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第 2 節 子どもの問題行動の変化の背景
1 .保護者の変化
( 1 )保護者の変化の状況
前節において筆者が実施した調査結果に示したように、小中学校の教師が児童生徒の 指導に国難や限界を感じる背景には、保護者の変化がある。本項では、教育現場では保 護者の変化をどのように捉えているのかについて、筆者が実施した調査結果および経験 した教育臨床における事例に基づき、教師が問題だと考えている保護者について整理す る。
①
2002
(平成1 4 )
年の本調査結果(17
・2 1
頁参照)本調査結果は、既述した埼玉県の小中学校教師から見た教育困難状況の実際におけ る「指導困難さの要因Jに記された「保護者Jに
5
号する内容を KJ法により分類整理し たものである。保護者に関する回答の出現率は30.09%
であった。次に、1 0
に分類した 内容を示す。ア)過保護、自己中心的、自分よがりの考え、他人への注文が多い
イ)基本的な役者jを果たせない親が増えている、親が親になりきっていない ウ)けじめ・しつけ不足、家庭教育力不足、親の愛情の希薄化、親のモラルの低下 エ)学校不信、教師・学校批判
オ)価値観の相違、学校に求めるものが多様化、教育方針の対立 カ)学校・子どもへの関心が薄い、親が忙しすぎて余裕がない キ)子どもの実態から目をそむけている
ク)複雑な家庭事情が多い、離婚する保護者が多い、親の経済的問題 ケ)医療機関での治療がt必要な保護者
コ)子どもを指導しでも、子どもの問題行動の改善が見られない家庭が増えている 上の
1 0
分類の内容は、すでに1 0
年前に親の問題状況について、現在の教育現場で は広く認識されるようになってきている状況が示されている。・
2 9
耐②事例
調査結果には、様々な観点から保護者の変化36)があげられているが、このような保 護者の変化と関連して、当時学校では、すでにこれまでの教師の価値観では理解しづ
らい苦情や理不尽な要求をしてくる事例が増えてきており刊、また、最近の保護者と の連携は難しいという意見が多く聞かれるようになっている。具体的には、次のよう な事例が見られる。
ア)子どもが問題行動をおこしたことを家庭に連絡をすると、その子どもが家庭で親 から暴行を受けてしまうために通報することに臨時せざるを得ない
イ)問題行動を起こす子どもの親と対応をしていると、親が逆ギレして、教師や学校 に理不尽な言いがかりつけてくるので気が重い
ウ)子どもの問題行動による被害者の親が、学校に事前の連絡や相談をすることもな く誼接に行政機関(市町村ならびに都道府県教育委員会)に苦情を訴えるケースが 後を絶たない
エ)子どもの部題行動の加害者の殺が、我が子の行動を正当化して絶対に非を認めよ うとしない
これらは、ほんの一例であるが、現在では、もはや特異な事例ではなくなっているO
( 2 )
保護者の変化についての考察ここでは、筆者の経験した教育臨床における事例ならびに新聞記事などから、近年の 保護者の価値観の多様化の実態や、学校教育との連携および協力的な関わりが難しくな
ってきた状況について考察をしておくO
①保護者が育ってきた時代的背景
このような保護者の言動を理解するためには、保護者が育ってきた時代背景を押さ えておく必要がある。諸冨 38)は、今の保護者を3つの世代に分け、それぞれの特徴を 次のように説明している。
ア)比較的教師に協力的な「山口百恵世代J(1978年以前に忠、春期を過ごした世代) 他人との協調精神に富み、学校や教師を信用する
イ)個人主義で自己中心的な「松田聖子世代J(1978年以降に思春期を過ごした世代) はっきりと自己主張する反面 とても傷つきやすい
ウ)脱力世代ともいう「浜崎あゆみ世代J (2000年前後に思春期を過ごした世代) 何不自由なく育ったため我慢を知らない
剛 30剛
このような世代論をステレオタイプ的にそのまま受け入れることはできないが、
1 9 9 0
年代以降の子どもの問題行動を保護者との関連で考える手がかりにはなる。現在
( 2 0 1 2
年)、4 0
歳代の保護者は、中学校を中心とした校内暴力が多発する時代 に児童生徒期を過ごしている。そのために保護者の一部には、教舗に対しての不信感 や敬意の欠如がある。もう少し若い世代の保護者で、バブル経済の時期に社会人とな った場合は、教師に対する社会的評価を低く見る傾向がある。また、バブツレ経済が崩 壊した時期に社会人となった場合は、自己の不安定な職業の立場から社会的に安定し ている教職自体に厳しい見方をする傾向がある。また、現在の教育社会学的分析から は、「教育Jを「商品」と見なす社会的風潮が1 9 9 0
年代より起こり、保護者の過剰な 消費者意識は、 よりよいサービス"、 より高品質なサービス"が自分の子どもに提供されることを、当然の権利として要求するようになったとしづ指摘39)もある。
②理解しがたい苦情や理不尽な要求をしてくる保護者
現代の日本では、全国的な都市化の進展に伴い、核家族化や1人世帯の増加ととも に人間関係が希薄になって、地域社会がうまく機能しなくなっているO それぞれの家 庭は、地域社会としづ緩衝材を失ったために、子育てに関する責任が重くなっており、
その結果、子どもの問題を恰も自分自身の問題であるかのように捉えてしまう保護者 が年々増えている。さらに、教師との信頼関係、が構築できずに、教師に対して攻撃的 な態度をとる保護者が目立つようになっている。この結果、近年教師には、多くの精 神的負担がかかるようになり、経験年数とは無関係に精神疾患によって病気休暇に入
る教師の割合が増加の一途を辿っている 40)。
一時マスコミでは、「モンスターベアレンれという和製英語を見出しとして様々な 報道を行った41)。「モンスターペアレントJとは、学校に対して自己中心的で理不尽な 要求を繰り返す保護者を意味しているO この「モンスターベアレント」を番組名とす るテレピドラマ42)が
2008
年に制作されたことで、その名称と実態が社会に広く知られ るようになった。しかし、「モンスターベアレンれという表現については、百定的な 意見もあり、公的に認められた用語ではないので、この用語の使用には注を要する。「モンスターベアレントj と称される保護者について、尾木 43)は次の5タイプに分 類している。
ア)学校依存型
本来は家庭でやるべき しつけ"や雑事を学校に依頼してくる保護者
暢 31・
イ)自己中心型
すべてを 自分の子ども中心"に思考する過保護および過干渉な保護者 ウ)ノーモラル型
社会一般の常識と非常識の区別がない保護者 正)権利主張型
自分の要求を通すために法律や権利を全面に打ち出す保護者 オ)ネグレクト型
自分の子どもに無関心、子育て全般的に放任状態の保護者
尾木は、上述の5分類についての事例を挙げているが、それらを参照しながら、
者が経験した親の代表的な事例を次に示す。
ア)子どもが配布物や連絡帳を渡さないと教師の指導のせいにする イ)我が子を手厚く支援するために、我が子担当の教師配置を要求する
ウ)特定の児童生徒を指名して出席停止を求める エ)通知表(通{言葉)の評定に不服だと執劫に抗議する
オ)遅刻を繰り返すのは担任が迎えに来なし1からだとクレームをつける カ)子どもが公共物を破損しでも反論して非を認めない
キ)子どもが万引き等の犯罪をしても学校に責任転嫁をしてくる
これらの事例には、学校に対して理解しがたい苦情や理不尽な要求を執劫に繰り返 す保護者の実態、が如実に示されている。また このような事例は現在では特殊なもの ではなくなり、全国的に起こっていることから、今後の学校運営においては、子ども の指導と切り離せない大きな開題となっているのである。
③家庭の変化と子どもの育ち
子どもが基礎的人間力を獲得する広義の学習は、模倣である。最も身近にあるモデ ルは、通常は両親であるが、近年では家庭の教育力が低下してきているため両親がモ デルの役割を果たせない状況が見られる。以下、筆者の経験した事例を挙げたうえで、
家庭の教育力について考察する。
ア)担任が子どもの欠席確認のために家庭に電話連絡をしたところ、母親は自分の どもがベッドの中にいることに初めて気づき、「まだ寝ているようです...Jと悪 びれる風もなく応対する(無関心家族)
‑32・
イ)旅行料金の割引率の高い時期にあわせて家族旅行に出かけるために、子どもを 公然と平日に学校を休ませる(モラルの欠如)
ウ)深夜(時には明け方)まで家族で居酒屋やゲームセンターで遊ぶ(友だち家族) エ)育児を放棄して子どもを放任する(ネグレクト)
これらの事例は、現在ではどこの学校でも起こっている。また、社会全体が深夜化 している影響を受けて、朝食抜きの子どもが
g
立つようになっている 44)。このように、人間の生活基盤である衣食住としづ基本が乱れている家庭の増加に伴い、基本的な生 活習慣が身に付いていない子どもが増加しており、このような家庭の変化に伴って、
人として生きる根幹部分を形成する基礎的人間力が養成されていない子どもが増えて いるのである。
2. 家庭・地域社会における子どもの宵ちの変化
現在の家庭・地域社会における子どもの育ちの変化について、以下、「家庭生活の学校化j
「地域における異年齢集団活動の消滅JI社会の変化jの3点を挙げる。
( 1 )家庭生活の学校化
①子どもの多忙化
既述のように、現在の子どもの放課後の過ごし方は、毎
n
が過密なスケジュールで 埋まっていることも珍しくはない45)。子どもによっては、学習塾、習い事(ピアノ、習字)、スポーツクラブ(水泳、球技、体操、ダンス)などで、まったく自由な時間が ない生活をしている子どももみられる。このように、告白な時間がないために、多く の子どもが結果的に友だちと遊べない状況が生じている。
②家庭の学校化
現在の家庭では、例えば母親が、「今回のテストは何点だ、った(できたの) ? J、「今 日は、何を教わったの?J、f今日の0 0は上手にできた?J、「今日の試合は勝ったの?J などと子どもに尋ねることが多く、子どもの行動がすべて学校と同一の基準によって 評価される傾向がある。このように、現代の家庭は、子どもにとって安らぎの場では なく、学校を補完する教育機関となり、家庭の「学校化」の状況がある。
極端な例では、 面(受験に必用な科目の勉強)は家庭で責任を持つので、学校 では、子どもの しつけ"をお顧いしますj と真顔で依頼する保護者に出会うことも
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