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第 5 章 語彙的複合動詞「 v かける」の再分析 ― 語彙概念構造の観点から ―

6.3 観察

6.3.3 観察結果

6.3.3.2 WEB 検索の結果

WEB検索において確認された「Vカケタ」93の前項動詞をその頻度数の観点から、工藤

(1995)の動詞の種類別にまとめると、表6-2-1、表6-2-2のようになる。表6-2-1はアスペクト

的な対立の有無によって分類された「(A)外的運動動詞」、「(B)内的情態動詞」、「(C)静態動 詞」のそれぞれが「-カケタ」に前接した頻度を示したものである。一方、表6-2-2は、動 詞の内的時間構造における「限界性」の有無によって分類された「内的限界動詞」あるい は「非内的限界動詞」が「-カケタ」に前接した頻度を示したものである。まず、以下の 表6-2-1を見られたい。

表6-2-1「Vカケタ」の前項動詞の種類別出現頻度数

動詞種類 共起実態

A外的運動動詞 B内的情態動詞 C静態動詞 A・1 A・2 A・3 B・1 B・2 B・3 B・4 C 出現頻度数 754 1652 557 164 266 28 6 0 前項動詞の数94 121 142 129 10 38 9 16 24 平均出現頻度数95 6.2 11.6 4.3 16.4 7 3.1 0.38 0

出現頻度総数96 2963 464 0

平均出現頻度数97 7.6 6.3 0

表6-2-1によれば、「Vカケタ」の前項動詞として出現した「(A)外的運動動詞」、「(B)内的

情態動詞」、「(C)静態動詞」の件数はそれぞれ2963件、464件、0件であった。また、各動詞 の種類別の動詞一つあたりの「-カケタ」に前接した平均頻度数は、「(A)外的運動動詞」が

93 WEB検索は「Vかけました」を条件にして検索を行った。この節から「Vかけました」「か

けました」は「Vカケタ」、「カケタ」と略記する。

94 工藤(1995:73-78)の動詞リストに挙げられた各グループの動詞の数を示す。以下同様。

95 各動詞種類の「出現頻度数」を工藤(1995:73-78)のリストに上がった動詞の数で割った数。

96 前項動詞が「(A)外的運動」、「(B)内的情態」、「(C)静態動詞」を取る時の「Vカケタ」(「Vか けました」)の総数を示す。

97 当該動詞グループの一つの動詞が「-カケタ」に前接した平均の頻度数のこと。以下同様。

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7.6件、「(B)内的情態動詞」が6.3件であった。以上のことから、「-カケタ」に前接しやすい

のは、まず、「(A)外的運動動詞」であると言える。この結果は「BCCWJ2009 モニター版」

データベース(以下、データベースと略記)における検索結果とほぼ一致するものである。

しかし、WEBの検索結果は、データベースの検索結果とは異なり、「(B)内的情態動詞」が

「(A)外的運動動詞」と同程度に「-カケタ」に前接することが確認された。一方、「(C)静 態動詞」については、WEB検索の結果とデータベースで検索した結果の間に違いはなく、「-

カケタ」に前接したものはまったくなかった。以下、「-カケタ」との共起のあり方を前接 した動詞の種類別に見ていく。

まず、「(A)外的運動動詞」から見る。工藤(1995)によれば、「(A)外的運動動詞」はさらに

「(A・1)主体動作・客体変化動詞」、「(A・2)主体変化動詞」、「(A・3)主体動作動詞」に分け られるが、それらが「-カケタ」に前接した頻度数はそれぞれ、754件、1652件、557件で あった。また、各種類の動詞が「-カケタ」に前接した平均頻度数は6.2件、11.6件、4.3件 であった。したがって、「-カケタ」に前接しやすいのは「 (A・2)主体変化動詞」、「(A・1) 主体動作・客体変化動詞」、「(A・3)主体動作動詞」という順になる。このことはデータベー スで検索した結果と一致する。

また、「(B)内的情態動詞」と「-カケタ」の関係を見ると、「-カケタ」に前接した頻度 数が最も高かったのは「 (B・2)感情動詞」で266件だった。その次は「(B・1)思考動詞」で 164件であったが、前接した平均頻度数は「(B・1)思考動詞」が16.4件、「(B・2)感情動詞」

が7件であり、感情動詞より思考動詞のほうが「-カケタ」に前接しやすいことが分かる。

「(B・1)思考動詞」の平均出現頻度16.4件は同じ「内的情態動詞」に属す「(B・2)感情動詞」

のみならず、「-カケタ」に前接しやすい「(A・2)主体変化動詞」の平均出現頻度よりも高 い数値であるが、これは、まず、工藤(1995)において「(B・1)思考動詞」に割り当てられた 動詞の数がそもそも少ないということ、また、後述の表6-3が示すように、同類にはとりわ け「-カケタ」に前接しやすい動詞、「分かる」と「思う」が属していることに因る。「-

カケタ」に前接する動詞の傾向を正確に捉えるためには、後述するように、「-カケタ」に 前接した個々の動詞のヒット数を明らかにする必要がある。

次に、表6-2-2に示された前項動詞の「限界性」の有無と「-カケタ」との共起関係につ

いて見る。

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表6-2-2「Vカケタ」の前項動詞の「限界性」の有無による頻度数 動詞種類

共起実態

内的限界動詞 非内的限界動詞

A・1 A・2 A・3 B・1 B・2 B・3 B・4 C 出現頻度数 754 1652 557 164 266 28 6 0 前項動詞の数 121 142 129 10 38 9 16 24 平均出現頻度数 6.2 11.6 4.3 16.4 7 3.1 0.38 0

出現頻度総数 2406 1021

平均出現頻度数 9.1 4.5

表6-2-2から分かるように、内的限界性の有無という観点から見ると、「Vカケタ」の前項

動詞が「内的限界動詞」の場合の出現頻度総数は2406件、ひとつの動詞ごとの平均出現頻 度数は9.1件である。一方、「Vカケタ」の前項動詞が「非内的限界動詞」の場合の出現頻度 総数は1021件、また、ひとつの動詞ごとの平均出現頻度数は4.5件であった。この結果は、

データベースに基づいて観察した結果と同じであり、「Vカケタ」には「内的限界動詞」が 前接しやすいということを明示するものである。

以上、「Vカケタ」に出現する前項動詞を工藤(1995)の2種類の動詞の種類別に観察した。

その結果、工藤(1995)のアスペクト対立に基づく動詞分類、すなわち、「(A)外的運動動詞」、

「(B)内的情態動詞」、「(C)静態動詞」という観点から見ると、「Vカケタ」の前項動詞として は、「(C)静態動詞」は出現しないが、「(A)外的運動動詞」と「(B)内的情態動詞」の平均出 現頻度を見てみると、7.6件、6.3件であり、大きな差は見られず、ほぼ同程度の頻度で出現 するということになった。一方、工藤(1995)の「内的限界動詞」と「非内的限界動詞」とい う動詞分類の観点からは、その「平均出現頻度」はそれぞれ9.1件、4.5件であり、「-カケ タ」に前接した「内的限界動詞」の頻度は「非内的限界動詞」の2倍強になる。このことか ら、「Vカケタ」の前項動詞としては「内的限界動詞」の方が「非内的限界動詞」より明ら かに出現しやすいということになる。以上の結果を踏まえ、以下では、具体的にどのよう な動詞が「Vカケタ」の前項動詞として出現しやすいのかを示す。なお、工藤(1995)の動詞 リストにあがっているすべての動詞のヒット数を掲載することは難しいので、ここでは、「V カケタ」に出現した頻度数が10件以上の動詞60語だけを対象にし、それらを出現頻度の高 い順に並べた。その結果は表6-3のようになる。

表6-3「Vカケタ」に前接した上位60語の内訳

順位 動詞 例数 種類 内的限界動詞 非内的限界動詞

1 死ぬ 163 (A・2) ○ ×

2 泣く 140 (A・3) × ○

3 倒れる 128 (A・2) ○ ×

142

4 落とす 114 (A・1) ○ ×

5 落ちる 101 (A・2) ○ ×

6 諦める 100 (B・2) × ○

7 壊れる 94 (A・2) ○ ×

8 迷う 92 (B・2) × ○

9 壊す 87 (A・1) ○ ×

10 外れる 77 (A・2) ○ ×

11 飛ぶ 75 (A・3) × ○

12 崩す 71 (A・1) ○ ×

13 寝る 69 (A・2) ○ ×

13 買う 69 (A・1) ○ ×

15 切れる 64 (A・2) ○ ×

16 消える 62 (A・2) ○ ×

17 分かる 58 (B・1) × ○

18 潰れる 55 (A・2) ○ ×

19 枯れる 54 (A・2) ○ ×

19 出す 53 (A・1) ○ ×

21 行く 53 (A・2) ○ ×

22 酔う 52 (A・2) ○ ×

23 作る 51 (A・1) ○ ×

24 崩れる 47 (A・2) ○ ×

25 信じる 43 (B・1) × ○

26 入る 42 (A・2) ○ ×

27 思う 40 (B・1) × ×

28 固まる 39 (A・2) ○ ×

29 溶ける 38 (A・2) ○ ×

30 言う 37 (A・3) × ○

30 抜ける 35 (A・2) ○ ×

30 書く 35 (A・3) × ○

30 滑る 35 (A・3) × ○

34 後悔する 35 (B・2) ○ ×

34 潰す 29 (A・1) ○ ×

34 帰る 29 (A・2) ○ ×

37 戻る 29 (A・2) ○ ×

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38 叫ぶ 28 (A・3) × ○

39 できる 27 (A・2) ○ ×

40 掴む 25 (A・2) ○ ×

41 見える 24 (B・3) × ○

42 切る 23 (A・1) ○ ×

42 取れる 22 (A・2) ○ ×

44 食べる 22 (A・3) × ○

44 編む 21 (A・1) ○ ×

44 消す 21 (A・1) ○ ×

47 並ぶ 21 (A・2) ○ ×

48 入れる 20 (A・1) ○ ×

48 読む 19 (A・3) × ○

50 走る 19 (A・3) × ○

50 千切れる 18 (A・2) ○ ×

52 上がる 18 (A・2) ○ ×

52 外す 17 (A・1) ○ ×

52 腐る 17 (A・2) ○ ×

52 入院する 17 (A・2) ○ ×

56 下がる 17 (A・2) ○ ×

56 動く 16 (A・3) × ○

58 埋まる 16 (A・2) ○ ×

58 立つ 15 (A・2) ○ ×

60 倒す 15 (A・1) ○ ×

表6-3に基づき、各グループの動詞が「-カケタ」に前接した状況をまとめると、表6-4に なる。

表6-4「限界性」の有無から見た「-カケタ」に前接した上位60語の内訳

動詞類 内的限界動詞 非内的限界動詞

(A・1) (A・2) (A・3) (B・1) (B・2) (B・3)

語数 13(21.7%)98 30(50%) 10(16.7%) 3(5%) 3(5%) 1(1.7%)

語数 43(71.7%) 17(28.3%)

98 括弧内のパーセンテージは、当該動詞グループの動詞数が上位60語の内に占める割合を示す。

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表6-4によれば、「-カケタ」に前接した動詞の上位60語の分布をみると、「(A・2)主体変 化動詞」が30語でもっとも多く全体の50%を占める。また、次に頻度が高いのは、表6-2で 観察された結果と同じく「(A・1)主体動作・客体変化動詞」であり、「(A・3)主体動作動詞」

がそれに続く。

一方、「-カケタ」に前接した出現頻度上位60語を「限界性」の有無という観点から見る と、表6-4が示すように、「内的限界動詞」が43語で上位60語全体の71.7%、「非内的限界動詞」

は17語で全体の28.3%であった。この結果は先に見た表6-2-2の結果に矛盾しない。すなわち、

「-カケタ」に前接されやすい動詞は「(A)外的運動動詞」の中でも、特に、「内的限界性」

を有するものであるということである。

6.3.3.3Vカケタ」に前接する動詞の出現傾向のまとめ

6.3.3.1および6.3.3.2 の結果によれば、「-カケタ」に前接する動詞には同じ傾向があるこ

とが分かる。すなわち、「-カケタ」に前接する動詞は、まず、「限界性」のある動詞であ り、当該動詞に「限界性」がない場合は、「(A)外的運動動詞」、「(B)内的情態動詞」の順で

「-カケタ」と結びつきやすく、「(C)静態動詞」が「-カケタ」に前接することはないとい うことである。

以上のことを工藤(1995)のアスペクト対立の有無に基づく動詞分類に即して解釈するな らば、次のようになる。まず、「スル-シテイル」のアスペクト対立がもっとも明示的に示 される「(A)外的運動動詞」を「Vカケタ」に前接されやすい順に並べると、「(A・2)主体変 化動詞」、「(A・1)主体動作・客体変化動詞」と「(A・3)主体動作動詞」となる。また、「ス ル-シテイル」の対立はあるが、その指示対象が人の内的事態となる「(B)内的情態動詞」

については、全体的には「(A)外的運動動詞」に比べると「-カケタ」に前接する頻度は低 いが、「分かる」、「思う」のように、特に、「-カケタ」に前接しやすいいくつかの動詞が あった点は看過すべきではないだろう。以下では、前項動詞の種類別に「Vかける」(Vカケ タ)のアスペクト的意味について考察していく。