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本研究の目的は,第2章で示した知識経営課題に対し貢献することである.具体的には,

企業の知識経営状況を分析しその結果に基づいて企業の知識流通システムを構造化するこ とと,実際に企業で実施されている知識経営施策を分析し検証すること,そして,構造化 された知識流通システムの事例として知識経営施策を位置付けることを行うことである.

本章では,本研究について,第2章で提示した知識経営課題の解決という点で考察する.

6.1 知識流通システムの構造化について

(1)課題A1についてのまとめ

課題A1は,個別の知識経営施策を起点とした知識流通システムの活用は検討されていな いというものである.第3章の結果から,情報サービス企業の事例を対象に,知識流通シ ステムの構造化を通じた知識経営の実態把握を行った.知識流通システムの構造化を,技 術ロードマップ構築法の研究で提案されている手順をもとに実施した.具体的な手順は,

準備段階,アイデア創造段階,同化段階の3つの連続的な段階と,それぞれの段階に対し 分析モデルや価値モデル,知識経営施策の評価指針を提供する操作分析段階からなる.こ の手順に対し,知識経営目標,知識経営調査から抽出した知識経営の事実,知識経営施策 を整理したうえで入力し,知識流通システムを構造化した.知識流通システムは知識経営 戦略,知識業務プロセス,知識経営施策群の3階層から構成されている.さらに知識流通 システムの階層に抽象化知識経営タスクと個別の知識経営施策を配置しロードマップ化し た.ロードマップ化の効果として,施策間の相乗効果の確認,施策の重複の検出,施策の 順序関係の評価,不足する施策の抽出が可能なことを明らかにした.

(2)課題A1についての考察

知識流通システムの構造化の過程で,企業が最も改善の必要な知識業務プロセスを抽象 化知識経営タスクとして明確化できることを確認した.第3章で説明した事例では,まず,

知識流通システムにおける知識業務プロセスレイヤーの抽象化知識経営タスクという抽象 度の高いタスクのロードマップ上での配置を検討した.そして抽象化知識経営タスク間の 時系列的な順序関係の配置を,最も改善の必要な抽象化知識経営タスクを抽出し中心に据 え,タスク間の必要条件,十分条件という関係性をもとに行った.知識業務プロセスレイ ヤーの抽象化知識経営タスクの時系列的配置に合わせ,それを支援する個々の知識経営施 策を関連付けて配置し,ロードマップを構築した.抽象化知識経営タスクを支援する知識 経営施策を,同時期に展開することが有効な相互作用を生じさせる場合もある.しかし,

実際の企業の内の知識経営においては,同時期に施策を展開することで,知識経営施策を

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実施する従業員が混乱する場合も想定される.施策間の関係性をロードマップに基づいて 検討することで,より効果的な知識流通システムの構造化が行われる可能性があると考え る.ロードマップ構築に用いた素材は,他の知識経営事例に適用できる可能性もある.具 体的には知識経営アーキテクチャーに示した知識経営実践のための方法論や,知識経営状 態の評価に用いた整理用のフォーマットがそれにあたる.第3章で説明した知識流通シス テムの構造化は,事例に基づいた研究であり,成果の一般化にはさまざまな制約があるこ とを認識している.

(3)課題A2についてのまとめ

課題A2は,知識経営施策が,知識業務プロセスに与える効果を具体的にできていないと いうものである.第3章で行った知識流通システムの構造化の具体的な事例として,第4 章と第5章で分析した知識経営施策が,知識流通システムの構造化における知識業務プロ セスを支援することを示すことができた.第4章で取り上げたCMCツールは,第3章で 作成した知識経営ロードマップの「企業内コミュニケーションサイト」に該当する.

第4章では,企業内SNSのQ&A機能を用いた部門を越えた議論による問題解決と,ソ フトウェア開発チームが独自に導入したWikiでのコミュニケーションによる新たな知識業 務プロセスの効果を確認した.このそれぞれのCMCツールの導入により確認された新たな 知識業務プロセスが,知識業務プロセスレイヤーの抽象化知識経営タスクのサブプロセス であることを確認した.よって,CMCツールである企業内SNSのQ&A機能とソフトウ ェア開発Wikiは,知識流通システムの構造化における知識業務プロセスの抽象化知識経営 タスクである「#2.1知識流通業務の円滑化」と「#2.2知識ワーカーの協力体制の構築」を 支援する具体的な知識経営施策であることを確認した.

また,第5章で取り上げた知識創造オフィスも,知識流通システムの構造化における知 識業務プロセスを支援する知識経営施策であることを具体的に確認した.知識創造オフィ スは,従業員のアイデアの共創,アイデアの出現という知識業務プロセスを支援すること をアンケートによる意識調査とシンクライアントの利用状況から確認した.アイデアの共 創,アイデアの出現という知識業務プロセスの支援は,知識流通システムの構造化におけ る知識業務プロセスである「#2.1知識流通業務の円滑化」のサブプロセスであることを確 認した.また,知識創造オフィスの導入は,物理的オフィスレイアウトと情報システムを 設計し運営する組織として体系的に行われた知識経営施策である.よって知識創造オフィ スの構築は,知識流通システムの構造化における知識業務プロセスである「#2.3知識共有 プロセスの体系化」のサブプロセスであることを確認した.知識創造オフィスは,知識流 通システムの構造化における知識業務プロセスの抽象化知識経営タスクである「#2.1知識 流通業務の円滑化」と「#2.3知識共有プロセスの体系化」を支援する具体的な知識経営施 策であると言える.

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(4)課題A2についての考察

CMCツールが知識業務プロセス支援に適応できる条件として,従業員がCMCツールを 利用して自発的に問題解決に取り組んでいること,ソフトウェア開発など特定の目的に対 して異なる専門性や業務経験を持った複数のメンバーの協力が必要なこと,オフィスの距 離が離れているなど綿密な対面のコミュニケーションの機会が容易に設定できないことな どがあげられる.さまざまな企業に所属する異なる専門性を持つ人々が協力し価値を創造 する業務は今後増加していくであろう.また,知識創造オフィスについては,調査対象が 研究開発など知的生産活動を実現する組織であったことから,企業の研究開発部門におけ る知的生産活動の一部に対し有効性があることが想定される.本研究が現時点で示した事 例は,企業内SNS,ソフトウェア開発Wiki,知識創造オフィスの3つである.企業では多 様な知識経営施策を展開している.複数の企業の事例をもとにした知識流通システムの構 造化を行い,より多くの知識経営施策を知識流通システムの具体化の対象とすることで,

適用範囲の拡大を検討することが重要であると考える.

6.2 企業の知識経営施策の分析と検証

(1)課題B1についてのまとめ

課題B1はCMCツールの導入による知識業務プロセスの成果は明らかになっていないと いうものである.第4章では,CMC上でのコミュニケーションによる知識流通を分析する ために仲介知モデルを提案した.仲介知モデルを用い,企業内SNSのQ&A機能で行われ た問題解決と,ソフトウェア開発で利用されたWikiでの知識流通を比較した.仲介知モデ ルに基づいて,企業内SNSのQ&A機能は議論型のコミュニケーションの特徴を持ち,ソ フトウェア開発に利用されたWikiは発信型のコミュニケーションの特徴を持つことを確認 した.双方のCMCツールとも,従業員の知識業務プロセスに有効に作用していた.さらに,

ソフトウェア開発に利用されたWiki上でのコミュニケーションを詳細に分析したところ,

知識のリスト化と収集,一般化されていない知識の共有,対面コミュニケーションの代替 などの新たな知識業務プロセスが発生していることを確認した.

(2)課題B1についての考察

従業員同士の組織階層を越えた知識流通を支援するCMCツールは,業務が非定型的で,

課題設定と課題解決を繰り返す業務に有効であると考える.業務が非定形的であれば,そ の業務を遂行するためには,できるだけ多様な知識を収集し適切な知識を選択することが 必要となる.非定型業務には課題設定と課題解決を繰り返すという特徴もある.多様な知 識を収集,選択し,従業員自らが現在取り組んでいる業務に対して課題設定と解決を繰り 返すには,SNSやWikiといった新たなCMCツールが有効である.新たなCMCツールは,

専門家集団となった従業員たちの知識を業務に役立てるために有効であると言える.本研