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6 NHK の大腰筋のトレーニング種目
第5章 NHK朝の生活ほっとモーニング
スクワットも階段の上り下りと同じような働きとなります。ですから、
図5‑19の筋電図の波形が「座り動作」にも表れます。座る、立つ、と いう動作の波形をよく見て下さし、。立つという動作の波形とは逆になり ますが、明らかに同じような波形となっています。
ただし、この場合の筋力は同じかというと、そうではありませんO ス クワットのとき、立ち上がる「短縮性筋収縮=ポジティブ」を 100とす すると、座る動作の「伸張性筋収縮=ネガティブ」は80%の筋出力で 済みます。すると、座る方が筋力に余裕があるということになります。
いい方を変えれば、筋肉は縮みながら働くより、伸ばされながら働い た方が20%大きく働くことになりますから、その筋力発揮をさせるた めには重力にまかせて「ストン」と座るのではなく、重力をしっかりと 受け止めてゆっくり下ろすことです。
(3)階段下りの大腿四頭筋の負荷は大きい
以上のような働きは、スクワットのように「股関節と膝関節が同時に 働く」という条件下でいえるのであって、階段の上り下りのような場合、
上りはスクワ ットと同じく同時作用ですが、下るときの股関節の動きは 小さくなり、その運動の主力は膝関節となります。
当然、上る体重、下る体重、ともに同じ負荷量ですから、股関節の動 きが小さくなった分だけ、膝関節(大腿四頭筋)にかかる負荷量は大き くなります。しかも重力落下が加わりますから、大腿四頭筋にとっては、
たとえ「伸張性筋収縮=ネガティブ」な動きとなっても、上りより大き な運動負荷となります。さらに下り方、 下るスピードなどを変化させた
ら、大腿四頭筋にかかる負荷は大きなものとなります。
目的運動部分が違うのに同じ運動方法で行うとはどういうことでしょ うか? その根本的原因は、第4章で述べましたように、腹筋や大腰筋 の基本的な筋肉の解剖生理学が理解されていない、としかいいようがあ りません。だから一貫性のない、いし、かげんな指導法にならざるをえな いのです。
1)上体起こしは大腰筋の運動か腹筋の運動か (1)上体起こしと大腰筋運動は閉じ種目で行うのか
図5‑22の「上体起こし」の方法は、第l章の『クローズアップ現代』
で「大腰筋の運動」として出てきました。ところが、第4章では「おな か号│き締め運動」として出てきました。そして、この第
5
章の『生活ほっ とモーニング』では、再び「大腰筋の運動」として出てきたということ は、 NHKとしては重要種目であることがうかがえます。しかし、少なくみても、『生活ほっとモーニング』のように、同一番 組でトレーニングの目的筋肉が違うのに、同じ運動で行う方法を紹介す るものでしょうか? どちらが正しいのでしょうか? あるいは、どち らも間違っているのではないのでしょうか? その点を検証してみます。
(2)運動名称の間違い訂正をした
その最も基本的な間違いは運動の名称です。『クローズアップ現代』
では「腹筋運動も大腰筋のトレーニングになる」といって紹介しました ので、第 1章で述べましたように、 NHKの方には、その運動名称は
「腹筋運動」ではなく「上体起こし」である、と間違い名称を指摘しま した。
この指摘に対して、 NHKの同一解説者は「どきっ」としたとみえて、
この「生活ほっとモーニング』では、その大腰筋運動の名称を「上体起 こし」と訂正してきました。
この場合、世の中の礼儀として、指摘者に対して、すみやかに「ご指 摘ありがとう御座いました。次回より訂正します」と挨拶があってしか るべきです。私だったらそう しますが、この度のNHKの対応は、だまっ て「腹筋運動」を「上体起こし」に訂正しただけでした。
第5章 NHK朝の生活ほっとモーニング
図5‑22 N H Kの上体起こしは同じ運動方法で効果が違う
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① 上体おこし
A おなか引き締め体操(生活ほっとモーニンク)←腹筋運動
B 大腰筋トレーニング(クローズアップ現代)←大腰筋運動
国谷アナウンサーが行っていた最も大腰筋トレーニング にならない方法です
2 )
上体起こしは腹筋と股関節屈曲筋の複合運 動ですNHK
は、腹筋を使つての上体起こしの原理と、股関節を使つての上 体起こしの原理が分かっていません。このことはP.148で述べましたよ うに「大腰筋は恥骨の裏側を通る」とする程度の理解力ですからやむを えなし、かもしれません。上体起こし(シットアップ)による腸腰筋(腸骨筋、大腰筋) トレー ニングと、腹筋トレーニングとの違いは、 P.48で詳し く解説していま すように、その 1、足を押さえるか否か、その 2、股関節を伸ばすか曲 げるか、によって腹筋運動優先か、股関節の屈曲運動優先かに分けられ ます。
(1)腹筋のみによる上体起こし
一般的には上体起こしは、図
5 ‑ 2 3
のように複合運動となって行われ ます。これを区分するには、図5 ‑ 2 4
のように股関節を9 0
度に曲げ、股 関節屈曲筋(大腰筋、腸骨筋、大腿直筋など)をゆるめて働けないよう にし、腹筋のみで起き上がるようにします。これが最も大腰筋が働かな い上体起こしです。この方法を1 0 0 %
の腹筋運動とし、NHK
の上体起 こしを検証してみます。NHK
では図5 ‑ 2 3
と同じような運動方法、すなわち股関節を曲げ、足は押さえないという方法で行い、これを大腰筋トレーニングだとし、 大腰筋からみたら最低の大腰筋運動を行っていたのです。
この方法では腹筋に対して
70%
負荷なので、腹筋には効率が良い運 動ですが、股関節屈曲筋には30%
の負荷となりますので、大腰筋に対しては運動効率が悪く、効果的ではない、といわざるをえません。
(2)股関節屈曲運動による上体起こし
では、大腰筋に対してどのような方法が最も効果的かというと、図5‑
2 5
、および図5 ‑ 2 6
で解説していますように、NHK
のやり方とは全く 反対のやり方、すなわち「膝関節と股関節を伸ばし、足を押さえる」と いうやり方です。このやり方ですと、股関節に
1 0 0 %
の負荷がかかり、大腰筋トレーニ ングとしては最も有効な方法となります。ただし、腹筋力が弱い人が頻第5章 NHK朝の生活ほっとモーニング
図5‑23一般的な腹筋運動と称する上体起こし
肋骨が骨盤に近づく 大腿直筋
※最も大腰筋(腸腰筋)を使わない方法
図5‑24股関節を使わない 100%の腹筋運動(ダンベル・クランチ)
図5‑25 膝と股関節を伸ばし足を押さえる上体起こし
大 大腰筋
※鰻も大腰筋(腸腰筋)を使う方法
繁にこれを行うと腰痛が発生する恐れがあります。つまり、この方法は、
ことわざの「両刃の剣」です。一方の方法はたいへん役立つが、別の面 では害を与える恐れがある、ということです。
(3)効果的な大腰筋運動とは
最も効果的な大腰筋(腸腰筋) トレーニングは、図5‑25の方法です が、器具または補助者を必要とし、しかも、この方法ではできない人が います。
そこで、比較的効果的で、一人でできる図5‑26の足上げ(レッグレイ ズ)をおすすめします。ただし、腸腰筋が弱い人は膝を曲げて行います。
これは、第4章の図4‑18で腹筋運動と称して5つの方法として出て きた仰向け足上げですが、これもできない人がいますので、強度の順番 から、次の方法で行うようにします。(運動強度の順番はAe、B⑨、
C@
、
DO、
E0です)③ 仰向けで行う場合(フロアーから上げた足の40度までの上下反復)
・斜め台両足持ち上げ B⑨(図5‑28‑②)
‑両足持ち上げ C @(図5‑26)
・片足持ち上げ DO (図5‑27)
⑮ 立って行う場合(ももを水平位までの上下反復)
・垂直足持ち上げ A・ (図5‑28の①、③)
(専門的にはパーテイカル ・マシンを使うが、椅子、鉄棒、平行棒な どでもできる)
・膝伸ばし片足持ち上げ DO (図5‑29)
・片足膝持ち上げ E0 (図5‑30) 注意
・垂直足上げは、振り子運動にならないよう背を壁に当ててから行う0
.片足持ち上げの場合は、交互持ち上げではなく連続持ち上げとする。
3)お尻歩き (図5‑31)
このお尻歩きも奇想天外な運動で、きわめてめずらしいものです。も ちろん、その方法で特別な効果があれば問題はありませんが、 三つの点
第5章 NHK朝の生活ほっとモーニング
図5‑26 両足持ち上け"(足を持ち上げやすい)
代表的な股関節の屈曲運動
。仰向け姿勢では、股関節が伸びるので、大腰筋を 緊張しやすくなり、座り姿勢より足を持ち上げや すくなる。このやり方の方が大腰筋を使いやす L、。
図5‑27 片足持ち上け、(シングル・レッグレイズ)
図5‑28・② アブドミナル ・ボード
図5‑28・① パー テ イ カ ル
ブ
図5・28・③ ノfラレル・パー
で問題となります。
(1)めずらしければ効果が出るか
一つ目は、何ゆえ、こんなやりにくい方法でやらなければならないの か、もっと、ほかにやりやすく理解しやすいものはないのか? という
ことです。
前項で述べたように「大腰筋を使わなければ運動が成り立たない」と いう理由から、きわめてオーソドックスな大腰筋運動を8種目解説しま した。もちろん、運動種目を細分化すればまだまだたくさん有ります。
なぜ図 5-25~30 のような方法でやってはいけないのか、どちらが馴 染みやすく、分かりやすいか、どれがやりやすくて効果的なのか、やっ てみれば分かることと思うのですが、このめずらしいお尻歩き運動がN
H Kのいう 「大腰筋運動」と称するものです。
(2)この姿勢は大腰筋がゆるむ
二つ目は、第4章の「腰痛と上体起こし」の問題で述べましたように、
フラットな状態で股関節を直角に曲げるということは、大腰筋が「ゆる む」ということです。(図5‑32の姿勢)
ゆるむ=作用しない、ということですから、フラ ットな状態で股関節 を直角に曲げると大腰筋が働けないから、腹筋からみれば 100%の腹筋 運動となるのです。
ですから大腰筋がゆるんだ状態から、これを収縮させ、作用させよう と思ったならば、かなりの集中力を発揮しなければ運動ができません。
この意味が分からない人は、図5‑26の仰向け方法と、図5‑32の股関 節を直角に曲げた足上げをやってみてくださし、。どちらが強い緊張を強 いられるか明らかです。中には、図5‑32のように、フラットな状態で 股関節を直角に曲げると(長座姿勢)、足が全く上がらない人が出てき
ますから運動にならないことになります。
(3)お尻歩きは腹筋運動になるか?
三つ目は、お尻歩きという動作はどこの筋肉によって運動が行われて いるか?です。まず、この動作は骨盤を持ち上げ、上体と腰をひねらな ければなりませんから、骨盤を持ち上げる筋肉、すなわち腹筋によって