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図 1‑3

コンビュータシステムの構造

学習指導要領で示される学翌内容はアプリケーションソフトウェア、教師の指導力及び 学習活動の主体である子どもの力が08、一人ひとりの子どもの基礎的人間力を BI08とし

よう。このように置き換えると、土台となる BI08の部分が安定していることにより学校 教育が安定的に機能していると捉えることができる。このことを逆から考えるならば、子 どもの基礎的人間力の「育ちそびれjは、学校教育がうまく機能しない大きな原因となっ ていると理解することができるのである。つまり、子どもの基礎的人間力は社会性の基盤 であること、子どもの基礎的人間力は現実の中で養成され机

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の理論だけでは学べないが ゆえに、子どもの基礎的人間力の養成は、学校教育においても意図的計画的に取り組むこ とが必要なのである。

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節 子どもの基礎的人間力の類語

人間としての最も基礎的な力は、与えられた生命を全うすること、 1換えれば、生き 抜くことにある。正岡子規は、「禅の悟りとは、どんな状況にあっても死なないことである ことJ23)であると言ったが、この言葉は、生まれたからには「したたかにJ

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しなやかにj

生きよというメッセージであるが、この際、生きることの意味は、ただ本能による生存欲 求(生物としての身体機能を維持すること)に止まらず、人間らしく生きていくことにあ る。人間として生きるためには、どうしても{患者と適切に関わることのできる力が必要で、

ある。他者と関わるためには、他者を信頼し、他者を頼り、時には他者に助けを求めるこ とができるという依存も含まれるO そもそも人間がただ1人で生きていくことは難しい。

人間社会では、誰もが相瓦依存を必要としており、また、人間には、所属する集団が必要 である。この点において、人は、自分が所属する様々な集団の中で社会化されていくこと が必要であり、社会化の過程で集団と関連づけられながら社会的自立をしていくのである。

本論文では、子どもの基礎的人間力を養成する教育について論じているが、用語として は「基礎的人間力Jという を使用している。次に、この「基礎的人間力jに関係した 類語として「人間力J

r

人間基礎力J

r

社会人基礎力J

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社会力Jについて考察しておくO

1 .人間力

どもの学校教育に関係する「生きる力J24)が行政文書や教育用語として普及するととも に、次のように「人間力Jをタイトルに含む行政の報告書や一般国書が散見されるように なった。

‑内閣府人開力戦略研究会「人間力戦略研究会報告書 若者に夢と目標を抱かせ、意欲 を高める 信頼と連携の社会システム'"'‑'J (2003年)

‑市川伸一『学力から人間力へ』教育出版 (2003年)

・鳥越俊太郎『人間力の磨き方』講談社 (2006年)

・有菌格下人間力 j を育む学校づくり~地域に信頼される学校を目指して'"'-'~ぎょうせ い (2006年)25) 

‑社会経済生産性本部『企業が求める人間力』生産性出版 (2006年)

・鍵山秀三郎山本一力『人間カを養う生き方』致知出版社 (2007年)

-社会経済生産性本部『企業が求める人間力 2~ 生産性出版 (2007 年)、

ここに挙げた「人間力Jは、日常会話で使われる「人間味」、「人間性J、「人間らしさJ

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と異なり、個々人が有する力として捉えられている。「人間力Jをどうとらえるかにつ いて、内閣府「人間力戦略研究会」座長の市川伸一は、次のように説明している。

「文部科学省は、近年の教育改革の中で、自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」

という理念を提唱してきた。「人間力j とは、この理念をさらに発展させ、具体化したも のとしてとらえることができるO すなわち、現実の社会に生き、社会をつくる人間をそ デルとし、その資質・能力を「人間力」として考えるO 本委員会の採用した人間力の定 義とは、「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人聞として力強く生きていく ための総合的な力Jということになるん「この定義は、多分にあいまいさを合んでいる。

しかし、私たちは、人間力という概念を細かく厳密に規定し、それを普及させることを この研究会の使命とは考えていない。人間力という用語を導入することによって、「教育 とは、何のために、どのような資質・能力を育てようとするのか」というイメ…ジを広 げ、さらにそこから兵体的な教育環境の構築が始まることにこそ意義があるのであるJ

上述のように市川が示した「人間力Jの定義と意義は、「生きる力Jと緊密な関係にあ る。また、「人間カ」の考え方は、その後のキャリア教育で育成する主要能力(人間関係 形成・社会形成能力、自己理解・自己管理能力、課題対応能力、キャリアプランニング 能力)や、第3節で後述する「社会人基礎fJJにおいても、子どもに身につけさせるべ き能力目標として引き継がれている。この意味において、本論文が目指す子どもの基礎 的人間力の養成と目指す方向が似ている側面がある。

2. 人間基礎力

「人間基礎力Jについて、 CiNiiでは2本の論文を検索することができる (2012年3月 現在)。それぞれ、どのように捉えているのかについて、述べる。

茂虫 (2000年)26)は 大学の会議で出された議論をふまえて大学生には「社会の一員と して生きていくために基本的に其備すべき能力Jが必要で、あるが、「そのような能力は、本 来、幼少時から、人間の発達過程で自然に身につくものであるが、少なからぬ学生が、必 ずしも十分に具備されないまま大学に入学してくるjことを挙げている。また、茂虫は「人 間基礎力jを次のように説明している。「具体的には、忍耐力、;意思伝達力、折衝力、協調 性、決断力、適応力、行動力、リーダーシップなどJoまた、「人とともに生きる力JI事柄 を達成する力JI予想外の事態にも耐える力JI置かれた環境を変える力J等、多様な力の 総体として捉えている。そして、 f学生が f人間基礎力」をつけるための営みこそ、「教育J

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そのものであるj とむすんでいる。

常松山は、キャリア教育との関連の中で、「人間力J、「社会人基礎力」、「学士力」等を挙 げた上で、社会の求める「力Jを視野に入れた f人間基礎力」の醸成について論じている。

ここでは、キャリア教育の目的を「人間基礎力jの樹養と捉えている。

以上の2つの論文を踏まえて、本論文で問題としている子どもの基礎的人間力と「人間 基礎力Jの差異について整理しておく。

「人間基礎力」は、社会へ出る前の大学生を対象として論じられているが、本論文にお ける子どもの基礎的人間力は義務教育諸段階の子どもを対象としているO つまり、子ども の基礎的人間力とは、これまで論じたように子どもの社会性の基盤となる能力であるO こ のような対象の違し、から「人間基礎力」では、「社会の一員としての能力Jや「社会から求 められる力jを、その主要な能力としてあげている。これに対して、本論文における子ど もの基礎的人間力は 子どもから大人へと発達していく途上に於いて養成していくことが 必要な資質能力の総称である。そのために、子どもの基礎的人間力の養成を具体的に学校 教育の中で、担っていくことを研究の自的としているが この点が大学生を対象として使わ れている「人間基礎力」との大きな違いである。

3.社会人基礎力

経済産業省は、「社会人基礎力J28) 

( A p p e n d i x  1  ‑ 3 )

として

3

つの能力及び

1 2

の能力要 を示している。 3つの能力とは f前に踏み出す力(アクション)J 

r

考え抜く力(シンキ ング)J 

r

チームで働く力(チームワーク)Jであり、

1 2

の能力要素は、「主体性

r

働きかけ 力J

r

実行力J

r

課題発見力J

r

計画力J

r

創造力J

r

発信力J

r

傾聴力J

r

柔軟性J

r

情況把握 力J

r

規律性J

r

ストレスコントロール力」である。これらの諸能力は、学校のキャリア教 育で育成する主要能力(r人間関係形成・社会形成能力J

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告己理解・自己管理能力J

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課題 対応能力J

r

キャリアプランニング能力J)や、日本経済団体連合会の調査結果 29)に示され た社会(企業)から求められている能力と重なる点も多い。

「社会人基礎力」に関して、粛藤30)

( 2 0 1 1

年)は、小中学校の教師は「社会に出す子ど もを育てるという観点Jを必ずしも意識していないことを指摘している。

しかしながら、「社会人基礎力Jの実際31)を調べていくと、企業からの人材要詰の観点(企 業論理)が色濃く反映されており、必ずしも小中学校の教育に合致するとは言えない側面 が見られる。

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生徒指導の究極的なねらいが「自己指導能力の育成J32)にあるように、義務教育のねらい には「社会的自立Jを挙げることができる。このねらいに即して、子どもの基礎的人間力 を怠識して養成していくことが、これからの学校教育にはt必要である。

なお、キャリア教育では、「社会的・職業的自立、社会・職業への円滑な移行に必要な力J の要素を整理したうえで基礎的・基本的な知識・技能と、専門的な知識・技能を示してい るが、 f基礎的・汎用的能力」として、「人間関係形成・社会形成能力J I自己理解・自己管 理能力J I課題対応能力J Iキャリアプランニング能力jを 挙 げ て い る 人 間 関 係 形 成 ・ 社 会形成能力」を例にすると、コミュニケーション・スキル、チームワーク、リーダーシッ プ等の具体的な能力要素を示すことで、学校教育において「基礎的・汎用的能力」を子ど もに身に付けさせるように求めている。ここに示された能力には、本論文で問題としてい る子どもの基礎的人間力と重なる力も多い。

4.社会力

社会性に類似する用語に「社会力jが使われることがある。この「社会力」と社会性と の相違について、以下、整理する。

尾 木

( 2 0 0 0

年)33)は、現在の日本の子どもについて「人間としての基礎力である「社会 力J(門脇厚司)を f喪失j してきている」と述べ、「人間としての基礎力Jが社会力であ るとしているO

この「社会力Jとしづ言葉を考え、世に広めた門脇

( 2 0 0 1

年)は、「社会力jについて次 の よ う に 定 義 し て い るo 社 会 を 構 成 す る 一 市 民 と し て 積 極 的 に 社 会 に 関 わ っ て い く 力 capability of citizenship J 34)、「社会を作り、作った社会を運営しつつ、その社会を絶えず 作り変えていくために必要な資質や能力J3針。ここに示したように、「社会力jは、学校教 育を超えた地域社会の教育力再生のための力である。この意味において、「社会力」は、本 論文で対象としている子どもの社会性よりも上位の力であると捉えることができる。

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