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福島第一原子力発電所1号機原子炉

ドキュメント内 表紙 (ページ 45-48)

第2章  福島原子力発電所の事故の状況と課題

2.2  地震の発生とシステムの健全性  (7),(8)

2.2.2  福島第一原子力発電所1号機原子炉

 1号機では,地震の揺れにより原子炉が自動停止した。また,外部電源が喪失したため,非常 用ディーゼル発電機(EDG)が2台とも自動起動するとともに,主蒸気隔離弁(MSIV)が閉止し,

原子炉圧力が上昇した。その後,非常用復水器(IC)が自動起動した。

 非常用復水器(IC)の作動で,設計での想定どおりに原子炉圧力・温度が低下したことから,

機器への影響を懸念した運転員は,保安規定の制限値を守るように,非常用復水器(IC)を間 欠的に運転し,急激な温度低下を回避した。

 地震後,津波が襲来するまでの間は,外部電源が喪失した状態ではあったが,必要な安全機 能は設計通り確保され,原子炉は安定的に維持されていた。

 その後津波が襲来することで,海水冷却系が機能を失ったのみならず,建屋(敷地高さ10m)

への浸水があり,1号機ではほとんどすべての電源盤の機能が失われた。この結果,中央制御室 においては非常用照明のみになり,設備の状態を把握するための計装や警報灯を含めほとんど が使用できなくなった。

 津波による直流電源喪失の結果,非常用復水器(IC)の隔離インターロックが作動して隔離 弁が閉止した(6)。これは,直流電源喪失時に閉じ込め機能を確保するための「フェイルセーフ設 計」として導入されたものであるが,今回の事故では,そのために非常用復水器(IC)の冷却機能 が喪失することになった。

 なお,津波直後は非常用復水器(IC)の弁状態は把握されなかったが,11日18時18分頃に1系 統に2個設置されている外側隔離弁の閉止ランプ(緑ランプ)が2個とも点灯していることを運転 員が確認し,開操作を実施している。非常用復水器(IC)の通常の操作では,外側隔離弁の1個 を常に開とし,もう1個の外側隔離弁で開閉を操作するので,2個の外側隔離弁のどちらもが閉で あったことから,中央制御室では非常用復水器(IC)の隔離インターロックが作動した可能性を 考えた。その場合は2個の内側隔離弁も閉となっている可能性が高く,外側隔離弁を開としても 非常用復水器(IC)は機能しないと考えられた。その後,運転員は復水器内の2次系の水の水位 低下を懸念して非常用復水器(IC)の外側隔離弁の1つを18時25分頃に閉操作している。さらに

21時30分(津波襲来から6時間後)頃に再び開操作をしている。しかしながら,こうした一連の 操作は正確に免震重要棟の発電所対策本部に伝達されず,発電所対策本部および本店対策本 部は非常用復水器(IC)が正常に機能しているものと思い込んでいた。

 一方,16時42分(津波襲来から1時間12分)頃に一時的に圧力容器内の水位計が表示され,水 位の低下が測定された。これにもとづいて17時15分頃には約1時間後に有効燃料棒頂部(TAF)

到達と予測された。そこで,発電所長よりディーゼル駆動消火系ポンプおよび消防車を用いた注水方 法の検討指示が出されている。しかしながら政府事故調中間報告によれば,消防車注水につい ては役割や責任が不明確であり,3月12日未明まで送水口の確認などの具体的な準備はなされ なかった。

 津波により非常用復水器(IC)が機能を喪失したことから,原子炉圧力が上昇して,逃し安全 弁(SRV)の安全弁機能が働き,蒸気が圧力抑制室(S/C)に導かれて凝縮された。この結果と して原子炉水位が低下していった。なお,1号機においては直流電源の喪失で津波直後はプラン トパラメータが得られていない。バッテリーをつなぐことで水位が計測できるようになったのは,

3月11日21時19分である。

 東電などによるシビアアクシデント解析コード(MAAP)による解析の結果からは,3月11日18 時過ぎには,原子炉水位が有効燃料棒頂部(Top of Active Fuel:TAF)を下回り,19時前に炉 心損傷が始まったことが推定されている。一方,20時頃に,現場指示計にて原子炉圧力が 7.0MPa[abs]と確認されたことから,この段階では,原子炉冷却材圧力バウンダリは健全であり,原子 炉圧力は逃し安全弁(SRV)の安全弁機能により7.0MPa[abs]近傍に維持されていたと推定される。

 21時過ぎに,有効燃料棒頂部(TAF)より高い原子炉水位が測定されているが,解析による推 定とは大きな乖離がある。後日の東京電力や他の機関による検討によれば,炉心が露出した後 では,凝縮槽の基準面器側の水が蒸発してしまうことにより,水位計の機能が失われることが判 明している。これは、すでにTMIの事故で経験をしており、各発電所ではその対応ができてい たはずである。原子炉の実水位がさらに低下していくと,水位計装の炉側配管の水も蒸発し始 めることから,その様子が水位計の指示値に現れているものと考えられている。21時の時点では 既に炉心が露出,損傷を開始しており,その影響で測定水位が実際より高い値となったものと考 えられる。

 3月12日0時頃には,中央制御室において格納容器ドライウェル(DW)の圧力が,最高使用圧 力(0.531MPa[abs])を超える0.6MPa[abs]であることが計測された。例えば原子炉冷却材喪失 事故(LOCA)では,最大でも0.401MPa[abs]であると評価されることから,原子炉が異常な状態 にあることが推定された。これを受けて,発電所では格納容器ベントの準備に入るよう指示が出 されている。2時30分にはドライウェル(DW)圧力の計測値が0.84MPa[abs]にまで上昇し,一 方,原子炉圧力はほぼそれと同じ0.8MPa[gage]に低下した。このような1号機の原子炉及び格納 容器の圧力挙動から,この時点では既に原子炉冷却材圧力バウンダリが破損したと考えられる。

また,この時刻までには既に炉心損傷が進み,原子炉内の温度が高くなっていたと推測され る。

 これらを前提とし,東京電力が核計装配管(ドライチューブ)と逃し安全弁(SRV)管台ガス ケットのシール部の損傷を仮定してMAAPコードを用いて実施した解析によれば,原子炉圧力 と格納容器圧力とが均圧していく様子が示されている。この解析結果では,3月12日2時頃に原 子炉圧力容器が炉心溶融デブリの影響で損傷したとされている。

 一方,格納容器圧力の測定値は,0.75MPa[abs]程度で維持されており,格納容器からの放射 性物質の漏洩が生じていたものと考えられる。実際,正門付近に配置したモニタリングカーでは,

3月12日の明け方に,線量率の上昇が見られ,1号機からの放射性物質の放出があったことは明ら かである。

 3月12日4時頃から,代替注水ラインにつながる連結送水口に消防車が接続され,注水が開始 された。注水源は当初,防火水槽の淡水が使用されたが,程なく枯渇したため,引き続き海水が 注水された。なお,代替注水ライン(消火系(FP)と⇒復水補給水系(MUWC)と⇒炉心スプレ イ系(CS)と)は,アクシデントマネジメント(AM)としてディーゼル駆動消火系ポンプ(Diesel  Driven  Fire  Pump:DD-FP)で水を送るとの想定で整備されていたものであり,一方,消防車は 中越沖地震後の対策で用意されていたものであった。福島第一事故時にはディーゼル駆動消火 系ポンプ(DD-FP)は燃料切れのために使えなかったが,アクシデントマネジメント(AM)で整 備した注水ラインと消防車のポンプとを組み合わせて炉心注水がなされた。しかしながら,がれ きが散乱した状態で消防車のホースをつなぎこむべき送水口がなかなか発見できないなど,消防 車による注水には時間がかかった。

 MAAPコードの解析結果からは,この注水は,炉心損傷の防止には間に合わなかったが,既 に格納容器のペデスタル部に移行していた炉心溶融デブリにも達したと推定されている。その 結果,コアコンクリート反応(MCCI)が抑制され,炉心溶融デブリはペデスタル床を約70cm程 度浸食したところで留まっていると推定されている。

 注水の対応と並行して格納容器ベントが図られたが,交流電源及び圧縮空気が失われていた ことから,現場にて二つの弁を手動で開放する必要があった。 

 原子炉建屋2階にある電動弁は手動で操作することによって開操作できたが,空気作動弁の 開操作のためには,地下のトーラス室にアクセスする必要があった。9時過ぎに運転員がトーラス 室に入り,空気作動弁に向けてキャットウォークを歩いていったが,炉心損傷により圧力抑制室

(S/C)に移行してきた大量の放射性物質によって線量が高く,作業を断念せざるをえなかっ た。結果として運転員のうち1名は100mSvを超える被ばくをしている。空気作動弁を遠隔で操 作するためには,駆動用の圧縮空気と電磁弁作動用の電源が必要である。しかし,圧縮空気の 準備は出来ていなかったため,残圧があることを期待して,仮設照明用小型発電機により小弁の

開操作を10時過ぎに実施した。この操作後に正門付近のモニタリングカーの線量率が一時的に 上昇したが,格納容器の圧力が低下していないことから,ベントができていたかは明らかではな く,この時ベントラインにあるラプチャディスクが開いたかどうかは不明である。

 しかし,仮設コンプレッサーを利用して,原子炉建屋大物搬入口の外から圧縮空気を供給し 得ることがわかり,14時過ぎに仮設コンプレッサーを起動したところ,格納容器の圧力が低下 し,排気塔から蒸気の放出が確認されている。格納容器ベントができたと判断し得るが,この時 点では,モニタリングカーによる放射線指示値は上昇していない。

 3月12日15時36分,1号機の原子炉建屋が爆発した。また爆発後にモニタリングカーの指示値 は一時的に上昇した。

 格納容器内では,反応度事故,炉内・炉外の水蒸気爆発,格納容器直接加熱などにより爆発 的な現象が生じうる。しかし,この爆発のあとも格納容器圧力はある程度,正圧を保っていたこ とから,これらの現象が格納容器内で発生したとは考えられない。

 一方,炉心損傷に伴い高温になった炉心ではジルコニウム・水反応によって水素が発生する。

さらに格納容器の最高使用圧力を大幅に超えていた時期があることから,爆発の原因は,格納 容器内に蓄積した水素が何らかの経路で原子炉建屋に移行し,最上階にて爆発したものと推定 される。格納容器から原子炉建屋への気体の漏洩経路については,いくつかの可能性が推察さ れるが、特定することは難しい。

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