1)アイソメトリックとは
アイ ソメ トリ ック ・トレーニングとは、
1 9 5 0
年代 から6 0
年代 に か け て、欧米の体育学者らが静的筋力トレーニングの研究から提唱されたも ので:す。 これは実 験 学的に筋力トレーニングの運動効果を示したものであって、一般的な人々が、具体的に実践して効果を示したのではありま せん。これらの実験のためには、少なくても最大筋力測定の握力や背筋 力が用いられていましたから、一般的なアイソメトリック実施方法との 聞に聞きがあります。
これを一部の日本の体育学者らが「手軽にできる、簡単にできる、ら くらくできる、 7秒でできる」というタイトルをつけ、新しい筋肉づく り手段であるかのようにみせかけて普及させようとしたものです。実験 以外で、そんなに簡単に基礎代謝が上がるほど筋肉がつくれるものなの か、是非、提唱者の筋肉と筋力をみせてもらいたいものです。
さて、ここでいう 7秒とは、図6‑7のように 7秒間、呼吸も止めずに 最大筋力(100%)を出すものです。 NHKが提唱者のする形の真似を することはできても、実際、中高年者や女性に 100%筋力の発揮などで きるはずがありません。 NHKのいう最大筋力発揮7秒と息を止めない 指導法には矛盾があるわけです。
すでに経験された人はお分かりのことと思いますが、誰でも最大筋力 (100%)測定である握力や背筋力などは呼吸を止めて測定します。する と、筋肉内の血液の流れが阻止され、筋肉の発達にとって有効な現象が 現れます。
当時の実験で、この時の最初の筋肉内の血流停止時間が、運動開始か ら6秒であったところから、筋肉は 「一日最大筋力を6秒間発揮すれば 発達する」、という学説が定着したのです。多くの人達が試みたものの 筋力トレーニングの専門家以外には普及しませんでした。
2)静的トレーニングと動的トレーニング
まず大前提として、そのトレーニング処方は静的筋力トレーニング (アイソメ トリ ック)ではなく、動的筋力トレーニング(アイソ トニッ ク)でなければなりません。
動的トレーニング、静的トレーニング、いずれもその手段が適切であ れば、その動作にこだわることなく目的別トレーニング効果を上げるこ とができます。問題点はその対象者と運動の継続性にあります。
第6章 NH K教 育 テレビ
厚生省 ・国立健康栄養研究所 ・運動生理研究室では、1991年に図6‑8 のような 「筋力、筋持久力を高める家庭でできる体力づく り」と称して、
日 本 全 国 に 静 的 ト レ ー ニ ン グ (等尺 性 筋 収 縮=ア イ ソ メ ト リ ック)を 提 唱しました。はたして、これを実践し効果を出した人がいるでしょうか?
図6‑7‑A アイソメ トリyクの負荷と時間 .アイソメ 卜リ yクの強度と時間
(2002年:湯浅) トレーニング強度 適正トレーニング時間 (最大負荷に対する%) (収縮秒)
45‑50% 45‑60秒 60‑70% 18‑30秒 80‑90% 12‑18秒 100% 7‑10秒
図6・7・B アイソメ トリックの負荷と時間 .アイソメト リック・トレーニングに必 要な筋力と収縮持続時間(へティンガー)
トレーニング強度 トレーニング時間 長大筋力に対する (収縮持続時間:秒)
(%) 最低限度 適正限度 45‑50 15‑20 45‑60 60‑70 6‑10 18‑30 80‑90 4‑6 12‑18
100 2‑3 6 ‑10
図6‑8 厚生省のアイ ソメ トリック(等尺性)トレーニン夕、
‑腕の屈伸 イミ?ト
(上腕ニ・三頭筋)
‑上体起こしイすト
(腹直筋)
‑クラウチングスタート イラスト
③
(大腿四頭筋・下腿三頭筋)
.上体そらし イラス@ ト
(固有背筋・大殿筋)
今週の日本 '91・10・14
r
家庭でできる体力づく りJ(イラストナンバー:著者)私は、筋力トレーニングに出合って 50年、そしてアイソメトリック に出合って40年、その問、専門的な筋力トレーニングを行ってきまし たが、専門的にはともかく一般的に厚生省やNHKが提唱しているアイ ソメト リックのやり方で効果を出した人に出合ったことがありません。
一般的な筋力トレーニング手段は、 全てパーベル、ダンベルそしてトレー ニングマシンなどで行う動的トレーニングでした。
3)アイソメトリックの継続性
アイソメトリックが普及しなかったといって、その効果は否定される ものではないが「手軽、簡単、らくらく」という発想と、「動作が伴わ ない」ということが、人間の知的な本能と動物的な本能からみて、トレー ニング効果を上げるまで「運動の継続性」がないということです。つま り、一般的な人ほどアイソメトリックではトレーニング効果が出るまで 続かないということです。
この問題にいち早く気づいたトレーニング器具メ ーカーは、 30年 ぼ ど前に図6‑9の「フソレーワーカー」というアイソメトリック器具を開発 して売り出し、ヒット商品となりました。一時期ブームの「ぶらさがり 健康器」や「ルームランナー」などと違い現在も売られているところか
ら、明らかにアイソメトリックといえども、運動器具を利用した動作が 伴わなければ、その継続性がないという一つの証明です。(図6‑9のブ ノ
レーワーカーは著者が30年前に購入しアイソメトリックに使用したも ので、今でも使用できる)
したがって、徒手による「アイソメ トリック」と称する「静的トレー ニング」処方は運動の継続性がなL、から、何らかの運動の動機になる器 具を利用する手段か、最初から動作が伴わなったダンベル体操のような
「動的トレーニングJを選択したほうが、明らかに効果的で継続性のあ る運動処方となります。(私のダンベ ル体操教室は 10年の継続がある) 4)アイソメトリックの実施上の長所と欠点
アイソメトリックの長所は、運動様式からみて障害の危険が少なく、
第6章 NHK教育テレヒ
最大運動負荷でトレーニングをしやすいところにあります。ということ は、アイソメトリ ック は過重な運動負荷でトレーニングしてこそ価値が あるものなのです。
この利点を生かすために生まれたのが、図6‑10のアイソメトリック ・ ラ ッ ク (パワー・ラックとも呼ぶ)です。若干、メーカーによって作り 方は違いますが、基 本 的 に は ら10の形で、多くのトレーニ ング場で使 図6‑9 著者が30年前に購入したブルワーカー
図 6・10 アイソメトリック ・ラック
A国産品 B外国品
用されています。
この器具の最も大きな特徴は、最大筋力トレーニング実施者の安全を 守るために、前後 ・左右 ・上下にバランスを崩してもケガをしないよう に作られています。図
6 ‑ 1 1
は2 2
年前に著者が考案したアイソメ トリ ッ ク・ラ ックです。パーの挙上コースが二つあり、固定されて上下するも のと、フリーに上下するものとがあり、 およそ 20~30 種目の運動がで きます。つまり、アイソメト リックとは、一般人が「手軽に、簡単に」実施す るために企画された トレーニング手段ではなく、専門的にハイレベルの 筋力アップのために行う手段である、ということです。
最も大きな問題はNHKのやり方です。 NHKは「最大筋力7秒方法」
を提唱していますが、いずれのトレーニング種目も実施するのにはきわ めて難しいといえます。それは素人が行う「徒手によるアイソメ トリ ッ ク」だからです。自分の手足で運動した場合、どうしても自分自身の手 足を押さえつけることになりますから、負荷の強弱コン トロールをして しまいます。すると、
1 0 0 %
の筋力がでないどころか、何パーセントの 筋力を出しているのかすら分かりません。ですから、とても効果など期 待できるものではありません。図6‑11 著者が
2 2
年前に考案し、現在も使用しているアイソメトリック ・ラックアイソメ トリ yク・ スクワット系運動
アイソメトリ ック アイソメ トリ ック ベンチ ・プレス系運動 デッド ・リフト系運動
第6章 NHK教 育 テ レ ビ