第 4 章 複合動詞「動詞連用形 + かける」の意味特徴とその統語構造-本動詞「かける」と
4.5 複合動詞「動詞連用形+かける」の意味用法
4.5.2 複合動詞後項としての「-かける」の意味用法
4.5.2.2 統語的複合動詞「V かける」の意味特徴
本節では、「始動」を表す統語的複合動詞「Vかける」の意味用法が、特に、本動詞「か ける」の表す意味特徴のうちのどれと関係するのかを明らかにしたい。以下では、まず、
これまで「始動」の「Vかける」の意味特徴がどのように扱われてきたかを簡単に見た後、
「始動」の「Vかける」の意味特徴と本動詞「かける」の意味特徴との関係を探っていく。
4.5.2.2.1「始動」の「Vかける」の意味特徴に関する先行研究
佐久間(1966:165,173)によれば、「始-中-終」の三つの相は「始動、継続、完結」であ
り、それぞれ次のような形式によって示されるが、「Vかける」はそのうちの「始動」のグ ループに位置づけられている。
始動:~だす、~始める、~かける(着手して進行中または一時中止) 継続:ている
完結:てしまう
一方、寺村(1984)は、動詞の未然形「スル」と既然形「シタ」を一次的アスペクト、「~
ている、~てある」のような動詞「て」の形に補助動詞の付いた形で表される日本語のア スペクト形式を二次的アスペクト、また、「~かける」「~つづける」「~おわる」のように、
動詞の連用形が他の動詞と結びついてアスペクトを表す複合動詞を三次的アスペクトと呼 んだ。そのうち、「Vかける」は「開始」を表す時間的相として「Vはじめる」、「Vだす」
と同じように位置づけられている。そして、「Vかける」の意味特徴について、「事象の開始 を表すが、始まって、まもなくそれが中止された場合に使われる」(ibid.:176)としている。
本研究は、佐久間に倣い、統語的複合動詞「Vかける」を「始動」に位置づけることにす る。ただし、佐久間(1966)では、「太郎が死にかけた」のように動作・作用が実現する寸前
56 語彙的複語動詞「vかける」の統語的振る舞いの、特に、本動詞のそれとの比較対照は、本章 の4.5.2.3節でまとめる。
89 に達するという用法については言及がない。
一方、金田一(1976:51-52)は、アスペクト的意味の「Vかける」を、「動作が始まって、
途中まで行われたこと」を示す「始動態」、「動作・作用が実現する寸前に達した」ことを 示す「将現態」に分け、「かける」の前項動詞が瞬間動詞を取ると「将現態」、前項動詞が 継続動詞を取ると「始動態」を表すとしている。
それに対し、姫野(1979:136)は、「継続動詞+かける」は「その動作の持続部分の始まり に目をつけると始動態になり、前の状態からその動作に入るという変化の瞬間性が強調さ れると将現態になる」、「ほとんどの「継続動詞+かける」は、本来的にこの二つの態をあ わせもっている」とし、瞬間動詞に「Vかける」が付くときには将現態を表す場合が多いと 述べている。
上記の先行研究をもとにアスペクト的意味を表す「Vかける」を整理すると、表4-3のよ うになる。
表4-3先行研究による「Vかける」のアスペクト的意味 アスペクト的意味
前項動詞
Vかける
継続動詞 始動態/将現態
瞬間動詞 将現態
さらに、呂(2009)は、アスペクト的意味を表す「V かける」の意味特徴について、「始動 態」、「将現態」に限らず、「Vかける」は当該事態が完遂されず、途中で「中断」されるこ とを表す、という「Vかける」の統一的な解釈を提示した。
以上のように、「始動」を表す「Vかける」の意味特徴に関してはいくつかの立場がある が、この点に関しては第6章で詳述することにし、ここでは取りあえず「始動」の「Vかけ る」は、呂(2009)で提示されたように、「当該事態が完遂されず途中で中断する」ことを表 すとした上で、「始動」の「Vかける」の意味特徴と本動詞「かける」のそれとの関係を考 察していく。
4.5.2.2.2「Vかける」の意味特徴と本動詞「かける」の意味特徴
本項では始動の意味を表す「Vかける」が本動詞「かける」とどのように関係するかにつ いて検討する。まず、以下の例を参照されたい。
4-41 太郎は交通事故で、死にかけた。(筆者作例)
4-42 太郎はレポートを書きかけたが、途中で止めてしまった。(同上)
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4-41 の「V かける」は「死ぬ」の実現直前までは行ったが、結局、その「死ぬ」という 事態は実現されなかったことを表す「V かける」の「将現態」の用法である。また、4-42 の「Vかける」は「レポートを書く」という事態は開始されたものの、結局、その完遂、す なわち、レポートを書きあげるまでには至らず途中で「中断」されたことを表す「Vかける」
の「始動態」の用法である。
先述したように、呂(2009)は、それまで「将現態」、「始動態」に二分されていた「Vかけ る」の意味用法を当該事態の「中断」という観点から統一的に説明した。つまり、4-41 の
「将現態」の用法では当該事態の「未成立」に焦点が当たるが、これは当該事態の「開始」
そのものが「中断」されるということに等しく、一方、4-42 の「始動態」の用法では一旦 開始された当該事態が完遂されることなく、途中で「中断」されることが表されるという ことである。このように、呂(2009)に従い、「V かける」の意味特徴を当該事態の「中断」
とするとき、それと直接関係する本動詞「かける」の意味特徴は先に挙げた「かける 1」、
「かける2」、「かける3」のうちのどれになるのであろうか。本研究は「Vかける」と関係 する本動詞「かける」の意味特徴は「かける1」であると考える。
先にも見たように、本動詞「かける1」の意味特徴は、<動作主が><対象物を><目標 物に><接触させ><対象物の重さを><目標物の一点に><預けることによって><目 標物に留め><その対象物を><そこから><ぶら下げる>ということであった。この「か ける1」の意味特徴のうち、特に<対象物を><目標物に><接触させ><対象物の重さを
><目標物の一点に><留めて><その対象物を><そこから><ぶら下げる>という意 味特徴は当該対象物と目標物の「接触」のあり方が非常に「不安定」であることを示唆す るものである。一方、前述した「始動」の「Vかける」が表す当該事態の「中断」という意 味特徴は、当該事態が完全に遂行されないこと、当該事態の遂行の「不完全性」とも言え るものである。本研究が「Vかける」と直接関係する本動詞の意味特徴を「かける1」と考 えるのは、「Vかける」が表す当該事態の「中断=不完全性」は本動詞の基本的意味「かけ る 1」の「対象物の目標物に対する<不安定(不完全)>な接触」ということと認念(認知)的 に密接な関係があると思われるからである。以上のことから、本研究は「Vかける」の意味 特徴は本動詞「かける1」の拡張と考えたい。
次に、「Vかける」の意味特徴と本動詞「かける」の意味特徴を統語的観点から見てみる。
4-41の「死にかける」には本動詞「かける1」の格体制に見られた「ヲ格」と「ニ格」が出 現していない。4-42 の例は「レポートを書きかけたが」のように「ヲ格」が出現している が、以下の4-43bに明らかなように、その「ヲ格」は前項動詞「書く」が要求したものであ る。つまり、このことは「Vかける」における格体制が本動詞「かける」のそれに支配され たものではないことを示したものであり、それは、結局、「V かける」が影山(1993)の統語 テストにより統語的複合動詞と分類されたことと同調するものである。
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4-43 a.太郎はレポートを書いたが、途中で止めてしまった。(筆者作例)
b. *太郎はレポートをかけたが、途中で止めてしまった。(同上)
以上のことから、「Vかける」における本動詞「かける1」の「拡張」とは、本動詞「か
ける1」の抽象レベルでの概念的拡張、すなわち、本動詞「かける1」の意味特徴、当該対
象物と目標物の「接触」のあり方が非常に「不安定」であることのみを引き継いだものと 言うことができる。