第2章 福島原子力発電所の事故の状況と課題
2.3 東日本の原子力発電所を襲った地震・津波および被災の比較 (7)
2.3.1 各発電所で観測された地震動とそれによる影響
各発電所を襲った地震動の観測記録と,基準地震動Ssに対する最大応答加速度を,表2.3.1 に示す。また,地震動による施設の被害については,前述したとおりである。ここでは,施設の被 害に関連してこれまでに推定あるいは確認された事実等について要点を記述する。
福島第一,女川では建屋最下階での地震観測記録の最大加速度の一部が基準地震動Ssの 最大加速度を上回る観測値もあったが,これらの発電所を含め耐震設計上重要な設備の安全 機能の喪失やシビアアクシデント(SA)に至らしめるほどの安全機能の連続的な喪失は現時点 では認められていない。ただし,耐震B,Cクラスの設備の一部の機器に損傷が発生した。
1) 福島第一原子力発電所
福島第一での地震動は,2号機,3号機及び5号機の東西方向加速度が,基準地震動Ssに対す る最大応答加速度を最大で約25%上回っているが,それ以外の観測値は最大応答加速度以下
である。
地震動による影響としては,外部電源は送電鉄塔の倒壊や受電しゃ断機の損傷等によって全 て喪失している。
一方,原子炉施設への影響としては,1〜4号機では内部の調査ができないので定かではない が,基準地震動Ssを超える加速度を記録した5号機でのウォークダウンの結果,タービン建屋の 湿分分離器周りのドレン配管等に一部損傷があった。それ以外には地震による損傷はなく,外 部電源喪失後の非常用ディーゼル発電機(D/G)の自動起動にも成功している。また,1〜4号機 についても,プラントパラメータの変化からは原子炉圧力バウンダリに損傷はなく,かつ,再現地 震応答解析からは,主要安全機器に損傷が起きる可能性はないと推定されている。
2) 福島第二原子力発電所
福島第二での地震動観測記録は,ほとんどの値が基準地震動Ssに対する最大応答加速度の 40%〜60%である。最大応答加速度を超えた箇所はなく,水平方向の最大加速度が3号機での 277cm/s2,鉛直方向の最大加速度が1号機での305 cm/s2である。
地震動による影響としては,外部電源は4回線(1回線は点検停止中)のうち2回線が断路器又 は避雷器の損傷によって喪失したが,1回線は健全であり,これがその後の復旧活動を容易にし た。
さらに,原子炉施設への影響としても,地震直後に安全上重要な設備についてウォークダウン を実施した結果,外観上の異常は認められず,耐震B,Cクラスの機器の一部に損傷がある程度 であった。また,耐震解析でも,シミュレーションによる荷重が基準地震動Ssを下回り,配管系の 解析でも,床応答スペクトルが一部基準地震動Ssを上回ったものの評価基準値を下回った。
表2.3.1 地震観測記録と基準地震動Ssに対する最大応答加速度の比較
単位:cm/s2
3)女川原子力発電所
女川は震源地から130km の距離にあり,震源地から最も近い原子力発電所である。
1〜3号機の原子炉建屋にて観測された最大加速度値は,基準地震動Ssに対する最大加速度 を一部上回っていたものの,ほぼ同等であった。
地震動による影響としては,外部電源については松島幹線(2回線),牡鹿幹線(2回線),塚浜 支線(1回線)の3つの系統があり,計5 回線あるが,そのうち松島幹線の1回線が正常であったた め,3 プラントとも電源が供給できた。外部電源喪失の原因は,避雷器の地震の影響による地絡 や,送電線の金属部を絶縁する碍子が折損しての地絡等である。
原子炉施設への影響としては,1号機では電源盤の火災がおき,起動用変圧器が停止したた め,外部電源を供給することができなくなった。この電源盤の火災の原因は,しゃ断機が地震に
※1:記録開始から130〜150秒程度で記録が終了
よって揺らいで短絡し,アーク発生により盤内のケーブルの絶縁皮膜が焼損したものと推定され ている。
それ以外の安全上重要な設備は,津波襲来まで正常に機能していた。影響を受けた例として は,固体廃棄物貯蔵所のドラム缶の落下・転倒,1 号機の中央制御室の天井化粧板の脱落,3 号 機使用済み燃料貯蔵プールへの異物落下等,軽度なものだけである。
女川では,平成17年にも大きな地震があり,観測値が当時のS1地震動を超えたため,長期間プ ラントを止めて,耐震裕度向上工事を実施している。これが地震動による被害低減に資したと考 えられる。
4)東海第二発電所
東海第二の地震動観測記録は,ほとんどの値が基準地震動Ssに対する最大加速度の40%〜
60%であり,最大加速度を超えた箇所はない。
地震動による影響としては,外部電源は3回線が全て喪失した。しかし,変電所の送電鉄塔の 碍子損傷が原因であった154kV送電線の復旧が最も早く,3月13日19時41分に回線の一部復旧 により発電所への受電が完了した。津波の影響により停止していた残留熱除去系の機能回復を 待ち,3月15日0時40分に冷温停止を達成している。一方,275kV変電所はしゃ断器が損傷してお り,復旧に時間がかかったとのことである。
原子炉施設への影響としては,安全上の重要な設備は地震による被害は認められず,耐 震B,Cクラスのタービン設備に一部損傷が見られたが,外部電源喪失後の非常用ディー ゼル発電機(D/G)の自動起動にも成功している。また,重量のある遮蔽扉が倒れる,留 め具が破損する等,重量物の固定部の損傷が見受けられた。B,Cクラスの設備の固定部 については,B,Cクラスの地震力の観点からしか評価していないものがあり,そういっ たものが壊れていると考えられている。
5)地震動とそれによる影響のまとめ
以上にまとめた4発電所の状況を要約すると,以下のようになる。
観測された地震動は,福島第一と女川で部分的に基準地震動Ssに対する最大加速度を超え た値があったが,概ね最大加速値以内であり,それを超えているものも極端な超過ではない。設 計で想定していた最大値を超えたものがあるということ自体は,設計での想定が不十分であっ たことを意味するから,もちろん課題あるいは教訓となる事実である。しかし,それらの設計にお ける裕度(実耐力と設計耐力の差)が安全確保に大きく寄与し,施設及び設備への影響はそれ ほど重大な問題とはならなかった。今後,設計基準の想定を越える事態を再検討するにあたっ てはこうした裕度を考慮することも必要である。
一方,地震動による被害のうち外部電源系に関しては,ほとんど全ての発電所で大きな被害が
出ている。福島第一では7回線全て,福島第二では4回線(1回線は点検停止中)のうち2回線,女 川では5回線のうち4回線,東海第二では3回線全てが喪失している。外部電源が生きていれば,
シビアアクシデント(SA)防止対策の多くが実施可能であり,また,全てが喪失しなければ,復 旧にも大きな役割を果たせる。外部電源や非常用ディーゼル発電機(D/G)の電源系の確保は,
事象発生時の復旧を容易にし,これが安定した停止操作の達成につながっている。したがって,
外部電源系の信頼性向上も含め全体として電源系の信頼性が高くなることが望ましい。