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4.1 米国における事例分析

4.1.1 技術的要素に係る整理

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4 シェール革命が実現した背景等の整理・分析 

77 2) シェール開発への適用 

1990 年代以降、シェール開発が進められる中で、石油開発で培った「水平坑井」と「水 圧破砕」を組み合わせて活用できたことが、シェール革命を実現させた重要な要因と言え る。水平掘削・坑井に関して言えば、坑井と地層間の流体移動を遮断するためにケーシン グ技術を用いるが、このケーシング枚数を削減することが技術開発における重要要素とな っている。また1つの掘削サイトから複数の生産井を掘削する技術として、Mulit-well Pad

Drillingが実施されており、掘削費用削減や環境への影響低減に寄与している。この他にも

掘削先端アセンブリーに係る最新技術としてRotary Steerable System268が開発されており、

水平掘削に係る更なる技術進展に寄与している。

図 4-1  水平坑井と多段階の水圧破砕イメージ 

(出所)JOGMEC Webサイトより269

(2) 「水圧破砕」の確立 

水圧破砕とは、坑井内を満たした流体を高圧で加圧することで、坑井付近の貯留岩を人 工的に破壊することを意味する。水圧破砕法とは、生成した亀裂(フラクチャー)により、坑 井近傍の浸透率(流体の流れやすさ)を改善し、坑井への有効な流入断面を拡大して、坑井の 生産性を向上させる技術である270。水圧破砕のコンセプト自体は1860年代から存在してい たが、技術進展により地層への多段階フラクチャリングが確実にできるようになり、非在 来型資源とされたシェールガスやシェールオイルの開発に適用されるようになった。

268 当該技術により、掘削を実施しながら、随時適切な角度に調整することが可能となる。

269 <http://www.jogmec.go.jp/library/contents3_04.html>

270 伊原賢(2011)「水圧破砕技術の歴史とインパクト」, JOGMEC石油・天然ガスレビュー2011.5 Vol.45 No.3)

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図 4-2  水圧破砕におけるガスとフラクチャリング流体の動き  

(出 所)伊 原 賢(2014)「 フ ラ ク チ ャ リ ン グ の サ ー ビ ス 会 社 か ら 見 た シ ェ ー ル 資 源 掘 削」,JOGMEC石油・天然ガス資源資料271

1) 技術変遷272 

1930年代以降、旧Stanolind Oil社のFloyd Farris氏は、坑井の生産挙動と地層が崩壊する 際の流体の処理圧力との関係を調べて現象を解明する研究を実施した。この研究を通じて、

生産性を向上させる手段として、水圧破砕技術が考案された。1947 年には、同社によりカ ンザス州南西部 Grant 郡の Hugoton ガス田において水圧破砕が実施されたのに続き、1949 年には同社J.B.Clark氏が「A Hydrafrac Process for Increasing the Productivity Wells」と題する 論文を発表した273

この水圧破砕法は1949年に特許となり、Halliburton Oil Well Cementing社(Howco社)に、

水圧破砕法が実施許諾された。Howco社は、1949年3月にオクラホマ州のStephens郡とテ キサス州のArcher郡で、商業ベースのフラクチャリング2 件をStanolind Oil社向けに実施 した274。これ以降、油ガス井の生産性向上を目的としてフラクチャリングは広く普及して おり、現在では坑井総数の60%程度に実施されていると見られている275

271 <https://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/5/5319/1408_out_e_fracturing_fluids_trend.pdf >

272 伊原(2011)

273 Carl T. Montgomery, Michael B. Smith, NSI Technologies(2010)「Hydraulic Fracturing –History of an Enduring Technology-」, JPT December 2010

<http://www.ourenergypolicy.org/wp-content/uploads/2013/07/Hydraulic.pdf>

274 Stephen M. Testa(2017)「Historical Development of Well Stimulation and Hydraulic Fracturing Technologies」, Search and Discovery Article

<http://www.searchanddiscovery.com/documents/2017/60053testa/ndx_testa.pdf>

275 米国における水圧破砕技術の開発と適用は、独立系の中堅開発業者によって推進された。複数のオペレ ーターが事業を行う地質構造では、互いが技術・経済面での優位性を競い合い、北米全体を通じて、作業 や生産のデータを作業終了後6カ月以内に示す規制が設けられ、それを技術開発にフィードバックさせた た。そのため、米国において水圧破砕技術が加速度的に進歩したと言われている。(出所: 伊原(2011))

79 2) シェール開発への適用 

(フラクチャリング流体) 

フラクチャリング流体(fracturing fruid)276とは、水圧破砕にあたり加圧して坑井に送りこま れる流体である。フラクチャリング流体の成分は約 90%が水であり、9.5%程度がプロパン

277、また1%未満程度の割合でその他の化学物質(酸、摩擦低減剤、防腐剤等)が含まれる。

1947 年に水圧破砕が初めて実施されてから、プロパントの運搬能力に優れ、かつ地層にダ メージを与えないフラクチャリング流体の技術開発が実施されてきた。シェールガス商業 化のブレークスルーとなったのは、ほとんど割れ目の無いシェールにひび割れを入れる強 力な水圧破砕法の開発であり、このフラクチャリング流体が大きな役割を果たした。

Slick Waterは、ポリマーなどの摩擦軽減剤を加え、プロパントの保持力を強化したフラク

チャリング流体である。Slick Waterによるフラクチャリング(SWF: Slick Water Fracturing)に より、水の注入速度を上げることができ、水圧破砕の威力を大幅に強化することが可能と なった。SWFは、Mitchell Energy & Development社のGeroge P. Mitchell氏が長年に渡り取り 組んできた技術であり、1990 年代後半にBarnettshale において実施されたテストにおいてその 効果が実証された278279

図 4-3  Slick Water Fracturingのメカニズム  (出所)伊原(2014)

(多段階フラクチャリング) 

多段階フラクチャリングは、1 本の水平坑井から複数の亀裂を作る技術である。2000 年

276 フラッキング水(fracking water)とも呼ばれる。

277 フラクチャリングによって出来た割れ目の開度を保つ詰め物。

278 出所: 伊原(2011)

279 John M. Golden, Hannah J. Wiseman「The Fracking Revolution: Shale Gas as a Case Study in Innovation Policy」, Emory Law Journal

<http://law.emory.edu/elj/content/volume-64/issue-4/articles/fracking-revolution-study-innovation-policy.html>

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以降、長距離の水平坑井を掘削し、大規模な水圧破砕を行う方法が実用化されており、現

在では20〜40段階の多段階フラクチャリングが実施されるようなった。

シェールオイル開発への適用状況を見ると、2007〜2008 年頃には 1,000〜2,000mの水平 区間に沿って4〜8段階の水圧破砕を施していたが、2010年以降は水平区間を3,000m以上 に延伸させて20段階以上の水圧破砕実施することにより、生産量を増加することが可能と なった。具体的には、水平坑井の裸坑に多段階フラクチャリング(Openhole Packer & Sleeve

Completion)を施し、2層同時生産を実現している280

図4-4  水平坑井の裸坑に多段フラクチャリングを施した2層同時生産

(出所)伊原賢(2011)「坑井仕上げの進化-シェールガス開発技術のタイトオイル開発への適用

-」,JOGMEC石油・天然ガス資源資料281

多段階フラクチャリングの実施に当たっては、水圧破砕を行うプラグ間の間隔設定(Stage

Spacing)とフラックする箇所の間隔設定(Cluster Spacing)が、生産性に大きな影響を及ぼす282

このようなフラクチャリングの最適化を巡るイシューに関して、3次元シミュレーションモ デルを用いて様々な研究が実施されている。

280 伊原(2011)

281 <https://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/4/4286/1101_out_e_well_completion_for_tight_oil.pdf>

282 Ran Lin, Lan Ren, Jinzhou Zhao, Leize Wu, Yuanzhao Li (2017)「Cluster spacing optimization of multi-stage fracturing in horizonatal shale gas wells based on stimulated reservoir volume evaluation, Arabian Journal of Geoscience

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図4-5  Bakken構造の掘削仕上げの進化と探鉱開発コストの推移

(出所) 伊原(2011)

(3) 「マイクロサイスミック」の確立 

  前述の通りマイクロサイスミックは、水圧破砕により岩石に割れ目が形成される時に発 生する音を観測し、その音波の速度差を利用しての割れ目発生点を評価し、ガスの回収効 率の向上に必要な情報(音の震源/Microseism のマッピング)を提供する技術である283。シェ ール開発時において、水圧破砕により岩盤が割れる時、割れ目からAEと呼ばれる音響エネ ルギー(micro-seismic)が放出される。この音を近くの観測井に設置されたセンサーで計測し、

割れ目の位置を評定する手法が開発された。

283 伊原賢(2013)「シェールガス・オイルの採掘技術のトレンド 2013」,JOGMEC石油・天然ガスレビュー

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図4-6  水圧破砕におけるマイクロサイスミックの観測イメージ

(出所)伊原(2013)

  シェール開発においてマイクロサイスミックは、水圧破砕工程においてどのようにフラ クチャ化が進んでいるのかを把握するために実施する284。1970年代後半から1980年代に行 われたタイト油層(チョーク油層)の採掘時の生産性改善にマイクロサイスミック技術が用 いられ、米国で技術の蓄積が図られた285。その後、複数の深度で微小地震の同時計測がで き、観測される微小地震の波の解析から高い精度で震源地(水圧破砕による割れ目の広がり) の位置の評価ができるようになった286

 

284「マイクロサイスミック」の実施には多額のコストがかかるため、通常は、水圧破砕の本格実施前に行 い、必要に応じて、水圧破砕中に「マイクロサイスミック」を実施する。

285 本田博巳(2016)「石油探鉱開発における技術革新と石油鉱業(その4=最終章)」,JOGMEC石油・天然ガス 資源資料

<https://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/7/7745/201605_001a.pdf>

286 伊原賢(2010)Petroleum Engineer の取り組むトレンドを読み解く」,JOGMEC石油・天然ガスレビュー

2010.1 Vol.44 No.)

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図4-7  マイクロサイスミックによる震源地の位置評価

(出所)伊原(2010)   

このように 1990 年代以降、シェール開発が進められる中で、「水平堀技術」や「水平破 砕技術」と「マイクロサイスミック技術」との統合、改良が進められたことでシェール革 命が実現した。

   

 

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