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先行研究と本研究の位置付け

3. 知識流通システムの構造化の研究

3.2 先行研究と本研究の位置付け

企業の知識経営を実現するために,さまざまなアプローチでの研究がされている.また,

企業等の組織において,特定の分野における技術戦略を構造化しロードマップを策定する 方法の研究もされている.知識流通システムの構造化について議論するために,企業での 知識経営をサポートする研究および,組織における技術項目の構造化とロードマップ構築 法の研究について議論する.

3.2.1 知識経営をサポートする研究

企業の知識経営をサポートする研究はいくつかのアプローチで行われている.本研究は,

企業の知識経営の状態を測定するアプローチと,知識経営施策の指針を立案するアプロー チのふたつに大別する.ここでは,このふたつのアプローチと本研究の関係について述べ る.

(1)知識経営状態測定についての研究

CMM(Capability Maturity Model:能力成熟度モデル)およびCMMI(Capability

Maturity Model Integration:能力成熟度モデル統合) は,組織のプロセス改善を管理するた めのモデルである(カーネギ・メロン大学2002).KMMM(Knowledge Management Maturity Model)は,CMMを元にLangen(2002)により提案され,企業の知識経営の成熟 度を測定するモデルである.Kulkarniら(2004)は,KMMMに基づいて,知識経営の成熟 度のレベルをレベル0(知識経営は困難であり不可能)からレベル5(知識経営は継続的に改善 している)までの6段階を具体的に設定した.そしてKMCA(Knowledge Management

Capability Assessment:知識経営成熟度アセスメント)というKMMMに基づいた測定項

目を提案している.KMCAの測定項目は,知識経営を実現するための文化(Culture),経験 からの学び(Lesson Learned),専門性(Expertise),データ(Data),知識文書(Knowledge

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Document)に関する項目で構成されている.Kulkarniら(2004)は,KMCAにより,実際の 企業の知識経営状況を分析し,改善すべき項目を抽出した.しかし,知識経営成熟度モデ ルは,知識経営状態の測定モデルであり改善点を明確にすることはできるが,成熟度モデ ルが目指す継続的な知識経営の具体的な改善方法については提案していない.本研究の知 識流通システムの構造化は,具体的な知識経営の改善方法を提案することを目的とする.

(2)経営層を起点とした知識経営施策の指針立案に関する研究

Tiwana(2000)はKnowledge Management Toolkitというツール群を提案している.この ツール群は,知識経営のための情報システムの開発と評価を行うためのツールの集合体で ある.このツール群では,Balanced Score Card(Kaplan 1992)やQuality Function Development(赤尾1972),Mindmap(ブザン1995)等のツールの利用が提案されている.

Knowledge Management Toolkitで,Balanced Score Cardは経営ビジョンを分析し,個々 のアクションに分解し経営を管理するツールとして紹介されている.同様に,Quality

Function Developmentは,顧客のニーズと業務プロセスと企業内の意思決定を連結させる

ための新たなツールの考案に利用されている.また,Mindmapは,知識経営に必要なアイ テムを発想するために利用されている.しかし,Knowledge Management Toolkit は,新 規の知識経営施策の検討や知識経営戦略や知識業務プロセスの評価を対象としているが,

企業で実施中の知識経営施策を分析し課題や改善方法を提案することを想定していない.

本研究では,企業内で実施中の知識経営施策を対象に知識経営の具体的な改善方法を検討 することを目的とする.

また,Enkelら(2007)は,3階層の知識ネットワークのフレームワークを提案している.

3階層とは,知識経営の活性化条件のレイヤー,知識プロセスのレイヤー,知識ネットワー クアーキテクチャーのレイヤーからなる.知識経営の活性化条件のレイヤーは,経営シス テム,企業文化,組織構造などから構成され,企業の知識ネットワークの活性化を支援す る役割を持つ.知識プロセスのレイヤーは,従業員間の相互作用による知的な活動に相当 する.知識ネットワークアーキテクチャーは,ルールやツールなど知識プロセスを実現す るための知識経営の支援環境に相当する.3階層のレイヤーには,それぞれ企業成長のため の知識ネットワークアーキテクチャーを実現する方法論が述べられている.Enkelらはこの フレームワークを利用し,M&A等を契機とした企業成長時の知識ネットワークの事例を分 析した.この分析は,M&Aによる知識ネットワークの拡大と増強を分析するために実施さ れたものであり,いわば,経営上位からのトップダウン型の知識経営分析の実施である.

Enkelらが提案する3階層のフレームワークは,Sunasseeら(2002)の提案する,知識経営

の理論的フレームワークの,組織の知識経営,人間の知識経営,インフラストラクチャー とプロセスの知識経営という3つのコンポーネントとも類似しており,知識経営をEnkel らが提案する3階層に分離することは合理的であると言える.本研究の知識流通システム の構造化も,Enkelらが提案する3階層のフレームワークをベースにしているが,企業で

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実施中の個別の知識経営施策を対象に具体的な改善方法を検討するという点で,その利用 方法が異なる.

3.2.2 ロードマップの構築方法に関する研究

ロードマップの構築は,企業や国家などの組織の戦略や長期的な計画をサポートする手 法である.特に技術の発展性に関するロードマップの構築は多く行われ,複数のロードマ ップ構築法が提案されている.こうしたロードマップ構築の研究にはロードマップの対象 となる技術項目の構造化が含まれている.Phaalら(2004)は,技術マネジメントの手法とし て,企業の技術開発と事業戦略の関係をサポートするための技術ロードマップ構築の手法 を提案している.またSaritasら(2004)は,Delphi法を用いて英国の未来予測をロードマ ップ化している.技術項目を構造化しロードマップ化する研究の代表的なものに,Parnell ら(1998)の研究がある.Parnellらの研究は,2025年に米国が空と宇宙で優位な地位にあ るために必要なキーシステムの概念と技術を特定し,ロードマップ化することが目的であ った.この研究は,(Ⅰ)準備段階,(Ⅱ)アイデア創造段階,(Ⅲ)同化段階の3つの段階と,

その3つの段階と並行する(Ⅳ)操作分析段階を通じ,ロードマップを含むホワイトペーパー を作成する手法に関するものである.(Ⅰ)準備段階では,軍事関係者のなかからおよそ200 名を参加者として選び,自由な発想でアイデアを抽出するCreative Thinkingや,未来に ついての調査を実施させている.(Ⅱ)アイデア創造段階では,この参加者が,さまざまな概 念や技術の選択肢を提示し評価し,システムの概念と技術を開発し,複数の未来像を描い ている.世界中を調査し1000に及ぶアイデアが創造された.(Ⅲ)同化段階では,評価者

(Assessor)やアドバイザーのレビューを受けてホワイトペーパーの準備がなされた.200名

の参加者は40のチームに分かれ,(Ⅱ)アイデア創造段階で描いた未来像を実現するシステ ムの概念と技術を明確にする.(Ⅰ)から(Ⅲ)と並行する(Ⅳ)操作分析段階では,分析方法の 価値モデルの構築,システムの概念と技術の評価を行い,最終的には価値の高いシステム の概念と,影響力の高い技術を選定した.このように,ロードマップを構築するには,タ ーゲットとするロードマップの要素を構造化する必要がある.構造化のために複数の段階 を設定し,段階ごとの実施内容を操作し,分析方針を確立することで,ロードマップ化が 実現できる.技術の構造化とロードマップ化については複数の研究がされている.特に

Parnellらの研究は,世界中に存在する技術を調査し,長期的な未来を実現するための要素

技術の構造化と壮大なロードマップを構築するものである.本研究は,Parnellらのロード マップ構築法を,企業で実施中の知識経営施策に対して応用し,ロードマップ化を検討す る.

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