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Vygotsky 理論と相互教授法

第 2 章 先行研究

2.5 相互教授法によるクリティカル・リーディングとメタ認知方略の育成

2.5.1 Vygotsky 理論と相互教授法

Vygotsky(2001)は、知能年齢、あるいは自主的に解答する問題によって決定される現下の

発達水準と、子どもが非自主的に共同の中で問題を解く場合に到達する水準との間の相違 を、発達の最近接領域と名付けた。更に、共同の中、指導のもとでは、助けがあれば子ど もは常に自分一人でする時よりも多くの問題を、また、困難な問題を解くことが出来ると している。このVygotskyの考えから、教師による足場かけや、学習者同士による相互教授 法を通しての教え合いという他者との関わりが、学習者の読解力向上に繋がっているとと もに、効果的であるということが言える。

峯石(2010)は、教授は「達成のために支援が必要な領域において支援が提供される時に 生じる」のであり、言語教授においてはまず教室内を一つの「社会機構」と見なした上 で、言語を「目的」としてではなく、「道具」として使用する「対話活動」に学習者を参 加させ、社会的に適切な認知的・言語的自己調整が可能になるように学習者を導く形で

「支援」が実施されると、Vygotskyの「発達の最近接領域」に従って第2言語教育の教育 場面を捉えている。つまりこの、Vygotskyの「対話活動」が、「相互教授」である。この

「相互教授」について峯石(2010)は、Vygotsky、ブルーナーなどの理論を取り入れ、読み手 の主体的なテクストとの対話・意味構築に大きな意義を認める指導法として提唱してい る。Vygotskyは、子供とは「客体調整―他者調整―自己調整」の過程を経て認知的発達を 遂げるとしている。相互教授法はまさに、他者との対話を通して意識し、自己と向き合 い、お互いに調整し合うことによって向上していくことを目指した教授法であるため、

Vygotskyの考えに基づいたものであると言える。

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相互教授法とは、学習者同士がお互いに教え合いながら進めていく学習方法である。こ の相互教授法を行う上での方略としてPalincsar and Brown(1984)は、①要訳 ②発問 ③思 考の明確化 ④おk推測という4つを挙げており、クラスにおいてこの相互教授法を効果 的に行うためには、上記の方略についての指導を受け、練習をする必要があるとしてい る。

瀬尾・植阪・市川(2008)は、相互教授法の利点について、教師が一方的に方略の有効性 を伝え、かつスキルトレーニングを行うだけでなく、学習者同士の関わり合いの中で方略 を利用する点だと述べている。更に、この学習者同士のコミュニケーションを通して方略 を学んでいくことは、自発的な方略指導であり、今後更に研究が求められるとしている。

また、Philicia and Jeanice(2009)は、相互教授法は、読解力の低い学習者の理解力を改善

するだけでなく、相互教授法によって身につけたクリティカル・リーディングを行う技術 をその他の学習におけるタスクへと転換させることも可能であるとしている。

同じようにPalincsar and Brown(1984)は、グループで学ぶ相互教授法によって、読解能力 が低い生徒が、読解に優れた生徒の読解過程の様子を観察し、その読解をモデルとして学 び、次第にそれを自分自身のものにしていくことが出来るようになるとしている。また、

お互いに発問をしたり、サマリーや自分の推測について話をしたりすることによって、誤 った読み方やテクストの複雑な箇所について、明白にしていくことも可能であるとしてい る。

また、本研究の指導方法として相互教授法を用いるのは、ペアで読解や振り返りを行う ことで、他者の意見と自分の意見とを照合することが可能になると考えるからである。そ の照合の過程において他者の意見を聞き、自分の意見と異なる点については話し合いを行 う。その話し合いを通して、自分の読解や読解過程に誤りがあると判断された場合には、

その場で修正をすることが出来る。自分一人での読解より、他者と読解を行うことによっ て、より自分自身の意見が明確になる。明確になれば、修正するべき箇所がはっきりと し、その後の読解において改善する可能性が出てくる。つまり、クリティカル・リーディ ングを行うには、他者の存在が有効であるということである。このことから、クリティカ ル・リーディングは、社会的側面を持っていると言える。今回の研究では、ペアという他

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者の存在が重要であるという点において、本研究は今後の研究に貢献するものであると言 える。

本研究においてポートフォリオは、読解過程そのものの軌跡として捉える。読解中に考 えたことや、ペアで話し合ったことを、読解後に振り返る際の資料として用いる。テクス トにそのまま読解過程を残すという形でのポートフォリオは、自分達の読解過程を可視化 したものである。本研究においては、相互教授法を用いた読解において、テクストに書き 込みをさせる。

相互教授法における教師の立場について吉田(2001)は、次のように述べている。まず、

相互教授法導入の際には学習者にその方略の使い方などを示すというモデルとしての役 割、更には、学習者が読解をしている途中で発問をすることによって、学習者同士の発話 を促す支援者、指導や練習の結果として、学習者同士で方略を使うことが出来るようにな ったら、その学習者同士の活動を評価する役割。このように、除々に学習者のみで行うこ とが可能となるように、上手にその活動を導いていく必要がある。つまり、相互教授法に おける教師の役割は、最終的に生徒が自主的に効果的な読解が出来るようになるための、

足場かけを行うことである。天満(1989)も、発問は教師主導型のものではなく、生徒自身 が発問をしながら読解を行うことを最終目的としたものであるとしている。生徒主導型と は、生徒が好き放題に全く意味のない発問をしながら読解を進めていくというものではな く、あくまでの教師による目配りやサポートがそこには伴っているものである。

Palincsar and Brown(1984)は、教師の役割として、先に紹介した4つの方略(要約・発

問・思考の明確化・推測)に関する説明を学習者に与え、どのように方略を適応させるか モデリングすることによって、学習者の学びに足場かけを行うことであるとしている。し かし、この教師による足場かけは、徐々に減らしていくことを意識することが必要であ る。

ここまで、方略指導における教師の役割について見てきた。この、教師の役割について

Vygotskyは次のように述べている。

模倣は、これを広い意味に解するなら、教授―学習が発達におよぼす影響の実 現される主要な形式である。ことばの教授、学校における教授は、ほとんどが

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模倣に基づく。まさに学校において子どもは、自分が一人でできることではな く、自分がまだできないこと、しかし教師の協力や教師の指導のもとでは可能 なことを学ぶのである。教授―学習において基本的なことは、まさに子どもが 新しいことを学ぶということである。それ故、子どもに可能なこの移行の領域 を決定する発達の最近接領域は、教授と発達との関係においてももっとも決定 的なモメントである。

(Vygotsky, 2010, p. 301)

上記でVygotskyが指摘している、学校において子供は、自分が一人で出来ることではな

く、自分がまだ出来ないこと、しかし教師の協力や教師の指導のものとでは可能なことを 学ぶという点は、これまで述べてきた教師による足場かけである。

峯石(2010)も相互教授法における教師の役割について、学習者の気づき(awareness)が高ま るにつれ、学習者は最終的には「教師」の役割を務め、熟達した読み手となるとしてい る。

読解における学習者同士の相互教授法においては、読解力が優れた生徒が、イニシアチ ブを取ることによって、その学習者が持っている方略や知識を、他の学習者と共有するこ とが出来る。つまり、通常、内容理解に優れた生徒が内的(internal)に行っている認知過程 を、相互教授ではグループという社会的な文脈の中で外的(external)に行っており、テクス トの意味を協同的に構築していくのであると、吉田(2001)はまとめている。

木村(2001)は、外国語学習のメタ認知活性化を促す方法の一つとして、相互教授法を挙 げている。これは、学習者のメタ認知を教室内での「対話」を通して促進しようとするも のであり、これによって学習者同士がPalincsar and Brown(1984)の4つの方略を通して、自 分自身、もしくは他者の学習過程についてモニタリングすることが可能となる。更に、木 村(2001)は、この相互教授法が読解方略を直接教師から教授されるよりも、遥かに学習者 の読解水準を向上させるのに寄与するという結果についても言及している。

この、モニタリング過程の活性化に有効な指導法の一つとしての相互教授法について

は、沖林(2005)も紹介している。沖林(2005)によると、相互教授法とは、数名の学習者が一

つのグループを構成し読解を進めていくという読解指導法であり、この中に読み手同士が

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相互に質問を作成し合うという過程があると述べている。この、相互に質問を作成し合う という活動が、読解においてどのような効果をもたらすのかについては、後で言及する。

相互教授法の効果としては、同程度の到達度の学習者が相互に異なる意見や視点を話し合 いの場に提供することによって、学習者同士の相互作用が促進されるとしている。

John and Mahn(1996)は、Vygotskyによる、人間の発達における社会的相互作用の最も重

要な点として、個人の発達は他者から伝えられた経験の莫大な深みによるという考えを挙 げている。また、Vygotskyの考えから、最初は多くの経験を得るために他者を頼ることか ら始め、除々に他者からの助けがなくても活動出来るようになるというように、発達段階 における他者からの影響についても示している。そして、他者と一緒に活動することで、

個人は新しい知識を構築するとも述べている。他者が有する経験からの知識をお互いに教 え合うことは、相互教授法において重要な意味をなす。

Palincsar and Brown(1984)の実践では、読解不振生徒に対して、読解熟達生徒が教えなが ら読解を進めていくというものであった。この実践では、読解不振生徒に有効的であると いう結果が導き出されている。

舘岡(2004)は、相互作用の過程をより詳しく把握する方法として、ピア・リーディング

を紹介している。ピア・リーディングとは「過程を共有すること」を強調しているが、相 互教授法とピア・リーディングは、仲間と学び合うことを主眼としているという点におい ては同じであると述べている。また、ピア・リーディングが学習者に及ぼす効果として、

①仲間の学習者から直接、知識や方略が学べる ②自己を見直す機会が得られるという2 点を挙げている。更に、②の自己を見直す機会については、自分自身による見直しと、他 者からのフィードバックによる見直しという2 つがあるとしている。この①、②につい

て、舘岡(2005)は、どちらも理解や学習などの認知面での効果のみならず、「2人で読んで

とても楽しかった」という感想からも分かる通り、情意面でも達成感や楽しさを体験する といった効果が認められたという実践結果を紹介している。舘岡(2005)は、ピア・リーデ ィングにおける学習者自身と他者、または自己との関係を次の図8のように表している。

学ぶ対象