1. AICOの形成
AFTAは1993年に関税削減を開始したが、 BBCスキームの恩恵を享受していた自動車 メーカー各社は、 AFTAの最終目標である特恵税率 O〜5%以下を享受するには2008年 迄 待たねばならなかったD その一方で、自動車国産化を懸命に進めていたタイ、マレーシア、
インドネシア、フィリピンなどは、 AFTA実施による同産業への影響を懸念し、各国とも自 動車および同部品をTELに組み込んで関税維持を図ったD TEL対象品目は、 2000年にIL
に移行し、 2003年までに域内特恵税率を0〜5%以下に削減する 24a
そのため、これら自動車メーカーはASEANにAFTA特恵関税 0〜5%以下の前倒し措 置を要望し、 ASEAN産業協力(AICO)スキームが策定された口 1996年4月に署名され、
同年 11月に発効した ASEAN産業協力計画基本協定である。 AICOは対象を製造業の部 品・部材に限定して適用された。 AICOスキームは、 ASEANの域内特恵関税 0〜5%以下 の前倒し措置であり、 AFTAが本格的に始動するまで、のつなぎ的措置と位置付けられ、また
23 「AFTAにおける CEPT協定におけるベトナムの受諾議定書jによる。
24後述するように、マレーシアは同品目について域内関税0〜5%以下への削減を2年間先延ばしを要 望、その結果、 2005年への延長を獲得した。
AI瓜人 BBCスキームに取って代わったのである 250
また、 ASEANが関税引き下げの対象範囲などを決めていた過去の域内経済協力措置と 異なり、 AICOは企業に関税削減を求める品目を選定させ、承認はASEAN全加盟国から取
り付ける必要はなく、部品等の取引を行う関係国のみにとどめるなど、 BBCスキームの長 所を受け継いでいる口また、 AIJVなど過去の域内経済協力フ。ログラムと大きく異なったの は排他的な生産権、いわゆる生産独占権である。例えばAIJVの場合、ある加盟国で生産が 認められると、仮に他社が域内で同様の事業の行う場合、少なくとも生産の 75%をASEAN 域外への輸出が求められたロ AICOの場合、 AFTAの前倒し特恵関税を利用できるが、他の 企業に対する生産・流通制限は課しておらず、自由競争で、あったことが域内の自動車産業を
より活性化したと評価できる。
2. AICOの利用条件と利用実績
AICOは、 ASEAN域内に二つ以上の拠点を有する企業が、域内で生産分業を行い、ス ケールメリットの実現を通じて国際競争力を強化する目的で作られたスキームである。こ れは2003年に実現する AFTAのCEPT関税率 O〜5%以下を、 AICO適用企業に前倒しで 付与するものである。本スキームを利用する条件は、現地資本30%以上26、そして当該製 品についてASEAN域内付加価値率40%以上が求められている。
現地資本規定について、 1997年に発生したアジア通貨危機の影響を受け、 1999年 1 月から期間限定で資本条件が免除され、 100%外資にもAICOスキームが開放された。同 資本条件の緩和措置は結局、 2006年8月に聞かれたASEAN経済相会議で、先発加盟国 のAFTA‑CEPT関税が撤廃される直前の 2009年末まで延長されることで合意されてい る。 AFTAの本格稼働までは、 AICOスキームは引き続き存続することになった270
AICOは参加国政府の認可を取得する必要があるが、認可するか否かは各国の裁量に任 されている口 AICO発効当初は認可基準の不透明性、申請手続きの煩雑さに加えて、申請 しでもなかなか許可が下りない、などの問題も生じていたロ大手自動車部品企業デンソー は、 2007年時点でも「AICOの適格証明書(COE)取得について、マレーシア、フィリ
25 Severino (2006), p.228.
26この条件に当てはまらない場合、立地国から要求される条件を満たすことが出来れば参加可能。
27 『通商弘報』 2006年8月25日号。
ピンで依然として時聞がかかる。特にフィリピンやインドネシアでは、認可には大統領の 署名が必要になるjとしている 280
手続き上の様々な問題にも関わらず、 1996年にAICOが導入されてから 2008年9月 までの聞に 212件の申請があり、うち 150件が認可された29(表2‑1) 認可は自動車産 業が全体の約9割を占めるが、特にノックダウン部品(CKD)に集中している 30。他の分 野も少ないながらも認可を受けているが、それら分野では域内に複数の生産拠点を有する 企業が限られていること、電気電子機器分野に代表されるが、多国間協定でMFN税率が 相当程度低下していたこと、等から自動車分野に認可が集中したと考えられるロ
表2‑1 AICO認可案件の国別アレンジメント数 業 種 件 数 シzア(%) 自動車 134 89.3
完成車(CBU) 0.7 ノックダウン(CKD)1{ック 110 73.3 CBU&CKD1,ック 0.7 自動車部品| 22 14.7 電気・電子製品 5 3.3
食品加工 5 3.3
農業用機械 0.7
電気 0.7
石油化学製品 0.7
消費者向け製品 2 1.3
ガラス 0.7
認可件数(合計) 150 100.0 出所) ASEAN事務局資料より筆者作成。
3. AICOの存続
当初、 AICOはAFTA特恵関税が0
〜
5%以下に削減され実質的に稼働する 2003年頃 にAFTAに取って替わられるとみられていた。しかし、 2004年4月にシンガポールで、開 催された第10回非公式ASEAN経済相会議において、「ASEAN産業協力に関する基本協 定の改正議定書」に署名、加盟各国はAICO適用税率O〜5%の一層の削減に合意した口具 体的には、同改定議定書を踏まえ、 2005年 1月よりシンガポール、マレーシア、インド ネシア、ブルネイ、カンボジア、ラオスは0%に、フィリピンは O〜
1%、タイは0〜
28タイのDensoInternational Asiaでのヒアリング(2007年11月27日に)に基づく。
29 ASEAN事務局AICO担当者へのヒアリング(2008年9月)に基づく。
so ASEAN (2013).
3%、ミャンマー、ベトナムは最大5%に、それぞれ引き下げているロまた完全に関税撤廃 が実施されない国で、あっても、一層ゼロに近付ける努力をすることが約束されたロこのこ
とにより先発加盟国でCEPT特恵税率が完全に撤廃される 2010年頃までAICOは存続す ることになった。
またAICO存続の理由に、第一に加盟国が共通してAFTAにおける自動車分野の自由 化を可能な限り先延ばししようとしていること、第二にAFTA‑CEPT措置の脆弱性があ る。 ASEANは2004年 11月の首脳会議で「ASEAN優先統合分野枠組み協定」に調印、
自動車を含む優先統合 11分野を対象に、先発加盟国は2010年の関税撤廃を3年前倒し し、 2007年までに撤廃することにした白優先統合11分野のうち貿易に関連する9分野(自 動車、木製品、ゴム製品、繊維、農産物加工、漁業、電子、e‑ASEAN、ヘルスケア)は4273品
目31ある口同時に、 4514品目のうち最大15%(最大677品目)をネガティブ品目として前 倒し撤廃の対象から除外することを容認した(表2‑2)ロ優先統合分野において自動車分 野は 1103品目を抱える口同 1103品目のうち、タイはそのうちの 16%のみをネガティブリストに 組み込んだが、フィリピンは40%、マレーシアでは44%、インドネシアは47%に達するロ特に、
CKD部品はほとんどネガティブリストに含まれているため、AFTA‑CEPT協定における関税撤廃 はやはり2010年を待たねばならず、その分、AICOが存続することになった。
デンソーは2007年当時、AFTAとAICOを活用した域内取引額は年間約400億円にのぼ り
、AFTA特恵関税がゼ、ロになっていなしものはAICOを使うなど、使い分けしていた32ロしかし、
2010年のAFTA関税撤廃により、同社は域内取引をAFTAに一本化する作業を行ったo国毎 に実施時期は異なるが、2010年 11月までにAICOからAFTAへの移行を完了したロベトナム については2015年迄にはAFTAに切り替える予定とした33。
31 AHTN (ASEAN統一関税品目表;ASEANHarmonized Tariff Nomenclature) 8桁ベース。
32タイのDensoInternational Asiaでのヒアリング(2007年11月27日に)に基づく。
33タイのDensoInternational Asiaでの追加ヒアリング(2010年 12月7日)に基づく。
表2‑2 ASEAN統合優先分野別関税撤廃ネガティブリスト品目数
先発加閣圃 後発加盟国
タイ マレー シンガ インドネ フィリピ フルネ ペトナ ラオス カンポ ミャン 品目数 シア ポール シア ;,I イ ム ジア マー (4,273品目)
自 動 車 173 485 516 443 128 235 21 94 345 1,103
末 劃 晶 52 12 25 33 ー 30 165
ゴム製品 83 68 58 21 80 11 67 76 270 鐘 錐 24 3 11 129 206 8 127 1,183 農産物加工 20 8 一 16 10 19 3 106
|温童 26 36 7 14 一 一 11 23 177
|電子 236 45 52 2 322 42 293 82 1,077 e‑ASEAN 131 37 一 32 162 42 294 70 683 ヘルスケア 90 13 5 9 21 41 16 29 58 245
(ネNLガ)テ累ィ軒ブ品リ目ス敏ト 835 707
。
697 654 746 577 45 964 658 5,009 ネ{ガNテL)ィ品ブ目リ数スト 638 626。
639 632 633 569 45 641 532 一出所) ASEAN事務局資料をもとに筆者作成。
AICOの国別案件数をみると、自動車産業の集積があるタイが当事国となっている案件 は全150件のうち94件を占める(表2‑3)。中で、もマレーシアを相手とする案件が最も 多く 37件を占め最大である。これは自動車産業育成を目指すマレーシアが、 AFTAによ る自動車輸入関税削減の先延ばしを図っていたことが背景にあるロ
ASEAN先発加盟国はAFTAにより 2003年までにすべてのILの関税を5%以下に引 き下げることが義務付けられていたが、マレーシアは自動車および自動車部品について、
国民車政策維持のため関税削減は困難であるとして他のASEAN加盟国に留保を要請し た。当時、マレーシアはAFTAからの脱退をちらつかせて、留保を求めたという 34。その 結果、 ASEAN経済相会議においてマレーシアの自動車および同部品の扱いについて、一 時除外品目(TEL)からILへの移行を2005年 1月まで2年間延期を容認することで合意
した。詳細は後述するが、これがマレーシアとの相互補完体制構築を目指す在タイ自動車 関連企業がAICOを選好した大きな理由の 1つで、あった。
34 Nesadurai, H.E. (2004), p. 159.