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知識創造オフィスの提案

5. 知識創造オフィスによる知識業務プロセス支援の研究

5.3 知識創造オフィスの提案

オフィスデザインを行う上でWSコンセプトの検討を行った.知的生産活動に関するモ デルは,SECIモデルが有名である(野中ら1996,野中ら2003など).SECIモデルは,暗 黙知と形式知とが相互に作用しあう時に現れる共同化,表出化,連結化,内面化からなる4 つの知識変換モードを,知識創造プロセス全体のエンジンとして説明している.SECIモデ ルでは,「これらモードは個人も経験するが,全体としては,個人の知識が明示化され,

組織全体へと増幅されるメカニズムでもある」としている.SECIモデルは,組織のなかに おける「知識の増幅」を説明するモデルとして,広く認知されている.しかし,SECIモデ ルで主張される暗黙知と形式知のあいだの変換に関するプロセスが抽象的なものであり,

実際のオフィスワークの検討に直接利用するのは難しい.オフィスでのWS&WPの検討を 実施するためには,具体的なオフィスワークに沿ったモデルを新たに設定するという課題 がある.この課題解決のために,SECIモデルを実際のオフィスにおけるWSで具体化し発 展させた「アイデアのライフサイクル」を仮説として設定する.

5.3.1 アイデアのライフサイクル

知的生産活動のWSコンセプトとしてアイデアのライフサイクルを提案する.アイデア のライフサイクルのイメージを図5-1に示す.

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① 着想 ② 共創

③ 出現

④ 体感

図 5-1 アイデアのライフサイクル

組織全体として従業員の知的生産性を向上させるためには,先進的なトピックを収集し,

迅速にビジネスのアイデアに展開するための知識業務プロセスが必要とされる.このため,

SECIモデルをもとに,アイデアの発生から実感できるまでのプロセスを実際のオフィスワ ークに合わせて具体化した.新たなアイデアの「着想」,「共創」,「出現」,「体感」

の4つのプロセスからなる,アイデアのライフサイクルを仮説として設定した.以下に,

アイデアのライフサイクルで提案するアイデアの発生から昇華までのプロセスとSECIモ デルとの対応関係を説明する.

(a)着想

将来のビジネスの源となるアイデアを,日常業務からの延長ではなく,既存の枠にとら われずに自由に深く発想するプロセスである.SECIモデルの共同化のプロセスに対応する.

(b)共創

着想のプロセスで出たアイデアをチームメンバーや,時にはそれ以外の従業員も交えな がら,多様な意見を組み込み,拡張したり,収束させたりするプロセスである.SECIモデ ルの表出化に対応する.

(c)出現

共創のプロセスで拡張・収束したアイデアをもとに,スピーディに企画やサービスを作 り上げていくプロセスである.SECIモデルの連結化のプロセスに対応する.

(d)体感

出現のプロセスで作り上げた企画やサービスを組織内外に広く体感してもらい,新たな アイデアの着想につなげていくプロセスである.SECIモデルの内面化に対応する.

上記4つのプロセスを迅速に繰り返すことにより,アイデアに対して多数のフィードバ ックを得ることができ,アイデアのアウトプット品質とアイデアを洗練するスピードの向 上につながる.アイデアのライフサイクルは,SECIモデルを,オフィスワークに向け具現

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化した新たな提案である.また,次節では上記の仮説に従い,活動に最適なオフィスデザ インや情報システムの配備,運用ルールの決定について説明する.

5.3.2 知識創造オフィスの WS に基づく WP の設計

アイデアのライフサイクルを実現するWPのデザインを行った.4つのプロセスを実現す るオフィスの要件定義の結果を表5-1に示す.

表 5-1 アイデアのライフサイクルを実現するオフィスの要件

要件 着想 ・リラックスした空間であること

・最新の情報が取得できること 共創 ・共創に必要な資料が用意できること

・共創の状態が外から観察できること 実現 ・効率的に資料やサービスが参照できること

・効率的に資料やサービスが作成できること 体感 ・効果的なプレゼンテーションが実施できること

・効率的にプレゼンテーションが実施できること

なお,表5-1に表記されている要件以外に「セキュリティを確保して業務を遂行できること」

という共通の要件が存在する.知識創造オフィスの実現として,上記要件を満たすWPの 検討を実施し,オフィスに通常用意される従業員の執務空間(自席)以外に,着想エリア,共 創エリア,出現エリア,体感エリアを用意した.さらに,WPの設計を行う際に,表5-1に 示す要件を満たすWPをサポートする情報システムの選定を実施した.選定の観点は「セ キュリティの確保」,「効率的な資料の用意,参照,作成」という要件である.

5.3.3 WP 活用レベルの提案

知識創造オフィスの評価にあたり,WP活用レベルというCMMIを参考にした成熟度を 設定した.CMMIの考えに従うと,新たなWSコンセプトやWPは組織において,最初か ら完全な状態で活用されるのではなく,段階的に浸透するものであると考えられる.知識 創造オフィスコンセプトが浸透しWPが活用されているかを測定する尺度として,CMMI を参考に,以下の「WP活用レベル」を新たに設定した.

WP活用レベルはCMMIにおける組織の業務プロセスの成熟度の概念を,組織でのオフ ィス活用の状態測定に応用したものである.CMMIでは,業務プロセス測定のためにプロ セス管理,プロジェクト管理,エンジニアリング,支援の項目を設け,組織の業務プロセ スの成熟度を測定している.本研究では,CMMIの成熟度のモデルを参考とし,オフィス 活用状態という項目について測定し,組織のオフィスへの利用実態を測定することとした.

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・レベル0:WS&WPが理解されていない

・レベル1:一部の利用者にWPが利用されている

・レベル2:多くの利用者にWPが当初想定された形態で利用されている

・レベル3:多くの利用者にWPが有効に活用されている

・レベル4:利用者によってWPが改善されている

・レベル5:利用者が継続的にWPを改善する仕組みを構築している

レベル0においては,利用者に対しWSコンセプトが十分に理解されず従来型のオフィ スと同等にしか利用されておらず,WPの設計思想が全く活かされていない.レベル1およ びレベル2では,WPの利用頻度を主な尺度とする.これは,設計思想の浸透度を測定する ことを意図したものである.レベル3では,WPの有効性を評価することとした.従来型オ フィスよりもよりも新たなWS&WPが有効な手段として使われていることが確認できた場 合には,このレベルであると判定する.さらに,レベル4以上では,利用者によって主体 的にWPの改善が進められる.レベル5は最も望ましいレベルで,継続的な改善を行う組 織的な取り組みが行われていることを評価の尺度とする.また,このWP活用レベルを評 価する際に,アンケートによる定性的な評価に加え,定量的なデータを取得する方法とし て,オフィスにシンクライアントを導入した.

本研究においては,知識創造オフィスの効果を特許数などの業務活動の成果物数などに より,知識創造オフィス以外のオフィスとの比較も検討した.しかし,経営状況の変化に よる部門の事業方針の変化や,事業部門との連携状況による短期的な業務内容の変化の影 響が大きいため,成果物数による比較ではなく,シンクライアントログによるオフィスの 利用状況とアンケートによる利用意識に基づくオフィスの浸透度の評価を実施した.実際 に多人数の従業員に利用されるオフィス環境を対象とした研究のなかには,単一のオフィ スでの活動を対象とし,その効果をオフィスで利用される情報ツールの利用状態や利用者 の意識調査により評価するものもある.具体的には,新井ら(2006)によるシンクライアント の利用状況の評価や,Cadizら (2002)によるオフィスにおけるアウェアネスアプリケーシ ョンの評価などは,システム利用状況や利用者の意識調査によりその効果を評価している.