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4.1 米国における事例分析

4.1.2 社会・経済的要素に係る整理

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表 4-1  各国の鉱業に関する仕組み

*陸上リグ数は Baker Hughes  のホームページより 

*米国及びカナダは 7  月 15  日と 11  月 18  日時点のデータ。それ以外の国は 2011  年 7  月及び 10  月の月間レ ポートより

(出所)市原(2012)

  またこれに付随して、個人所有地である米国の鉱区が細分化290されていることもシェー ル開発が進んだ要因として指摘されている。米国ではリース権は自由に取引され、石油・

ガス開発のためにNOCを含めた外国資本が保有することも可能である。

鉱区の細分化は、隣接の土地所有者との間に権利調整や利権問題が生じやすい面もある ものの、土地所有者と石油会社間での契約を容易にし、また双方が収益を得ることが可能 である291。このような米国に特徴的な地下資源の所有権に係る法的枠組みが、シェール革 命に寄与したと考えられる292

(2) 地質構造に係るデータ整備 

米国では、在来型及び非在来型の石油・ガスに係る豊富な開発実績を有しており、この 実績を通じて地質構造に関わる膨大なデータを整備している。

シェール開発サイトは、既に開発が行われた在来型・非在来型の油ガス田及びその近隣 であることが多いため、これらの油ガス田の地質構造に係る知見がシェール開発にも活用 することが可能である。米国では、シェール開発に係る坑井のデザイン(掘削深度、水平杭 の長さ、スウィートスポットの同定などのシェール層に対する生産最適化のための作業方 法)が地域別に確立されているが293、その理由として州別の地質調査結果や石油堆積盆に係 る非常に洗練されたデータベースが整備されていることを挙げることが出来る。

エネルギー情報局(EIA: Energy InformationAgency)では主要な開発地域における地質情報

290  範囲設定は自由であるが1マイル四方(1.6km×1.6km=2.5km 2 )での設定が多いと言われる。なお連邦保 有地のリース鉱区は1マイル四方と規定されている。

291 シェールガス等の開発可能な対象資源が増えれば、その土地の価値は上昇する。土地所有者にとって、

石油・ガス価格の上昇や資源開発は新たな資産価値・収益を生み出すことになり、石油会社による開発投 資も活気づくことになる。

292 米国にはリース管理の専門職 Landman が存在し、特に土地所有者が多数の場合に、このLandman 石油会社と土地所有者のリース契約に関わることで、迅速かつ的確なリース契約締結がなされる。

293 本田(2016)

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を整備・更新している294。そのため、シェール開発事業者は、このようなデータを活用す ることで効率的にシェール開発を進めることが可能になっている。なお後述する通り、DOE

によるR&DプロジェクトであるEastern Gas Shales Program(1976〜1992年)を通じて、シェ

ール開発に係る膨大な量の地質学的データと生産データが取得されており、データ整備に あたり重要な役割を果たした。

このように、米国では石油開発の歴史を通じて地質構造の知見が蓄積されており、シェ ール革命が起きた大きな要因となっている。

図4-8  Eagle Ford油田における地質構造に関わるデータ

(資料)上左図、上右図:Tucker F. Hentz and Stephen C. Ruppel, Regional Stratigraphic and Rock Characteristics of Eagle Ford Shale in Its Play Area: Maverick Basin to East Texas Basin, Posted May 31, 2011

下図:U.S. Department of Energy, Updates to the EIA Eagle Ford Play Maps, December 2014

(3) 掘削サービス関連企業及び熟練技術者の集積 

  米国では非在来型油ガス田の開発経験が豊富で、水平坑井や水圧破砕、マイクロサイス ミック技術を駆使できる掘削サービス企業や熟練技術者が集積している。また、米国には

Schlumberger社、Halliburton社、Baker Hughes社等の大手石油サービス会社やシェール専門

294 <https://www.eia.gov/maps/maps.htm>

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開発事業者も多数存在しており、シェール開発の事業体全体で技術的な蓄積を有している。

このような技術的な蓄積も、シェール革命が起きた要因であると考えられる。

(4) 天然ガスパイプライン基盤 

  米国には、全米に敷設された長大なパイプライン網があり、シェール開発で生成するシ ェールガス/オイルの輸送にそのまま活用できることも、シェール革命を可能にした大き な要因といえる295。また、1980年代から1990年代初めまでの米国連邦エネルギー規制委員 会(FERC: Federal Energy Regulatory Commission)による一連の行政命令(Order)の結果として、

これらの州間天然ガスパイプライン(及び地下貯蔵施設)へのオープンアクセスが確立され た296。このように充実したインフラ設備は米国以外には存在せず、現時点で米国以外でシ ェール革命が起こっていない要因の一つと考えられる。

図4-9  米国のガスパイプライン網

(出所)市原(2012)

(5) ハイリスク掘削企業等に対する資本市場の整備 

初期におけるシェール事業の担い手は、地元の中小企業や個人経営者、ベンチャー企業 等が中心であった。米国ではこのような企業に対して投資を促す資本市場が整備されてい た。すなわち米国では、ベンチャーキャピタル等のエクイティファンド等の仕組みが普及 しており、ハイリスク・ハイリターンの事業に資金供給する風土が存在していたことも、

米国においてシェール革命が起きた要因として挙げることが出来る297

295 市原(2012)

296 1985年、FERCは、Order436を公布し、州際パイプライン会社に対して自主的に輸送機能と販売機能を

分離することを促した。更に1992年にはOrder636を公布し、州際パイプラインを通じた販売活動と輸送 機能のアンバンドリングを義務付けた。

<http://naturalgas.org/regulation/history/>

297  2000年以降のITバブルの崩壊以降、投資先を探していた投資マネーが、シェールを始めとする資源開 発企業に向かったということも指摘される。

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2000年代後半以降、2009年のExxon Mobil社によるXTO Energy社298買収をはじめとして、

米国メジャーがシェールガス掘削に従事する中小企業を買収する動きが加速した。この背 景として、2000年以降、世界中のNOC が、自国内の資源開発に当たりIOCを排除し始め たことを指摘する意見もある。これにより米系IOC(例: Exxon Mobil社、Chevron社、Conoco

Phillips 社等)は、NOC が保有する鉱区にて開発することが困難になったため、必然的に米

国国内における開発について注力せざるを得なくなった。これにより米系 IOC は、シェー ル開発に注力することとなったと考えられる。

 

298 <http://www.xtoenergy.com/>

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