第 5 章 語彙的複合動詞「 v かける」の再分析 ― 語彙概念構造の観点から ―
5.2 語彙的複合動詞「v かける」の前項動詞の種類について
本節では、まず語彙的複合動詞「vかける」の前項動詞の振る舞いを観察し、語彙的複合 動詞「vかける」と結びつく前項動詞の特徴をまとめる。なお、語彙的複合動詞「vかける」
の前項動詞を考察するに当たっては、姫野(1999)の動詞リストに上がっているすべての「v かける」を観察対象とした。まず、姫野(1999)で取り上げられている語彙的複合動詞「vか ける」の前項動詞を当該「v かける」の意味特徴別にまとめると(1)の[1]から[5]のようにな る。
(1)[1] 依拠接触59:立てかける、もたせかける、寄せかける、さしかける、ひきかける(ひ
59 姫野(1999)は「並べかける」を「依拠接触」として挙げている。しかし、「並べかける」は現
代日本語で用いられることもあまりないように思われる。また、「もたれかける」もインターネ ットで検索しても、「もたれかかる」はあるが、「もたれかける」のヒット数は0だった。さらに、
「しかける」は「依拠接触」としての用法は見つけることができない。以上のことから、「並べ かける」「もたれかける」「しかける」は観察の対象外とした。
98 っかける60)。
「依拠接触」を表す「vかける」(本研究の第4章における分類では「vかける1」)の前項 動詞を工藤(1995)に従って分類すると、次のようになる。「立てる、ひく、もたせる、寄せ る、差す」は「(A・1)主体動作・客体変化動詞」の「①客体状態変化・位置変化をひきおこ す動詞」グループに属す。これらの前項動詞は、動作主によって対象に位置や状態の変化 を引き起こすことに特徴がある。また、このグループに属す「vかける」は「立ててからか ける」のように、前項動詞の示す事象が後項動詞の事象に時間的に先行するという特徴が ある。次に、姫野(1999)で「志向接触」を表すものとして分類された「vかける」の前項動 詞について見ていく。
[2] 志向接触:浴びせかける、射かける、打ちかける、投げかける、吐きかける、撥ね
かける、吹きかける、ぶっかける (ふっかける)、振りかける、注ぎかける、着せ かける、覆いかける。
「志向接触」を表す「vかける」(本研究の第4 章における分類では「vかける 1-1」、「v かける2」)の前項動詞のうち「浴びせる、射る、打つ、投げる、吐く、撥ね、吹く、振る、
注ぐ、覆う」は、工藤(1995)の「(A・3)主体動作動詞」の「②主体動作・客体接触動詞」で あり、「着せる」は「(A・2)主体変化動詞」の「①主体変化・主体動作動詞=再帰動詞」で ある。また、「ぶっかける(ふっかける)」は、前項動詞「打つ」が「-かける」に前接した ものであるが、「打つ」は音韻変化を被っている。本研究は、この「ぶっかける(ふっかける)」 は検討の対象外とする。
[3] 心理的志向:誘いかける、訴えかける、語りかける、囁きかける、喋りかける、問
いかける、話しかける、働きかける、呼びかける、持ちかける、笑いかける、微 笑みかける、歌いかける、尋ねかける、けしかける、見せかける、畳みかける。
「心理的志向」のグループに属す「vかける」(本研究の第4章における分類では「vかけ る 3」)の前項動詞を工藤(1995)の動詞分類にしたがって分類すると、次のようになる。「誘 う、訴える、語る、囁く、喋る、問う、話す、呼ぶ、歌う、尋ねる」は「(A・3)主体動作動 詞」の「③人の認識活動・言語活動・表現活動動詞」である。「働く」は「(A・3)主体動作 動詞」の「⑤人の長期的動作動詞」、「笑う、微笑む」は「(A・3)主体動作動詞」の「⑥もの
60 斉藤(1992)も指摘するように、「v かける」の前項動詞が促音化され本来の動詞形態を失うこ
とがある。影山(1993:101)は、前項動詞の促音化こそ当該複合動詞において主要部が右側にあ ることの証拠であると主張している。このことは換言すると、促音化は、V1と V2 が緊密にく っ付いており、これ以上分析することができないということを意味する。したがって、このよう な促音化を起こした「vかける」は、本研究では対象外とした。
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の非意志的動き動詞」である。なお、このグループには、「もちかける、けしかける、見せ かける、畳みかける」が入っているが、「もちかける」は、「話を持ち出して働きかける」、
「けしかける」は「嗾ける」と表記し、「相手をおだてあげて自分の思うとおりのことをさ せる」、「見せかける」は、「うわべを取りつくろって、実際はそうでないのにそれらしく見 えるようにする」、「畳みかける」は「相手に余裕を与えないように、立て続けに行う」と いう意味61をそれぞれ表している。これらの「vかける」には、比喩的な用法が多く見られ、
前項動詞と後項動詞が緊密にくっ付いており、「前項動詞+かける」という形では分析する ことができないと思われる。したがって、これらの「vかける」は検討の対象としない。
[4] 志向移動:押しかける、攻めかける、詰めかける、出かける。
[5] 把捉:追いかける(追っかける)、見かける。
「志向移動」の「vかける」(本研究の第4章における分類では「vかける1-1-1」)の前項 動詞のうち「押す、攻める」は、工藤(1995)の「(A・3)主体動作動詞」の「②主体動作・客 体接触動詞」、「詰める」は「(A・3)主体動作動詞」の「④人の意志的動作動詞」、「出かける」
の「出る」は「(A・2)主体変化動詞」の「②人の意志的な(位置・姿勢)変化動詞」である。
また「把捉」を表す「追いかける」(本研究の「vかける4」)の「追う」は工藤(1995)の動詞 分類のリストには記載されていなかったが、「見かける」の前項動詞「見る」は工藤(1995) の「(A・3)主体動作動詞」の「③人の認識活動・言語活動・表現活動動詞」である。
以上のことから語彙的複合動詞「vかける」の前項動詞の特徴は次のようにまとめられる。
「依拠接触」タイプの「vかける」(vかける1)の前項動詞には、工藤(1995)の「(A・1)主 体動作・客体変化動詞」の「①客体状態変化・位置変化をひきおこす動詞」が圧倒的に多 い。「志向接触」タイプの「vかける」(vかける1-1、vかける2)の前項動詞については、「(A・ 3)主体動作動詞」の「②主体動作・客体接触動詞」が出現することが多い。また、「心理的 志向」を表す「vかける」(vかける3)の前項動詞にも、「(A・3)主体動作動詞」の「③人の 認識活動・言語活動・表現活動動詞」が多く見られる。語彙的複合動詞「vかける」は、そ の前項動詞として「(A・2)主体変化動詞」を取らないわけではないが、その場合でも、人の 意志的な(位置・姿勢)変化や主体変化・主体動作(再帰動詞)を表す主体変化動詞である。以 上のことから、語彙的複合動詞の「vかける」の前項動詞として、工藤(1995)の分類の中の
「(A・2)主体変化動詞」の「③ものの無意志的な(状態、位置)変化動詞」は基本的に出現し ないと言うことができる。
以上、語彙的複合動詞「vかける」の前項動詞の特徴について観察した。以下では、前項 動詞と後項動詞「-かける」の意味関係について検討していく。
61 『大辞泉』(電子版)による。
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