティーの中核としての役割を果たしている。
わが国の天文学・宇宙物理学の大型計画は、上記3つの機関が中核となり、分野コミュニ ティーの意向を尊重しつつ相互に密接に協力し、また全国の大学の多くの研究者や関連研 究機関と協力して進められる。3機関の役割を中心に、今後の長期的計画の遂行の枠組み を以下にまとめる。
3.2.2 地上からの電磁波観測分野
地上からの電磁波観測は、長い歴史のある可視光観測に1980年代から波長がやや短い近 赤外線観測が加わった光赤外線天文学が、一つの柱である。日本ではすばる望遠鏡(2000 年完成)で、世界の第一線に立った。また20世紀半ばにスタートし、日本では野辺山宇宙 電波観測所(1982年完成)を中心に波長が短いミリ波や超長基線電波干渉計VLBIで大き く発展し世界水準の活動を進めている電波天文学が、もう一つの柱である。それに加えて、
対象を太陽に限った太陽物理学があり、これも日本では長い歴史と新たな発展がある。
(1) 地上からの宇宙観測: 観測サイトと国際共同、技術開発
地上設置の望遠鏡の宿命として、大気の影響は避けられない。その影響の軽減には観測 装置のサイトが重要で、適地は国内に限らない。特にハワイ(マウナケア、ハレヤカラ山 頂)、カナリー諸島、チリ高地が宇宙観測の三大最適地とされるが、観測波長によっては中 国・インド奥地、オーストラリア西海岸、南アフリカなども比較的良好なサイトであり、
近赤外線やサブミリ波では南極高地が地上最後の好サイトと考えられている。今後の高度 な観測装置計画では、国外好適サイトの選択は必須である。だが研究者や技術開発の利便 性、学生・院生教育への活用の観点からは、国内設置の観測装置も依然として重要である。
野辺山やヨーロッパのIRAM などミリ波望遠鏡の次世代として世界共同のアルマが建設 され、すばる望遠鏡やアメリカのKeck望遠鏡など8-10m望遠鏡の次に30mクラスの望遠 鏡(TMTなど)が検討されているように、宇宙観測の中心である望遠鏡の大型化は、宇宙 の理解の推進に今後も欠かせない。巨大化する建設や観測運用の経費を国際共同で担い、
得られる科学的成果を世界で最大限に活用してゆくことが、今後の大型計画では必要であ る。
その一方、大型望遠鏡の観測には焦点に取り付けて電磁波を取り込み分析する多くの付 属設備が必要で、その常なる開発と更新は極めて重要である。電波観測のイメージ撮像(電 波カメラ)、テラヘルツ帯など新波長域の観測装置開発、光赤外線分野のマルチレーザ星AO
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など補償光学装置の展開、超広視野分光器や太陽系外惑星観測の高感度化など、望遠鏡本 体に取り付けて新しいブレークスルーや発見をもたらすチャレンジングな装置開発の計画 は、数多い。我が国の天文学の発展のためには、こうした付属観測装置の不断の開発研究 が不可欠である。
地上からの観測で最大の問題は大気による像の揺らぎや吸収である。その点で最高のサ イトは大気圏外、すなわち宇宙空間(スペース)であり、可視光・近赤外線のハッブル望遠 鏡の成功が示すように、地上で観測可能な波長においても大気揺らぎのないスペースから の観測の魅力は大きい。しかしながら可視光、赤外線、電波分野の地上観測のメリットは、
スペースからの観測に対して以下に列挙するように非常に大きい。
① 巨大な望遠鏡や長基線の干渉計の建設が可能(集光力・空間分解能の確保)
② 重量当たりの建設単価が格段に小さい
③ 望遠鏡の運用期間が20年~30年以上と、長くとれる
④ 望遠鏡本体、及び、観測装置の取り替え・修理が常時可能である
⑤ 最先端技術の導入が可能である(スペースでは時間をかけて確立した技術に限定)
地上観測では世界的にも多くの長期的大型計画が練られており、その基本的重要性が揺 らぐことは当面ないが、スペースへの進出とその技術が高まるにつれ、光赤外、電波、太 陽物理分野でのさらなるスペースからの観測の検討が大いに進むと予想される。宇宙の理 解の前進のために地上・スペースそれぞれのメリットを活かし、相補的に活用して、天文学・
宇宙物理学分野の長期的な発展を展望することが大切である。
(2) 大学共同利用機関: 国立天文台とその役割
現代天文学においては遠方の天体や微かな光を観測するために望遠鏡の大型化が進み、
最先端の観測装置の建設や運営は、ビッグサイエンスと位置づけられるようになった。大 型望遠鏡やその共同利用は一大学での建設・維持・運営は困難で、1988年に東京大学東京 天文台、名古屋大学空電研究所の一部、および水沢緯度観測所の合併により、大学共同利 用機関・国立天文台が、わが国の天文学の中枢的研究機関として設立された。国立天文台 はその後、すばる望遠鏡やVERA など大型の観測装置の建設に成功し、大学などの研究者 の共同利用・共同運営による世界トップクラスの成果により第一線の国際的研究機関とし て高い評価を得ている。現在共同利用中の大型観測装置は、設立以前から本格的共同利用 を行っていた野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡をはじめ、すばる望遠鏡(ハワイ観 測所)、VERA望遠鏡(水沢VERA観測所)、電波ヘリオグラフ(野辺山太陽電波観測所)、
188cm 光赤外線望遠鏡(岡山天体物理観測所)などがあり、新たな大型観測装置として国
際共同のアルマ望遠鏡を南米チリで建設中である。これら大型観測装置の多くはそれぞれ の分野においてトップレベルであり、我が国の観測天文学は世界の最高水準にあるといえ る。国立天文台は、日本独自のシステムである大学共同利用機関として、その機能と責務 を確実に果たしてきたと言える。
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国立天文台の観測装置は当初は国内を中心に展開されたが、1999年度に完成したハワイ 島マウナケア山頂の8.2mすばる望遠鏡は、わが国初の国外設置の大型学術施設として海外 適地での観測活動に先鞭をつけた。チリのアルマ望遠鏡では日・米・欧の 3 極合同建設と いう高レベルの共同建設を進め、技術面を含めて国際的にリードをしている。運営も 3 者 が合同で進める予定である。30m大型光学赤外線望遠鏡計画(TMT後述)や次世代電波望 遠鏡(SKA後述)など今後の長期構想においても、海外適地での国際共同建設が予想され ている。
(3) 大学の役割
科学における大学の大きな役割は、最先端の研究の推進とその成果に基づいた教育、人 材育成である。天文学・宇宙物理学分野では、観測および理論の両分野において国際的に高 い研究成果を達成していることをなどから、大学で天文学を志望研究する学部学生や大学 院生、若手研究者が増え、天文学の教育・研究指導の要望も増加している。このような動 きを受け、いくつかの大学では特色ある研究や教育を目的として自前の望遠鏡の建設を進 め、実現してきた。その多くは中小望遠鏡だが、それらが果たす役割は以下のように、大 きなものがある。
① 自前の望遠鏡を持つことで観測実習・装置開発など教育的効果が飛躍的に高まる。
② 小さくとも特定の目的に集中した観測が可能で、掃天観測などによる研究に威力。
③ 自前の望遠鏡なので、変光星観測、系外惑星探査など長時間の継続的観測が可能。
④ ガンマ線バースト、超新星など突発天体現象の機敏な観測協力に対応できる。
⑤ 大学独自のユニークな技術開発が可能。
光赤外線分野では、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、広島大学、鹿児 島大学、北海道大学などが自前の望遠鏡を観測運用しており、京都大学は国立天文台と協 力して3.8m新技術望遠鏡を建設している。電波分野では、光ファイバー網を活用して北海 道大学、茨城大学、つくば大学、岐阜大学、山口大学、鹿児島大学で大学間連携研究(後 述)を含めた教育研究活動を推進中であり、日本全国・東アジアを結ぶ VLBI ネットワー ク(後述)に発展している。他大学の研究者や学生にも様々な形態で観測時間を提供する など、大学間共同が進んでいる。また観測による研究・教育だけでなく、観測装置の開発を 大学で推進することは日本の天文学の発展のために極めて重要で、すばる望遠鏡の観測装 置やアルマの受信機開発では東北大学、茨城大学、東京大学、京都大学、大阪府立大学な どが、優れた共同開発の成果を残している。
また、大学も海外の適地に望遠鏡を設置し、優れた観測成果をあげている。東京大学、
名古屋大学では、科研費など様々な経費を活用してチリ、ハワイ、南アフリカ、ニュージ ーランド等で望遠鏡を運用してきた。今後は海外の観測拠点を活用する計画がさらに広が ると期待されるとともに、筑波大学や東北大学は南極高地をサイトとする計画を検討中で ある。