第3章 福島原子力事故と放射性物質放出及び防災対策
3.1 環境の放射能汚染
3.1.3 放射性物質の沈着分布
大気中に放出された放射性物質は、3.1.1で見たように事故初期の3月中に放出時の気象条件 に応じて陸域および海洋に沈着した。文科省を中心として政府の原子力災害対策本部の決定に より、福島第一原子力発電所からおよそ100km内において土壌採取分析と空間線量率の測定が 行われた。Ge半導体検出器を用いて、約2,200箇所の調査箇所で採取された土壌試料約11,000 試料の放射核種分析を行った結果を基に、放射性セシウムの土壌濃度マップが作成された。図 2は第1期調査の最終日である2011年6月14日時点に放射能濃度を換算したCs-137の土壌濃度分 布である。沈着量が10kBq/m2以下から3,000kBq/m2を超える範囲で9段階に分け色別に表示 されている。主に3月15日の放出と降雨による湿性沈着の影響でサイトから北西方向に30km圏 外まで1,000kBq/m2の高濃度の沈着がみられる。この時点でのCs-137に対するCs-134の比は 0.92でCs-137 と同様の分布をしている。
表 2 福島事故で放射性核種の放出量推定まとめ(UNSCEAR, 2013)
1 3
PBq PBq
PBq
I-131 6000 100 – 500 10 – 20 60 – 100
Cs-137 700 6 – 20 3 – 6 5 – 8
土壌試料100 試料について、アルファ線放出核種であるPu-238、Pu-239+240について放射化
学分析を実施した結果を基に、Pu-238、Pu-239+240の土壌濃度マップが作成されている。図3 にPu-238、Pu-239+240が検出された箇所の土壌表面における放射能濃度を示す。放射性セシ ウムの放射能濃度が高かった福島第一原発から北西方向においてPu-238、Pu-239+240双方が 検出された箇所が存在する。Pu-238の最大値は4.0Bq/m2(浪江町)、Pu-239+240の最大値は 15Bq/m2(南相馬市、20km圏内の箇所)である。なお、このレベルは過去の大気圏内核実験の 影響(Pu-238の最大濃度8.0Bq/m2、Pu-239+240の最大濃度:220Bq/m2)の範囲に入るレベル であった。この調査におけるPu-239+240(Pu-239の半減期:2.41×104年、Pu-240の半減期:6564年)に対するPu-238(半減期:87.7年)の放射能濃度の比は0.33〜2.2であり、過去の核実験 の影響による全国平均値0.026から、事故による寄与と考えられる。
図 2 Cs-137 の土壌表面濃度
一方、チェルノブイリ事故では、破壊された原子炉からの放射性物質の放出は10日間も続き、
放出期間中の気象条件によって、放出物質の大気中拡散・沈着は大きく変動したため、環境汚 染分布は極めて複雑である。事故から1日半ぐらいまでは、放出物質は最大高さ3kmぐらいまで の大気中に吹き上げられているため、多量の放射性物質の放出にも係わらず、発電所近傍におけ る公衆に早期死亡等の確定的影響の発生には及ばなかったと考えられている。最初に吹き上げ られた放射性物質は上空の毎秒5mから10mの風で北西に運ばれスカンジナビアで観測される
図 3 Pu-238、Pu-239+240 の土壌表面濃度
ことになる。放出された放射性物質の沈着分布は極めて複雑で汚染プルーム通過時の降雨が強 く影響している。図4にベラルーシ、ウクライナ、ロシア3国におけるCs-137の沈着分布を示す。チェ ルノブイリ北北東のベラルーシ、北東のロシア・ブリアンスク地方に降雨の影響による高い汚染が 見られる。Cs-137の土壌沈着レベル37kBq/m2(1Ci/km2)は、(1)欧州における核実験フォール アウトレベルの約10倍で、(2)事故後1年間の線量がおおよそ1mSvに相当するレベルである。
チェルノブイリ事故で放出された放射性核種は、ガス状、凝縮粒子、燃料粒子の形態を取って いて、その物理化学的性状は化合物の揮発度と炉内の環境に支配された。揮発性の高い希ガス やヨウ素はガス状で大気中を輸送され、ガス状の放射性核種やサブミクロンの凝縮粒子の沈着 はチェルノブイリから数千キロメートルの場所でも起こっているし、Cs-137の沈着はチェルノブイ リから数百キロメートルでも10,000kBq/m2と高い。一方、Puなどの難揮発性の核種は燃料粒子 マトリックスとして、放出点近傍に降下した(図5参照)。
図 4 ウクライナ、ベラルーシ、ロシア領域における Cs-137 の地表面沈着分布