1.3 軽水炉の進展とグローバリゼーション時代
1.3.4 シビアアクシデント対策
シビアアクシデント対策はTMI事故以降の1980年代から特にヨーロッパを中心に進展がなさ れた。日本も対応を進めたが、ヨーロッパ等の世界に比べ遅れることとなった。
(1)隣国間の原子力安全問題とスウェーデンの対応
IAEAの国際原子力安全基準NUSSプログラム検討の際、「隣国間の原子力安全問題」すな わち「ある国の原子力施設が隣国に及ぼす安全問題」をどう扱うかが問題提起された。これは EC諸国間で特に問題となったが、IAEAが共通問題として対処することではなく、当該国間で討 議されるべき問題となった。しかしTMI事故後、この問題は一層重要になった。オランダは、オラ ンダに近いスウェーデンのBarsebeck発電所(BWR)の安全に不安を持っていた。そこでス ウェーデンは1980年からFILTRAという厚い砂利層を持ったフィルター付ベントシステムFVS
(Filtered Venting System)の開発を進め、1982年にBarsebeck発電所にこれを設置すること が決定された。このシステムはシビアアクシデント時でもセシウムをその内蔵量の99.9%格納でき ることを設計の基本目標とすることとした。その後、スウェーデンの全ての原子炉にこの種の装 置を設置することが義務付けられた。シビアアクシデントに対する対策として各国に先鞭をつけ るものであった。(2)
(2)フィルターベント
チェルノブイリ事故以降、軽水炉のシビアアクシデント対策としてFVS設置の議論がスウェー デンの政策の影響を受け国際的に盛んになり、西独・フランスはそれぞれ独自の研究によるFVS を設置することを事業者に事実上指示した。米国は1989年に、事故で放出されるヨウ素・セシウ ムをトーラス水を潜らせて除去するという観点から、BWRのMark-1格納容器のトーラス部の空 気層をベントする方式(フィルター無しで強化ベントという)、いわゆる耐圧強化格納容器ベントシ ステムを自主的整備として採用することを、IPE(Individual Plant Examination,各発電所毎に 行うリスク評価)の中で検討するよう勧告すると共に、その他の原子炉についてのFVSについて も検討を続けた。日本ではシビアアクシデントとPRA、特にレベル2PRAの研究との関連でこの 問題をどうするか検討が進められることとなり、アクシデントマネジメント整備の中で対応を考え ることとなった。(2)
(3)各国のシビアアクシデント対策
スウェーデンで始まったシビアアクシデント対策が各国で進められた。米国ではMark-1 BWR の耐圧強化ベントシステム以外に、アイスコンデンサー型PWRに水素イグナイターが整備され た。フランスでは、1989年までに砂フィルターを利用したベントシステムが既存の原子力発電所に 整備された。またシビアアクシデント・マネジメントについて、多重の安全系のいずれかの完全喪
失を仮定した場合でも重大な炉心損傷に至らないような手順(H Procedure)と炉心損傷が起 こったシビアアクシデントに対する手順(U Procedure)を定めた。H手順は、ヒートシンクの喪 失、全交流電源喪失、SGの給水全喪失、格納容器スプレイ系の低圧注入系の喪失等に対するア クシデントマネジメントとして、臨時に系を連結すること、臨時に補助のポンプ・ガスタービンを搬 入して利用すること、等である。U手順は、究極には砂フィルターを適用した格納容器の格納機 能に期待できるような手順を検討し、格納容器バイパスの防止、格納容器の減圧操作等を重視 した。ドイツでは、大部分の既存の原子力発電所に格納容器ベントシステム(ベンチュリスクラ バー及び金属メッシュフィルターでヨウ化セシウムCsIを除去)が整備された。アクシデントマネジ メントとして、高圧時のフィード・アンド・ブリード、消火系や可搬式ポンプ等の利用、等が重視さ れた。さらに、フランスとドイツは欧州統合に際し、共通の仕様による次世代標準型EPR
(European Pressurized Reactor)を設計したが、これにはシビアアクシデント・マネジメントの 詳細が考えられている。例えば、圧力容器下部のピットはコアーキャッチャーの機能を持った設 計とし、圧力容器外横に溶融炉心の拡散室Spreading Compartmentを設けた。格納容器は二 重とし、耐軍用機衝突設計とした。また施設外の防災対策を必要としないことを目標とした。(2)
(4)日本のシビアアクシデント対策
チェルノブイリ事故を経験して日本でもシビアクシデントの重要性が国や産業界でも認識さ れ、1987年に原子力安全委員会に共通問題懇談会が設けられて検討を開始した。同時に通産 省の意向でNUPECにおいて、格納容器内での水素の混合分布・燃焼特性、放射性物質捕集特 性、溶融炉心と冷却材・構造材・コンクリート相互作用、格納容器耐圧特性等の大型シビアアク シデント研究がスタートした。また原研も溶融炉心冷却材相互作用、FP放出移動挙動、FPエア ロゾルによる配管内挙動等の研究を開始した。
原子力安全委員会はシビアアクシデントとアクシデント・マネジメントに関する施策を1992年に 次のように決定した。「シビアアクシデントは工学的には現実に発生するとは考えられないほど 発生の潜在性(可能性)は十分に小さいものとなっており、原子力発電施設のリスクは十分低く なっていると基本的には判断される。日本で行われているPRAの現状からみても、外国に比べて 一桁位はその潜在性は低いと考えられる。しかし安全性の一層の向上をはかり、このリスクを一 層低減させるため、各原子力発電所のシビアアクシデントについて詳細に検討確認することが必 要であるので、アクシデント・マネジメントを電気事業者が自主的に整備することを、重要な施策 であると判断しそれを推奨すること」とした。必要があればシビアアクシデントに備えた特定の 機器・装置、例えば フィルター付ベンティングあるいは水素ガスイグナイター などの設置が推 奨された。その結果は、IAEAの基本安全原則にある、「重大な炉心損傷の潜在性を10−5/炉年 以下とし、アクシデント・マネジメントによって、短期の防災対策が必要となるような 環境に大量 の放射性物質が放出される事故 の潜在性(確率)を少なくもその1/10以下にすること」を参考
に、各原子炉施設に関するレベル2PRAによる評価と関連させて原子力安全委員会が評価する こととした。当時のこの施策は欧米各国の方針とおおよそ同じであったが、日本の安全に対する 基本理念の策定・確立が必要とされた。また、各発電所ごとにPRAを実施し、発電所毎のアクシ デント・マネジメントを整備評価することを促すことになった。原子力安全の終局的安全目標の 定量的指標にもなる 大量の放射性物質放出の事象とその潜在性 については、その確率は非 常に小さいものと期待されていることから、 あるとは思えないような仮想的事故の発生を仮想し ても、技術的な対策によって、施設外の防災対策を必要とすることなく、敷地周辺の一般公衆に 放射線災害を与えないことを目的とする という基本的方針を説明したものであった。(2)
日本では個々の原子力発電施設について、電気事業者がアクシデント・マネジメント方策を提 案したが、原子力安全性向上を確認する立場から規制当局によってレビューされ、原子力安全委 員会は1995年に承認した。その要点は、①現有機器、現有系統の設計上の余裕、並びに設計目 的以外に期待できる機器の活用、②使用不能に陥った機器の復帰の促進、③炉心あるいは溶 融体・デブリの冷却手段の確保、並びに格納容器の冷却手段に対しては、利用可能なタンク・水 源からの冷却水を系統切り替えあるいは仮設ポンプ等を使用して冷却水を注入、④格納容器内 空気調和器の活用、あるいは直接格納容器に注水、また格納容器外側にスプレイを散布して冷 却(PWR)、⑤圧力容器・圧力バウンダリの減圧促進策、あるいは二次冷却機能活用により圧力 バウンダリの減圧を図って高圧注水を促進(PWR)、⑥電源喪失に対し、施設内他電源あるい は隣接原子炉施設からの電源の融通、⑦BWRに対してはウェットウェル・ベントを耐圧強化ベン トに変更、⑧小容積のPWR格納容器に対しては、点火装置を設置して水素燃焼を計画的に促し て爆発を防止、⑨自動停止のバックアップとして、緊急ホウ酸水注入の他、再循環ポンプのトリッ プ(BWR)、⑩将来炉の緊急時の注水源は可能な限り重力落下式タンクも加味、等である。
(5)シビアアクシデントに対する統一見解
各国でシビアアクシデント対策が実施されたが、規制上の要求・設計上の条件等では国によっ て多少の相違があった。そこで1995年にOECD/ NEAの原子力規制活動委員会CNRA
(Committee on Nuclear Regulatory Activities)で、「シビアアクシデントに関する統一見解
(Regulatory View on the Resolution of Severe Accident Issues)」が決定された。その要点 は、①シビアアクシデントは、残余のリスクResidual Riskに寄与するものであり、設計段階で直 接関与されるものではない。②シビアアクシデントに関する方策には、DBAs(設計基準事故)と は別にBest Estimate(最適予測)の解析が適用される。③将来炉に対しては、シビアアクシデン トは、設計段階から検討される。特に、格納容器の機能とアクシデント・マネジメントに関する問 題は重要である。④施設外防災対策は公衆防護の観点から重要である。一方将来炉では、
Off-Site Release(施設外放出)を制限することとなり、防災対策の範囲は現行より減らすことが 可能となる場合もある。⑤関連する安全研究と国際協力の重要性が強調される。① ②を認めな