(この文章も、テレビを見ていない人のために追加説明を加えてあります) 筋 肉 の 肥 大 の 原 理 を 図2‑14のようなコンビュ ーター映像でも って
「筋肉は
0 . 1
ミリ以下の細い細胞が集ま ってできていて、激しいトレー ニングを行うと、負荷に耐えられない細L、筋肉線維(筋肉細胞)は切れ ます」。それを修復するのに、骨を修復するときと同じように過剰保護 作用が起こり 「やがて再生されていく」と解説されていました。これは、筋肉が肥大するときの再生説のことだと思います。スポーツ 選手が筋力トレーニングを行うのに、効果を上げるためのイメ ージとし て「破壊された筋肉が再生されるJというのはよくあります。これはト レーニング効果を上げる上で大切なことですから、何ら問題とすること ではありません。問題は筋肥大の科学的根拠は、現在の時点での定説は 存在しないということです。
ということから、次のような文章をNHKに出しました。これについ ても、経過のところで述べましたように、『ク ローズアップ現代』の担当 者は「確かに再生するとはいえませんね」と、電話でいっただけでした。
1)今までの筋肥大説
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年代の代表的な運動生理学者『猪飼道夫』のスポーツ生理学書 によれば 「筋肉が太くなるのは、 一本づ、つの筋線維(筋細胞)が太くな るためで、筋線維が増加するのではない」ということが動物実験で知ら れていると述べられています。そ して「結合組織も厚くなる」ともいわ れています。また、
p . v
・カルポピッチ著 0963年)の運動生理学によれば、筋 の肥大は「筋 トレーニングによって筋の構成物質が破壊され、筋の太さが増すという過剰補償の原理であるし、筋線維の数が増えないというこ とはいくつかの確かな証拠がある」ともいわれていました。
これが今までの学説の中でいわれてきた最も典型的なもので、筋線維 自体の一本一本が運動刺激によって肥大するという肥大説です。そして、 これに結合組織や毛細血管も増加するので、筋肉は外見的に太くなると いう説です。
これに対して、筋トレーニングによって筋線維の数も増えるとする研 究報告がされたのは
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年でtす。それには筋線維が損傷し枝分かれし て起こる筋線維の分裂説、あるいは細胞などが分裂して増殖するときに 起こる増殖説、あるいは修復したときに新たに細胞が再生する再生説などなどと考えられてきました。
そして、最近は増殖説として注目されているのが「サテライト細胞」
です。これらの学説は、今のところでは結論には至っていないと思って います。
2)最 近 の 学 説
日本を代表する運動生理学者、宮下充正氏や石井直方氏らの著書から、 筋肥大を遺伝子レベルでの研究やサテライト細胞の研究、あるいは効果 的なエキセント リック(伸張性筋収縮=ネガティブ)の研究で、次のよ
うなことが分かってきたといわれています。
① サテライ ト細胞
最近の動物実験では、筋線維に含まれる核の存在(サテライ 卜細
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包) にも注目され、激しい筋力トレーニングにより核の数が増えてくること により、筋線維も増えるともいわれています。② ミオスタチン成長因子
また、筋線維の数を決める要因の一つで、ある「ミ オスタチン」という 成長因子の分泌量にも注目されています。長年トレーニングを行ってい
るとミ オスタチンは低下し、少しず、つ筋線維が増えるとも言われており ます。
したがって、NH Kクローズアップ現代がいうように、筋肉の肥大と
第2君主 ク ロ ー ズ ア yプ現代 「清水選手の滑り」
は「弱い筋線維が切れて修復されるときに太くなる(修復説?)Jとは いえないと思います。私の見解としては、基本的には筋細胞の肥大はお こりますが、増殖もともなうということから、これらの現象が複合され て起こるものと考えます。
4砂総 括
今のところ確立していない筋肥大説などの解説の必要などなかった。
それより筋パワーの源となる「股関節の屈曲 ・伸展運動」のほうが大切 であった。
以上、前回の分と合わせてご返事を戴きたくお願し、申し上けます。尚、 誠に勝手ではありますが2月末日までご返事が戴けない場合は、返事が ないものと理解させて戴きます。よろしくご配慮の程お願い申し上げま す。という質問をしたのですが返事が頂けなかったことから、その内容 の公開となったわけです。
3)筋 細 胞 の 増 殖 説 (サテライト細胞)
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)の①では十分サテライ ト細胞の説明がされていませんので、もう すこし追加説明を加えます。NH Kでは 「弱い筋線維(筋細胞)が切れて再生される」と解説して いましたが、これは間違いで、再生ではなく筋の肥大と増殖であること を確認します。1960年以降の筋線維の増殖や再生の話がいろいろあり ましたが、現在、いわれています説を要約しますと 2つに大きく分けら れますが、その現象には3つのパターンがみられます。
一つは、図 2‑13のaのように肥大した筋細胞が枝分かれする 「枝分 かれ説」です。二つ目は、図2‑13のbのように新しくサテライト筋細 胞から筋細胞が作られるノマターンです。これに、図2‑13のCのように、 サテライト細胞の一部が既存の筋細胞の中に取り込まれ、枝のように筋 細胞が出た現象などがあるといわれています。
そして、これらの学説とともに 「遺伝子の要因やホルモンの関与」な どが複合的に作用し筋肥大は起こると考えられます。
少 な く て もNHKがコンビュ ーター・ グラフィックで示した図2‑14
のような現象は確認することができません。
4 )
弱 い 細 胞 は 切 れ る の か ?これは「筋肉が切れて再生する」というのではないことを確認するた めに追加説明をしておきます。
前述したとおり NHKは、図2‑14の コ ン ビ ュ ー タ ー 映 像 で 「 弱L、筋 細胞が切れる」と、糸状の束が左右の外力によってヲ│っ張られ、切れる 様 子 を 示したイメージ映像で説明していました。この映像からすれば、
糸の束は弱し、糸(筋線維)から切れることに間違はないようです。この 糸の断裂を筋肉でいうならば「肉離れ」と同じ症状です。
しかし、筋肉は両手で号│っ張るようなことはできませんから、このイ メージ映像の「外力により号│っ張っぱられた結果、弱し、から切れる」の
図2‑13 筋線維増殖の機構
看~企~
~ー-='"
豊時、ブ
‑ 既存の筋繊維の核
事託委主三
-~き=一一二---・) 、.ー
申サテライ ト細胞由来の核
崎 一 一 企石 ,B:=寄 生
) 主主建豆一
(a) スプリッティングによる増殖 (b) サテライ ト細胞からの増殖 (c) サテライト細胞の融合と
プランチングした増殖
図2‑14 NHKのコンビュータ映像 (弱い筋肉の細胞が切れて再生され ていく様子を表したもの)
切れた 細 胞 ‑ ‑誕
再生 細胞
誕
x
強L、細胞?
弱い細胞?
第2章 クロースアップ現代 「清水選手の滑り」
ではないことは確かです。では、どうして筋細胞が切れるのでしょうか?
図2‑15から、筋肉の両端は、橋渡しのように骨と骨とをまたいで関 節をつくり、その骨を引っ張っばることによって(収縮して)運動を起
こします。
特殊な外力の場合を除き、この筋細胞の収縮(号│っ張り合い)が強過 ぎると、自動的、他動的にかかわらず、筋肉は自分の張力(ちぢむ力) で自分自身を切ってしまいます。時には骨さえも折ってしまいます。
ですから、この肉離れの頻度が高いスポーツは、瞬間的にパワーを発 揮する短距離走やジャンプ競技で、太くて強い筋肉をもっアスリー卜 ほ ど筋細胞は切れやすくなるわけです。このことを知らない人は、筋肉が 切れたり、骨が折れたりすると、そこが弱いから切れた、あるいは折れ たと誤解するのです。
つまり、筋細胞が切れるのは弱し、から切れるのではなく「強し、から切 れる」のです。ですから、筋力の強い男性に肉離れが起きやすく、筋力 の弱し、女性には起きにくいのです。
これと同じような骨折、典型的なスポーツ骨折であります投球骨折は、
筋力が一番強い青年期から壮年期にかけての人に起こり、筋力の弱い中 学生以下の子供や女性にはほとんどみられません。
図2‑15 骨・と筋肉の構造と筋細胞 (筋線維)
肘関節 上腕骨
第2章 参考文献 ( )内は本書のページ数
・ 日丸哲也ほか: ~健康 ・ 体力評価基準辞典』ぎょ うせい、 1992 年 (p-6 1) - 中西光雄ほか: ~日本人の体力標準値第四版』 東京都立大学体育学研究室、
1997年 (p‑61)
. 1. A.カパンディ 荻島秀男監訳『カパンディ関節の生理学1J医歯薬出版、
1993年 (p‑61)(p‑65)
• PER A. TESCH ~MUSCLE MEETS MAGNET J BookMasters 1993年
(p‑63)
• J ウェイネック 有働正夫訳 『スポーツ解剖学』オーム社、 1984年 (p‑65)
・黒田善雄『スポーツ選手の筋肉学』オーム社、 1984年 (p‑65)
・森於兎他 ・『解剖学 ・第l巻』金原出版、1986年 (p‑65)
・猪飼道夫ほか 『スポーツの生理学J同文書院 1960年 (p‑69)
.p・V・カルポピッチ:猪飼道夫訳 『運動の生理学』ベースボール ・マガジン 社 1963年 (p‑70)
・宮下充正ほか『からだの「仕組み」のサイエンス』杏林書院 1998年 (p‑70)
・石井直方『レジスタンス ・トレーニング』ブ yクハウス ・エイチディ 1999 年 (p‑70)
・堀 居 昭 『スポーッ障害の克服』ベースボール ・マガジン社 1997年 (p‑70)
・金子公宥『ノマワーアップの科学』朝倉書臣、1987年 (p‑70)
• J. L アンデルセン 『トップランナーの筋力の秘密』日経サイエンス 2000 年10月号 (p‑71)
• Jason R. Karp ~筋線維タイプとトレーニングJ NSCA JAPAN JOURNAL 2001年12月号 (p‑71)
‑跡見順子『骨格筋と運動』杏林書院 2001年 (p‑72)
‑中島寛之ほか『スポーツ整形外科学』南江堂 1988年 (p‑73)
・中島寛之ほか「スポーツ外傷と障害』 分光堂 1988年 (p‑73)
‑守屋秀繁ほか 『スポーツ整形外科図説』診断と治療 社 1993年 P‑73)
・林 浩一郎 『トレーニングとスポーツ医学J1990年 (p‑73)
・鈴木正之 『筋力トレーニング科学の理論と実際』繁明書 房 1999年 (p‑73)