第 3 章 クリティカル・リーディング能力育成を目指した予備的研究
3.2 発問を取り入れた予備的研究
予備的研究として、発問を取り入れたリーディングの授業を行った。発問は、読解中に 自問自答のような形で行うものと、他者から質問をされる形で行うものがある。自問自答 の形での発問は、そのような活動に慣れていない生徒にとっては、活動への取り組みは困 難であると思われる。そこで、ペア同士でお互いに質問をし合うという形を採用すること とした。舘岡(2005)は「協働で行うこと」について、仲間とともに問題解決をすることに よって、読解という頭の中の見えない過程を相手に見える(聞こえる)ようにするという 外化の行為に必然性が生まれるとしている。発問の活動を、対教師ではなく、ペアで行う ことにしたのは、このような理由からである。
このペア活動における相互発問を通して、次の2点を生徒に身につけさせることが可能 だと考える。まず、質問を考えることで英文をクリティカルに読むことが出来る。これは どういう意味なのだろう?作者は、なぜこのような例を挙げているのだろう?など、英文 を読んでいる過程で生じた疑問を、そのまま相手に質問させるようにする。また、もう1 点は、質問を受ける側である。ペアが考えてくれた質問に答えることにより、自分が考え もつかなかった点に気づかされることがある。興味がある箇所はそれぞれ異なるため、質 問の内容も多岐に渡る。質問を受けることで、その自分とは違った点に関心を向けること
74 で、より理解度が深まるのである。
対象者は、県立の工業系高等学校の3年生(79名)である。使用したテクストは、授業で使 用しているリーディングの教科書である。まず英文をそれぞれ読ませ、その後で、内容につ いての質問を考えさせた。質問については、テクストに明示的に表示されている数や値段に ついての質問は避け、ペアがその質問を通してより深く内容理解が可能になるような質問 を考えるように指示した。以下が、使用したテクストである。
The first robot pet dog was sold in June 1999. Despite its high price – 250,000 yen – the first 3,000 robot dogs were sold out in 20 minutes on the Internet. Soon other robot pets in the shape of cats, bears, and seals were made.
Now they are quite popular in Japan and other countries.
Robot pets are not just cute, but also smart and useful. They can express feelings, such as happiness and boredom, and interact with people. Some even have the ability to learn, and do not repeat actions for which they are scolded.
Robot pets are sometimes used in hospitals for robot animal therapy. Many children are reported to have felt better when they saw a robot pet.
Robot pets, however, have some weak points. They run on a battery for only a couple of hours and then the battery needs to be recharged for about the same number of hours.
Most robot pets are still expensive and all their responses are programmed.
No matter how intelligent robot pets become, they can’t take the place of live pets that recognize their owners and show natural feelings and love toward them.
(Powwow English Reading)
英文の内容は、ペット型ロボットについてのものであり、工業系の高校生にとっては、
関心があるものである。先に定義したように、自分の既有の知識や経験と照らし合わせな がら読むというクリティカル・リーディングを行うのには、適したテクストであると考 え、選定した。このテクストを読ませた後、ペアに対する質問を考えさせた。質問の内容 については、先に示した通りである。質問を考え、紙に書き留めさせた後で、それぞれペ
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ア同士で問題を出し合わせた。質問をした方の学習者は、ペアの答えを書き留めておい た。表5が、いくつかのペアの質問と応答である。
表5.1
学習者による質問と応答(ペア①)
質問 応答
1.アイボの1台25万円という高額の 値についてどう思うか。
開発者の血と涙と汗の結晶だと考えれば、安い ものである。
2.第2段落で、ロボットペットの効用 として“利口である”としているが、
プログラムに忠実な行動しか出来ない ことが本当に“利口”なことだと思い ますか。
道徳的に言えば、必ずしも“利口”とは言えない だろう。しかし、いつかロボットにも感情が生ま れたならどんなにか素晴らしいだろう。
3.本物の生き物のような温もりのない 機械に、感情移入出来ますか。
関係ない。どんなものでも愛情をもって接して いればいつの日か、感情移入も出来る。
4.ゴツゴツした機械を抱いたりして、
可愛いいなんて言えると思いますか。
じゃあ、ツルツルした可愛いのにすれば・・・
5.ロボットペットがゴミとして捨てら れている所を目撃したらどう思います か。
嘆かわしいことだ。そのロボットは持ち帰らせ てもらう。
表5.2
学習者による質問と応答(ペア②)
質問 応答
1.最初、ロボットがなぜ3,000台し
か発売されなかったと思いますか。
需要がそれほどないと考えていたから。
2.ロボットのペットは可愛い、賢 部屋を汚したりせず、えさ代もかからないの
76 い、その他にどのような良い点があり
ますか。
で、低コストである。
3.ロボットの値段は25万円ですが、
あなたは、いくらなら買いますか。
5万円
4.ロボットのペットは、充電につい て
など本文以外での弱点は何か考えて下 さい。
外で遊ばせにくい。
5.ペットロボットと、生きているロ ボ
ット、あなたはどちらを飼いたいです か、理由も教えて下さい。
生きている方が良い。なぜなら、生きているペ ットは、色々な反応やしぐさが見られて、温か いから。
表5.3
学習者による質問と応答(ペア③)
質問 応答
1.第2段落と第3段落の関係を述べ なさい。
第2段落では、ロボットの良さを、第3段落で は欠点を述べ、読み手に考えさせる構成であ る。
2.ペットロボットは、今後どうなる と思いますか。
・人間の作り方次第では良くもなると思うが、
あまり発展していくとは思わない。
・更に自然な動きをし、人工の知能をもつ。
3.なぜペットロボットが誕生したと 思いますか。
科学技術の進歩を証明したかったから。
77 4.ペットロボットは、なぜ生きてい
るペットに取って代わることが出来 ないのでしょうか。
ペットロボットの返事や感情はプログラムされ ていて、自然ではないから。
5.ペットロボットは、なぜ作られた と思いますか。
ペットを亡くした主人達が、絶対に死なないペ ットを欲しがったから。
6.こんなペットロボットがいたらい いなと思うもの。
・家事が出来るロボット
・一緒に運動が出来るロボット 7.ペットロボットは、なぜここまで
売れたのか。
ペット禁止の所や、アレルギーを持っていて、
動物が好きな人はもちろん、流行やハードウェ アに興味がある人に人気があったから。
8.ペットロボットは、プログラムで 動いているとありますが、何か必ずプ ログラムして欲しいことはあります か。
電卓機能をプログラムして欲しいです。宿題と かで、大きい7桁数の時大変だから。
9.今後、売れそうなペットロボット のデザインを描いて下さい。
絵で表現
10.ペットロボットは充電の問題があ ると書いていましたが、あなたならこ れをどう解決しますか。
ソーラーパネルにする
11.あなたは、ペットロボットは、ど のような人に必要だと思いますか。
一人っ子やおじいちゃん、おばあちゃん 動物アレルギーのある人
12.ペットロボットは、値段が高いで すが、どうすれば安くなると思います か。
このロボットを専門的に生産する工場や会社な どが増えて、今よりも技術力が上がれば安くな ると思う。
13.電子機械科的に、何の素材が一番 ペットロボットに適していて、且つ丈 夫だと思いますか。
ロボットは“冷たい”“硬い”というイメージ があるので、そのイメージを改善できるような 素材
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質問を考えている途中で、隣のペアを意識して問題を作るようにと指示をしたと、先に 述べたが、上記の質問には各学科の専門分野に関するものがかなり見られる。例えば、産 業デザイン科の生徒は、その素材について電子機械科のペアに質問をする。プログラムに ついての質問を、通信工学科の学習者にしてみる。新しいペットロボットのデザインを、
産業デザイン科の学習者に聞いてみる。このように、自分のペアが誰なのかというのが、
大変重要なのである。自分が疑問に感じたことを考えながら読むことは、クリティカル・
リーディングの大切な方略である。また、質問をされた側は、出された質問について授業 で学習した知識や既に持っている経験と照らし合わせながら考え、応答する。質問をされ るという活動をきっかけとして、自分自身の理解度や自分の知識や経験について内省する ことが可能になる。
これまで述べてきたように、発問はメタ認知的活動を喚起するのに有効な方略である。
これは、発問によって自分自身の読解についての意識を高めることが出来るからである。
しかし、発問といっても様々であり、その質問によって何を引き出そうとしているのかが 重要である。上に挙げた例を見てみると、文構造についての質問や、テクストに書かれて いることについての質問、テクストの内容から推測して答えさせる質問など、多岐に渡っ ている。この活動で用いたテクストは、特に生徒の特性に合ったものであったため、理解 度も高く、質問もしやすかった。この、ペア同士で質問を出し合うことを通して、ペアだ けでなく質問を出す自分自身の理解について振り返るメタ認知的活動が行われた。
この予備的研究での実践において、テクストに書かれていることを踏まえて、推測して 答える質問は、テクストに答えが書かれている質問などに比べて、無回答率が高かった。
更に、テクストの内容に対する自分の意見を答えるような質問への無回答率も高かった。
このことから、テクストに書かれていることと、自分の経験や知識を照らし合わせて、そ こから推測をするクリティカル・リーディングに繋がる質問に学習者が慣れていないこと が判った。