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3.4.1 随伴水処理技術 

(1) 概要 

石油・天然ガスの生産において副次的に生産される随伴水244には、油ガス成分以外にも、

塩分(TDS:Total Dissolved Solids)、浮遊固形分、水溶性有機物、重金属、さらには自然起源 の放射性物質(NORM: Naturally Occurring Radioactive Material)などが含まれている場合があ る。随伴水は、組成や量が異なるため一様の処理技術は無く、性状に応じて複数の技術を 組み合せて対応することになる。既存の随伴水処理は、含有される油分や固形分を除去す るため、以下の工程に分けて処理を実施する。

図 3-4  既存の随伴水処理プロセス  

(出所) JOGMEC Webサイトより245

三次処理後の水質によっては再利用や放流が行われるが、必要とされる水質基準によっ ては、化学的処理や脱塩処理、膜分離等が追加的に実施されることもある。近年の環境規 制強化、シェールガス開発に伴うフローバック水の増加により地下圧入自体が困難になり つつある。特に、シェールガス開発では大量の水を使用するため、河川や湖沼等からの取 水制限が行われており、随伴水をその場で処理して再利用すること等が求められている。

1) 蒸留法 

蒸留法には、蒸発した蒸気の再圧縮方法により、蒸気エジェクタを用いる熱的圧縮(TVR:

Thermal Vapor Recompression)と 、 圧 縮 機 を 用 い る 機 械 的 圧 縮(MVR: Mechanical Vapor

Recompression)がある246。この中でも後者は、フローバック水を専用の処理施設に搬入し、

244 随伴水(Produced Water)とは、一般的には油・ガスの生産に伴い副次的に生産される地層水のことを意味

する。シェールを大量の水(フラクチャリング流体又はフラック水)で水圧破砕した後、ガスの生産とともに 地上に戻ってくる水(フローバック水)も随伴水として分類する。

<http://www.jogmec.go.jp/library/recommend_library_10_000037.html>

245 < http://www.jogmec.go.jp/library/recommend_library_10_000037.html>

246 伊原賢(2011)「シェールガス : 安定生産に欠かせない環境リスク克服への技術的考察」, JOGMEC石油・

72

前処理にて油分、SS、鉄イオン、カルシウムイオンなどを除去した後、MVRにて蒸留水と 濃縮水に分離する247

蒸発法としてはAQUA-PURE 社248やGE Power &Water 社の技術が存在しており、米国等 のシェールガスフィールドにおける実証試験を行ってきた。しかし、蒸発法は装置費に加 えてエネルギー消費量も大きいことから、低コスト化が課題となっている249

水処理技術全般に係る主要企業としては、Veolia Water Technologies社250が存在しており、

蒸留法、膜分離、化学的処理の全ての技術を保有している251。同社の系列であるHPD社が 開発した蒸留設備(ZLD: Zero Liquid Discharge)は、Marcellusシェールの随伴水で実証を実施 した実績を持つ252

2) 膜分離 

シェール随伴水には、人為的に加えた化学薬品253が含まれている場合があり、これらの 物質は膜を用いた随伴水処理において深刻な膜の目詰まりを誘発する。そこで、膜の表面 に 目 詰 ま り 防 止の た め皮 膜 処 理 を 行 う方 法 も実 施 さ れ て お り、 具 体的 に は 、UF 膜 (Ultrafiltration membrane)や RO 膜(Reverse Osmosis membrane)の表面にポリドーパミン (PDOPA: Polydopamine)処理を行う実証試験が行われてきた。

具体的には前述のVeolia社系列であるN.A.Water Systems社が開発したRO膜設備である OPUS(Optimized Pretreament and Unique Separation)などの実証が実施されている254。この他に もEltron Research and Development社は、米国エネルギー省(DOE: Department of Energy)にお ける研究プロジェクトとして、塩分と溶解固形物を除去するために独自の高温ナノ濾過技 術(DurafluxTM)の開発を実施している255

3) 電気透析法 

電気透析法(ED: Electrodialysis)は、脱塩技術として確立された技術である。塩分濃度が高 いフローバック水に対して適用が検討されているが、様々な性状を含んだ随伴水処理向け

天然ガス資源資料

<https://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=1106_out_c_k_shale_gas_water_treatment%2epdf&id=4394>

247 <http://www.veoliawatertechnologies.com/en/about-us/veolia-water-technologies>

248 Aqua-Pure社の子会社であるFoutain Quail社は、シェールガスの随伴水処理設備の専門会社であり、

BernettシェールにおけるProduced water処理等を実施している。

<https://www.fountainquail.com/>

249 川村 和幸「シェールガス開発における高塩分随伴水処理の現状と課題」,日本海水学開始第69 2 号(2015)

<https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj/69/2/69_72/_pdf>

250 <http://www.jogmec.go.jp/library/recommend_library_10_000037.html>

251 Veolia Water TechnologieWater Solutions & Technologies Oil & Gas

<http://www.veoliawatertechnologies.com/sites/g/files/dvc471/f/assets/documents/2015/02/150065_OILGAS_Upstre am_A4_LR.pdf>

252<http://technomaps.veoliawatertechnologies.com/hpdevaporation/en/hpd-zero-liquid-discharge.htm>

253 エマルジョンブレーカーやフラクチャリング流体用の化学物質など

254 <http://www.all-llc.com/publicdownloads/VeoliaProfile.pdf>

255 <http://www.eltronresearch.com/docs/Eltron_NF_Membrane_Opportunity_0211.pdf>

73 には実験段階にある256

4) 凝集分離法 

凝 集 磁 気 分 離 法(FMS: Flocculation and Magnetic-Separation Produced Water Treatment System)は、随伴水に含まれる油分や固形物を磁性粉と凝集剤によりフロック化(凝集体を形 成)し、このフロックを磁力により引き寄せることで、随伴水から分離させるもである257,258

この他にもHalliburton社が開発を進めているCleanWaveTM259は、電気特性を利用した技 術であり、随伴水中の浮遊物質を電気凝集させ、凝集物質を上部もしくは下部へ移動させ ることにより水から分離させるものである。

 

3.4.2 フレアリング対策技術 

(1) 概要 

フレアリングとは、フレアスタックにて余剰ガスを燃焼処理することであり、温室効果 ガスの主要な排出源の一つとして認識されている。フレアリング対策技術としては、発生 した余剰ガスを利用する技術と発生を抑制する技術に分類することが出来る。

(2) 重要技術の整理  1) 余剰ガスの活用 

  余剰ガスの再利用技術として、小規模LNG・GTL技術が注目を集めている。東洋エンジ ニアリング(株)とMODEC社は、米国Velocys260社と共同で、石油随伴ガス処理や未利用ガ ス油田の開発ツールとして、Micro-GTLの開発を実施した。

Micro-GTLの技術的特徴は、Velocys社中の「マイクロチャンネル反応器技術(Microchannel

Process Technology)」をGTLの主反応に用いることにある。この反応器は、隣り合う細流路

内で発熱反応と吸熱反応を併行して行わせることにより261、両者間の熱移動効率を高め、

触媒反応を加速する。この結果、反応器及びプラント全体の大幅な小型化が可能となり、

中小規模でのGTLの経済性を高めることが可能となる。

これにより反応器のサイズを大幅にコンパクト化・軽量化でき、FPSO上での随伴ガス処

256 < http://www.jogmec.go.jp/library/recommend_library_10_000037.html>

257 このシステムのメリットは、小スペース、高速・高精度な処理、重力沈降による処理と比較して設備ス ペースは100分の1程度で、処理時間は数時間かかる処理を数分で行うことが可能となることである

(出所 : JOGMEC石油開発技術本部「石油・天然ガス開発をめぐる技術的な課題-克服するための最新技術は

何か-」, 2014.1 Vol.48 No.1)

<https://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/5/5126/201401_033a.pdf>

258 JOGMECでは、メキシコ国営石油会社の要請を受けて、メキシコの洋上油田における随伴水処理の課

題解決のため()日立製作所と共同でFMSによる小型で高性能な随伴水処理システムを開発した。

259<http://www.halliburton.com/en-US_stimulation_public/ps/stimulation/water-solutions/cleanwave.page?pageid=49 75&navid=2427?node-id=h8cyv98a>

<https://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/5/5126/201401_033a.pdf>

260 <http://www.velocys.com/index.php>

261 メタン水蒸気改質反応と、フィッシャートロプシュ(Fischer-Tropsch)合成反応

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理や、これまで経済性のなかった中小規模ガス油田開発においても経済性のあるGTL生産 が可能となるとしている。

図 3-5  マイクロGTL技術の概要  

(出所) 東洋エンジニアリング(株) Webサイトより262

2) 余剰ガスの管理 

  フレアリングによる排出を適切に管理する技術として、以下の技術が存在する263

(坑井オペレーションの自動化) 

坑井オペレーションの自動化として、Remote Telemetry Unit (RTU)や坑井内の圧力・流量・

温度モニタリングに関する技術がある。ガス井は、流速が十分にないと井戸が休止状態に 至る場合があり、その状態になった際には、坑口圧を大気圧まで下げて、坑井内に溜たま った液柱を坑口から外に排出させる必要がある。この場合、多量の炭化水素がフレアもし くは排出されることになる。坑井内の圧力・流量・温度をモニタリングすることで、その 状態の事前回避が可能となり、フレアリングの排出管理に資することが出来る。 

(ガス井休止に用いる界面活性剤とジェル) 

貯留層のガス油比が高いと、多くの随伴ガスが生産される。その際、坑井内に界面活性 剤(surfactants)やジェルを岩石の流路に圧入し固定させると、貯留層から坑井内へのガスの 動きを抑制することが出来る。

262 <http://www.toyo-eng.com/jp/ja/products/energy/gtl/microgtl/>

263 伊原賢(2006)「HSE : 石油生産現場におけるゼロフレアおよび省エネ化」 ,JOGMEC石油・天然ガスレ ビュー 2010.9 Vol.44 No.5)

<https://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/3/3661/201009_039a.pdf>

75 (Inflow Control Device(ICD)) 

  ICDとは、坑井内に設置されたセンサーやフローコントロールバルブであり、水平坑井内 への流体流入分布の均一化を図るセンサーやバルブ類のことである264。坑井軸方向に沿っ て貯留層の浸透率が異なる場合には、坑井内への流体流入分布の不均一が生じやすいこと が知られている。流体流入分布の均一化を図ることで、ガスや水の坑井内へのコーニング(隆 起/沈降現象)を抑え、油の生産レートを最適化することができる。

264  坑井仕上げ技術の進歩の一環として知られるIntelligent Well Completion(IWC)のツールの一つ。 

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4 シェール革命が実現した背景等の整理・分析