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5 NHKの大腰筋筋力テスト方法
第5章 NHK朝の生活ほっとモーニング
図 5・18 大腿部の断面図(股関節と膝関節の同時伸長)
長内転筋 薄筋 大内転筋
半膜様筋
2)スクワット運動の筋電図
(1)大殿筋と大腿四頭筋の筋電図から
ー 強 い 働 き ロ 弱 い 働 き Eコ働かない
我々の筋電図学的研究(積分筋電図と筋電積分値)によれば、図5‑19 にみられるように、スクワット動作において最も大きな力を出す筋肉は 大腿四頭筋であることが分かります。
また、筋電図積分値よりみた下肢筋群の使用率は、図5‑20と5‑21の ようになりました。どの経験者レベルにおいても大腿四頭筋は、主動的 役割をはたしています。ちなみに、上級者
SM
とあるのは著者のもので す。(2)スクワット経験レベルにおける筋使用率
図5‑19と5‑20より、スクワ ット運動の筋肉使用率をみると、初心者 ほど大腿四頭筋の負担がかかる膝曲げスクワ ットになりやすく、大殿筋 の股関節運動が小さくなる傾向があります。
ちなみに、 M Tは体重90キロで350キロのスクワット日本記録保持 者です。その特徴は下肢の筋肉のみでなく、からだ全体をうまく使った スクワットをしていますから、合理的で安全なスクワッ卜を行っている ことがうかがえます。
3)大腰筋は股関節伸展筋ではない
以上がスクワット運動における主な筋作用解説です。この解説によれ ば、 NHKが行った「座り立ちスクワット」には大腰筋が出てきません。
大腰筋は、股関節の伸展とは反対の屈曲運動を行う筋肉ですから当然 です。このことを理解するためには、図5‑35のA
・
Bを比較してみてく ださい。この図から、股関節を「伸ばす曲げる」というのは反対動作と なっていることが理解できると思います。この両者の関係を相反する動 作ということから「括抗筋」といいます。しかし、 P.23で述べましたように、大腰筋に「ノマラドックス現象」
があるかも知れません。パラドックスがあったとしても、 P.39で述べ た、膝関節を伸ばす大腿四頭筋が股関節を伸ばす運動で働いたように、
その働きはせいぜい2~ 3パーセント程度のものと推察されますから、
図5・19 スクワッ 卜運動時における筋電図
1回目 長内転筋
よ.J.u.llo"lo.....IIl・4 門 町 I I町「明l
初d心者 2回目 哨 脚 岨 伽
3回目
柵 蜘
4固 省 品 ふ 岨 仙 哨 勧
上級者(鈴木) 2回目 3回目
縮放電量が翁ないO"ll 大殿筋
} 大 殿 筋 力 J J
I 叫 山 叫,.~ .L..,J品川血Jilム山.~叫 ケ 市 市 町 B 吋Il'T 門r~~'T
問r',‑f可i"T<r.立!座E立 !立 座!立 位 る 望 つ 位 るlつ
ジ ンヨ ン
NHK朝の生活ほっとモーニング 第5章
基本的スクワッ トを大腰筋の運動だとすることはできません。
だからといって、スクワット運動を無視してもよい、といってるので はありません。「つまずき、転倒」の予防のために、スクワット運動を 大いに取り入れ、股関節やひざ関節を鍛えるべきです。
スクワット動作時における下肢挙上筋の使用比率 A (初心者、中級者、上級者の比較)
図5‑20
. %
印 叩
4 0
羽 ぬ 10
内 大 大 内 大 大 転 崎 般 転 崎 段 筋 筋 筋 筋 筋 筋 l
∞
K∞
Ks ・M M・T
上級 内 大 大
転 絹 殴 筋 筋 筋
[80K . s
内 大 大 転 島 殿 筋 筋 筋 80K
← M.U 中級
大股筋
K G
大島筋
内転筋Y ω ' ・
内 大 大 内 大 大 転 崎 厳 転 鴎 厳 筋 筋 筋 筋 筋 筋 30K 30K Y.M K・T
初級
スクワ ット動作時における下肢挙上筋の使用比率 B
筋三¥ 経 塑IJ 初J心者 中級者 上級者 内 転 筋 19.0% 22.5% 32.4% 大腿四頭筋 60.6% 56.3% 44.4% 大 啓 筋 20.4% 21.2% 23.2% 図5‑21(表5‑2)
4 )
大腰筋のチェックの種目とは(結論)以上の結論として、スクワットの主動的役割をはたす筋肉は大殿筋、
大腿四頭筋であって、大腰筋ではないことが確認されます。したがって 股関節の屈曲筋である大腰筋の筋力チェックを、股関節の伸展運動であ
るスクワットで確認することはできない、というのが結論です。
.大腰筋チェック種目とは
では、如何なる種目で大腰筋のチェックを行うかというと、その働き の強さからみて、股関節屈曲運動で行うということは当然なことです。
普通、このような筋力運動の体力テストは、初心者や高齢者には腰痛の 発生のおそれがありますので大腰筋チェックなど致しませんが、強いて 行うとすれば、筋肉の作用効率からみて、次の種目となります。
① 図5‑25の「膝と股関節を伸ばした上体起こし」
② 図5‑26の「両足持ち上げ」でありますが、それでもできない人も おりますので、③図5‑29の「片足持ち上げ」を行うようにします。
5)スクワットの運動効果
スクワットは「しゃがんだり、立ったり」する運動ですから、当然、
しゃがむとき股関節は曲がっていきます。だから大腰筋が働いている、 と思われるかもしれませんが、それは大きな間違いです。筋肉の働きを 大きく分けると次の二つがあります。
(1)伸張性筋収縮(ネガティブな動き)
しゃがむときは、重力に逆らいながら大殿筋や大腿四頭筋を緊張させ ているのです。この筋肉の使い方は階段を下りる要領と同じで、階段を 下りるときは下段のステップに足を置きますが、このとき体重で下半身 が崩れないように足を緊張させて置きます。
このときの大腿四頭筋は、 一般的な筋肉の収縮である「縮みながら働 く
J
(短縮性筋収縮=ポジティブ ・エクササイズ)というのではなく 、 体重という負荷に対して筋肉は「伸ばされながら働くJ
(伸張性筋収縮=ネガ、ティブ・エクササイズ)という働きをします。
(2)短縮性筋収縮と伸張性筋収縮の違い
第5章 NHK朝の生活ほっとモーニング
スクワットも階段の上り下りと同じような働きとなります。ですから、
図5‑19の筋電図の波形が「座り動作」にも表れます。座る、立つ、と いう動作の波形をよく見て下さし、。立つという動作の波形とは逆になり ますが、明らかに同じような波形となっています。
ただし、この場合の筋力は同じかというと、そうではありませんO ス クワットのとき、立ち上がる「短縮性筋収縮=ポジティブ」を 100とす すると、座る動作の「伸張性筋収縮=ネガティブ」は80%の筋出力で 済みます。すると、座る方が筋力に余裕があるということになります。
いい方を変えれば、筋肉は縮みながら働くより、伸ばされながら働い た方が20%大きく働くことになりますから、その筋力発揮をさせるた めには重力にまかせて「ストン」と座るのではなく、重力をしっかりと 受け止めてゆっくり下ろすことです。
(3)階段下りの大腿四頭筋の負荷は大きい
以上のような働きは、スクワットのように「股関節と膝関節が同時に 働く」という条件下でいえるのであって、階段の上り下りのような場合、
上りはスクワ ットと同じく同時作用ですが、下るときの股関節の動きは 小さくなり、その運動の主力は膝関節となります。
当然、上る体重、下る体重、ともに同じ負荷量ですから、股関節の動 きが小さくなった分だけ、膝関節(大腿四頭筋)にかかる負荷量は大き くなります。しかも重力落下が加わりますから、大腿四頭筋にとっては、
たとえ「伸張性筋収縮=ネガティブ」な動きとなっても、上りより大き な運動負荷となります。さらに下り方、 下るスピードなどを変化させた
ら、大腿四頭筋にかかる負荷は大きなものとなります。