4. CMC を利用した知識業務プロセスの研究
4.7 CMC による知識業務プロセス研究の結論
仲介知の提案により,CMCツールを用いた企業内の知識業務プロセスを詳細に分析する ことが可能となった.仲介知モデルは,CMCツール上のコミュニケーションに基づく知識 を,公開化,断片化,協働化,共鳴化,洗練化の5つの知識変換モードで分類することを 可能にした.この知識変換モードの出現頻度により,企業内SNSのQ&A機能とソフトウ ェア開発Wikiでの知識流通を分析した.その結果,ふたつのツールのあいだでは,知識変 換モードの出現頻度が異なることを確認した.さらにふたつのツールでは,同じ知識変換 モードでありながらもその内容に違いがあった.その理由は,ツールのサポートするCMC
が企業内SNSのQ&A機能では議論型であり,ソフトウェア開発Wikiは発信型であるた
めと考察した.さらに,ソフトウェア開発におけるWiki がもたらす知識業務プロセスの効 果について詳細な分析を行った.この結果,知識のリスト化と収集,一般化されていない 知識の共有,対面ミーティングの代替など,Wikiという新たなCMCツールの導入による 知識業務プロセスの効果を確認することができた.こうした知識業務プロセスの効果は,
日単位の進行状況の確認(知識のリスト化と収集),メールにない進行状況の一覧性の提 供(知識のリスト化と収集),低コストでのノウハウ共有(一般化されていない知識の共 有),早期の合意形成(対面ミーティングの代替)といった利点に現れている.また,企
業内SNSのQ&A機能においては,従業員による企業の部門を越えた議論による問題解決
支援という効果を確認している.このような仲介知モデルによるCMCツールごとの特性と 得られる知識業務プロセスにおける効果の分析を積み重ねることで,企業がCMCツールを 選定するための基準を提示できる可能性がある.
また,知識流通システムの構造化において,CMCツールは,知識業務プロセスレイヤー の抽象化知識経営タスクの,#2.1知識流通業務の円滑化,#2.2知識ワーカーの協力体制の 構築を具体化した事例であることを確認した.
今後のCMCを利用した知識業務プロセス研究の展望としては,ソフトウェア開発分野で のCMC利用についての分析が重要であると考える.顧客のビジネスニーズへの迅速な対応 のため,ソフトウェア開発期間は短縮化される傾向にある.こうした状況の中で顧客のニ ーズの獲得や開発者間の調整を支援するためのCMCの利用が期待される.ソフトウェア開 発者間でのCMCは,モジュール化したソフトウェアコンポーネントの利用方法の伝達など,
コミュニケーションを重視するソフトウェア開発方法に有効に作用することが考えられる.
顧客やビジネスパートナーとの知識流通に,場所や時間によるコミュニケーションの制約 を受けにくいCMCを利用することは有効であると考えられる.またCMCの導入により時 差によるコミュニケーションロスの一部は改善される可能性があるため,オフショア開発 などの事例を対象にCMCツール導入のメリットとデメリットを分析する必要がある.さら に,ソフトウェア開発以外の業務のアウトソーシングに,CMCがどのように利用されるか を分析することも重要である.
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CMCを用いた問題解決は,検索エンジンを用いたキーワード検索による解決策の検索と 異なるメリットも想定される.CMCによる問題解決は,専門家とのコミュニケーションよ り対象とする問題の周辺にある関連する知識を得るなど,キーワード検索だけでは得られ ない効果も期待できる.このほか,ある事業分野での問題解決のキーとなる知識を,異な る事業分野の問題にあてはめるような知識の活用方法についての議論を従業員間で行うな どの効果も期待できる.このようにCMCを用いた知識業務プロセスの多くの分野への適用 とその課題について分析,検証することが重要であると考える.
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付表4-A 企業内SNSのQ&A機能を利用したコミュニケーション
項番 社員 書き込み 知識変換モード
Q0 Q 利用頻度が低い状況を打開したいので,システ ムが使われない理由を原因分析された方はいませんか? 公開化 C1 A 要求工学から見るとシステムの活用状況が想定できていないことに原因があると思います. 断片化
C2 B 宣伝不足ということは考えられませんか? 公開化
C3 A 使う人の立場にたったわかりやすい説明があればいいかもしれません. 協働化
C4 C 発注者・開発者と利用者は違うので,その溝が埋められていないことに原因があるかもしれません. 公開化
C5 D 使う人のメリットが見えていないのでは ないでしょうか? 公開化
C6 Q ありがとうございます.戴いた情報を頭の中で整理しているところです. 共鳴化
ご覧いただいている皆様にもご意見をお願いします. 協働化
C7 E とあるプロジェクトを運営しています.これまでの 経験か ら感じていることをご参考までにご紹介します. 公開化 C8 F 同じような苦い経験をしました.そのとき次のようにして宣伝することで利用者数を拡大しました. 公開化 C9 A システムには必ずいいところがあり,その価値をユーザと一緒に考えることは大切なことです ね. 協働化 C10 G 完成したシステムを変更するのは難しいとは思いますが,Xサービスもあるの で相談してみてください. 公開化 C11 Q ありがとうございます.要求工学やXサービスが身近なものに思えて来て感動しています. 共鳴化
C12 C Xサービスを初めて知りました.キーワードWに紐付けました. 洗練化
C13 H 使わないとデメリットが大きいシステムは,どんなことがあっても使われます. 公開化 C14 I 最初に決めた仕様を最後まで変えないことにシステ ムが使われなくなる原因があるのでは ないですか? 公開化 C15 F 同感です.段階的に開発できれば良いの でしょうが,予算と納期の余裕がないとできません ね. 協働化 C16 A とある教科書の中で,L先生が,要求仕様の完全性基準には次の 7項目があると述べています. 断片化 先憂後楽です.最初に十分時間を掛けることで開発対象の問題を 軽減し利便性を向上できると思います. 協働化 C17 Q 同感です.試行版の段階で質問したのは,本番システ ム構築後に苦労したくないからです.
幸い,開発サイドも読んでくれているよ うなので,今後の検討の質も向上す ると思います. 共鳴化
C18 J まさに同じことを,とあるシステムでも次のように考えています. 公開化
C19 Q 書き込みありがとうございました.ご意見を元にシステムの 活用性を 向上していきたいと思います. 共鳴化
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付表4- B ソフトウェア開発Wikiのコミュニケーション
ページ名 項番 記載項目 内容 知識変換モード
基本設計工程 W1 ・基本設計ドキュメント一覧表 ・完成したドキュメントに○印がつく.更新日、コメントを記載 公開化 詳細設計工程 W2 ・詳細設計ドキュメント一覧表 ・完成したドキュメントに○印がつく.更新日、コメントを記載 公開化
W3 ・課題事項 ・この工程での課題が記述される. 公開化
製造/単体試験 工程
W4 ・連絡事項 ・議事録提示による決定事項の提示 公開化
W5 ・試験項目の考え方 ・試験項目数と収束に関する基本姿勢の記述 公開化
W6 ・試験密度 ・試験項目数と開発規模から算出する試験密度の計算 公開化
結合試験工程 W7 ・試験項目の考え方 ・試験項目の抽出条件と網羅性に対する基本姿勢の記述 公開化
W8 ・考え方へのコメント ・上記基本姿勢へのコメント 協働化
W9 ・試験密度 ・試験項目数と開発規模から算出する試験密度の計算 公開化
W10 ・試験に必要な機材一覧表 ・ソフト,ハードからなる機材一覧表 公開化
総合試験工程 W11 ・総合試験確認のコメント ・総合試験実施要綱の必要性を喚起するメッセージ 公開化
開発会議1 W12 ・開発会議1資料 ・開発会議1のために作成する資料の一覧表 断片化
開発会議2 W13 ・開発会議2資料 ・開発会議2のために作成する資料の一覧表 断片化
グラフ W14 ・仕様策定 ・開発システムが出力するグラフの仕様の説明 公開化
開発ノウハウ W15 ・開発ノウハウ ・類似したシステム開発経験者によるノウハウ 公開化
プロジェクト 管理メモ
W16 ・プロジェクト管理上の要改善項目 ・プロジェクト実施のためのコミュ ニケーシ ョンの留意事項 公開化
デモンストレー ション検討
W17 ・目的 ・デモンストレーションの実施目的を記述 公開化
W18 ・シナリオ ・オフィス,製造現場におけるユースケースの記述 公開化
W19 ・作業内容 ・デモンストレーション開発のフェーズ分割と実施項目の記 述
公開化,断片化,
協働化
成果物 W20 ・章立て ・システムの説明書の章立てと修正コメント 断片化,公開化
W21 ・成果物 •成果物及び成果物作成のための作業メモ 断片化,公開化