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本研究の意義は,知識経営における知識流通システムの構造化を通じ,企業の知識経営 の実態を把握することである.この構造化により,知識経営に対しあるべき姿を示し,知 識経営の管理,運営に役立てることができる.本研究では,知識流通システムを用い企業 の知識経営状態を構造化し,知識経営施策の具体的な効果を知識流通システムの構造化の 事例として位置付けることができた.

第1章では,まず,経済の知識化の流れと知識経営の必要性について説明した.知識経 営を志向する企業は知識経営施策を実施している.しかし,知識経営施策は必ずしも,企 業内で実施される知識業務プロセスや知識経営戦略と整合性が取れているとはかぎらない.

これらを知識経営のための知識流通システムとして構造化し,企業の知識経営を包括的に 構造化する枠組みの必要性を主張した.

第2章では,知識経営の課題について議論した.本研究の対象とする企業の知識経営の 課題として,企業の知識流通システムの構造化と個別の知識経営施策の分析と検証をあげ た.さらに本研究の知識経営課題と先行研究とを対比し,知識経営の課題解決における本 研究の位置付けを明らかにした.また,知識経営の視点から本研究における知識について も定義した.

第3章では,企業の知識経営状態から,知識経営目標の達成度を評価し,知識流通シス テムを構造化し,企業の知識経営の実態を把握した.また構造化によりロードマップを構 築し,ロードマップに基づき知識経営施策の改善方法を提示できることを確認した.

本研究で実施した知識流通システムの構造化手続きは,経営工学の分野において技術戦 略をロードマップ化する手続きとして認められた合理性を踏まえたものに基づいている.

本研究では,この合理性のある手続きを用い,新たに企業の知識経営という分野でロード マップ化を実施した点に意義があると考える.また,知識経営アーキテクチャーに記した 知識経営実践のための方法論や,知識経営施策と知識経営の事実を関連付けて評価した整 理用のフォーマットは,知識流通システムの構造化手続きとして他の事例に適用できる可 能性がある.さらに,本研究では,知識流通システムにおける知識業務プロセスを支援す る知識経営施策を,CMCツール,知識創造オフィスの事例をもとに具体化することができ たと考える.

第4章では,仲介知モデルを提案し,企業内SNSのQ&A機能とソフトウェア開発Wiki の事例を分析した.分析の結果,仲介知モデルに基づき,企業内SNSのQ&A機能は議論 型のCMCを,ソフトウェア開発Wikiは発信型のCMCを支援することを確認した.また,

CMCツールの導入が新たな従業員間の知識流通の場を作り出し,企業の知識業務プロセス を改善することを確認した.具体的には,企業内SNSのQ&A機能とソフトウェア開発 Wikiの利用が業務プロセスに与える効果について事例をあげ確認した.さらにソフトウェ

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ア開発Wikiに対して詳細な分析を行い,ソフトウェア開発Wikiの導入が,知識のリスト 化と収集,一般化されていない知識の共有,対面コミュニケーションの代替という新たな 知識業務プロセスを実現することを確認した.今後は,今回分析したCMC以外のコミュニ ケーション手段も含めた知識業務プロセスの詳細な分析が必要であると考える.たとえば,

CMCツールを導入することで従業員に対するコミュニケーション手段が増加し,従業員の 処理能力を越える場合などの悪影響の分析が必要であると考える.こうした知見を積み重 ねることで,企業内での特定の知識業務プロセスを支援する特性を持ったCMCツールの選 定基準を構築できる可能性がある.

第5章では,知識業務プロセスを支援するオフィスを新規に構築し,オフィスの利用の 事態を把握し,アイデアの共創,出現をサポートするオフィスエリアの効果が高いことを 確認した.アイデアの共創,出現エリアにおいて仮説に基づいた利用状況を確認できたこ とは,企業での知識業務プロセスを知識創造オフィスの導入が支援したことを示している.

本研究では,WP活用レベルを設定し,オフィスエリアごとのアンケートによる意識調査と シンクライアントの利用状況を組み合わせることで,新規に導入されたオフィスの組織へ の浸透度を評価した.新規に構築されたオフィスの効果測定方法として,本研究の手続き により他のオフィスの利用実態を把握できる可能性があると考える.今後は,オフィスエ リア内での従業員の活動の詳細な分析と,オフィスの導入後の中長期的な運用や改善活動 の分析,他の業務・業種に対し導入されたオフィスの利用実態の把握が必要である.

第6章では,第3章,第4章,第5章で取り上げた研究結果をまとめ,限られた事例に ついてであるが,本研究の貢献を確認し,考察した.さらに,本研究の成果が適用できる 条件について考察し,知識業務プロセスの詳細な分析と,他の事例の収集と分析が必要で あることを確認した.

このような結果から本研究では,構造化された知識流通システムによって,知識経営の あるべき姿の一端を示すことができたと考える.

また,本研究では,知識流通システムを実現するためのSNSやWikiなどのCMCツー ルや,シンクライアントを利用したオフィス環境により支援される知識流通やコミュニケ ーションを対象としている.本研究において,こうした対象を扱ったことに対し,能率性 と有効性という評価の観点で議論する.

遠山(1995)は,意思決定支援システムについて能率性と有効性の軸について論じている.

能率性については,「論理的な側面は可能な限りコンピュータの迅速・正確な処理・記憶 能力を駆使」するという点を評価軸としている.有効性については「総合的判断力や創造 力を必要とする非論理的な側面は人間が担当し,意思決定者とコンピュータの試行錯誤的 相互作用によって意思決定プロセスそのもの」を表す評価軸としている.遠山は「MIS(経 営情報システム)の萌芽期以来,その研究と実践に最も影響を与えた理論は,行動科学的組 織論と認知心理学であろう.60年代から70年代にかけて,テーラー以来の効率性追求の科 学的管理の限界が認識されはじめ,その一つの解決方法」のひとつとしてバーナードの提

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唱した概念をあげている.遠山の能率性と有効性の概念には,バーナード(1938)の能率と有 効性の概念が影響している.

本研究の研究対象を,経営情報システムや意思決定支援システムの視点で見ると,SNS

やWiki,シンクライアントといったツールは,企業活動における迅速で正確な処理,記憶

能力を駆使し支援する能率性を軸として評価される研究対象であると言える.しかし,本 研究では,こうしたツールにより支援される従業員の知識流通やコミュニケーションをも 対象としている.よって,本研究は,こうした知識流通やコミュニケーションにより生じ る判断力や創造力を駆使する人間の活動について有効性を軸として評価する研究とも言え る.すなわち,本研究は,能率性という点においては工学的な対象を,有効性という点に おいては社会科学,人文科学的な対象を扱った研究であると言える.本研究における効果 は,人間の知的生産活動を支えるツールが提供する能率性に関わるものである.またツー ル上で行われる人間の知的生産活動である知識流通やコミュニケーションの有効性に関す るものでもある.本研究は,工学,社会科学,人文科学に関わる学際的な領域の研究であ る.本研究により,企業の知識経営における課題を,多くの学術分野の知見を用いて解決 する可能性を示唆することができたと考える.

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