XVII. 三洋電機株式会社殿訪問インタビュー調査報告
2. PEFC の開発状況について
(1) PEFCの開発ターゲット
① PEFC は低出力領域でエンジン系と比べ高効率であるため(図 XVII-3),十分に競争 できる分野であると考え,現在の出力ターゲットを 10kW以下(図XVII-4)として いる。具体的には家庭用で1kW,業務用で5kW前後が狙いと考えている。
② 将来的には,自動車動力源用燃料電池の開発も視野に入れるが,自動車用は使用条件 が過酷で価格要求も非常に厳しく,当面は10kW以下の家庭用や業務用,携帯機器用 といった分野で基礎的な技術や実績を積む。都市ガスの改質系をやっていれば純水素 にも応用可能であり,純水素も以前経験があるため,直接水素形も守備範囲内にある と考えている。
③ 過去には全種類のFCを開発したが,現在は事業化につながるものとして,PEFCに 注力している。
図XVII-3 出力と発電効率の関係
図XVII-4 燃料電池の種類と利用形態およびターゲット
(2) 家庭用PEFCシステムに関する研究開発状況 1) PEFCシステムの概要
① モデル住宅の電力消費データから(図XVII-5),当社としては750Wを定格(最大)
出力として取り組んでいる。現在,各家庭に合った最適な運転方法を鋭意検討してい る。
② 現在の都市ガス用1kW級家庭用PEFCの仕様(図XVII-6)は,発電効率は35%以上,
熱回収効率は45%であり,1kWの家庭用PEFCシステムとして概ね目標値を実現し た。湯切れ防止用に加熱器を搭載している。
③ 家庭用システムの燃料としては,都市ガスとLPGの両方で開発しており,燃料改質装 置は,都市ガス用は大阪ガスからの購入品,LPG用は新日本石油との共同開発品の2 種類がある。
④ 燃料電池スタック,電力変換装置,制御基板等は自社開発であり,制御やパッケージ ングも当社が行っている。
⑤ セパレータは材料メーカから購入している。MEAは膜や触媒といった素材は購入して いるが,電極化や MEA 化は自社で行っている。ポンプやブロア等の補機類は購入し
図XVII-5 モデル住宅における電力需要
2) 燃料改質装置
① 燃料改質装置は,平板形(大阪ガス)と円筒形(新日本石油共同開発)の両方を採用 している。現在は,平板形を都市ガス用,円筒形をLPG用と使い分けているが,将来 的にはどちらか一つにしていく予定である。平板形は起動停止に伴うヒートサイクル に弱い傾向があるためどちらかといえば連続運転に向いている。一方,円筒形は膨張・
収縮の耐性が高いため,起動停止のある運転に向いている。それぞれに長所と短所が ある。
② どちらのタイプも,窒素パージなしで問題なく運転可能であり,従来に比べて性能は 向上している。フィールドで耐久性が確保できるかどうかを確認している段階である。
③ 耐久性を上げるため貴金属触媒を用いており,それが高コストの要因の一つとなって いる。コスト高の要因の一つは,ロットが少なすぎるため十分量産効果が発揮されて いない点にある。また,改質器自体をいかに安く作るかという製造技術にも課題があ る。
④ 改質装置は補機との関連が大きく,補機が乱れると,ガスの組成が乱れ,スタックに 負担がかかる。スタックのCO被毒耐性の向上も考えられるが,改質側でCOをでき るだけ抑えたほうが得策と考えている。最終的にはコストの安いところで折り合いが つくと考えている。
3) MEA
① MEAに関しては,本当の劣化の要因が全て明らかになっていないことが問題である。
一昔前は電解質膜に関する問題がネックになっていたが,現在は非常にタフになって きている。現状では電極で起こる劣化メカニズムがよく分からないことが課題となっ ている。今後は,フラッディングや COの被毒問題を重視していく必要があると考え ている。
② 炭化水素系の膜は,コストのハードルを越えるための一つの材料としてみているが,
定置用の 4 万~9 万時間という要求に対してはハードルが高いと考えている。今のと ころはフッ素系の膜に限定している。
③ 拡散層についても,その構造が耐久性に影響するため,検討を行っている。課題とし ては,高コストなことである。現時点では比率がそれほど大きくないので優先順位は 一番ではないが,将来的には重要な課題である。定置用PEFCが1万台や10万台普 及したとしても量産効果による大幅なコストダウンは難しいと考えられる。
4) セパレータ
5) 補機類
① 補機類のコスト削減は重要な課題である。家庭用 FC は非常に微妙な流量バランスで 成り立っている。1kWの出力に必要な流量は非常に少ないため,その範囲の調整は非 常に難しく,特殊機器が必要となり,高価な補機を使わざるを得ない。補機類のコス トは現状では全体の4割程度を占めている。例えば,ターンダウンなどで流量制御が 乱れると,改質器の性能が乱れ,ガス組成が乱れる。その結果,即寿命に影響するた め,十分な性能のものが要求されている。
② 現在使用している補機の耐久性については, 1~2 万時間は保証されていても,それ 以上の5~10年の保証はされていないのが現状である。
6) その他耐久性等の課題について
① 耐久性の向上はイコールコスト低減につながる。最低限まずは5年,最終的には少な くとも10年にしなくてはならない。そのため,現状は出力特性よりも耐久性,コスト ダウンを重点的に考えている。しかし,定置用の本当の意味でのメリットを出してい くためには,高効率性は重要になるため,長期的には効率の向上も進めていく。
② 現在ではセルスタックの耐久試験において1万時間は到達できるようになってきてい る。劣化要因が急速に解明されてきているので,耐久性の進歩は大きい。そろそろ 3 万~4万時間の目処が立ってくると考えている。
③ ただし,新しい材料やMEAを開発しても耐久性の評価ができるのは少なくとも1年 先になる。そのため,加速評価法を開発する必要があり,現在NEDOプロジェクトに おいて取組みが行われている。
④ 現時点では,連続運転で9万時間とDSSで4万時間のどちらの方が難しいかは明言で きないが,最近では,以前ほど起動停止が運転条件として厳しくならなくなってきて いる。
(3) 家庭用燃料電池導入による経済的メリット
① FC とガス給湯器,エコキュート,エコウィルの使用エネルギー量を比較すると,FC はかなり魅力のあるものとなる。ただし,コジェネで動かすことがポイントになり,
メリットを最大に引き出すためには,温水の利用が重要になる。
② 耐用年数は10年と想定し,FCの経済メリットを既存の給湯器と比較すると,燃料電 池が50万円で導入されたならば,大体5年で全自動給湯器(25万円)の場合と同等 になる。今は,燃料電池は数百万円しているが,現在のターゲットである50万円まで コストダウンできれば, 5年目以降はすべてメリットとなる(図XVII-7)。
③ 電機工業会でも,経済的なメリットと環境的なメリットを足し合わせて,電気代とガ ス代を比較すると,年間4~6万円節約できると発表している(図XVII-8)。
図XVII-7 家庭用FCのユーザーメリット
図XVII-8 FC導入による経済・環境メリット
(2) その他の実証試験について
① ガス協会の定置用燃料電池ミレニアムプロジェクト(平成12~16年度)に参加した。
出力1kW級,燃料は天然ガスである。
② 岩手県葛巻町で,牛の糞尿をメタン発酵させ,メタンを改質して水素を作りPEFCを 動かしている(図XVII-9)。農水省の補助金で,2001年からの5年間のプロジェクト であり,今年度で終了する。こうした実証プラントが連続で稼動したのは世界で初め てと思われる。バイオメタンの改質については,さまざまなメタン濃度で問題なく発 電できることを確認しており,現在は経済的な運転方法の検討段階にある。
図XVII-9 岩手県葛巻町バイオガス発電プラント(農水・生研センター)
(3) 産官学連携NEDOプロジェクト(定置用)
産官学連携NEDOプロジェクトには表XVII-1の4つに参画している。
表 XVII-1 参画しているNEDOプロジェクト PEFC セルスタック劣化
解析プロジェクト
寿命の劣化加速手法の開発が目的で3年間のプロジェクト。
リーダーは京大の小久見先生。
定置用ロバスト プロジェクト
膜メーカ,システムメーカ,エネルギーメーカの垂直連携プ ロジェクト。MEA のタフネスさを上げ,FC が少々ラフな ところでも運転出来るようにするのが目的で,5年間のプロ ジェクトと考えているが,3年間で中間評価の予定。
定 置 用 改 質 系 触 媒 プ ロ ジェクト
低コストで起動停止を伴う耐久性に優れた改質系触媒の開 発が目的。評価手法および起動停止方法の開発を行い,開発 触媒をその評価手法を用いて評価し改質器全体の低コスト 化を図る3年間のプロジェクト。
定置用補機 プロジェクト
メーカと情報を共有化し,標準仕様の安価な補機を開発して 低コスト化を図るのが目的。3年間のプロジェクト。