2.5 海洋生産システム
2.5.2 重要技術の整理
1) FPSO
FPSO(Floating Production, Storage and Offloading)は、洋上で石油・ガスを生産し、生産した 原油を設備内のタンクに貯蔵して、直接輸送タンカーへの積出を行う設備である113。FPSO は、世界における浮体式生産設備の導入件数の 6 割以上を占めており、サイトとしてはブ ラジルや西アフリカ沖における導入が多くなっている。FPSOの主要オーナーとしては、リ ースを積極的に展開するMODEC社、SBM Offshore社(以下、SBM社)(オランダ)社やBW
Offshore社(ノルウェー)などが存在する。
図 2-16 FPSOの概要
(出所) MODEC Webサイトより114
FPSO の基幹構成物は、生産設備115、船体、係留システム、更にはフローラインにより構
成される。
・ 生産設備116…油処理設備、ガス処理設備、水処理設備、発電設備、コントロール・シ ステムを主要な機器として船上に設置される。海底の井戸元から生産される油層流体 (fluid)は、通常ガスや水その他の不純物を含んでいるため、油層流体セパレーターと呼 ばれる圧力容器で、原油、ガス、随伴水等に分離する。分離された原油は船腹の貯油
113 一方、FSO(Floating Storage and Offloading)は、石油・ガスの生産を行なう設備を持たない、洋上での貯
蔵・積出専用の設備である。
<http://www.modec.com/jp/business/fpso/overview.html>
114 <http://www.modec.com/jp/business/fpso/overview.html>
115 生産設備(Production Facility)は、プロセス(Process)、トップサイド(Topside)などとも呼ばれる。
116 <http://www.modec.com/jp/business/fpso/production.html>
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タンクに貯蔵され、定期的に配船される輸送タンカーに積み出される117。
・ 船体118…FPSOの船体は新造するケースと、中古タンカーを改造するケースがある。係 留設備が取り付けられた船体には、原油貯蔵用のタンクの他、生産設備、コントロー ル・システム、ボイラー、各種ポンプ等のユーティリティ用の設備、消火装置、救命 艇、ヘリコプター・デッキ、クレーン、FPSO上で働くクルーの居住設備、原油積出設 備が設置される。
・ 係留設備119…FPSO は通常 6〜10 本のチェーンまたはワイヤーで構成される係留索
(Mooring Line)で海底と固定される。係留索とFPSOの船体との接続はタレット(Turret)
方式が代表的で、回転構造を持つ巨大なベアリング(Bearing)を介して船体に接続される
120。係留装置サプライヤーとしてはSBM社、SOFEC社(米国) 121、Bluewater社(オラン ダ)、NOV/APL社(米国)が挙げられる。これらの企業はFPSOを係留するためのタレッ ト/スウィベル装置を設計・製造している122。
・ フローライン123…海底と FPSOをつなぐパイプ(通称: ライザー)周り全般を指す。この パイプを通じて、海底から生産される油層流体を FPSO の生産設備に受け入れたり、
FPSO上の生産設備で分離されたガスや水を海底に再注入する。FPSOに受け入れる場 合、油層流体は、①海底パイプライン、②パイプラインとライザーを接続するPLEM(Pipe
Line End Manifold)、③フレキシブル・ライザー(Flexible Riser)などを経由する124。フレ
キシブル・ライザーを介して直接受け入れる場合は、アンビリカル(Umbilical)125が必要 となる。
新しい設計のFPSOを開発する取り組みも続いているが、新型設計のFPSO導入は不首尾 に終わっていることから、業界は消極的である126。
2) セミサブマーシブル
セミサブマーシブルは、構造物の下部が半分海面下に沈み込んでいる半潜水式の浮体構
117 トップサイドのサプライヤーとしてはDyna-Mac(社)、Lamprell(UAE)等が挙げられる。トップサイド・
インテグレーターとしては、MODEC社及びSBM社に加え、Technip社(フランス)等が挙げられる。
(出所: 日本船舶輸出組合、ジャパン・シップ・センター、(財)日本船舶技術研究協会(2012.3)「海洋資源開
発プロジェクト調査-2011年度JSC特別調査事業-02」)
<http:// fields.canpan.info/report/download?id=4253 >
118 <http://www.modec.com/jp/business/fpso/hull.html>
119 <http://www.modec.com/jp/business/fpso/mooring.html>
120 係留システムには多くの種類があり、環境条件に見合った最適なシステムが選択される。オーストラ リア北西海域や香港沖など台風が多く海象条件が非常に厳しい海域では、タレットが船体内部に位置する インターナル・タレット(Internal Turret)が多く使われる。台風が接近した場合にFPSOを係留装置から切り 離し、安全な場所に避難することができる切り離し型のディスコネクタブル(Disconnectable)タレットが用 いられることもある。
121 SOFEC社は、MODECの子会社である。
122 超大水深用係留索として新世代の高剛性ロープが開発中。Petrobras社は他社に先駆けて合成繊維係留 索を研究開発している。 (出所: (財)日本船舶技術研究協会ほか (2012.3))
123 <http://www.modec.com/jp/business/fpso/flowline.html>
124 フレキシブル・ライザーは、鋼製パイプであり、柔軟な構造となっている。
125 海底坑口装置を制御するための電力・油圧・信号ケーブルからなる複合ケーブル
<http://www.modec.com/jp/business/fpso/flowline.html>
126 (財)日本船舶技術研究協会ほか (2012.3)
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造物であり、浮体構造の上に掘削リグや石油・ガス生産設備を搭載して使用される。海面 で切断したときの構造物の断面積が船型の構造物に比べて小さいため、波や潮流による上 下動や水平移動の応力が少なく、悪天候の海象条件でも安定した状態を確保することが出 来る。当該方式の主たる用途は、掘削作業を行うことだが、近年では生産設備として転用 されるケースも増えており、坑口装置を海面上に設置するためのプラットフォームとして 主に使用される127。
また当該方式は、固定式プラットフォームの使用が困難な大水深海域での使用に適して おり(適用水深約2,400m)、稼働設備の多くがブラジル沖に設置されている128。またオーナー はPetrobras社とStatoil 2社に集中している。なお貯油設備を持たないため、貯蔵積出機能を 有するFSOと併用したり、パイプラインに接続して原油・ガスの積出を行う。
セミマーシブルの 3 つの基幹構成物は、トップサイド、船体、係留装置129である。トッ プサイドの納入実績を有する企業は Technip 社(フランス)、Kiewit社、GIF社、McDermott 社(米国)等である。また係留索の主力サプライヤーとしては Bridon 社(イギリス)、Parker
Scanrope社(ノルウェー)、Lupatech CSL社(ブラジル)が挙げられる。
3) SPAR
SPARは、縦長の円筒形型の大型ブイを複数の係留索で係留した浮体構造物である130。稼 働中のスパー型生産設備の約9 割がメキシコ湾に設置されており、主要オーナー/オペレー ターとしてはAnadarko社等がある。
SPARの3つの基幹構成物はトップサイド131、船体、係留装置132である。近年の技術開発 の方向性として、船体建造に要する鋼材量を削減し、船体を大型化することなく可変搭載 可能重量を増やすことを目標として、設計の改良により船体の浮力を増す研究が行われて いる133。
4) TLP
緊張係留式プラットフォーム (TLP: Tension Leg Platform)は、強制的に半潜水させた浮体 構造物と海底に打設した基礎杭とをテンドン(Tendon)と呼ばれる鋼管で接続し、強制浮力に
127 <http://www.modec.com/jp/business/semisub/index.html>
128 セミサブ型は、デッキ面積が比較的広く、デッキ上に搭載される処理設備の配置の点で柔軟性がある。
また、セミサブ型生産設備は多数のライザーを受け入れることが可能であり、喫水が深いため比較的海面 の挙動の影響を受けにくい。このため、特に広範囲の海底に多数の坑井が設置されている複雑な大水深油 ガス田における利用に適している。(出所: (財)日本船舶技術研究協会ほか (2012.3))
129 係留装置にはワイヤーロープまたはポリエステルロープ、サブシーアンカー、チェーン、ウィンチ等が ある。一般的に、セミサブ式生産施設は各コーナで2本から4本の係留索を使用して海底に固定される。
大水深に設置されるセミサブではカテナリー式のワイヤー/チェーン係留装置が使用される。(出所: (財)日 本船舶技術研究協会ほか (2012.3))
130 <http://www.modec.com/jp/business/domain/fps.html>
131トップサイドの納入実績を持つサプライヤーはKiewit社、GIFI社、McDermott社等である。
132 係留索としてはワイヤーロープ、ポリエステルロープのいずれの使用も可能であり、長さは設置場所の 水深に左右される。係留索の納入実績を有する企業としてBridon社とWhitehill社(米)が挙げられる。
133 (財)日本船舶技術研究協会ほか (2012.3)
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よって生じる緊張力を利用して係留される洋上プラットフォームである。TLP の浮体構造 物は、作業台となる上部構造物、浮力体となる下部構造物及び両構造物を連結するコラム
(Column)と呼ばれる1本ないしは複数の支柱で構成され、下部構造物の外側に張り出した部
分でテンドンと接続される。浮体構造物には常時垂直方向に対して1,000トン超の強い力が かかるため、TLP は水平・垂直方向への動揺が小さな範囲にとどまり、台風等の悪天候の 海象条件でも安定した状態を確保することが可能となる134。
TLPの適用水深は約1,400m程度となっている135。現在稼働しているTLPには、生産設備 を搭載したプロダクションTLP と、坑口装置を海上に設置するためのプラットフォームと して使用されるウェルヘッド TLP の 2 種類がある。現在メキシコ湾を中心に世界で約 20 基のTLPが稼動している。
TLPの3つの基幹構成物はトップサイド136、船体137、テンドン係留装置である。なおTendon に関しては、我が国企業である新日鉄住金エンジニアリングが強みを有している。
(2) 海底生産システム
海底生産システム(SPS:Subsea Production Systems)は、海底仕上げ井(Subsea completion well)と海底機器、海底に設置された生産・処理設備等から構成される海底で完結した生産 システムである。SPSは、クリスマスツリー、マニフォールド、昇圧ポンプ、セパレーター、
圧入システム、多相流量計、パイプライン、アンビリカル138、ライザー、フローアシュア ランス、動力とコントロール機器、ROV/AUV(後述)などの様々な要素技術により構成され る。
海底仕上げ井やマニフォールドは手動で操作出来ないことから、アンビリカルを通じて 遠隔監視・操作を行う。クリスマスツリーからの生産流体は、マニフォールドで纏められ て生産設備へ送られる。
これら要素技術は、大別して生産流体が流れる部分と監視・制御システムに分類される。
134 <http://www.modec.com/jp/business/tlp/overview.html>
135 最近の技術開発では、TLPの採用限界水深を大きくすることに焦点が当てられており、軽量のテンドン を使用した緊張係留システムの開発が検討されている。標準的なTLPサプライヤーであるMODEC、SBM、
FloaTECの3社は既存システムに代わるテンドンシステムの可能性を評価している。(出所: (財)日本船舶技
術研究協会ほか (2012.3))
136 トップサイドの納入実績を持つサプライヤーはKiewit社、GIFI社、McDermott社(米)、Brasfel社(ブラ ジル)である。
137 MODEC社、SBM社、FloaTEC社(McDermottとKeppel FELSの合弁事業)は、TLP 船体の標準設計を提 供している。この他にもオペレーターの中には、独自のTLP設計を保有する企業もあり、例えば、Shell
はOlympusプロジェクト向けに独自のTLP設計を開発した。(出所: (財)日本船舶技術研究協会ほか (2012.3))
138 電力用ケーブル・油圧用ライン・薬注用ライン・監視用光ケーブル等を纏めたもの