第 2 章 先行研究
2.5 相互教授法によるクリティカル・リーディングとメタ認知方略の育成
2.5.2 発問とメタ認知的方略
読解過程における他者との対話には、読んでいる文章に関してペアに投げかけた発問も 含まれる。Palincsar and Brown(1984)も、相互教授法の方略の一つとして発問を挙げてい る。ピア・リーディングにおける相互発問を通して、次の2点を生徒に身につけさせるこ とが可能だと考える。まず、質問を考えることで、英文をクリティカルに読むことが出来 る。これはどういう意味なのだろう?作者は、なぜこのような例を挙げているのだろう?
など、英文を読んでいる過程で生じた疑問を、そのまま相手に質問させるようにする。ま 学習者
自己 他者
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た、もう1点は、質問を受ける側である。ペアが考えてくれた質問に答えることにより、
自分が考えもつかなかった点に気づかされることがある。興味がある箇所はそれぞれ異な るため、質問の内容も多岐に渡る。そのため、質問を受けることで自分とは違った所へ関 心を向けることが可能になり、より理解度が深まるのである。
五十川(2011)は、大学の授業で用いられている教科書4種類の発問について分析した。
この研究の目的は、英語教科書の中にクリティカル・リーディングの力を育成するような 設問がどの程度含まれているのかを明らかにすることと、教師が授業の中でどのような言 語活動を補充すべきかを明らかにすることであった。発問の内容を、①事実 ②推論 ③ 応用という3つに分け、更に、発問の項目を13に分けて分析をした。その結果、どの教 科書でも、内容把握を確認する設問や語彙に関する設問が、クリティカル・リーディング に関わる設問よりも多かった。この結果を受けて、教科書を用いてクリティカル・リーデ ィング能力を育成するためには、分析の結果で不足していた項目の発問を意識的に補充す る必要があるとしている。
五十川(2011)の研究は、大学で使用する教科書を用いてのものであった。高等学校で は、クリティカル・リーディング研究はあまり行われていない。実際に、高等学校での授 業において、クリティカル・リーディングがどの程度取り入れられているのかを、リーデ ィングの教科書分析を行った先行研究において見ていく。
深澤(2008)は、英語教師は、より効果的なリーディング能力を育成し、自立した読み手 を育てていくために、読解発問の意義と役割を再認識し、読解を促進する発問作りの方法 にも精通しなければならないとし、教師による発問の重要性について述べている。ここで 述べられている効果的なリーディング能力の育成を促進するための発問がどのようなもの かを検証するために、まず高等学校のリーディング教科書(平成12年度版)の発問の分 析を行った。分析するに当たり、発問のタイプをNettal(1982,1996)の5つの尺度を用い た。その5つの尺度とは、Type1. Questions of literal comprehension(文字通りの理解を 求める発問)、Type2. Questions involving reorganization or reinterpretation(要約や統 合により再構成・再解釈を求める発問)、Type3. Questions of inference(推論を求める発 問)、Type4. Questions of evaluation( 評価を求める発問)、Type5. Questions of personal
(個人的な反応を求める発問)である。5社のリーディングの教科書に掲載されている発
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問を、この尺度に沿って分類した結果、全体の発問に占めるType1の割合が、平均で
76.2%と最も高かった。一方、どの教科書においてもType4は0%であった。Type5の発
問も少なく、最も高くて3.0%に止まった。この研究で用いられた5社の内、4社の教科書 における発問全体に占める割合が最も大きかったType1の発問について、深澤(2008)は、
設問で求められた内容のみを探すようなスキャン的な読みを遂行させ、全体の概要・要点 を掴ませるためのスキム的な読みや、自分の過去の経験や背景知識と関連付けながら、あ るいは自分の考えとの対峙による批判的読み等を行うチャンスを少なくする可能性がある と、そのマイナスの効果について言及している。
更に、深澤(2010)は、平成19年度、20年度のリーディング教科書を用いた発問の分析 を行った。分類は、深澤(2008)で用いたNettal(1982,1996)と同じものを用いた。その結 果、Type1 Questions of literal comprehension(要約や統合により再構成・再解釈を求め る発問)が全体に占める割合は、平均50.6%であった。平成12年度版教科書での分析で は、76.2%であり、この変化からも発問全体に変化があることが窺える。また、Type2.
Questions involving reorganization or reinterpretation(要約や統合により再構成・再解 釈を求める発問)が、前回の平成12年度版の教科書分析と比較して、2倍に増えていた。
更に、Type5. Questions of personal(個人的な反応を求める発問)の平均は16.9%であ り、平成12年度版の教科書分析での、最大3.0%という結果と比較して最もその変化が顕 著であった。このような変化の理由について、深澤(2010)は、読解授業において本文の理 解に留まらず、それを基にした個人的な経験との統合、更には自分の意見や考えを加えた 自己表現に繋がる読解の指導の重要性が改めて認識されるようになったことに起因するの ではないかとしている。
一方、平成12年度版教科書と平成19年度、平成20年度の教科書において変化が見ら れなかった発問のタイプは、Type3. Questions of inference(推論を求める発問)で、平
均して10%であった。更に、平成12年度版教科書の分析において5社ともに0%であっ
た。Type4. Questions of evaluation(評価を求める発問)は、今回の平成19年度、平成 20年度版教科書においても、0%であった。このType3とType4において、変化がなかっ たことについて、深澤(2010)は、推論や評価を行うことが出来るような質と量が、教科書 のテクスト文章にはないとしている。
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平成12年度版教科書、平成19年度、平成20年度版教科書においても、テクスト内容 に対する批判的な読み、更には読んだテクストについて、その文章構造や筆者の主張の妥 当性について評価することを求める発問は見ることが出来なかった。この理由について は、先に述べたように様々な理由があるとしている。その上で、深澤(2010)は、読解を内 容理解に留めず、学習者の個人的な体験と意見とからめて、思考力・判断力の育成を目指 した表現活動につなげようとする発問は、教師に任された大きな可能性を持った発問形態 であると述べている。
武久・小野(2010)は、高等学校リーディング教科書における発問分類を、Type A: 理解 に関わる発問、Type B: 推論に関わる発問、Type C: 解釈に関わる発問という項目で行っ た。具体的にType Aは、テクストに書かれた情報を字義通りに理解することを求める発 問。Type Bは、行間を読むことが求められる発問。Type Cは、テクストから完全に離れ て答えられる発問ではなく、テクストに書かれた内容や表現を手掛かりに答える発問であ る。この分類に基づき、リーディング教科書の、あるレッスンにおける発問の分類を行っ た結果、Type Aの発問の割合が大きいということ、Type BやType Cの発問が不十分で あるということが判った。特に、1つだけあったType Cの発問は、学習者が取り組み易 い内容とは言えず、漠然としたものであったと述べている。
この結果を受け、武久・小野(2010)は、同じ言語教育である国語科の教科書における発 問の状況について分析を行った。使用したテクストは、英語の教科書における分析で用い たものと同じ題材(作品)であった。その結果、上で挙げた3つのタイプごとの比率は、
2:6:2であった。特筆すべき点としては、推論を求められるType Bの発問が多いというこ
とである。また、それぞれの発問は、どのような観点で作成された発問なのかが、発問と 一緒に明記されている。
武久・小野(2010)は、この国語科の教科書における発問分析結果から、英語科における 示唆となりうる点をいくつか挙げている。まずは、3つのタイプの発問を組み合わせる必 要があること。それにより、理解から推論を経て解釈へと、無理なく移行することが出来 る。また、先に述べたように、国語科の教科書における発問には、3つのタイプに相当す るような項目が一緒に明記されている。これを英語科の教科書においても採用することに より、この発問に答える際に、どのようなことが、どの程度まで求められているのかを自
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深澤(2008, 2010)の研究では、異なる5つのリーディング教科書に掲載されている発問 全てを5つに分類した。どちらの研究においても、文字通りの理解を求めるType1の発問 の比率が平均して大きかった。しかし、平成12年度版の教科書を用いた1回目の分析と 比較して、平成19年度、平成20年度版の教科書を用いた2回目の分析では、このType 1の発問の平均が76.2%から50.6%へと減少した。また、個人的な反応を求めるType5の 発問が1回目と比べて2回目で顕著にその割合が増えた。このことは、まだ十分とは言え ないまでも、教科書の内容理解だけに留まらず、そこから、テクストと自分の知識や経験 とを照らし合わせるという活動にまで発展させることが重要であるという意識が高まって きていることに所以すると言える。一方で、行間を読み、推論が求められる発問について は、どの研究結果からも、その量や質が十分ではないことが判った。深澤(2008, 2010)の 研究では、1回目、2回目の分析を通して、このタイプの発問が見られなかった。
それぞれの発問には、それぞれの目的があり、果たす役割は異なる。どの発問が一番重 要というのではなく、ここまで見てきた先行研究においても述べられているように、その バランスが重要なのである。先行研究から分かるように、まだまだ現況においてそのバラ ンスが均等であるとはいえない。武久・小野(2010)は、外国語としての英語教育において は、理解を求める発問を最も多くすべきであるとしている。
本研究においては、クリティカル・リーディング育成のための方略として、発問を取り 入れる。発問のタイプは、①テクストに基づいた発問 ②推論の発問 ③メタ認知的発問
④クリティカル・リーディングに繋がる発問の4つとする。①のテクストに基づいた発問 とは、答えがテクスト内に明示的に示されており、この質問に答えることによって内容理 解が出来るような発問である。次に②の推論の発問とは、テクストに明示的に答えが書か れていないが、テクストの内容を理解していれば、そこから推測して答えられるような発 問、または、書かれている内容からその行間を読み取って答えることが必要である発問。
また、③のメタ認知的発問とは、読んだテクストに対する、自分自身の理解を確認するよ うな発問である。そして、④のクリティカル・リーディングに繋がる発問とは、その質問 に答える際に、自分が持っている知識やこれまでの経験を踏まえて考えることが求められ る発問である。これまで見てきた先行研究における、発問のタイプ(question type)との違