4. CMC を利用した知識業務プロセスの研究
4.3 CMC 知識業務プロセスの研究モデル
4.3.1 仲介知モデルの提案
本項では企業内の知識流通モデルとして仲介知モデルを提案する(Yamamoto & Kanbe 2008, Kanbe & Yamamoto 2009).従業員が企業内のCMCツールを使い,複数の従業員間 で流通させる知識を仲介知と呼ぶ.仲介知は,知識概念の暗黙知と形式知(野中ら1996)を 発展させたものである.暗黙知と形式知に基づいた伝統的な知識創造モデルでは,暗黙知 と形式知の知識変換に,組織階層での知識スパイラルを条件としている.仲介知は,暗黙 知と形式知の知識変換に必要な組織階層での知識スパイラル条件を満たさずに流通する特 徴を持つ.暗黙知は個人のなかにある潜在的な知識の状態を示す.また形式知は暗黙知が 組織階層での知識スパイラルを経て一般化されたものを示す.仲介知は,組織階層で知識 スパイラルを経ずとも,CMCツールを介して流通し従業員や組織の問題解決や業務遂行に 役立つ知識である.仲介知の状態では,暗黙知のままでは流通しない知識を,形式知化す るほど手間をかけずとも流通する.仲介知には,暗黙知に基づいて公開されただけで一般 化されていない知識の状態も含む.また,仲介知には,形式知の一部という知識の状態も 含む.ある従業員が公開した仲介知への質問や意見の表明なども仲介知として考えられる.
本研究における仲介知はこのような知識のなかで特にCMCツールで観測可能なものに限 定する.仲介知モデルを図4-1に示す.
仲介知モデルは,野中ら(1996)のSECIモデルにおける暗黙知と形式知に基づき,CMC の活用による知識スパイラルの過程をモデル化したものである.SECIモデルは,知識スパ イラルの過程の例として,合宿などの「場」で行われる相互作用などをあげて説明してい る.これに対しCMCの活用がなされた知識スパイラルの過程は,参加者間の相互作用の過 程が電子的な記録として存在するので,観察可能となる.この過程を表現したモデルが,
仲介知モデルである.CMCにおける電子的な記録は,必ずしも知識スパイラルの過程にお けるすべての相互作用を記録できるわけではないが,知識の発信や受信に基づいて,その 過程を追跡できるという利点を持つと考える.
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共同化連結化
表出化 内面化
公開化
協働化
共鳴化 断片化
洗練化
形式知
暗黙知
仲介知
CMCツールによる 知識流通 伝統的な知識創造モデル
図 4-1 仲介知モデルの概念図
図4-1では,伝統的な知識創造モデルのSECIモデルで表現される「場」が,従業員ごと に存在することを示している.従業員ごとに所有する暗黙知も異なれば,従業員が作成し 利用できる形式知も個人により異なるからである.本研究では伝統的な知識創造モデルで あるSECIモデルに仲介知を加えることで,企業内における新たな知識流通モデルを提案し た.CMCツールは,複数の従業員が知識を仲介知として交換し発展させる場である.よっ て図4-1では仲介知を単一のものとして表現している.仲介知モデルでは,従業員の持つ暗 黙知を,形式知にするための時間やコストをかけずに仲介知の形で流通させることを説明 できる.
企業は,企業内に偏在する知識を集約することで,業務上の問題解決を効率的に行うこ とができる.CMCツールはこうした偏在する企業内の知識を集約するための有効なツール である.仲介知モデルは,CMCツールという新たな知識創造の場でのコミュニケーション による,従業員間での知識の集約プロセスを説明するモデルである.仲介知モデルは,CMC ツールの利用により可視化される形式知と暗黙知の知識変換モードのうち,特に表出化と 内面化を詳細化したモデルと言うこともできる.本研究では従業員によるCMCツールを介 した新たな知識流通を説明するためにCMCツール上で観察される知識として仲介知を提 案した.そして,その仲介知と形式知,暗黙知のあいだでの知識変換モードとして公開化,
断片化,協働化,共鳴化,洗練化という知識変換モードを提案した.また,CMCツール上 でのコミュニケーション履歴として流通する知識は,テキストなどの形式で電子的に保存 されているため,他の従業員が参照し,利用することが可能となる.仲介知モデルの知識 変換モードによりCMCツール上でのコミュニケーション特性を分析することも可能とな る.
46 4.3.2 仲介知の知識変換モード
4.3.1で説明した仲介知の知識変換モードを,表4-1で詳細に説明する.表4-1の表側に
は仲介知の知識変換モード,表頭には知識変換のインプット,変換処理,アウトプットを 配した.以下にそれぞれの知識変換モードを説明する.
表 4-1 仲介知モデルの知識変換モード
仲介知モデルの 知識変換モード
インプット 変換処理 アウトプット
公開化
• 個人の経験
• 個人の伝聞
• 個人の意見
• 個人の疑問 等
有用と思われる個人の経験,伝 聞,意見,疑問を想起ないし思考 し,テキストに変換する.
• 他のCMC参加者に対し て,個人の経験,伝聞,
意見,疑問を伝えるテキ スト化された知識
断片化
• 書籍
• 公式文書
• 組織名,人物名,ID 等
有用と思われる形式知を想起,
調査し,その一部またはリンクを テキストに変換する.
• 他のCMC参加者が一般 化された形式知にアクセ ス可能なテキスト化され た知識
協働化
• 個人の経験
• 個人の伝聞
• 個人の意見
• 個人の疑問 等
他のCMC参加者の知識に反応し 議論として個人の経験,伝聞,意 見,疑問をテキストに変換する.
• 他のCMC参加者との議 論における,個人の経験,
伝聞,意見,疑問を伝え るテキスト化された知識
共鳴化
• CMCツール内で提供 されたCMC参加者に 有用な知識
CMCツール内で提供された有用 な知識を暗黙知に変換する.そし て感謝や同意をテキストに変換す る.
• 他のCMC参加者の発言 に関する感謝や同意を 表わすメッセージ
洗練化
• CMC参加者が有用 性に着目し形式知化 しようとするCMCツー ル上の知識
知識を集約し,一般化された形式 知を作成する.
• CMCを通じ収集された 知識を集約し一般化さ れた知識
(a)公開化
公開化は,従業員が自らの持つ暗黙知を仲介知に変換する知識変換モードである.公開 化のインプットは個人の経験,伝聞,意見,疑問などの暗黙知である.公開化は,従業員 がCMCツールを利用して,自己もしくは他の従業員に有用と思われる個人の暗黙知を想起 し,思考し,暗黙知を仲介知に変換する知識変換モードである.公開化のアウトプットは,
他のCMC参加者に対して個人の経験,伝聞,意見,疑問を伝える知識である.公開化の具 体例を示す.従業員がソフトウェアの開発経験に基づいて,試行錯誤で習得した特殊なデ バイスの制御についてのノウハウの提示が,CMCツール上において確認された.経験によ って得られた制御についてのノウハウは,この従業員の暗黙知であり,CMCツールへの記 述は公開化の例である.
(b)断片化
断片化は,従業員が利用可能な形式知を仲介知にする知識変換モードである.断片化の インプットは,書籍,公式文書,公開された組織名,人物名などの形式知である.CMCツ
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ールを利用した従業員は,これらの形式知を仲介知に変換する.その変換処理は,他のCMC を利用する従業員にとって有用と思われる形式知を想起したり調査して,その一部を引用 したり,リンクに変換するものである.断片化では,他の参加者が,形式知にアクセス可 能な知識がアウトプットとしてCMCツール上に記録される.断片化の具体例を示す.従業 員が存在を知るある事業部門が作成した技術資料の一部を断片的に提示したことが,CMC ツール上において確認された.この技術資料は,形式知の一部であり,技術資料の断片的 なCMCツールへの提示は断片化の事例である.
(c)協働化
協働化は,他の従業員のCMC上での仲介知に反応して議論することで出現する知識変換 モードである.協働化のインプットは,公開化と同様に個人の経験などの暗黙知である.
公開化と協働化との違いは,変換処理にある.公開化の変換処理が従業員の自発的な想起 に基づくものであるのに対し,協働化の変換処理は他の従業員のCMC上での意見に反応し て生じた議論に関するものである.協働化のアウトプットは他の従業員との議論において 表出した個人の暗黙知から変換された知識である.協働化の具体例を示す.従業員間で実 施されたソフトウェア開発の試験手順についての議論が,CMCツール上において確認され た.この議論はCMCツール上での協働化の事例である.
(d)共鳴化
共鳴化は,CMCツール内に提供された知識を理解し暗黙知に変換する知識変換モードで ある.共鳴化のインプットは,CMCツール内で提供されたCMC参加者に有用な知識であ る.共鳴化の知識変換処理は,CMCツール上の知識をCMC参加者が理解し,暗黙知に変 換することである.ここまでで共鳴化は終了するが,知識の提供者に対して,感謝や同意 をテキストにして表現することがある.この表現が存在することで共鳴化をCMCツール上 で観察することができる.共鳴化のCMCツール上でのアウトプットは,他のCMC参加者 の発言に関する感謝と同意のメッセージである.共鳴化のアウトプットがCMCツール上に 従業員同士が貢献する雰囲気を作ることも考えられる.共鳴化の具体例を示す.他の従業 員からの知識の提示に対する,感謝の意を表す発言がCMCツール上において確認された.
他の従業員からの知識は仲介知であり,それを理解した従業員が感謝の意を示している.
CMCツール上でのコミュニケーション履歴として仲介知が暗黙知に変換されたことを示 す事例である.
(e)洗練化
洗練化は,CMCツール上に記録された仲介知をもとに形式知を作る知識変換モードであ る.洗練化のインプットは,CMCツールに存在する仲介知であり,洗練化を行う従業員が その有用性に着目し形式知化しようとする知識である.洗練化の変換処理は,CMCツール