第2章 福島原子力発電所の事故の状況と課題
2.3 東日本の原子力発電所を襲った地震・津波および被災の比較 (7)
2.3.2 各発電所で観測された津波とそれによる影響
出ている。福島第一では7回線全て,福島第二では4回線(1回線は点検停止中)のうち2回線,女 川では5回線のうち4回線,東海第二では3回線全てが喪失している。外部電源が生きていれば,
シビアアクシデント(SA)防止対策の多くが実施可能であり,また,全てが喪失しなければ,復 旧にも大きな役割を果たせる。外部電源や非常用ディーゼル発電機(D/G)の電源系の確保は,
事象発生時の復旧を容易にし,これが安定した停止操作の達成につながっている。したがって,
外部電源系の信頼性向上も含め全体として電源系の信頼性が高くなることが望ましい。
6.1mに引き上げ,海水ポンプの嵩上げが再度実施された。
設計津波高さ以外にも,津波に対する新知見の反映が進められた。新知見の一つは2002年 の政府の地震調査研究推進本部の見解であり,太平洋プレート沿いでは,福島県沖でも大きな 津波を伴う地震を起こし得るというものでそれまでの理解と異なる見解である。その他様々な新 知見を加えての試計算を行った結果,最悪結果になるようにパラメータを選定した場合でも,福 島第一での津波高さは8mから9m,即ち今回の福島第二のような,敷地上への遡上が想像され る程度の津波と評価された。ただし,地震本部の見解で想定された地震は海溝に沿って発生す るM8.2の地震であり,それ以外の領域が連動する地震は想定されていなかったため,試計算に おいても連動は考慮されなかった。
福島第一及び福島第二を襲った津波高さは,津波により潮位計が破損したため,推定によって いる。波源モデルで最大津波高さを推定した結果は,各震源からの波の重なりの違いにより,
O.P.(小名浜港工事用基準面)で表記してそれぞれ約13m及び7〜8mである。さらに,これが敷 地内を遡上して,浸水高さでは最高でそれぞれ15.5m,14.5mに達している。
津波による影響としては,以下のような状況であった。福島第一では,1〜4号機の敷地高さが 10mであるのに対し,5号機及び6号機は13mであり,福島第一1〜4号機に比して5号機及び6号機 での津波による被害は1〜4号機の方が相対的に厳しかった。非常用ディーゼル発電機(D/G)に ついては,1〜4号機では全機が喪失,5号機及び6号機では6号機のB系の非常用ディーゼル発電 機(D/G)のみが健全だった。外部電源喪失後,非常用ディーゼル発電機(D/G)の自動起動に は成功しているが,これは非常用ディーゼル発電機(D/G)本体の被水による影響だけでなく間 接的要因(補機冷却系,高圧電源盤(M/C)等関連機器の水没)によっても機能が喪失 している(福島第一2,4,6号機のB系は1階に設置,福島第一1〜6号機のその他の非常用 ディーゼル発電機(D/G)は地下1階に設置)。
1990年代以前の福島第一では2プラントで非常用ディーゼル発電機(D/G)を共用していたが,
この共用を排除するために,2号機,4号機及び6号機に非常用ディーゼル発電機(D/G)が追設 されている。海水系配管の引き回しが困難であったことから追設された非常用ディーゼル発電機
(D/G)は空冷であり,これらが高い位置にあったこともあり,津波に対しても非常用 ディーゼル発電機(D/G)本体は被水せず,6号機では関連機器の水没もなかったことから機能 を喪失しなかった。直流電源が喪失或いは枯渇すれば直流電源で動作する弁の動作,重要パラ メータの把握,ポンプ運転等の継続が困難となる。結果的にではあるが,設置スペースの観点か ら6号機の空冷非常用ディーゼル発電機(D/G)を高台に追設したことで浸水をまぬがれること につながった。直流電源は,1号機,2号機及び4号機では建屋内への浸水による被水,福島第一 3号機では枯渇により喪失したが,5号機及び6号機では全系統が健全であった。海水系統は1〜
6号機全てで機能を喪失した。
福島第二では,多くの建屋で,漏洩,大物搬入口の破損,コンクリートダクト経由等による浸水
があった。3号機のB系熱交換器建屋内の大物搬入口だけは,津波に破られることなく,設備が 健全に保たれた。
その結果,非常用ディーゼル発電機(D/G)については,1号機及び2号機では全て喪失,3号 機では3系統のうち1系統が喪失,4号機では3系統のうち2系統が喪失した。直流電源の喪失は なかった。海水系統は1号機及び2号機で全て機能を喪失,3号機では高圧炉心スプレイ系
(HPCS)の非常用ディーゼル発電機(D/G)は確保されたが残留熱除去系(RHR)用は1/2系統が 喪失,4号機でも高圧炉心スプレイ系(HPCS)の非常用ディーゼル発電機(D/G)は確保された が残留熱除去系(RHR)用は機能を喪失した。以下のような例を必然,偶然という視点で区別し て考察する。
表 2.3.2 福島,女川,東海各サイトにおける津波想定の経緯
※1:O.P.±0.00m は女川(女川原子力発電所工事用基準面)で東京湾平均海面下方 0.74m,福島(小名浜 港工事用基準面)で東京湾平均海面下方 0.727m
※2:H.P.±0.00m は東海第二(日立港工事用基準面)で東京湾平均海面下方 0.89m
・多くの設備の機能が津波という外的事象により同時に喪失した。(福島第一)
・2号機及び4号機の非常用ディーゼル発電設備冷却系(EECW)ポンプは,A系が1階に,B系 が2階に配置され,B系のみが生き残った。(福島第二)
・2号機及び4号機のB系残留熱除去海水系(RHRS)ポンプの2台は,隣り合って配置されていた が,一方のみが機能を喪失した。(福島第二)
・原子炉建屋の電源盤は,浸水した1号機を除き,被害を受けなかった。(福島第二)
・浸水を免れた3号のB系及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)の非常用ディーゼル発電機(D/G),
並びに4号高圧炉心スプレイ系(HPCS)の非常用ディーゼル発電機(D/G)は運転可能な状態で あった。(福島第二)
2)女川原子力発電所
女川では,1970年の1号機の設置許可申請時の想定津波が3m程度であったが,学識経験者 による社内委員会の意見も聞いた上で,当時の副社長の土木技術術者としての調査と見識に基 づいた強い主張により,敷地高さをO.P.(女川原子力発電所工事用基準面)14.8mとしていた。ま た,引き波対策も当初より行っており,例えば,海水ポンプ室も一定時間の引き波に対して水源を 確保できる設計になっていた。更に,その後も新知見を反映して,敷地法面の強化等を行った。
東北地方太平洋沖地震は,地殻変動による地盤沈下をもたらし,地震前に14.8mであった敷地 高さは1m下がって13.8mになった。これに対して,襲来した津波の高さは約13mであった。
津波による影響としては,1 号機重油タンクの倒壊と,2 号機の原子炉建屋付属棟への海水流 入にとどまった。2号機では主要敷地高さが津波高さに対して高かったにもかかわらず,常用系の 津波被害が非常用系に影響を与えることなった。しかし,全体として津波に対する防護は適切で あったと言える。
2号機と3号機はほとんど同一の設計であるにも関わらず,また,2号機と3号機のいずれも津波 に対してサイトの高さがあったにも関わらず,2号機でだけ浸水事故が起きた。これは,2号機で は,海水は海水ポンプ室の潮位計の取り付け部より浸水したことによる。この潮位計は,3号機 の設置許可申請時に,タービンを潮位でトリップさせることを目的に設置することになり,2号機 にも同様の潮位計を設置したものである。2号機の潮位計は,設置スペースの観点から非常用海 水系のエリアに常用系のタービントリップ用に追設された。その収納箱が押し波の水圧で押し上 げられ,海水が潮位計開口部からの補機冷却系熱交換器室へ浸水したことが,原子炉補機冷却 系B系ポンプ及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)補機冷却水系ポンプの喪失と,B系及びH系の 非常用ディーゼル発電機(D/G)が喪失の原因となってしまった。2号機への潮位計の追設時に,
押し波の圧力までの配慮が不足したものであった。
前述した福島第一6号機の空冷式ディーゼル発電機との対比的な事例は,安全設計において は機器の配置・位置が重要であり,追設やバックフィットにあたってはその影響をより深く考察す
ることが必要であることを示している。
3)東海第二発電所
東海第二では,設置許可申請時の想定津波高さはH.P.(日立港工事用基準面)2.35mであっ たが,その後,2002年の土木学会の手法,2007年の茨城県の防災用津波想定を反映して,津波 対策を強化してきた。茨城県の評価については,土木学会手法に比べ想定高さが高かったこと から,反映すべきか検討し,それを耐震バックチェックの新知見として取り込んだ。
津波による影響としては,北側海水ポンプ室の浸水により,非常用ディーゼル発電機(D/G)用 海水ポンプ1基が自動停止し,非常用ディーゼル発電機(D/G)-2Cを手動停止することとなっ た。また,残留熱除去系(RHR)も1系列が機能停止した。一方で,南側エリアに浸水はなく,結 果として,外部電源喪失後の自動起動には成功したが,3台中1基の非常用ディーゼル発電機
(D/G)が機能喪失することになった。このように北側と南側の非常用海水ポンプ室で異なる結果と なったのは,同発電所ではちょうど,上述茨城県の津波評価を受けたポンプ室側壁の嵩上げ工 事を行っていたのであるが,南側では工事が完了していたのに対し,北側では工事の途中であっ て,壁貫通部の封水工事が未完了で,そこから浸水したためである。東海第二では,継続的改善 がぎりぎり間に合って大事を防いだと言える。
4)津波とそれによる影響のまとめ
2000年を過ぎようやく津波の評価技術が確立され、設計津波の算定がなされるようになっ た。しかし、これまでの設計津波高さの設定では複数波源からの波の重なり合いなど、津波評 価の不確実さには十分に考慮するまでには至らなかった。
また,東北地方太平洋沖地震により生じた津波に対して主要敷地高さが高かった原子力発電 所においても,女川では潮位計部から,東海第二では壁の貫通部からの浸水の事例があった。
津波に対しては,防潮堤や水密扉の重要性は既に広く認識されているが,開口部から浸水する こともあり,東北地方太平洋沖地震の経験も踏まえ,どうすれば浸水を完全に防げるのか,その 影響を最小限に抑制することができるのかは,今後も検討すべき課題と言える。自然災害への 対応の重要性が認識されたと同時に、津波のように突然、すべての機能が喪失する クリフエッ ジ があり、その対応が重要である。