VI. 株式会社本田技術研究所殿訪問インタビュー調査報告
2. FCV の要素技術・システム技術の開発状況について
(1) スタック
1) スタック技術全般について
① 「Honda FCスタック」の開発コンセプトは,①小型・高出力化,②量産ポテンシャ ルとして将来的な低コスト化の方向性が示せること,③環境適合性の向上,の三つを 掲げてきた。その鍵となる技術が金属セパレータとアロマティック電解質膜(芳香族 系ハイドロカーボン膜)である。
② 量産ポテンシャルについては,より一般材に近く,生産性やリサイクル性を考慮した 材料として,セパレータに金属を採用し,電解質膜にはアロマティック膜を採用した。
今後も金属セパレータとアロマティック膜の組み合わせで開発を進める方針である。
③ 容積出力密度,重量出力密度で見ると,FCX-V3に搭載したカーボンセパレータベー スの旧スタックに対して2倍以上の出力密度アップに成功している(図Ⅵ-1)。
④ 以前のスタックでは,面圧を均一にするため皿バネを使っていたが,新構造ではシー ルを一体成形した金属セパレータを用い,セパレータのバネ性を利用して,積層した セルをパネルで囲むだけのシンプルなスタック構造とした。こういった単純な形態に することで,部品点数を2分の1にすることができた。
⑤ 今後の目標は,車両への搭載性を向上させ,自由度のある車載ができるようにするこ とである。一方,スタック小型化はガスの流れを悪くするなどの問題があり,そうし た弊害の解決と,耐久・信頼性の向上,材料を安くしながら部品点数を減らしてコス ト低減を図ることなどに取り組んでいく。
⑥ 東京モータショーで提案したV Flow FCプラットフォームは水素と酸素を垂直に重 力方向に流すというもので,スタックの小型化にもつながるコンセプトである。
⑦ 低温始動の目標はガソリン車並みのマイナス30~40℃程度を目指している。
⑧ 車の耐久性の目標として5千時間と言われるが,数字にとらわれるのではなく,リア ルワールドで使われるものに対してどう評価していくかが課題であると考える。その ため,車をリースして市場での利用データの収集に努めている。
2) 電解質膜・セパレータについて
① セパレータについては,カーボン製より金属にした方が小型化,低コスト化には適し ていると考えた。一方,電解質膜は,とくに高温・低温で発電が可能であり,かつフッ 素系の様な製造プロセスの複雑性を回避可能と考え,アロマティック膜(芳香族系ハ イドロカーボン膜)を検討してきた。
② アロマティック膜の良いところは,高温も低温も性能が出ることである。その理由は アロマティック(芳香族)構造の主鎖にイオン交換基(SO3-)を従来のフッ素系電解 質膜よりも増加させ,イオン交換容量を大幅に増大させることができた点にある。そ の結果,膜抵抗を約 1/2 に低減でき,氷点下においても電流を取り出し続けることが できた(図Ⅵ-2)。
③ また,高温の部分は95℃まで発電できるが,80℃で使用すればさらに耐久性は向上す る(図Ⅵ-3)。
④ ハイドロカーボン系膜は,もともと強度的に有利であるが,化学的安定性は問題が大 きいと言われていた。そこで,化学的安定性の向上に着目して,サプライヤーと共同 開発を行い,ポリマーの分子構造を含めて検討を行った結果,このアロマティック膜 を開発することができた。今後もさらなる向上を目指していく。
⑤ アロマティック膜は,エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の延長線上にある と考えている。フッ素系膜ではフッ酸を使う処理が必要となり,生産プロセスが複雑 になる。その観点からもアロマティック膜のコストポテンシャルはあると考えている。
⑥ 金属セパレータについては,一般的なプレス技術で成形できることやリサイクル性に 優れているなど将来のポテンシャルが高いと考えている。
⑦ また,金属セパレータは薄く成形できるため熱伝導性が高く,その結果スタック全体 の暖機特性が向上し,低温始動性に優れているという利点がある。
⑧ スタックの耐久性については,数千時間のテストは行っている。しかし今後は,市場 における車の使われ方を考慮した場合の相関性について,十分なフィードバックが必 要だと考えている。
図 VI-3 高温性能の向上(左)と高温耐久性の向上80℃(右)
(2) 水素搭載技術について
① 水素貯蔵については,高圧化もひとつの手段であり,容積を小さくできる。しかし,
重量増加や高圧化による Well-to-Wheel総合エネルギーの悪化,CO2排出量の増加と いうマイナス面がある。さらに,水素脆性の問題もあり,安全性の担保等を踏まえる と,高圧化は慎重に進めるべきと考える。また高圧化タンクは,35MPaタンクも同様 だが,ハイグレードなカーボン繊維を用いるためコスト低減に対する課題もある。
② 水素貯蔵量の当面の目標は5kgであるが,現状では3.75kgである。70MPaでは5kg 搭載するためには容積130L,重量150kg程度になり当社の目標には達しない。
③ 解決手段のひとつとして,吸蔵材料とのハイブリッド型のタンクに期待している。物 理的に水素を小さくして詰め込むには限界があり,化学的な方法と組み合わせること が必要である。
④ 70MPaはタンクのみならず,ステーション側にも様々な制約が出てくる。充填時の昇 温を抑える方法としてプレクールなのか,他の方法なのかなど,インフラ側とタンク 側で考え方の整合を図っていく必要があると考えている。まず,35MPaでの現状を整 理して,議論する必要があると考えている。その上で,どういうステーションが最後 にあるべき姿で,70MPaだと何が問題で,どういったツールが必要であるかなど現状 をベースに整理していく必要がある。
⑤ 自動車側とステーション側との通信については,自動車側の安全については,自動車 側で守るべきだという考えであり,「70Mpa には通信が必要」と言った短絡的な考え には疑問が残る。
⑥ 今後これらについて,FCCJや第2期JHFCの中でひとつずつ議論していくべきと考 えている。
(3) WtWエネルギー効率等について
① 「Honda FCスタック」搭載のFCXの車両効率(アメリカEPAのLA-4モード走行 時)は,55%を達成しており旧モデルの45%に対して10%程度向上した。目標効率は 60%と考えている。
② CO2排出量は,天然ガス改質水素を利用した場合 FCV は既存ガソリン車の4 割程度 となる。FCV普及においては,CO2排出量の低減に向け,今後水素製造部分の議論が 必要だと考えている。
(4) 重点開発項目
① 重点開発項目は燃料電池スタックの耐久性,信頼性の確保である。とくに電圧が経時 的に低下してくるという問題がある。
② 電圧低下には以下の様な要因などが考えられている。
・ 触媒のシンタリングと移動
・ 電極の電位が高くなることによる,触媒担体の腐食
・ 電極層と電解質膜との剥離
・ 不純物による汚染
③ 上記のような現象が起こる原因としては,車の加減速による水素不足での発電,電位 が高いことによる担体腐食,触媒腐食,大気中に含まれるコンタミによる影響などが 考えられる。
④ このような問題に対して,現象を解明するとともに,その問題を1つずつ着実に解決 していく必要がある。
⑤ また,白金を使う前提で考えれば,少なくとも白金量を現在の1/10にする必要がある。
現在の車を全てFCVでリプレースすることを想定すると,現状の内燃機関車並みの1
台2~3gを目標にするか,あるいは他の材料にしなくてはならないと考えている。
⑥ FCVでは,スタックの品質管理も大きな課題である。通常車両搭載のスタックでは,
セルを 200~500 枚程度直列に積層するため,1つのセルの異常が致命的となる。そ のため,品質保証と耐久性の向上が重要である。例えば,FCV車両が数千台になると セル数は数百万セルになるため,部品点数を考えると,6ナイン(99.9999%)以上の 品質保証が必要とされる。生産から組み立てまで現状の内燃機関とは,桁違いの品質 精度を担保しなければならない。
(5) 今後のFCVのコンセプトと全体システムについて
① 今後の FCスタック開発の方向性として,東京モータショーで V Flow FCプラット フォームを提示した。(図Ⅵ-4)このコンセプトは水素と酸素を垂直に流すというもの で,生成される水を重力を使って落とそうという発想である。水があると,氷点下に 対してのダメージ等,始動性の問題が起こりうる。また,スタックをひとつにするこ とにより,パッケージのしやすさにも繋がる。
② V Flow FCプラットフォームは,高効率とコンパクトを追及した以下の3つのVが Keyとなっている。
・ Vertical:水素と酸素を上から下へ垂直に流す
・ Vertebral:背骨みたいなセンタートンネルにFCシステムを配置する
・ Volume-efficiency:効率の高いパッケージング
③ 従来の床下に配置するシステムだと,キャビンが高くなり,SUV的な車両にならざる を得なかったが,V Flow FCプラットフォームでは乗用車同様の低床レイアウトが可 能となる。
図 VI-4 東京モータショーに出展したV Flow FCプラットホーム(ホンダHPより)