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3 石油・ガス産業に係る分野横断的技術の最新動向 

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3.1.2 ハイドレート・ワックス対策技術 

サテライトの油ガス田は洋上プラットフォーム上から大偏距掘削することで開発が可能 となるが、海底仕上げ井で開発すれば、さらに遠距離にある油ガス田も開発することがで きる。しかし、フローラインが長距離あるいは大水深になるほど、フローラインでの圧力 損失が大きく、さらに温度低下によるワックスやガスハイドレートの析出などの問題が発 生しやすくなり、生産性を阻害する要因が増加する。大水深油ガス田では貯留層深度が深

くHP/HTである一方で、海底面での温度が0〜5℃程度しかなく、坑井密閉時にはハイドレ

ート・ワックスが析出しやすい環境であり、一旦析出すると修復が非常に困難であるため、

適切な防止対策が重要である。

ハイドレートに関しては、MEG(Mono-Ethylene Glycol)やメタノール等のハイドレート防 止剤を用いて対応することが可能である。MEGを入れない場合と40%入れた場合のハイド レート生成圧力・温度を見ると、MEG使用量を増加させれば生成温度は更に低下するため、

アンビリカル経由で注入するMEGが適切に注入される限り問題は発生しない。また使用す る薬品に関して、MEGとメタノールを比較するとメタノールの方が安価であるが、沸点の 問題から水と混じった場合にメタノールの分離再生は困難であるため、多量に必要なフロ ーラインへの常時注入のような場合にはMEGを用いて、生産設備にて水と混じった MEG を再生させることが一般的である。

一方、ワックスに関しては、薬品によって析出防止できる場合もあるが、多くの場合、

析出速度を遅くするだけで、長期間では析出する場合が多い。このため、ワックスが析出 しやすい油ガス田の場合、電力を用いてフローラインを加温する DEH(Direct Electrical

Heating)やPIP(Pipe in Pipe)と呼ばれる二重管を用いて、内部管を保温するとともにアニュラ

ス部にホットオイル等を流すことで加温も行う方法が採用されている。

これらの加温は、生産状態が安定してフローライン・パイプラインの内面温度がワック ス析出温度を十分上回った状態になると不要となるため、主に生産開始時の温度が低い状 態で使用される。また、長期密閉によってフローラインやパイプライン内部に長時間原油・

コンデンセートが滞留する場合、ハイドレート・ワックスの析出防止のために長時間熱を 供給することは不経済であり、管内を軽油やMEGで置換することが一般的である。

 

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3.1.3 新規素材関連技術 

大偏屈掘削やマルチラテラル仕上げ等の複雑な掘削方法では、地下の状況をリアルタイ ムで把握しながら掘削を行う必要があることから、掘削部材に電子機器を搭載している。

そのためドリルパイプやドリルカラーには非磁性が要求される。また先述したHP/HT環境 下での使用に耐える強度や耐腐食性も要求されており、主に鋼管メーカーにおいて高強度、

耐腐食性を有する特殊合金の開発が進められている。以下、新規素材関連技術の開発事例 を示す。

(カーボンナノチューブ(CNT)とゴムの複合材)

センサーを用いた高度な掘削のためには、特殊鋼管の材料開発に加え、鋼管の接続部分(シ ール材)の耐熱、耐圧、耐腐食性が求められる。より過酷な条件で使用が可能なシール材と してカーボンナノチューブ(CNT: Carbon Nanotube)とゴムの複合材の開発が行われている。

例えば信州大学の開発プロジェクトでは260℃、250MPaの条件下で使用が可能なCNT/ゴム 複合材が開発されている196

(炭素強化繊維(CFRP)を用いたマリンライザーの検討)

大水深開発では、ライザー管の総延長が増すにつれてかかる荷重が増え、荒天時等には 操業が危険な状態となってしまうため、マリンライザーの重量が大きな問題となる。この 課題を解決するために、三菱樹脂(株)は、軽量でかつ高強度な材料として炭素強化繊維

(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)をライザーに使用する開発を進めている197

(PGAのシェール掘削用途への展開)

ポリグリコール酸(PGA: Polyglycolic acid)は、加水分解性、高強度、高弾性、高耐摩耗性、

優れたバリア性、易加工性などを併せ持つ優れた高性能樹脂である198。(株)クレハでは1995 年からPGAの研究開発をスタートし、世界初の量産化技術を確立した。同社は、2014年に

Magnum Oil Tools International 社に対して北米での独占的販売権を供与することにより石

油・ガス市場への参入しており199、更に2016年10月には日揮(株)との間で新たな合弁販売 会社としてKureha Energy Solutions LLCを設立した200

PGAのシェールオイル・ガス掘削分野への適用として、掘削の目止め(泥水流防止)用途で の使用が拡大している201。また水圧破砕時のPGA活用方法として、分解性ボールシーラー が開発されている。当該技術では、徐々に内径が小さくなっていくアウタースリーブにサ

196<http://nanonet.mext.go.jp/ntjb_pdf/GN-09.pdf>

197 関均、藤田研(2013)「炭素繊維強化プラスチックを用いた深海掘削用計量マリンライザーの検討」, 油技術協会誌  第78巻第5号(平成259月)

198 <http://www.kureha.co.jp/business/material/kuredux.html>

199 Magnum社との独占販売店契約は2016年に終了(非独占で継続)

200 <http://www.kureha.co.jp/newsrelease/uploads/20160928.pdf>

201 一時的に自然フラクチャを目止めするが、最終的には自然消失するため、生産障害を起こさない。

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イズの異なるPGA製ボールを小さいものから順に入れていくことで、多段水圧破砕の実現 に寄与することが出来る202。更に同社の分解性フラックプラグは、ボールシーラーと組み 合わせて利用される。水圧破砕した先端部をフラッキングとボールにより分離する工程を 繰り返すことで、坑井全体をフラクチャリングすることが出来る203

 

 

202 水圧破砕後、PGAは分解する

< http://www.google.com/patents/WO2014024827A1?cl=ja>

203 <http://www.google.com/patents/WO2013183363A1?cl=ja>

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