性向上対策は地震動レベルで異なることを意味しており、プラントの安全性向上のためには地 震動レベルごとの主要な事故シーケンスを分析し、地震動レベルに対応した適切な対策が必要 となることを示唆している。
一方米国においては、1979年にTMI-2号機において、炉心が著しく損傷するシビアアクシデン トが発生し、これを契機に1975年に報告された原子炉安全性研究(WASH-1400)で適用された PRAの重要性が強く認識されることとなり、シビアアクシデント現象に関する研究が本格的に実 施されるようになった。また、NRC は1986年に原子力発電所の運転に関する安全目標の政策声 明を公表し、シビアアクシデントによる公衆の健康リスクに関する安全目標並びに炉心損傷頻度 及び早期大規模放出頻度を定めた。1988年には、シビアアクシデントに対するプラントの脆弱性 を把握するために個別プラントのPRA(IPE:Individual Plant Examination)を事業者に要請 し、さらに1991年には、地震等の外部事象を対象とした個別プラントのPRA(IPEEE:IPE for External Events)を事業者に要請した。これらの実施手順及び結果はNRCより報告書(9)(10)とし て刊行されている。実施手順では、地震、内部火災、強風及び竜巻、外部洪水、並びに輸送事 故及びプラント近傍の産業・軍事施設事故を評価対象として推奨しており、立地サイト特性に応 じて変更、追加することとしている。
以上のように米国では、内的事象のみならず、1991年には地震を含めた外部事象までのPRA 実施の要請があり、2000年代にはそれら事象を対象としたリスク評価が一通り完了している。
た評価手法の高度化を行っているが、1992年に通商産業省(当時)からの、引続きPRAの範囲 を拡大する研究の要請から見ると、歩みが遅い感があるのは否定できないかもしれない。東京 電力による福島事故調査報告書(12)によれば、1992年以降電力共同研究において地震PRA手法 の確立に向けた研究を実施していたが、評価に伴う不確実さは依然大きく、PRA手法を用いたリ スク低減策の検討等の実務において意思決定に用いるには更なる検討が必要との認識であった ようである。また、東京電力の原子力改革監視委員会では、2002年に原子力安全・保安院(当 時)に提出したAM整備報告書において、設置許可申請書同様に機器の故障及び人的ミスと いった内的事象に対する安全評価のみで、自然現象をはじめとした外的事象に対する安全評価 は行っておらず、ゆえにシビアアクシデントに対する評価・対策検討としては不十分なものであっ たとしている(13)。
なお、福島原子力事故よりも前になるが、原子力安全基盤機構より2009年8月に地震時火災 PRA手法の検討報告書(14)が出されており、地震により損傷を受けた機器から火災が発生すると 想定した評価手法を提案している。
規制側の動向としては、2012年9月に原子力規制委員会が発足し、2013年6月には新規制基準 が制定されている。新規制基準においては、炉心損傷及び格納容器損傷に至る事故シーケンス を特定し、それらの防止対策を事業者に義務付けている。特筆すべきは、事故シーケンスの選 定にあたり内的事象、地震及び津波を対象としたPRA技術を取り入れていることである(15)。規 制規準では、炉心の著しい損傷に至る可能性があるとする事故シーケンスを示しているが、事業 者に対して個別プラントの内部事象に関するPRA及び外部事象に関する適用可能なPRAまたは それに代わる方法で評価を実施し、基準で示した事故シーケンスに含まれない有意な炉心損傷 頻度または影響をもたらす事故シーケンスグループが抽出された場合には追加することとしてい る。当然ではあるが、福島原子力事故における事故シーケンスをも対象としている。
さらに、プラント安全性向上をより一層確保するために、安全性向上評価に関する運用ガイド(16)
を制定している。安全性向上評価は原則として5年ごとに実施するものとし、大規模な工事を行 うなど、PRAの結果が変わることが見込まれる場合においても改訂することとしている。安全性 向上評価の一環として、内部事象及び外部事象を対象としたレベル1PRA及びレベル2PRAの実 施及び届出が義務付けられている。但し、PRA技術の成熟状況に応じて対象範囲を拡大すると しており、今後検討していく事象として、内部事象には溢水及び火災を、外部事象には地震及び 津波の重畳、地震及び津波以外の外部事象が取り上げられている(脚注)。
以上のように、規制側としてもPRA技術の導入を促し、プラントの安全性向上に積極的に活用 することを図っている。学協会、民間、規制のいずれもプラントの安全性向上にPRAの活用を
(脚注)PRA については、安全性向上に係る活動の実施状況の評価として実施するものとされ、対象は外部事象と しての地震及び津波等に係るハザード評価が示されている。第 1 回目の評価については、評価時点におけ る地震及び津波等に係る評価を記載するとしている。
図っている状況にあるといえよう。
4.2.2 海外における取組
IAEAにおいては、2011年6月の原子力安全に関する閣僚会議で、福島原子力事故から得られ る教訓を受け原子力安全性向上を図ることとなり、原子力安全に関する行動計画を策定した。行 動計画(17)は2011年9月のIAEA総会(General Conference)において理事会(Board of Governors)
で採択され、加盟国の全会一致により承認された。行動計画に対する進捗状況は、2012年の理 事会及び総会に報告されるものとされ、引続き原則として毎年理事会及び総会に報告されること になった。行動計画の目的は、国際的な原子力安全の枠組みを強化するための事業計画を定め ることにある。また、計画遂行のためになすべきこととされた中に、IAEAが加盟国規制機関を 対象に実施する統合的規制評価サービス(IRRS)から得られた結論を分析し、加盟国規制機 関の福島原子力事故後の規制動向を把握すること、福島原子力事故の分析から得られる知見を 考慮し、IAEAの安全要件(Safety Requirement)を体系的にレビューすることが挙げられてい る。
本書執筆時点で最近の経過報告は2013年8月で、報告書(18)も出されている。同報告書におけ るリスク評価に係る記載内容は次の通りである。IAEAでは、加盟国からの要請によりIRRSを実 施しており、2011年以降から2013年まで20(内フォローアップは6)ヶ国の規制機関を対象に規制 評価している。IRRSにおいて規制機関と議論する中で明らかになったことの中には、福島原子 力事故を考慮して規制機関によって採られた措置の中に、PRA及びシビアアクシデントを含む 設計拡張状態(Design Extension Condition:設計基準事故を超える多重故障状態)に対して、
より正式に規制する機会と捉えているのが見られたこと、PRAの結果を安全解析報告書に加え ることが検討されていることがある。また、福島原子力事故後の規制機関及び事業者による過 酷な外部ハザード(Extreme External Hazard)に対する安全評価で明らかになったことは、事 故防護策に対する規制監視は、決定論的な方法並びに地震及び津波PRAのような確率論的な 方法を利用することで安全性向上を検討することを要求することで強化される可能性である。こ れはIAEAの安全基準及び国際的な最良事例(best practice)と整合している。さらに外部ハザー ド及びその影響についての定期的な再評価も安全性向上に活用できる可能性がある。シビアアク シデントマネジメント(SAM)の強化においては、追加するAM策の同定またはシビアアクシデント 時に必要となる所内作業員及び運転員の放射線防護策の変更の同定のためにPRAを実施するこ と、SAM策の有効性評価においてPRAを考慮することも検討されている。
欧州の原子力安全規制の枠組みは、西欧の原子力発電プラントを有する17のEU加盟国及びスイ スを加えた原子力安全規制機関の長によって構成される西欧原子力規制者会議(WENRA)によ り策定されている。WENRAは新設炉を対象とした安全規制を検討しているが、これは既設炉に 対しても定期安全レビュー(PSR)を通して合理的に達成可能な安全性の向上において参考として
適用されるものとしている。また基本的な安全性評価は、決定論的方法及び確率論的方法が互 いに補完する形で行う方針となっており、安全規制の枠組みの鍵となるのは深層防護(DiD)と されている。
WENRAでは福島原子力事故後の2013年3月に新設炉設計の安全性に関する報告書(19)を刊 行している。表4-1には、同報告書で示されているDiDのレベル、プラントの状態及び主要な防護 策を示す。
DiD 3.bのレベルは設計基準外事象となり、多重故障状態がこのDiDレベルに含まれる。多重 故障による炉心損傷を防護するための設備設計における安全性評価では決定論的に行われる べきとしている。また事故時手順書には、安全設備のマネジメント及び必要となる操作について のガイダンスが含まれなければならない。しかし、この安全設備設計の適切性は、PRAによるモ デル化と結果により評価されるべきだとしている。さらにDiD 4の炉心損傷及び放射線影響の緩
表 4-1 深層防護のレベル構成(19)
Objective Essential means Radiological
consequences
Associated plant condition categories Prevention of
abnormal operation and
failures
Conservative design and high quality in
construction and operation, control of main plant parameters
inside defined limits
Normal operation
Control of abnormal operation and
failures
Control and limiting systems and other surveillance features
Anticipated operational occurrences
3.a
Reactor protection system, safety systems,
accident procedures
Postulated single initiating events
3.b
Additional safety features, accident
procedures
Postulated multiple failure
events Control of
accidents with core melt to limit
off-site releases
Complementary safety features to mitigate
core melt, Management of accidents with core melt (severe accidents)
Off-site radiological impact may imply limited protective measures in area and
time
Postulated core melt accidents (short and long
term) Mitigation of
radiological consequences of significant releases
of radioactive material
Off-site emergency response Intervention levels
Off site radiological impact necessitating protective measures
-Level 4
Level 5
No off-site radiological impact
(bounded by regulatory operating limits for discharge)
Control of accident to limit radiological
releases and prevent escalation
to core melt conditions Level 3
No off-site radiological impact or
only minor radiological
impact Levels of
defence in depth
Level 1
Level 2