第2主主 ク ロ ー ス ア yプ現代 「清水選手の滑り」
1)スケー卜の前傾姿勢とは (解説者 :中京大学湯浅景元教授) NH Kクローズアップ現代のスケートの前傾姿勢をつくる解説は「ス ケート の清水選手の最も優れた特徴はスター卜 ・ダ ッ シ ュ (ロケッ ト・
スター卜)にある」として、スター卜 ・ダッシュに必要な前傾姿勢の解 説をしました。
その姿勢の特徴と して、前傾姿勢とスター卜 ・ダyシュをする筋肉は 二つあるとして、その一つは 「キック力を生み出す大腿部の前の筋肉」
と、二つ目は「低い姿勢をつくる『背筋』です」といい、図2‑2のコン ビューター映像で間違い解説をしていました。
大腿部の前の筋肉は大腿四頭筋であるとすぐ理解できま した。背筋の 方は、背筋と呼ばれる筋肉にはいろいろあり、背筋のどの筋肉かは明確 にいわなかったが、コンビューター映像が示していたのは背中なので、
多分、脊柱起立筋(通称 :固有背筋)を指していっているのかと思い、
それを前提に問題点を指摘しました。
ところが、再度ビデオを確認したところ、コンビューター映像が示し ていた位置は脊柱起立筋ではなく 「広背筋」であったのです。筋肉の専 門家でも l回見ただけでは見間違うほどの映像でもありました。ですか
ら、最初の文章は次のようになりました。
2 )前傾姿勢をつくる筋肉とは
(1)背筋が前傾姿勢をつくるのか(図3‑38参照)
前傾姿勢をつくるのは筋肉は 「背筋」と解説したので、これを 「背す じ=脊柱起立筋」と理解しますと、まず、基本的に上体の前傾姿勢をつ くる筋肉とは、第1章の大腰筋のところで詳しく述べましたように、ス ケー卜 は身体を股関節から前に曲げる動作ですから、その主動的役割を はたす筋肉は「背筋=脊柱起立筋」ではなく「股関節の屈曲筋」です。
この股関節屈曲筋の代表的筋肉は腸腰筋と大腿直筋 (図2‑1参照)で、
この股関節屈曲筋の運動なくして前傾姿勢はとれません。図2‑2のよう に、スケー卜 のスタート は前傾姿勢を保ちつつ、足を持ち上げて踏み込 み、キックする動作が必要です。
この股関節の屈曲筋がなければ膝が持ち上がりませんから、キックす る力が得られずロケッ ト・スター卜を行うことは不可能です。この股関 節の屈曲動作については全く解説がありせんでした。(①前傾姿勢をつ
くる筋肉の間違い)
(2)スケー卜の姿勢は、前傾というより前屈姿勢である(腹筋の重要 性)
次に、スター卜のダッシュ姿勢は、股関節を曲げて図2‑2のように身 体を前に倒すだけでなく 、脊柱をも曲げながら倒すので、前傾というよ
りも前屈姿勢となります。
ということは図2‑3の① ③までの3つの腹筋が強く働かなくては前 屈姿勢はとれないことになります。しかもスケー卜の場合、図2‑6にみ られるように胴体が左右に捻りながら働くので、外腹斜筋と内腹斜筋の 働きを見逃すわけにはいきません。(②前屈と捻りを起こす筋肉の間違
(3)背筋が短縮性筋収縮すれば上体は起きる(図2‑4背筋力測定) NH Kは、前傾姿勢のためには「背筋」が重要ということですが、こ れも間違った解説をしています。
それは誰でも経験している「背筋力の測定」で明らかのように、背筋 が働くと前屈とは反対に上体は上に起こされます。スケーティングで前 傾前屈姿勢を維持するには背筋が強いことも大切ですが、腹筋が働かな ければ背中は丸く曲がりません。
以上のことから、直接、前傾姿勢を作る筋肉は 「腸腰筋や大腿直筋」
などの股関節の屈曲筋で、前屈姿勢をつくるのが「腹筋」です。スケー 卜での両者の働きは複合して働きます。そして、その姿勢を維持(キー プ)しているのが脊柱起立筋です。NHKの解説では、これら筋肉の名 前は一度も出ませんでした。(③筋肉の使い方の間違い)
また、NH Kが解説する背筋と大腿四頭筋が重要ならば、その筋力 ト レーニングの紹介があって当然ですが、これらに関する筋力 トレーニン グは一つも紹介されませんでした。
ちなみに陸上競技の短距離走(スプリン ト)では、スタートで手を地
第2章 クローズアップ現代 「清水選手の滑り」
図2‑2 NHKコンビューター映像より前傾姿勢をつくる筋肉
①と②の股関節の屈曲筋の働 きによる前傾姿勢
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図2‑3 腹筋(上体の前屈)と背筋 (上体を起こす)の関係 (前傾前屈する腹筋の働き)
①腹l自:筋
②外腹斜筋
③内)臨斜iiJj
④脊tt起立筋
④脊柱起立筋の強い働きは卜ー体を起こし、
腹筋の仰jきが│二体の前傾から
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出させる(A. KAPANDJI
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カバンディの関節の生理学』より著者一部加筆)
図2‑4 背筋力の測定方法
前傾30度から開始
面に着くクラウチング姿勢(スケート はスタンディング ・スタート)を とるため、背筋の弱L、選手がロケット ・スタートをやると上体を起こす ことができなL、から、つんのめることになります。この背筋が重要といっ たのはクラウチング姿勢を連想したものと思われます。
スケー卜では最初からスタンデイング ・スター卜ですから、このよう な問題は起こりません。(④クラウチング・スタートとスタンディング ・ スター卜の違い)
(4)膝関節の伸展には大腿直筋は参加しない
図2‑2の姿勢では、大腿直筋はひざを持ち上げるのに強く働き(股関 節の屈曲)、屈曲した状態から④のひざを伸ばす動作では強く働きませ ん。ひざを伸ばすという動作は、大腿四頭筋を使うという表現をします が、姿勢によっては、大腿直筋は二関節筋肉なのでひざ関節の伸展には 強く働きません。正確にいうならば大腿四頭筋の外側広筋、内側広筋、
中間広筋の 3筋肉が膝関節の伸展を行います。このことは、PERのM R 1で図2‑5のように大腿直筋が働いていないことが確認できます。す なわち、図2‑2の右足のように下肢が屈曲した状態から伸ばす場合、大 腿直筋は働きません。
3)背 筋 と は 広 背 筋 の こ と だ っ た の か
背筋と いうと「背筋=背すじの筋肉」といわれるほど、背すじの筋肉 をイメージしてしまいます。最初、NH Kのコンビューター映像を見な がら解説を聞いていたので、完全に先入観に支配され、頭から背すじイ コール背筋(脊柱直立筋=図2‑7)のことだと思っていました。
ところが、再度NH Kのコンビュータ一映像をよく見ると、映像が示 していたのは図2‑6のように広背筋の位置を示していま した。何と背筋 とは広背筋のこ とだったのかと、とんでもないコンビューター映像に思 わずうなってしまいました。コンビューター映像も ロケッ ト・スケー卜 の解説になっていなかったのです。(⑤筋肉の間違い)
背筋を脊柱起立筋だとすると、その筋肉は前傾姿勢には間接的に、後
第2章 ク ロ ー ズ ア yプ現代 「清水選手の滑り」
図2‑5 大腿部の断面図(股関節と膝関節の同時件l展) 内1l!IJJ1:I!1i
縫
‑図2‑2のように下肢が屈曲した 状態から伸ばす動作での作用筋 肉は、色の濃い筋肉ですから、
大腿直筋は働かないことになる。
長内転筋 線筋 火│付転I!1i
ミ│モ脱線I!1i
日郎、働き 口 弱い働き とコ働かない
図2‑6 NHKのコンビュータ・グラフィックスで示した前回筋肉
4砂通 常 い う 背 中 の 筋 肉 と は
『脊 柱 直 立 筋=固有背筋』 を指して言う=前傾筋肉で はなし、
。大腿四頭筋は姿勢を前傾さ せる筋肉ではなく、ひざ関 節を伸ばす筋肉である。
+NHKのコンビュータ映像は前傾筋肉 を広背筋と大腿四頭筋としている
図2‑7 NHKコンビュータ・グラ フィックスの背筋を修正したもの
脊柱直立筋 (背すじを後方に 起こす ・そらす筋肉)
大殿筋 大腿四頭筋→ づ会 ハムスト リン
M U
傾姿勢には直接関係してきますから、意味のないことではありません。 しかし、コンビュータ一映像が示すように、これが広背筋だとすると、 広背筋は上腕の骨に着き、腕を後方に振り出す筋肉ですから、上体を後 ろに反らすには間接的には働きますが、上体を前傾させるには直接関係 ない筋肉であります。
この前傾させると称した筋肉を広背筋となぜ間違えたのか? いく ら 何でも間違う ことではないので¥この間違いをおこした原因を推察して みました。
一つは、前傾する筋肉がよく分からなし、から適当に背筋とした。二つ 目は背筋と広背筋の働きの違いが分からなし、から、これも適当に背筋と した。三つ目は脊柱起立筋としたつもりが映像では広背筋になってしまっ た。などと推察してしまいました。(⑥コンピューターの間違い?)
脊柱起立筋、広背筋ともに、直接、間接、後傾するための筋肉を説明 するには大切なことですが、結果的にみても前傾姿勢を示したコンビュー ター映像がでたらめであった、ということにつきます。これは冒頭でい いましたように 「コンビューターが正しいとする科学の先入観にとらわ れてはならなしリ という意味が理解できると思います。
4)ロケット・スター卜をさせる筋肉
N H K放送では、ロケッ ト・ スター卜させる筋肉を、ひざを伸ばす
「大腿四頭筋」のみに注目していました。もちろん膝を伸ばす大腿四頭 筋の伸展力はきわめて重要ですが、図2‑6のように、スケー卜のスター ト動作や滑走動作からみて明らかなように、ひざを伸ばすだけではなく、 大腿(太もも)を後方に移動させる股関節の動きがなければ話になりま せん。
そのためには股関節の伸展筋である大殿筋やハムストリングは、大腿 を後方に移動(上体の前方移動)させるのにきわめて重要な筋肉で、ロ ケッ ト・ スター卜させるにのなくてはならない筋肉です。
そのことは、図2‑6と7で明らかなように、踏み出し足を後方に蹴り 出すには、この股関節を伸ばす大殿筋とハムス トリ ングによって行われ、