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語彙的複合動詞としての「v かける」と統語的複合動詞としての「V かける」

第 4 章 複合動詞「動詞連用形 + かける」の意味特徴とその統語構造-本動詞「かける」と

4.4 語彙的複合動詞としての「v かける」と統語的複合動詞としての「V かける」

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(14) 大臣はそれをひた隠しに隠し続けた。

彼女は結婚問題で苦しみに苦しみ抜いた。

選手たちは、公式戦の開幕を控えて、走りに走りこんだ。

鍛えに鍛え抜かれた身体。

その日は運がつきにつきまくった。

影山(1993:91)

以上、影山(1993)が提示する語彙的複合動詞と統語的複合動詞を区別する統語的テストお よびその結果について見た。影山(1993)によれば、これらの統語テストのすべてにおいて、

語彙的複合動詞はそれを認めず、統語的複合動詞はそれを認めるという明確な違いが見ら れるのは、まず、語彙的複合動詞のV1とV2の合成は「語彙部門」、統語的複合動詞のV1 とV2の合成は「統語部門」というように、両複合動詞におけるV1とV2の合成の部門が 異なること、また、その結果、語彙的複合動詞ではV1とV2が形態的緊密性を保ち、全体 で一語となっているのに対し、統語的複合動詞ではV1とV2が独立した語として機能する ことに因る、ということになる。以下では、この影山(1993)の語彙的複合動詞と統語的複合 動詞を区別する統語的テストをもとに、複合動詞「動詞連用形+かける」がどのようなタイ プに分類されるかを検討していく。

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4.4.1.1代用形「そうする」による置換の可否

「そうする」による置換テスト48は、複合動詞の前項動詞を代用する句「そうする」への 置換可否により、語彙的複合動詞と統語的複合動詞に分ける統語テストである。テストの 対象は姫野(1999)の挙げた「指向」の「v かける」48 語のうち、「依拠接触」「志向接触」

「心理的志向」「志向移動」「把捉」といった意味を代表する動詞49から一例ずつ取り、テ ストを行った。なお、例文は『大辞林』に載っている例と筆者の作例から成る。さらに、

辞書の用例を引用する際に「vかける」の必須項が含まれていない場合には、その必須項を 補充してテストを行った。

4-1 a.太郎が屋根に梯子を立てかけた。(筆者作例、以下同様)

b. *太郎が屋根に梯子を立てかけたのを見て、次郎もそうしかけた。

4-2 a.太郎が帽子掛けに帽子を投げかけた。

b. *太郎が帽子掛けに帽子を投げかけたのを見て、次郎もそうしかけた。

4-3 a.太郎が先輩を誘いかけた。

b. *太郎が先輩を誘いかけたのを見て、次郎もそうしかけた。

4-4 a.太郎が出かけた。

b. *太郎が出かけたのを見て、次郎もそうしかけた。

4-5 a.太郎がボールを追いかけた。

b. *太郎がボールを追いかけたのを見て、次郎もそうしかけた。

「そうする」は意図的な行為を表すが、上記の例文の「vかける」の前項動詞はそれぞれ

「立てる」「投げる」「誘う」「出る」「追う」であり、いずれも「意志性」を有する他 動詞である。それにもかかわらず、これらの例から分かるように、「そうする」への置換 は不可能である。このことは、「指向」の「vかける」の前項動詞V1を後項動詞V2から 独立して取り出すことができないこと、つまり、V1とV2の形態的な緊密性を示している。

48 4-1から4-5(4-14から4-16)の代用形「そうする」による置換の可否については、影山(1993) の置換テストの形式に倣った。

49 姫野(1999)が挙げた「指向」の「vかける」の代表的動詞は、以下のとおりである。

「依拠接触」:立てかける ひきかける ひっかける もたれかける 寄せかける…

「志向接触」:浴びせかける 射かける 打ちかける 投げかける 吐きかける…

「心理的志向」:誘いかける 語りかける 問いかける 笑いかける 見せかける…

「志向移動」:押しかける 攻めかける 詰めかける 出かける。

「把捉」:追いかける 追っかける 見かける

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4.4.1.2サ変動詞による置換の可否

影山(1993:88)によれば、日本語のサ変動詞(例えば「勉強する」など)は統語レベルで形 成される。つまり、「勉強する」は「勉強をする」という句から派生されるということで ある。このことから、もともと句であるサ変動詞が、語彙的複合動詞の中に出現すること はないと予想されることになる。本項では、「指向」の「vかける」の前項動詞を「サ変動 詞」に入れ替え、複合動詞全体が文法的であるかどうかを観察する。具体的には、「指向」

を表す「vかける」の前項動詞を同義的なサ変動詞に置換え、その容認度を観察する。なお、

観察の対象となる例文と方法は「そうする」による置換の場合と同じである。以下の例文 を参照されたい。

4-6 a.太郎は屋根に梯子を立てかけた。(筆者作例、以下同様) b. *太郎は屋根に梯子を立脚しかけた。

4-7 a.太郎は帽子掛けに帽子を投げかけた。

b. *太郎は帽子掛けに帽子を投擲しかけた。

4-8 a.太郎は先輩を映画に誘いかけた。

b. *太郎は先輩を映画に勧誘しかけた。

4-9 a.太郎は町に出かけた。

b. *太郎は町に外出しかけた。

4-10 a.太郎はボールを追いかけた。

b.*太郎はボールを追逐しかけた。

4-6から4-10が示すように、「指向」の「vかける」の前項動詞、「立てる」「投げる」「誘 う」「出る」「追う」を、同義的なサ変動詞、「立脚する」「投擲する」「勧誘する」「外出す る」「追逐する」に置き換えることは不可能である50。これは、「指向」の「vかける」が語 彙的複合動詞であることを示すものである。

4.4.1.3主語尊敬語の可能性

4.3では、尊敬形式の「お~になる」は語という一固まりの言語形式の内部には侵入でき ないことを見た。もしこの「お~になる」が複合動詞の前項動詞に現れることができるな

50 4-7、4-8、4-9、4-10の「vかける」はその前項動詞を同義のサ変動詞に置き換えると、「指向」

の意味としては成り立たないが、「始動」の意味としてなら自然な文となる点に注目すべきであ る。ただし、4-6の「立脚しかける」は指向の意味でも始動の意味でも自然さを欠くように思わ れる。「始動」の「Vかける」の前項動詞に関しては、第6章でまた詳しく検討する。

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らば、その複合動詞の前項動詞V1とV2は統語レベルで互いに独立性を保つ、すなわち当 該複合動詞は統語的複合動詞ということになる。一方、「お~になる」がV1につかず、V2 に後接するしかない場合は、そのV1とV2は一体化している、すなわち、当該複合動詞は 語彙的複合動詞ということになる。以上のことを踏まえながら、本項では「指向」の「vか ける」と「お~になる」の関係を見てみる。

4-11 a.先生は屋根に梯子を立てかけた。(筆者作例、以下同様)

b. *先生は屋根に梯子をお立てになりかけた。

c.先生は屋根に梯子をお立てかけになった。

4-12 a.先生は帽子掛けに帽子を投げかけた。

b. *先生は帽子掛けに帽子をお投げになりかけた。

c.先生は帽子掛けに帽子をお投げかけになった。

4-13 a.先生は先輩を映画に誘いかけた。

b. *先生は先輩を映画にお誘いになりかけた。

c.先生は先輩を映画にお誘いかけになった。

4-14 a.先生は町に出かけた。

b. *先生は町にお出になりかけた。

c.先生は町にお出かけになった。

4-15 a.先生はバスを追いかけた。

b. *先生はバスをお追いになりかけた。

c.先生はバスをお追いかけになった。

4-11から4-15のaの「vかける」に対し、「お~になる」という主語に対する尊敬形式を それぞれ当該複合動詞の前項動詞と複合動詞全体に付けてみると、4-11 から4-15のbとc になる。4-11から4-15のbに示されるように、「お~になる」の尊敬形式を前項動詞V1に 直接後接することはできない。それに対し、4-11から4-15のcが示すように、「お~になる」

を複合動詞「vかける」全体に後接することは可能で、自然である。この結果から、「指向」

の「vかける」は語彙的複合動詞であると判定される。

以上、代用形「そうする」、サ変動詞による置換の可否、および、主語尊敬語「お~にな る」の挿入の可能性という三つのテストを行った。その結果から、影山(1993)の基準に従え ば、「指向」の「vかける」は語彙的複合動詞であることが分かった。次に、「始動」を表 す「Vかける」がどのようなタイプの複合動詞になるかを見ていく。

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4.4.2「始動」の「Vかける」と統語的複合動詞

本項では、4.3で述べた影山(1993)の統語的テストを用い、「始動」の「Vかける」がどの ような種類の複合動詞になるかについて検討していく。

以下では、「指向」の「vかける」と同じ基準で、「代用形「そうする」による置換」「サ 変動詞による置換」「主語尊敬語」といった三つの統語テストを実施し、「始動」の「Vかけ る」の統語的振舞いを確認することによって「始動」の「Vかける」の種類を判断する。

4.4.2.1代用形「そうする」による置換の可否

まず、前項動詞の「そうする」への置換可能性のテストにより、「始動」の「Vかける」

の種類を判定する。

4-16 a.太郎がラーメンを作りかけた。 (筆者作例、以下同様)

b.太郎がラーメンを作りかけたのを見て、次郎もそうしかけた。

4-17 a.太郎が離れかけた。

b.太郎が離れかけたのを見て、次郎もそうしかけた。

4-18 a.太郎が小説を読みかけた。

b.太郎が小説を読みかけたのを見て、次郎もそうしかけた。

上記の4-16a、4-17a、4-18aの「Vかける」はそれぞれ工藤(1995)の「(A・1)主体動作・客 体変化動詞」「(A・2)主体変化動詞」「(A・3)主体動作動詞」が「-かける」に前接して「始 動」の意味を表している例である。それらの前項動詞を代用句「そうする」に置き換える

と、4-16b、4-17b、4-18bのようになり、いずれもその文法性が認められる。このことから、

「始動」の「Vかける」は統語レベルで、前項動詞と後項動詞が独立していることが分かる。

換言すると、「始動」の「Vかける」は統語部門で合成される統語的複合動詞ということで ある51

4.4.2.2サ変動詞による置換の可否

「指向」の「vかける」の場合と同様に、前項動詞V1を同義的なサ変動詞に置き換えて、

その文法性について観察する。以下を参照されたい。

51 4.4.1.1で指摘したように、「そうする」との置き換えは「意図性」のある動詞にしか適用する

ことができない。一方、呂(2010)によれば、「始動」の「V かける」の前項動詞には「意志性」

を欠く非対格動詞が出現することが多い。これは、「そうする」による置換テストが「始動」の

「Vかける」の一部にしか適用されないことを示すものである。