第 6 章 聴解学習ストラテジーに関するビリーフの特徴
6.2 カテゴリー別の聴解学習ストラテジーの特徴
6.2.1 音声と文字表現の結びつきの聴き方の重視
「記憶ストラテジー」に対する回答を4項目別に集計した(表6.1)。
77 表 6.1「記憶ストラテジー」の項目の平均と賛否比率
項目 M SD 賛成 中間 反対
3.新しく聴いた言葉の音声を文字表記と結びつける。 4.05 0.76 0.81 0.15 0.04 2.日本語を聴きながら頭の中で内容のイメージを作る。 3.97 0.79 0.77 0.19 0.04 4.繰り返し聴きながら言葉や表現を聴く。 3.97 0.82 0.78 0.17 0.05
1.文章のような長い内容を聴くとき、段落ごとにキーワードでまとめる。 3.87 0.84 0.71 0.24 0.05
「記憶ストラテジー」について、強い肯定的なビリーフを示しているのは、「3.新しく 聴いた言葉の音声を文字表記と結びつける。(M=4.05)」である。その次に、「2.日本語を 聴きながら頭の中で内容のイメージを作る。」と「4.繰り返し聴きながら言葉や表現を聴 く。」の2項目の平均値は3.97である。この結果から、「音声と文字表記との結びつき」と いうストラテジーに肯定的なビリーフの傾向が見られた。
まず、新たな音声情報を文字表記に変換するというストラテジーに対して強い肯定的な ビリーフを持つ理由としては、学習者の母語である中国語は漢字で表記しているため、目 に見えない音声の情報を聴いた時も、文字表記、すなわち、中国語に連想しやすいことが 挙げられる。それを日本語学習にも応用できることが考えられる。また、聴きながら想像 するという「イメージ作り」ストラテジーに対してやや肯定的なビリーフを持っている学 習者が少なくないため、聴解学習において、想像力を積極的に利用しようとする傾向が見 られる。そして、「繰り返し」というストラテジーについてやや肯定的なビリーフの傾向が 見られることから、学習者は新しい言葉や表現を覚えるために、何回も聴いたほうが効果 的であると考える人が多いことがわかった。
6.2.2 「メモする」や全体意識の聴き方の重視
「認知ストラテジー」に対する回答を11項目別に集計した(表6.2)。
78 表 6.2 「認知ストラテジー」の項目の平均と賛否比率
項目 M SD 賛成 中間 反対
8.キーワードや重要だと思うところにメモしながら聴く。 4.17 0.86 0.84 0.10 0.06
13.全体の意味や流れに注意して聴く。 4.16 0.72 0.86 0.12 0.02
14.まず聞き流し、再び繰り返して聴く。 4.06 0.88 0.87 0.17 0.05
12.聴きながら内容のキーワードを探る。 4.06 0.82 0.81 0.14 0.05
5.音声を聴きながらシャドーイング練習をする。 4.04 0.82 0.83 0.11 0.06
15.聴いた後、できるだけ多くの文法や語彙を覚える。 3.74 0.84 0.67 0.24 0.09
7.初めて聴いた音声をその漢字の形に変換する。 3.71 0.86 0.65 0.26 0.09
6.正しい発音を注意しながら聴く。 3.64 1.01 0.57 0.29 0.14
10.わからないことや気になることは聴いた後で全部調べる。 3.63 1.06 0.60 0.25 0.15
9.聴いた内容を中国語に訳して理解する。 3.49 0.97 0.55 0.29 0.02
11.聴いた内容が重要であるかどうかを判断して、聴き取れなかったところを聞き流す。 3.00 1.12 0.38 0.26 0.36
「認知ストラテジー」について、肯定的なビリーフが強く見られたのは、「8.キーワード や重要だと思うところにメモしながら聴く。(M=4.17)」、「13.全体の意味や流れに注意 して聴く。(M=4.16)」の2項目である。一方、中間的なビリーフの傾向が見られたのは、
「11.聴いた内容が重要であるかどうかを判断し、聴き取れなかったところを聞き流す。
(M=3.00)」の項目である。以上の結果から、学習者は「重要な情報をメモする」とい うストラテジーに強いビリーフを持っていることが分かる。
まず、「メモする」というストラテジーについて、徐(1993)は、中国の大学生は 聴いた内容をメモしないと、安心して聴けないという傾向があると述べている。また、
尹(2001b)では、中国の大学で日本語を主専攻とする大学生の 28 名を対象に教室内 と教室外での聴解ストラテジー使用頻度を調査した結果、「メモする」は教室内の聴解 ストラテジーの上位第3位だったと報告されている。
このことから、「メモする」というストラテジーは聴解学習に役立つと思っている学 習者が多いため、実際の教室内でも多く使用されていることが考えられる。中国の大学 で行われている日本語聴解教育においては、このような学習者の聴解ストラテジービリ ーフの特徴を把握したうえで、「メモする」というストラテジーについて適切な指導を 加えることで、聴解の学習効果の向上につながる可能性があると筆者は考える。
また、「全体の意味や流れに注意して聴く」という項目に対する学習者は肯定的なビ リーフの傾向から、聴解授業において、学習者に個々の言葉や、文について理解させる ではなく、聴いた内容の全体の粗筋を把握させるのが効果的であると思われる。
79 一方、中間的なビリーフが見られた「聞き流し」というストラテジーについて水田(1995)
では、中国人日本語学習者の使用報告ストラテジーには見られなかったという結果を得ら れたが、その理由は分析されていない。今回の調査の結果から、中国人日本語学習者は「聞 き流し」というストラテジーに対してそれほど積極的なビリーフを有していないため、「聞 き流し」のストラテジーは観察されていないと推論できる。また、「聞き流し」ストラテジ ーに肯定的なビリーフを持っていない理由としては、中国人日本語学習者の学習姿勢が考 えられる。
学習者が聴解を学習する場所はほとんど教室であり、聴く内容や練習時間が限られてい るため、聴き取れないところがある場合、できる限りその場で調べたり、質問したりして、
解るようにする学習姿勢が考えられる。