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まとめ:語彙的複合動詞「v かける」の意味と構造

第 5 章 語彙的複合動詞「 v かける」の再分析 ― 語彙概念構造の観点から ―

5.7 まとめ:語彙的複合動詞「v かける」の意味と構造

以上、本章では、語彙的複合動詞「v かける」を、主に影山(1996)、由本(2005)の提唱す る語彙概念構造(LCS)の理論的枠組みから、特に、前項動詞と後項動詞の意味関係、LCSの 合成および項の同定、受け継ぎに焦点をあて検討した。結果的に、語彙的複合動詞「vかけ る」の用法の多くは LCS理論でうまく説明される。しかし、中には、「心理的志向」を表 す「vかける」のひとつである「呼びかける」、また、「把捉」の「追いかける」のように、

それではうまく説明できない例もあった。本章の議論に即して言うならば、語彙的複合動 詞「vかける」には、①影山(1996)、由本(2005)の基準、特に、由本(2005)の基準に従うなら ば、その前項動詞が後項動詞の「手段」あるいは「様態・状況」と解釈されるタイプ、②

影山(1996)、由本(2005)の基準に従うならば、前項動詞と後項動詞が「補文関係」になるタ

イプ、③①でも②でもないタイプ、の 3種類がある。これら 3 種類のうち、①②のタイプ では後項動詞「-かける」が複合動詞全体の中核となり、③のタイプでは前項動詞が複合 動詞全体の中核になっている。以下、語彙的複合動詞「vかける」を①から③のタイプ別に まとめてみる。

① 前項動詞と後項動詞が「手段」あるいは「様態・状況」の関係にある語彙的複合動詞

「vかける」

a. 前項動詞が後項動詞に対する「手段」を示す語彙的複合動詞「vかける」:

語彙的複合動詞「vかける」のうち、その前項動詞が後項動詞「-かける」に対する「手 段」を示す「vかける」は、姫野(1999)の「依拠接触」(vかける1)に相当し、「立てかける、

寄せかける」などがその典型例となる。このグループの「vかける」では、前項動詞の表す 事態が後項動詞の示す事態に時間的に先行し「-かける」の限定要素として働き、「-かけ る」が中核となる。また、項の同定については、前項動詞と後項動詞「-かける」の動作 主(外項)および対象(内項)がそれぞれ同定され、「-かける」の持つ「ニ格」はそのまま複合 動詞全体に受け継がれる。

b. 前項動詞が後項動詞に対する「様態・付帯状況」を示す語彙的複合動詞「vかける」: 語彙的複合動詞「vかける」のうち、その前項動詞が後項動詞「-かける」に対する「様 態・付帯状況」を示す「vかける」は、「振りかける、吐きかける」のように「ニ格」を取 らない姫野(1999)の「志向接触」(vかける1-1、vかける2)に相当するものと、「押しかける、

詰めかける」のように「ニ格」を取る姫野(1999)の「志向移動」(vかける1-1-1)に相当する ものがある。これらの「vかける」では、いずれも、前項動詞の表す事態と後項動詞の「-

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かける」の表す事態が同時に進行し、意味的には「V1しながら、V2」という前項動詞と後 項動詞の間に「様態・付帯状況」が設定される。したがって、「志向接触」の「vかける」、

「志向移動」の「vかける」のどちらにおいても、その中核は後項動詞の「-かける」にあ ると言える。しかし、項の受け継ぎについては、両者は異なっている。すなわち、「ニ格」

の項を取らない「志向接触」の「vかける」では、前項動詞の持つ動作主(外項)と対象(内項) と「かける」の動作主(外項)と対象(内項)がそれぞれ同定され、それらは、「ガ格」と「ヲ格」

として具現される。このとき「かける」の持つ「ニ格」は同定を受けずにそのまま複合動 詞全体に受け継がれる。一方、「志向移動」の「押しかける、詰めかける」では、動作主の 外項が同定され、「かける」の取る「ニ格」は複合動詞全体に反映され、それぞれ「ガ格」、

「ニ格」として具現化される。しかし、これらのグループでは内項(「ヲ格」)の指示対象と 外項(動作主)の指示対象が同一になる再帰化が起こるため、内項(「ヲ格」)は統語的には表 示されない。

② 前項動詞と後項動詞が「補文関係」にある語彙的複合動詞「vかける」

姫野(1999)の「心理的志向」の「vかける」(vかける3)のうち、前項動詞のLCSが「かけ

る」のy項に代入されることによって形成されるものとして、その前項動詞が動作主(外項) しか取らない自動詞である「笑いかける」、「微笑みかける」、また、「誘いかける」のよう に、その前項動詞が「働きかけ」の意味を表す「vかける」、さらに、「話しかける」のよう に、その前項動詞が伝達の意味を表すものがある。これらは、いずれも、後項動詞「-か ける」の比喩的拡張により、その内項(「ヲ格」)に本来の「モノ(具体物)」の代わりに前項 動詞の表す事態を代入し、その結果、前項動詞と後項動詞の合成が行われたものである。

また、これらの「vかける」の項の同定については、まず、前項動詞の動作主(外項)と「か ける」の動作主(外項)が同定され統語的に「ガ格」として具現化される。そして、後項動詞

「-かける」の持つ「ニ格」は、そのまま複合動詞全体に受け継がれ、「ニ格」として具現 化されるが、それは当該「vかける」では後項動詞「-かける」が中核の動詞となっている からである。さらに、姫野(1999)は「攻めかける」を前項動詞が後項動詞に対する「様態・

付帯状況」を表す「志向移動」のグループに入れていたが、本研究は、その前項動詞と後 項動詞の LCSの融合過程を考慮するならば、それは「笑いかける」、「誘いかける」、「話し かける」と同じく「補文関係」のグループに入れるべきだと考える。

③ ①にも②にも当てはまらない語彙的複合動詞「vかける」

影山(1996)、由本(2005)の語彙概念構造に基づく理論的枠組みは、いずれも「右側主要部」

の原則を主張するものである。つまり、語彙的複合動詞の中核は常に右側に位置する後項 動詞にあると考えているということである。しかし、本研究によれば、以下に挙げるよう

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な、語彙的複合動詞「vかける」の中に、その中核が左側の前項動詞にあるもの、すなわち

「左側主要部」にあるものが確認された。

「左側主要部」となるものとしては、まず、姫野(1999)の「志向接触」の「vかける」の うち「ニ格」を持つもの、また、姫野(1999)の「把捉」の「追いかける」が挙げられる。「志 向接触」の「vかける」については、複合動詞全体の選択する内項と前項動詞および後項動 詞の内項の比較、また、その意味解釈から、その中核は前項動詞にあり、後項動詞の「-

かける」は前項動詞が表す事態の修飾要素となっていることが明らかになった。また、「追 いかける」については、その意味だけでなく、「かける」の必須項「ニ格」が複合動詞の格 体制として出現しないという点からも、その中核は前項動詞「追う」にあると判断された。

このように、意味的および統語的にその中核が前項動詞にあると判断された「志向接触」

のうち「ニ格」を取らない「vかける」、また、「把捉」の「追いかける」は、影山(1996)、 また、由本(2005)の語彙概念構造に基づく理論的枠組みではうまく説明されないものである。

一方、「心理的志向」を表す「vかける」については、「右側主要部」でうまく説明される ものと「右側主要部」ではうまく説明されないものの2種類があった。まず「右側主要部」

でうまく説明されるものとしては、その前項動詞が自動詞である「笑いかける」、「微笑み かける」、また、「誘いかける」、「話しかける」のようにその前項動詞が 3 項を取るものが あった。これらの「vかける」の項の同定およびその具現化、また、前項動詞と後項動詞の 合成過程はいずれも由本(2008)の「V1のLCSがV2のy項への代入」という仮説でうまく 説明されるものであったが、それは、結局、「右側主要部」を支持するものである。しかし、

中には、「呼びかける」のように、前述の由本(2008)のの「V1のLCSがV2のy項への代入」

という仮説は適応できないものもあった。この「呼びかける」のような「vかける」の存在 は「右側主要部」が万全ではないことを示唆するものである。

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統語的複合動詞「V かける」の意味特徴

-文末言い切り形式の「Vカケタ」の意味を中心にして-