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3.2.2 保守・管理 

(1) 概要 

石油・ガス開発分野において機器故障による操業中断は、大幅なコスト増加を発生させ る。また機器の交換や保守に際しても操業は一時中断してしまうため、適切なタイミング で実施することが重要になる。IoTを活用した保守・管理の取り組みとして、過去に蓄積さ れた様々なサイトでの故障情報や機器の操業時間、センサー情報などをもとにあらかじめ 故障予測を行うものがある。適切な機器の交換・保守時期を高い精度で予知する本技術の 適用は今後も進むものと考えられる。

代表的な故障予測の方法としては、①異常検出207、②分類アルゴリズムの活用208、③物 理モデルの活用209などが存在する210

(2) 主要プレイヤーの競争優位性 

  石油開発会社や石油サービス会社だけでなく、数多くのIT企業やコンサルティング企業 が当該分野に参入している。General Electric社(以下、GE社)、Siemens社、ABB社などはハ ードウェアの運用なども含めた包括的なサービスを提供しており、この他にもMicrosoft社、

IBM社、Intel社、SAS社などはIT関連や統計分析等を中心としたサービスを提供している。

  この中でもGE社は、同社のOil & Gas部門を通じて石油開発サービス事業に積極的に展 開している。同社は産業機器向けのIoTプラットフォームとして“Predix211”を提供している が、同製品は産業用機器のデータ解析に特化したプラットフォームとなっており、階層構 造・メッシュ構造を持った複数データ間のグラフデータベースを活用した解析212、個別の 産業機器に特化した機械学習アルゴリズム213といった特徴を有している214

なおGE社とBaker Hughes社は、石油・ガス事業分野を統合することに合意している215

プレスリリースによると、GE社の石油・ガス部門とBaker Hughes社が統合することで、石 油・ガスバリューチェーンの全領域において相互補完的なサービスと技術を提供すること ができるとともに、この新会社は、GE社の有するデータテクノロジー及びデジタルテクノ ロジーに関する強みと、Baker Hughes社の有する石油・ガス関連サービスに関する強み、双

207 センサー測定値の履歴データから、機器の正常動作のモデルを学習し、機器の運転中にその正常動作か らの逸脱を検出する予測方法

208 分類アルゴリズムを利用し、故障履歴を用いて複雑な故障前パターンを導き出す予測方法

209 機器の電気系統と機械系統を表す数学的な方程式を用いて物理モデルを定義する。あらかじめ指定した 故障モードと故障度合いに応じてデータをシミュレートし、精度の高い故障予測を実施する。

210  Chetan Gupta, Ahmed Farahat, 蛭田智明, Kosta Ristovski, Umeshwar Dayal(2016) IoTプラットフォーム を基盤とした顧客協創による予知保全ソリューション」, 日立評論Vol.98 No. 07-08

<http://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/2016/07_08/2016_07_08_04.pdf>

211 <https://www.ge.com/digital/predix>

212  GE Digital.(2016)「Predixによるプログラム開発」

<http://www.ge.com/jp/sites/www.ge.com.jp/files/B-2_B-4_Vineet-Banga_JP_Final.pdf>

213  GE Digital「Predix: The Industrial Internet Platform」

<https://www.ge.com/digital/sites/default/files/Predix-the-platform-for-the-Industrial-Internet-whitepaper.pdf>

214  航空、鉄道、発電、物流など、多様な産業分野に対して、自社の製品開発で得た知見を活用したソリ ューションを提供している。

215  新Baker Hughes社が、GE社の傘下に入る企業形態となる。

64 方を併せ持つとしている216

Predixの石油・ガス分野への適用は、現在はGE社の石油・ガス部門が保有していた生産

機器が中心であり、Baker Hughes社が保有するサブシー関連機器等についても今後、適用可 能性があるとしている。

表 3-1  PREDIXの適用範囲と期待される効果

Predixの適用用途  顧客ニーズ  期待される効果 

機器・プロセスの生産効率  日間生産量の向上  2~5%の生産効率向上 自動・遠隔操業  生産コストの低下  20~30%の OPEX コスト低減

生産設備稼働状況  機器稼働率の最大化  20~40%の利益率の向上

従業員環境  安全性向上  事故件数減少 

設備設計・建設・生産の連携  自社配分量の増加  8~15%の生産量増加 (出所)Baker Hughes, a GE Company 「Investor Update217

 

3.2.3 機械学習 

機械学習を活用したAI技術の石油・ガス分野への適用として、精度の高い故障予知を実 現しようとする試みが行われている。過去の稼働状況や様々なセンサー情報を教師データ として学習することで、人間では気づきにくい故障の前兆となる関連データを抽出するこ とが可能になる。これにより非専門家でも精度の高い分析が可能になり、これまでのモデ ルでは見落とされていた微小な異常を高速に検出できるようになることが期待される。

例えばWestVirgnia大学のShahab D. Mohaghegh教授は、事実や現場計測に基づくモデリ

ング手法として、貯留層工学(Reservoir Engineering)とAIの融合に注目しており、当該分野 ついて研究を実施している218

 

216 Baker Hughe社投資家向け各種資料より

<http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=79687&p=irol-presentations>

217 Baker Hughes, a GE Company “Investor Update”(2016)

< http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=79687&p=irol-EventDetails&EventId=5243042>

218 Shahab D. Mohaghegh「ADVANCES IN RESERVOIR SIMULATION & MODELING WITH ARTIFICIAL INTELLIGENCE & DATA MINING,Reservoir Engineering with AI&DM

< http://www.oilit.com/papers/IntelligentSolutions.pdf>

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