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語彙的複合動詞「v かける」の意味特徴

第 4 章 複合動詞「動詞連用形 + かける」の意味特徴とその統語構造-本動詞「かける」と

4.5 複合動詞「動詞連用形+かける」の意味用法

4.5.2 複合動詞後項としての「-かける」の意味用法

4.5.2.1 語彙的複合動詞「v かける」の意味特徴

4.2で見たように、姫野(1999)は語彙的複合動詞の「vかける」を主体と対象とのかかわり 方によって、「依拠接触」「志向接触」「心理的志向」「志向移動」「把捉」に分けてい る。本研究もそれに倣い「vかける」は「vかける1」「vかける2」「vかける3」、また、

「vかける1」は「vかける 1-1」「vかける 1-1-1」に分けた上で、各用法の意味特徴と本

動詞「かける」の意味特徴の関係を述べていく。

4.5.2.1.1「vかける1」の意味特徴と本動詞「かける」の意味特徴

本項では、まず「vかける1」の意味特徴を検討し、その後、それを本動詞「かける」の 意味と対照してみる。以下の例を参照されたい。

4-24 太郎が屋根に梯子を立てかける。(筆者作例)

4-25 太郎が板に壁をもたせかける。(同上)

4-24、4-25の「vかける」は、動作主が対象物「梯子」、「板」を目標物である「屋根」「壁」

に預けることにより、その空間的な位置を固定するということを表している。このことを 図式で表すと、図4-2のようになる。

目標物 動作主

α 対象物

β 地面 図4-2

このグループの「v かける」は姫野(1999:129)の「依拠接触」に相当する。姫野(1999:

129-130)では、このグループの意味特徴について、「前項動詞の意味特徴によって、重さの

預け方や、位置固定の様相が異なってくる。いずれの場合も、ふつうは上方の一端が支え に接する形となる」とされている。しかしながら、図4-2を見ると、確かに、対象物は目標 物を支えにそれに接するような形で接触しているが、その接触点に注目すると、それには 対象物の上部一端(α点)と下部一端(β点)の二点あることが分かる。言い換えれば、屋根と地 面という二つの接触点があるということになる。

一方、先述したように、本動詞「かける2」は<動作主が><対象物を><目標物に><

接触させて><対象物の重さを><目標物の両端に><またぐような形で><預けること

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によって><固定させる>という意味を表す。その意味特徴のうち、<対象物の重さを>

<目標物の両端に><またぐような形で><預けることによって><固定させる>という 項目は、対象物が二つの接触点によって固定されるという複合動詞「vかける1」の意味特 徴と共通するものである。つまり、本動詞「かける2」の<両端>を対象物が接触する二つ の接触点として解釈するならば、複合動詞「vかける 1」は本動詞「かける 2」から拡張さ れたものと考えられるということである。ただし、本動詞「かける2」の二つの接触点が基 本的にいずれも同一の目標物にあるのに対し、複合動詞「vかける1」における二つの接触 点は目標物と地面という異なる二つの領域にある。したがって、同じ「二つの接触点」と は呼ばれるが、その意味するところの違いには注意すべきである。

この意味的拡張のあり方は、その統語的振舞いにも反映される。

本動詞「かける」は前述したように、「Aは(が)BにCをかける」という格体制を取るが、

4-24、4-25に明らかなように、「vかける1」の格体制も「A'がB'にC'をvかける」となる。

つまり、「v かける 1」では、本動詞「かける」の格体制がそのまま残っているということ である。このことは、語彙的複合動詞「vかける1」の中核動詞が後項動詞「-かける」に あることを示すものである。すなわち、「v かける 1」の中核となる動詞は後項動詞「-か ける」であり、前項動詞 V1(「立てる」、「もたせる」など)はその修飾要素として機能して いるということである。

一方、影山(1993:99)は、語彙的複合動詞は「右側主要部」という特徴を有すると述べて いる。この「右側主要部」というのは、二つの動詞の複合の際、その複合動詞全体の項構 造を決定するのが右側に置かれたV2であることを示したものであるが、語彙的複合動詞「v かける1」の格体制のあり方は影山の指摘に合致するものである。

4-24、4-25の「立てかける」「もたせかける」の他に、このグループには、以下のような 動詞がある。

「vかける1」:立てかける、もたせかける、凭れかける、寄せかける…

なお、姫野(1999:130)は「傘をさしかける」という例を「依拠接触」のグループに入れ ているが、同時に、この例では必ずしも接触を伴わず、先端が対象に添う形になると述べ ている。しかし、本研究はこの「さしかける」を「依拠接触」のグループに入れるのは妥 当性を欠くと考える。なぜならば、「さしかける」は辞書の意味によれば、「他のものを覆 うように差し出す」となっており、これは「依拠接触」の「かける」というよりはむしろ 後述する「vかける2」に共通する特徴と考えるからである。この「さしかける」について は、また後で触れる。

4.5.2.1.2vかける1-1」の意味特徴と本動詞「かける」の意味特徴

「vかける1」に引き続き「vかける1-1」の意味特徴を見る。

81 4-26 太郎が次郎に唾を吐きかける。(筆者作例)

4-27 太郎が敵に矢を射かける。(同上)

4-26、4-27 の「v かける」は動作主「太郎」がいる領域から、目標となる「次郎」「敵」

のいる領域へ、対象物「唾」「矢」を当てるということを表している。このことを図示す ると、図4-3のようになる。

対象物が移動する軌跡

対象物 対象物

動作主 目標物(或いは、目標となる人) 図4-3

図4-3によれば、対象物が動作主から目標物に向かってまたいで行くようなイメージが鮮 明となる。このイメージは、複合動詞「vかける1」と同じく、本動詞「かける 2」の<対 象物を><目標物の両端に><またぐような形で><固定させる>ということを喚起させ るものである。しかし、4-26、4-27が示すように、対象物「唾」「矢」は動作主から目標物 に移動しただけであり、その対象物は必ずしも、複合動詞「vかける1」が示すように、二 つの接触点に固定されたものとは言えない。

一方、複合動詞「vかける1」と同じく、「vかける1-1」における<またぐ>二点は目標 物だけではなく、動作主の領域と目標物の領域の二つの点からできている。それに対し、

本動詞「かける 2」における<またぐ>二点は基本的に同一目標物の両端となる。しかし、

「vかける1」と同じように、「vかける1-1」と本動詞「かける2」は、対象物が二点の<

両端>を<またぐ>という点において共通している。

また、統語的な面でも、「vかける1-1」は、4-26、4-27が示すように、「vかける1」と 同じく、本動詞「かける」の「Aは(が)BにCをかける」という格体制に従う。このことか ら、「vかける1」と「vかける1-1」の間には類似性が確認される。

以上のような「vかける1」と「vかける1-1」との間に見られる意味的および統語的類似 点と相違点は、第 3 章で見たラネカーの唱えるネットワーク・モデルに当てはまるもので ある。したがって、語彙的複合動詞「vかける1-1」は語彙的複合動詞「vかける1」から拡 張されたものと考えることにする。

ところで、姫野(1999:130-131)は、「v かける 1-1」を「志向接触」にし、「対象54にあ てる」という意味を表すとしている。また、「依拠接触」と比べて、対象に何かが接触す

54 姫野の「対象」という用語は本研究の「目標物」あるいは「受け手」に相当する。

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るだけではなく、ある変化が生じるものであると述べている。しかし、「ある変化が生じ る」という意味特徴ではこのグループの「vかける」の本質を示すことはできない。という のも、「志向接触」を示す「vかける」の前項動詞は変化動詞ではなく、意志性を伴った動 作動詞がほとんどであり、動作主の動作によって目標物に何らかの状態変化が起こるとは 考えにくいからである。たとえ、そのような状態変化があり得るとしても、「依拠接触」

を示す「vかける」も「志向接触」を示す「vかける」と同様に、その前項動詞が意志性を 伴う動作動詞であることを考慮するならば、なぜ「依拠接触」の「vかける」と「志向接触」

の「vかける」に対して、同じ解釈を行うことができないのかという疑問は残る。

以上のことから、本研究は姫野(1999:130-131)の解釈とは別に、先述したように、「vか

ける1-1」は「依拠接触」の複合動詞「vかける1」の拡張と考える。「vかける1-1」の動

詞としては、以下のようなものが挙げられる。

「vかける1-1」:吐きかける、射かける、投げかける、吹きかける、打ちかける…

4.5.2.1.3vかける2」の意味特徴と本動詞「かける」の意味特徴

本項では、「vかける1」と「vかける1-1」の意味とは異なるタイプの「vかける2」の 意味特徴について検討し、また、その本動詞「かける」との関係について述べる。まず、

以下の例を参照されたい。

4-28 太郎は車にシートを覆いかける。(筆者作例)

4-29 彼は半熟卵に胡椒を振りかける。(同上)

4-28、4-29は対象物「シート」「胡椒」が目標物となる「車」「半熟卵」を覆うような形で 接触することを表している。そのことを図示すると、図4-4のようになる。

動作主

対象物

目標物

図4-4

図4-4から分かるように、対象物は上、目標物は下という位置関係にある。そして、対象

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物は目標物にそれを覆うような形で接触する。前述したように、本動詞「かける3」は<対 象物を><目標物に><覆うような形で><接触する>という意味特徴を持っている。ま た、対象物と目標物との位置関係についても、対象物が目標物の上にあった。このことか

ら、「vかける 2」には本動詞の「かける3」の意味特徴が残っており、本動詞「かける 3」

から拡張される用法だと考えられる。その格体制が「vかける1」「vかける1-1」と同じく、

本動詞「かける」の格体制と同じである点もそれを支持するものである。

先述したように、姫野(1999)は、このグループの「vかける」と「vかける1-1」を同じよ うに扱い、共に「志向接触」に分類している。確かに、動作主が意図的に、対象物を目標 物に接触させるという点から見ると、どちらも「志向接触」と解釈することができるかも しれない。しかし、そうすると、「vかける1-1」と「vかける2」の間にある後項動詞「-

かける」の意味的違い、特に、両者の意味特徴の違いを無視することになりかねない。

「vかける2」における後項動詞「-かける」は、本動詞「かける3」の<目標物に><

対象物を><覆う>という意味を受け継ぐことを見た。このことは、この「-かける」に 前接する前項動詞の目的語の特徴にも反映されている。上で見た4-28、4-29、また、以下の 4-30、4-31の例に明らかなように、「vかける2」の前項動詞の目的語になる名詞は、本動詞

「かける3」の意味特徴のうち、特に、<覆う>という作用が可能なものに限られるからで ある。

4-30 彼は墓石に水を注ぎかける。(筆者作例)

4-31 母は子供にコートを着せかける。(同上)

一方、4.5.2.1.1では、「さしかける」を姫野(1999)のように「依拠接触」に分類することは 妥当でないと指摘した。

4-32 彼女に傘をさしかける。(筆者作例)

4-32が示すように、「傘をさしかける」という複合動詞では、対象物「傘」は目標物であ る人に対して接触はしていないが、その人を覆ってはいる。このときの対象物「傘」と目 標となる「人」の位置関係は「対象物が上、目標物が下」であり、「v かける 2」において 観察されたものと同じである。また、「さしかける」の格体制を見てみると「v かける 2」 と同様に、本動詞「かける」の格体制に従っている。以上のことから、本研究は「さしか ける」は「vかける2」に入れるべきであると考える。「vかける2」に属する動詞を挙げて みると、以下のような動詞がある。